第98話 幼馴染は親友だよね!
《アイン視点》
冬休み――僕たちはシルク神聖国へ向けて旅立っていた。
(……僕、何かしたっけ?)
シルク神聖国への遠征が決まってから、エルの態度がよそよそしいのだ……。
「エル、シルク神聖国に着いたらなんだけど――」
「あ、ラフィ、神聖国に着いてからの予定なんですが……」
「エル、これも美味しそうだよ――」
「アーキ、こっちも好きでしょ? 食べて下さいね~」
「エル、寒くないかい? 上着いるかい?」
「ガルルルル……」
僕が話しかけると意図的に他の子に話しかけるし、近づこうとすると威嚇をしてくるのだ。他のみんなに聞いても理由は分からず、逆に「もう手を出してるの?」と言われる状態だった。
(……なんて、理不尽な……)
しかし、エルの態度に関しては取り付く島もない様子だったので、僕自身は気にしないようにして、いつも通りで行こうと思った。仲間として少し寂しかったけど、察してくれたアーキが偶に僕の頭を撫でて癒してくれたのは、他の子に言えない秘密だったりする。
(アーキ、ありがとね!)
少しだけ気まずい旅だったけど、特にトラブルもなくシルク神聖国に到着した。
シルク神聖国は冬の時期には雪が降る地域で、雪に覆われた神聖国はとても神秘的だった。この聖都シルクは、とても高い建物である”神聖の塔”を中心に放射線状に拡がった円状都市だ。
(あの神聖の塔が神聖教の中心で、教皇様が住んでいる場所か……)
シルク神聖国は宗教国家なので、教皇様が国王様みたいな感じだと教えてもらった。
「城壁、でっか!」
「魔を祓う結界術も付与されてますねぇ」
「近くで見ると、すごいわね……」
聖都シルクのそばまで来た僕たちは、正門へ移動しながらそんな話をしていた。
「外からの襲撃に対応するための結界が、有事に発動出来るようになってるんですよ。何でも初代聖女様が考案された結界術らしいです。すごいですよね!」
エルが自慢気に説明してくれてた。
「エルは初代様のファンなのかい?」
「っ!?……別に、違います……」
僕の言葉には、やっぱり横を向いて素っ気ない返答がされるだけだった。
「ほら、みんさんっ! あそこです、見えてきましたよ!」
エルが指した先に、巨大な正門が見えてきた。門の前にエイユウ学園馬車群が全て到着したのを確認し、エルが代表して門番へ話しかけた。……いや、話しかける前にエルに気づいた門番たちは駆け寄ってきた。
「聖女様っ!! 御帰りでしたか!!」
「聖女様! お久しぶりです!! 以前の帰省の際にはありがとうございました! おかげさまで息子は元気にしてますよ!」
「せ、せ、聖女様!! お、お、お帰りなさいませ!!」
「みなさん、門番ご苦労様です。いつも街を守っていただき、ありがとうございます」
エルが微笑みながら労うと……。
「聖女様のためならば、俺たちはいつだって街を守り続けます!!」
「聖女様の優しさに恩返しがしたいんです!!」
「が、が、頑張りますっ!!」
(……エル、大人気だなぁ)
学園の遠征で来たことを告げると「聞いております」と言って、学園の宿泊施設の場所を教えてくれた。
僕たちは門をくぐって聖都シルクへ入った。
「おぉ、中はさらにすごいね……」
高い城壁で中心の神聖の塔以外は見えなかったけど、街の景色も神秘的だった。
薄く積もった雪のせいだけではなく、町全体が白かった……。
「ようこそ、シルク神聖国へ」
エルは微笑みながら、僕たちへ歓迎の言葉を掛けてくれた。
馬車で大通りを進みながら、エルが街の説明をしてくれる。
「聖都シルクは、神聖の塔を中心に四つの区画に分かれてるんです。北は行政神官区、東が商業区、西が迷宮区、今入ってきた南が居住区になります」
(結構きれいに分かれてるんだなぁ……)
「じゃあさ、あたいたちが行くのは西の迷宮区かい?」
「そうですね。迷宮区内には、ギルド支部や冒険者さんが活動するために必要なお店なんかが一通り揃ってますね。学園の宿泊施設は迷宮のすぐ側ですね」
(あえて集めているのかな? 冒険者とか乱暴なイメージだし……)
「……他の区画は、行ったら捕まる?」
「えっ!? そんなことないですよ。区画として分かれていますけど、行政管理上の理由みたいですしね」
「良かった……」
(なんだ、思ったよりガチガチじゃないんだね……)
「でも……、神聖の塔だけは別です。……中心の教皇庁だけは、勝手に近づいたら厳罰に処されますね」
「怖いね……」
(怖っ!!)
