出来高払いは必要か
九勝七敗という上々のスタートを切った我らが北信越ロケッツだったが、その後に三連敗を喫し、負けのほうが先に二桁に乗ってしまった。
その次の試合も、初回に四点を奪われる悪い展開で、一点はすぐさま返したものの、三点ビハインドで六回までが終了した。このゲームを落とすと、ズルズル黒星が積み重なっていきそうな気配が漂っていた。
しかし、七回裏の攻撃で、先頭打者がフォアボールで出ると、ジェレミー・コードという外国人選手がなんとセーフティーバントをし、意表をつかれて焦った相手の野手が送球ミスを犯してボールが外野に行ったことで、ランナーは三塁まで進み、次のバッターによる犠牲フライで二点差に詰め寄って、雰囲気が一気に明るくなった。
このコードという選手は、昨年からうちに加わった。成績はぱっとせず、助っ人と言い表される外国人プレイヤーなだけに、通常であれば契約は延長しないところだろうけれども、僕はチームに残した。
当たり前だが、彼らだって人間だ。日本の大物選手がメジャーリーグですぐに活躍できなくても「大目に見ろよ。そのうち必ず結果を出すから」と国内の野球ファンたちは思うに違いないのと一緒で、環境に慣れさえすればというのは十分にあるわけだし、新外国人選手選びでスカウトの方たちに要請したように、コードが性格的に真面目なことも大きかった。
「ドウモ、アリガトウゴザイマス」
アメリカ人の選手のなかには、日本を下に見て、自分はまったく成績が振るわなかったにもかかわらず、もうあんなレベルの劣るリーグなんかでプレーをしたくないといった態度を示す者もいるようだけれども、彼は僕の残留の求めに心から感謝し、そうお礼を述べて深く頭を下げたので、頑張って結果を残してほしいという気持ちはより一層あったのだ。
その期待の通り、今シーズンは順調な出だしとなったのだが、それは環境への適応や、練習によって元々持っていた能力にさらに磨きがかかったことに加えて、これもあるんじゃなかと思っている。
選手と球団との契約において、基本給の年俸の他に、ボーナスにあたる出来高払いというものがある。
果たして、これは良いものなのだろうか? 要するに、これがあることが選手の活躍に好ましい影響を与えているのだろうか? と、僕は現在の立場になる以前の学生の頃から、興味があってよく考えていた。
モチベーションアップにつながるから良い仕組みだと一般的には判断しがちだと思う。例えば、足が速い選手に、盗塁が三十に到達したらお金が支払われるようにするとしよう。それによって盗塁数が増えて、個人成績とともにチームの得点力が向上し、両者にとって望ましい結果に至る確率が高まるのだと。だからこそ今現在、日本もだがメジャーリーグなんて必ずというくらい契約の際に盛り込まれているのだろう。
しかし、そもそも足が速い選手はそれが武器で、活躍できなければクビになったりするのだから、出来高払いがなくても盗塁に対する意欲は高いはずなのだ。
しかも、ペナントレースの終盤に二十数個という達成がギリギリな状況だったら、盗塁はアウトになってチャンスをつぶすリスクがある行為でもあるのに、出来高払いのために成功の確率が相当低いときにまで決行するということが起きないとも限らない。シーズンの終盤は序盤よりも当然チームにとって大事な時期なのにである。
経営を行っている球団として見た場合に、基本給を抑えられるメリットがあるとはいえ、試合を行うチームとしてはデメリットのほうが大きいのではないだろうか?
実際のところはどうかわからないし、良く作用するか悪く作用するかは選手や条件ごとで異なるのかもしれない。
ただ、これだったら確実にチームにもプラスだろうという出来高の項目が、僕の頭の中にはあったのだ。
それは、「チームが優勝したら——」だ。
優勝をすれば、全体的に年俸は上がる。しかし、絶対ではないわけで、この条件があれば、不振やケガで今シーズンの成績はいまいちで終わってしまうのが確定的な段階になっても、チームのためにやれることを必死に行い続ける確率は高くなるだろう。特に外国人選手は日本に稼ぎにきているという意識が強いから、この項目でチームへの献身具合は飛躍的というほどに上がることが想定できる。
コードも、先ほどのセーフティーバントの際に自分も生きようと一塁にヘッドスライディングまでしたし、外国人選手はサインでもなければまずしないバントをやっている時点で、チームの勝利のための頑張りが増しているのは明らかだ。
「やった!」
僕は思わずそう声をあげた。
九回裏に、コードがスリーランホームランをかっ飛ばし、逆転サヨナラ勝ちで、ロケッツは連敗を止め、再び勝率を五割にしたのだった。




