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僕はゼネラルマネージャーになって、プロ野球の世界で夢を叶える  作者: 柿井優嬉


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打撃コーチ 長谷正行の話

 ロケッツが、ペナントレースが始まって、リーグの他の五球団と一回り対戦を終え、八勝七敗と勝ち越したことで、今日の相手である大阪ベアーズの連中のこちらを見る眼差しが、前回の三連戦のときとは明らかに変わった。ここからがシーズンの本番と言ってもいいだろう。

 その我がチームの好成績は、打撃コーチである俺の力だという声が方々から耳に入ってくる。打線が好調なのに加えて、通算で三百五十以上のホームランを放ちながらコーチ未経験だったゆえに、印象と異なり指導する能力があったようだ、と。

 確かに俺の影響はある。「ない」なんて謙遜するつもりはない。

 ただ——。


「俺にバッティングコーチを? 本気で言ってるのかい?」

 就任を要請してきた桜井くんに、俺は問いかけた。

「もっと向いている奴はごろごろいるだろう。現役時代の成績だけで判断してるんじゃないか? 『名選手、名コーチにあらず』って言葉もあるんだぞ」

「もちろん、すべてきちんとわかったうえで、お願いにあがっています」

 当然ではあるが、桜井くんはとても礼儀正しい態度で、答えた。

「前回お話をさせていただいて、決めました」

 そう、少し前にも一度、彼から会いたいと言ってきて、バッティングについてなんかの話をしたのだ。

「私は、以前からプロ野球を見ていて、いくつものチームでコーチを務める方が非常に多いことが気になっていたんです。それは当然という捉え方もあるでしょう。投手陣にしろ野手陣にしろ、防御率や打率などを飛躍させた人は、別のチームからも是非にと声がかかる。選手に教える際の説明がわかりやすかったり、効果的な独自の練習方法を携えていたりするのでしょうね。とはいえ、引退した元選手は数えきれないほどいるのに、任されるのが一部の人に偏りすぎていないだろうか? Aというチームの打撃成績があるコーチによって上向いて、指導の能力が高いと目をつけられ、Bというチームが翌年にAから引き抜くかたちで迎い入れるといったケースが少なくないようですけれども、それだとBのバッティングも良くなるにしても、ライバルのAに追いつくだけで、上回るところまではいかないのでは? それではあまり意味がないのでは? という考えがあったのです。なので、監督は大野さんですから選手たちに真剣にやる気があるとわかってもらうために、コーチはプレイヤー時代の実績が十分であるのを前提にしながら、コーチの経験はないか、あってもせいぜい一回程度で、話をさせていただいて、選手に教えるのにきちんと技術を言葉にできる方、そしてぜひ指導を任せてみたいと思えるところがあった、といったポイントで、皆さんを選ばせていただきました」


 俺は、一昔前のプロ野球選手の武骨な雰囲気があるとよく指摘され、今の優しく丁寧にといった指導者イメージはかけらもない。なので、現代のデリケートな選手たちはついてこず、うまくいきっこないのだと、自分ですら想像してしまっていた。だからこそ、現役時代に残した数字は申し分ないにもかかわらず、過去にどこからも、引退してずいぶん経つが一度として、コーチにとの声がかからなかったに違いない。

 しかし、桜井くんが言ってくれた通りに、技術の説明はしっかりとできるのだ。

 そこで、とっつきにくいなどのマイナス面を打ち消すために、大野監督ら他の人が同行して、例えば教えたことをうまくできない選手に腹を立てようものなら、その一緒にいる指導者側の人間に止めてもらうようにするという約束をさせられた。

 もちろん付き添いがいるなんて不本意ではあるが、せっかく現役の時分に苦労して身につけたバッティングのノウハウを後輩たちに授けてやりたい気持ちをずっと秘めていて、ようやく訪れたチャンスだし、桜井くんから「ロケッツが優勝できるかどうかは長谷さんの肩にかかっています」という心をくすぐられる言葉ももらえた。それはおだてられただけと言われたら否定はできないけども、実に思いがこもった表情で、嘘ではないと感じられたのである。

「よぉし!」

 俺が、キャンプで見込みがあると目をつけ、とりわけ熱心に指導した、左打ちで中距離バッターの安永が、今日三打点目となるヒットを放った。まだシーズン序盤とはいえ、四割に迫り、リーグの打率ランキングで五位に名を連ねる、現在の元気なロケッツを象徴するような男だ。

 務める希望はあったわけだけれども、実際になってみると、考えていた以上にコーチはやりがいがあった。

 桜井くん、俺を選んでくれて、ありがとよ。


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