「ねえエル、建物が白いのには理由があるの? なんか意味ありそうな魔力の流れを感じるのよね……」
「さすがですねラフィ。有事結界の話はしましたが……。そこまで厳密ではないのですが、建物の配置や材質も教皇庁で全て管理しているんです。とだけ……」
「……了解よ。察したわ」
(街全体が結界装置ってこと!?)
そんなエル先生による質疑応答をしているうちに、僕たちの馬車は宿泊施設に到着した。
「みんなっ! 各自の部屋に荷物を置いたら、ここに集合して下さいっ!」
遠征も二回目になるとみんなも慣れたようで、約五百名の学園生がテキパキと動き、時間をかけずに集合出来ていた。
「事前に通達はしてありましたが、改めて確認をしますので聞いて下さい!」
学生会としての事務連絡を行っていく。滞在期間、不死者迷宮の概要、聖都の簡単な説明、そして――
「最後に一番大切な、街で生活する上での注意点を、今回受け入れて頂いたシルク神聖国の担当事務官さんからお話があります! 大切なことなので、しっかりと聞いて下さい!」
みんなが僕の隣の担当事務官さんへ視線を向ける。
「皆さま、シルク神聖国へようこそいらっしゃいました。滞在期間中の注意点について説明させていただきます――」
説明内容は、一般的な倫理観で行動すれば問題のなさそうな話であった。
「最後に、二つ――」
担当事務官さんの雰囲気が、張った気がした。
「聖都内であれば、どの区域へ赴いて頂いても構わないのですが……。一か所だけ、中心の教皇庁だけは”近づかない”で下さい。これはお願いではなく、警告となります」
警告――
「教皇庁に近づいた場合、拘束・厳罰対象となりますので、ご注意頂きますようお願い申し上げます……」
そう言って礼をする担当事務官さん。
「もう一つは、神聖国から皆さまへの気遣いと思って頂ければ幸いなのですが――」
そう言って担当事務官さんは、みんながずっと気になっていた集団へ手のひらを向けた。
静かに控えていた”シスター”の集団が、一歩前に出る。
「――彼女たちを、皆さまのパーティーに対して、一名ずつ就かせて頂きたいと思います。全員が聖魔法を使えますので、迷宮探索の御力になれると考えます……」
みんなからは歓喜の声が上がった。特に男子パーティーがすごく喜んでいた。シスターさんたちは、可愛い子が多く見られた気がするのも理由なんだろうか?
そんな中、一人がスッと手を挙げる――
「どうされましたか?」
担当事務官の問いに答えたのは、僕の親友ケイだった。
「拒否は可能か?」
みんなから”えっ!?”という視線を受けるケイ。
「理由を、伺っても? 神聖国からの気遣いなのですが……」
「え? 理由? 邪魔だから」
(さすがだよケイっ! 僕は思っていても言えないよっ!)
「「…………」」
担当事務官さんは、ため息を吐く。
「ハァ、仕方ないですね。……構いませんよ。あくまでも、私どもからの気遣いですから……」
「ああ、すまないね……」
みんながケイを見て、”余計なこと言って学園の心象を悪くするなと”訴えているように感じたけど、僕はチャンスだと手を挙げた。
「勇者様もですか?」
「はい! エルが居ますので!」
「…………」
担当事務官さんは少し考える仕草をして、シスターの中から一人を呼んだ。呼ばれて前に来た子を見て、エルが反応した。
「っ!? ハニエっ!!」
「エル~~!!」
二人はお互いに近づいて、そのままハグをする。そのまま振り返ったエルは、満面の笑みで僕に教えてくれた。
「ハニエは幼馴染なんです! アインさんっ!みんなっ!ダメですか!?」
「よろしくです~~」
(ううぅ!! 久しぶりに向けられたエルの笑顔が眩しい!!)
二人のお願いを聞いて僕は、みんなを振り返ると”しょうがないんじゃない?”といった顔で返される。僕も頷き担当事務官さんへ向き直した。
「すいません、ハニエさんをお願いしても、良いですか?」
担当事務官は微笑み、「元々、そのつもりでしたよ」と話してくれた。ケイのパーティー以外はシスターたちを受け入れる形に落ち着き、解散となった。
エルとハニエさんが楽しそうに話す姿をみて僕は、この遠征が幸多き滞在になると思っていた。
この時は、本当にそう思っていた――




