第97話 私、負けません!
《エル視点》
この世界には数多くの神がいます。
世界を創造したとされる”主神テラス”様を中心とした多神教――それが、神聖教。
私の所属する神聖教が中心となって作られた宗教国家、それがシルク神聖国です。
「アイン~、あたいと散歩しようよ~」
「ちょっ、ウリエ! アインは私と読書の約束よ?」
「え? わたしとスイーツを食べに行く約束ですぅ~」
「……あたしと、戦闘訓練の約束だった……」
「おいおい君たち、最近婚約したての私に譲る気はないのかい?」
「「「「無いね!」」」」
「お、おぅ……」
そんな事を言いながら、みんなでアインさんを引っ張り合っていました。
(ハァ……、ついにミカエラまで落ちてしまいました……)
シルク神聖国で……、神聖教の教えで育った私には、理解し難い光景でした。
(だって……、神聖国では、そんな人は居なかったもん……)
神聖教の教えでは一夫一妻が常識で、一人の相手だけを生涯愛するという決まりであった。
(あんなに雑に引っ張られて、アインさんも可哀そう……、でもないの?)
アインさんを見ると、迷惑そうな顔をしつつ、所々で顔がニヤけているように見えた。
(意味が、分かりませんね……。でも――)
――みなさんが、とても幸せそうに見えるのは、事実だった。
「ちょっと、待って! 僕はみんなと、合同迷宮探索の振り返りをしようって言ったよね!?」
そうなのだ。今日は、先日行った合同迷宮探索の反省会をするという約束で、専用ルームに集まっていたのだ。
みなさんは不満を言いつつも彼から離れて、渋々と自分の席に着いた。
「じゃあ、みんなの率直な感想から――」
「アイン、話すべき点は一つだけでしょ?」
「うっ……、そうだけどさ。それ以外は何かないのかい?」
ラフィの指摘にアインさんは言い返せず、みんなに感想を振ってきました。
「大体上手くいったよね~」「問題無かったですぅ」
「……普通」「特筆すべき点はないね!」
「私も一緒ね。運営自体は良くできてたと思うわよ?」
「……そう、だよね」
確かに今回の合同迷宮探索で話すことがあると言えば彼女、”リリス・バビロン”のことですね……。
「私も、気になったのは彼女でしたね。文献では知っていましたが、初めて見ました……。あれが、死霊魔法……」
「「「「…………」」」」
死霊魔法――
世界でたった一人、彼女だけが使える”ユニーク”の名を冠する魔法。
「彼女一人で、いったい兵士何人分になるか分からないよね?」
「本当それな~、合同迷宮探索の時に使った数が、全力かも分かんないしね!」
「とりあえず百人位いましたかぁ?死霊さん……」
本当に”脅威”と言うのが妥当なんでしょう。彼女が一人居れば、突然兵士が多数現れるんですからね……。
(通常の死霊はそこまで強くなさそうでしたが……、強くないといっても一般兵よりは強そうでしたね……)
「……特に、リリスの側に居た七体は強い……、と思う」
(それです。……不死者迷宮の深層でも、あれほどの死霊は会ったことがありません)
「僕もリリスの異常性が気になって、姉であるアイナ会長に聞いたんだけど、本当に知らなかったって言っていたよ……」
ラフィが顎に手を当て考える仕草をしてから、アインさんに聞いた。
「いつもの、何でも知ってるケイ君には聞いたの?」
「……聞いた、……けど――」
アインさんは、どこか寂しそうな表情で――
「――リリスさんについては、何も言えないって……」
「「「「…………」」」」
私だけではなく、みんなも同じで驚いたと思います。誰が見ても、ケイさんとアインさんの幼馴染で、親友で、お互いがお互いを信頼しているように見えて――
(隠し事なんて、しないと思っていました……)
「でもさっ――」
アインさんは寂しそうな表情を消して、微笑みました。
「――たまにあるんだよねっ! ケイって何気に、秘密主義なんだよっ」
まったく困ったやつだと笑うアインさん。
(寂しい気持ちも本当……、でも、それ以上にケイさんを信頼しているんですね……、アインさん)
「秘密の共有が、信頼の全てではないと言うことですね?」
私の言葉に、パアッと輝く笑顔になるアインさん。
「そう! そうなんだよエル! 言わない時は、だいたいがケイの優しさだったりするんだよ! さすがエルだね!」
(フフ、そんなに喜んでくれて……。尻尾があったら凄く振ってそうな感じでしょうか?……可愛い……)
そんな時、専用ルームのドアがノックされる――
ドアを開くと学生会の先輩が居て、学生会メンバーは学生会室に集合とのことでした。
学生会室――
メンバーが全員揃い、アイナ会長が口を開いた。
「延期していた、シルク神聖国への遠征日程が決まったよ――」
会長の話だと、エルドラド王国からの懇願があって、本来今学期に行くはずだったシルク神聖国遠征を延期していたとのことだった。
(中止ではなかったのですね……。延期していただけだったと……)
そして先日、改めてシルク神聖国と調整を行い、冬休みに受け入れるということで、決定されたとの話であった。
「アイン君たちは、二学年生への通達と周知、行動計画などの準備と実行をお願いしたいですです」
「良かったな~アイン! あそこの不死者迷宮なら光属性が最強じゃない?」
「了解です、メルル副会長。……アイナ会長、それは聖魔法最強の間違いじゃないですか?」
「ん?そうだっけ? まあ、気にすんな、アハハ~」
アイナ会長はそうだっけ?みたいな感じで頭を掻いていました。
「アイン君、光属性も不死者の弱点であることは間違いありませんよ?」
「ありがとうございます!メルル副会長! 僕、頑張ります!」
「ちょっと待って!?何なの!?その差は!?」
アインさんとメルル副会長は見合ってから、アイナ会長へ向き直り――
「「信頼の差?」」
「酷いっ!?」
アイナ会長が噓泣きを始めたので、副会長の采配で解散になりました。
私は学生寮の自室へ戻りました。
同室者は、ちょうど出かけていたようで一人になりました。
「…………」
会長からシルク神聖国遠征が決まったと聞いた瞬間から、私は必死に堪えていました。自分の感情が外に出ないようにと――
(もう、限界――)
「いやあああああああ!!!!」
私はその場に崩れ落ち、叫んでしまいました。
「絶対無理ですううううう!!!!」
(無理無理無理無理無理…………)
「アインさんと一緒にいいい!! 帰省は無理いいいいい!!!!」
(だって、一緒に帰省したら――)
「私を狙ってくるううううううう!!!?」
(ダメダメダメダメ!! 私はハーレムなんて無理ですううう!!!!)
私は立ち上がった。
「負けませんよ! 絶対に入りません!」
窓から見える男子寮を睨みつけて――
「あなたのハーレムには!!!!」
私はアインさんの魔の手には乗らないと、心に強く刻み込みました――




