第99話 いやん、エッチ
《アイン視点》
「はい、ちゅうも~く。わたしのお勧めは、このパン屋さんで~す!」
ハニエが元気に美味しいパン屋さんを教えてくれる。
「このお店のおすすめは~、ホワイトシチューです! 持ち帰りもできるよ~」
(パンじゃないんかいっ!!)
僕たちはハニエの案内で街を散策しながら、午後に予定されている教皇謁見までの時間を潰していた。
ちなみにハニエには「呼び捨てでないと話しませ〜ん」言われ、早々に呼び捨てで話す仲になった。
(ハニエは本当に話しやすくて良い子だな……、それに――)
楽しそうに笑い合うエルとハニエ。エルに笑顔が戻ってきて良かったと感じていた。
ハニエと談笑するエルは、年相応の女の子って感じなんだけど――
「聖女様! 戻ってらしたんですね! 先日足を治して頂いたおかげで、今日も元気に働けてますよ!」
「えっ!? 聖女様!?」
「本当!? 聖女様がいらしたの!?」
街の人に見つかると、こんな感じで囲まれてしまうエル。
「調子が良いのなら幸いです。皆さんも身体を大事にして下さいね」
そうやって微笑む彼女は、正しく聖女だった。
コソコソと僕たちの側に戻ってきたハニエが小声で話す。
「わたしの幼馴染はすごいでしょ? 勇者様?」
「本当にね。僕も勇者として、みんなの希望になりたいよ」
そんな僕の呟きに、驚いたような顔で覗き込んでくるハニエ。
「……本気?」
「ん? もちろんだよ!」
僕が拳を握って返答すると笑いだすハニエ。彼女は「ごめんごめん」と言いながら、想いを伝えてくれた。
「そっか、そっかぁ~。うん、エルにはアインが必要だよ。あの子は、どうしたって聖女だからね? アインには本当、そのままで居て欲しいかな~」
「???」
「分かんなくったって良いよ! わたしの幼馴染を大事にしてねって話!」
「うん、それは約束するさ!」
ナハハと笑ったハニエは僕の側を離れ、囲まれているエルの方へ行く。
「はい、は~い! みんなごめんね~! 聖女様はこれから教皇庁に行くので~」
「そうでしたか! すいませんでした聖女様!」
ハニエの一言で囲んでいた住民たちは離れていった。エルは最後まで微笑みながら小さく手を振って住民たちを見送っていた……。
◇ ◇ ◇
教皇庁――ここは、聖都の中心、限られた者だけが入れる聖域とされていた。
「……ハニエ、本当に平気なの?」
「ん? アーキちゃん心配? だーいじょぶだよ~。実はわたし~、教会の中でもけっこう高位な人なんだよ?」
「そうなのかい?」
「ミカさん程の高位ってわけじゃないですけどね! 教会全体の〜幹部くらい? ちなみにエルは、教皇様の次に偉いね!」
その話は事実だったようで、教皇庁区域へ入る門の門番は、ハニエを見た時点で敬礼をしていた。もちろん、その後の続くエルを見たら驚いていたけど……。
「教皇様へ謁見よ。エイユウ学園の学生会代表と聖女様が来ましたと伝えて」
「伺っております! いらっしゃったら、そのまま通すように指示を受けております。武具類の回収も不要とのことです!」
「あら、そう? ですって! じゃあ、参りましょう皆さま」
エルもだけど、ハニエも役職の時と素の差が、けっこうあるのかなと思った……。
教皇庁区域はぐるっと高い塀で囲まれており、先ほど通った門を通らないと入ることができない造りになっていた。
「うわ~、めっちゃ兵士さん見てくるじゃん」
「アハハ、ウリっちが手でも振ってあげてよ~」
「りょうか~い」
ハニエに言われて笑顔で手を振るウリエを見て、兵士さんたちは微笑ましそうに手を振り返してくれていた。
(乗りが良いな~)
「高い城壁に唯一の出入口の先が兵士の詰所……、すごい厳重な場所なのね……」
「ラフィたんもそう思う? ここに来た人はみんな言うよ~。それに……」
詰所を抜けると――
「これだかんね? ここに潜入できる人って、居ないっしょ?」
神聖の塔は……、深い、とても深い堀に囲まれていた。とても飛び越えられる距離ではなく、目の前にある一本の橋だけが外と塔を繋いでいるのだった。
橋を渡りきり、塔の側まで来ると、その高さに本当に驚いた。
「ふわぁ~、世界樹といい勝負かもしれませんねぇ~」
「えっ!? あの天まで届くって言われている、あの世界樹!?」
「確かに世界樹も大きかったですね。雲を突き抜けるくらいの大きさって意味では、同じくらいに見えるかも?」
実際に見たエルも、似た感想だったようだ。
(……教皇様って、最上階に居るんだよね?)
僕の表情を見て、プププと笑いを堪えるハニエ。
「大丈夫だよアイン。階段で上がったりしないからねっ!」
「えっ!? じゃあ、どうやって昇るんだい?」
「見・れ・ば、分かるよ~」
ハニエはウインクをして塔の中へ案内してくれた。
塔の中に入ると中心部分は空洞になっているようで、それこそ天まで続いているのではないかというほどの高さだった。空洞の真ん中に四本の柱が立っていて、その中の一本の前まで行ったハニエが、こっちこっちと僕たちを呼んだ。
「さあ、上に行くよ!」
そう言って柱にハニエが手をかざすと、フィンッと音が鳴り柱が開いた。
「どうぞっ! 中に入って~」
僕は恐るおそる中にはいると、思ったより中は広くて驚いた。僕以外だと、アーキとセラフ、ウリエもそんな感じだったけど、ラフィとミカエラは何か知っている様子で落ち着いていた。
「じゃあ、行っくよ~!」
急に来た浮遊感に驚き、思わず近くに居たハニエの肩を掴んでしまった――
「いやんっ、エッチ……」
冗談っぽく上目遣いで言うハニエ。
「ごっ! ごめん!」
「ニャハハ~、気にしてないよん!」
僕は恥ずかしくなって、赤面してしまった。
ゾクッ!?
ハッとして振り向くと――いや、振り向けなかった。すごい圧を、背後から感じたから。それも複数……。
(僕はこれから教皇様へ謁見するんだ……。今、顔を腫らすわけには、いかないからね……)
僕は今だけ勇者を止めた。この謁見を終えたら、勇者に戻るから……。
その後、僕は謁見までの間、振り返ることをしなかった。
ちなみに先ほどの乗り物は、魔導エレベーターという上下を行ったり来たりできる魔道具らしい。乗る前に、説明して欲しかったよ……。
教皇様の執務室のドアを叩き、ハニエが告げた。
「失礼します。ハニエ・ジェレミ、学生会の皆さまをお連れしました」
「入りなさい」
優し気な声で返答があり、僕たちは執務室へ入った。
室内ではわざわざ席を立ち、教皇様が笑顔で手を広げて僕たちを出迎えてくれた。
「遠路はるばるご苦労様。さあ、そこのソファへ座って下さい」
「「「「ありがとうございます」」」」
お礼を言って、勧められたソファへ座る。正面のソファに教皇様が座ったのを確認してから、僕は代表として挨拶と感謝を伝えていった。
”物腰が柔らかくニコニコとしている”、それが教皇様への第一印象だった。
それに――
(――思っていたより若い!? 白髪で白髭のおじいちゃんだと思ってた!!)
アズル・ケンティウス教皇は、パッと見でも中年くらいの年齢に見えた。
もう一つ、気になる点もあるけど……。
「ん?ああ。私が思っていたより若そうで、驚いたのかい?」
「「「「…………」」」」
「ハハッ、怒らんから大丈夫だよ、それに……、これかな?」
そう言って、教皇様自身が着ている白衣を持ち上げる。
「私はね、元々は研究者なんだよ。そこのエルもそうなんだけどね、シルク神聖国は実力主義な側面もあるんだよ。最強の聖魔法使いの女の子が”聖女”、そして、最強の聖魔法使いの男子が教皇なのさ」
そう言って口角を少し上げた瞬間、教皇様から強者の覇気を感じた――
「まあ、普段は研究の方に傾倒してるから、こんな感じで緩くしてるけどね?」
覇気を緩めてニコッと微笑む教皇様。
(あの覇気……、この方は相当な使い手だぞ……)
覇気に当てられ拳を握りしめていたことに気付き、僕も緩めて力を抜いた。
「うんうん、いいぞ。反応も適応も良好だ。君になら勇者として聖女を預けるに足りえると判断するよ」
僕は、試されていたようだ。そして、合格をもらったらしい。
「では、学生諸君に滞在中は大いに頑張りたまえと伝えてくれたまえ!」
「「「「はい!」」」」
無事に教皇様への謁見が終わった。
(イメージは全然違ったけど、どこも国のトップは凄い人ばかりなんだな……)
さあ、明日からは遠征の目的、不死者迷宮探索だ――
そう思って、「今日は早く休もう」と部屋へ向かおうとした僕はみんなから肩を掴まれた。振り返ると、みんな顔は笑っているのに何故か寒気がして、ラフィが代表して言うんだ「いやんっ、エッチって言わなくていいの? アイン?」と……。
(ああ……、僕は明日、迷宮へ行けるのかな?――)




