第96話 ゴンザレスの恋(後)
《カミラ視点》
私は、罪人だ――
操られていたとはいえ、世界樹の巫女やエルフの里を襲撃した事実は変わらない。
(この場所で、こんな幸せな生活をしていても良いのかしら?)
私はカフェ、メッソレム・アーテルで店長を任されていた。変身しているとはいえ、普通に働かせてもらっているので充実した毎日を送っている。充実しているからこそ、罪の意識を感じてしまうのかもしれない。
(……私、贅沢なこと考えている気がする)
だからといって、誰からも必要とされないあの日々には、戻りたくない。
(私以外の子も、同じ恐怖を抱えているはず……)
それだけじゃ無いけど、でもそんな恐怖を抱えながら、みんな笑顔で必死に働いていた。
ケイ様の叡智もあって、メッソレム・アーテルは次々と新商品を発表・展開していき、ものすごい繁盛店になった。忙しくても充実していて、最近はここに居ても良いんだって思えるようになった。
それに、少し楽しみが増えた。それは――
「今日も来ましたよっ!カミラさん!」
そんなことを言いながら、毎回変なポーズをして笑わせてくれる人――黒の死神の大幹部の一人である、ゴンザレス様。
最初は大きいし、ガチムチマッチョだし、強面だし、モヒカンだしで、私を含めてみんな怖がっていたんだけど……、話すと紳士的で、優しくて、これはみんな共感してくれないけど……面白い人。
本当に毎日お店に来てくれて、私たちを見守ってくれる優しい大幹部様だった。
でも、ある日――
「カミラさん、今日の仕事終わり、俺に時間を頂けませんか?」
いつもの軽い雰囲気ではなく、真剣な顔で告げられた。私は何か粗相があったのかと考えたけど分からず、大幹部様から見たら分かってしまうような失態があったのかと、会いに行くまで不安で押し潰されそうだった。
夜になり、指定された時間に伺った私は、緊張しながら応接室に入った。本部なのと真剣な話であろうと思った私は、変身せずに普段の黒エルフのままで伺った。
ゴンザレス様の説明で、結局は私のネガティブな思い込みだったと分かったけど……。
(あれ?……じゃあ何で、呼ばれたのかな?)
その答えは、すぐにもらえた――
「あなたが好きです。俺と、お付き合いして頂けませんか?」
――最高のサプライズという形で。
(嬉しい!! 私を、こんな私を、好きだって、言ってくれる人がいるなんて!!)
私たち黒エルフは、”貧乳”という理由で男性から好かれない、必要とされないのだと、洗脳が解けた今でも刷り込まれた自己否定は、心の傷として残っていて――
(ケイ様に救われたアゼル様だけが、特別なんだと……そう思い込んでいて――)
私はゴンザレスさんの告白で、涙が出そうなほどの幸福感に包まれてしまって、返事をするのが遅くなってしまって――
途中まで返事をしたのだけど……、ゴンザレスさんが慌てて話を初めてしまったから返事が全部言えなくて……、最後には――
「実は俺、本当は”巨乳好き”だったんですけど――」
『本当は巨乳が好き』
は? じゃあ、何で、私に告白してくるんですか?
あなたは幹部ですよね? 私たち黒エルフの”傷”を、知っていますよね?
冗談で済みませんよ? 済ませませんよ!!!!
私は瞬間的に熱くなって、彼に暴言を言って、その場から逃げた。
(信じてたのにっ!! 幸せになって良いって思えたのに!! 私だってゴンザレスさんが――)
私の感情は止まりませんでした。いいえ、止められませんでした。夜なのにそのままお店へ、翌日以降に彼が来れないように、看板を殴り書きで作りました。
『モヒカン男は入店禁止!!』
◇ ◇ ◇
翌日以降、モヒカン男は店内に入ることはありませんでした。
本部の廊下などで会うこともありましたが、全て無視をしました。
「店長、外にゴンザレス様が居ますけど……」
「だから?……モヒカン男は入店禁止って決めたでしょ?」
「いやそれ店長が――」
「ああん!?」
「「ごめんなさい~~」」
それからも、店の外に立つ姿や、本部の廊下で私を待っているかのような姿を頻繁に見かけました。
(なんで!? なんで、そんな悲しい表情で!? 私を見るんですか!!)
私はあの日から、彼が褒めてくれたような笑顔でいることが出来なくなってしまいました。
◇ ◇ ◇
あの日の決別から二週間が経ったある日――
「いらっしゃい……え?」
「いらっひゃい!?」
おかしな挨拶が聞こえ、店内がざわつき出す。
何かあったのかと、店の奥に居た私は店内へ飛び出した。
「どうしたの!? 何か――」
そこには――
「久しぶりです……、カミラさん。俺の話を聞いてくれませんか?」
モヒカンが無くなった、毛が無くなった、スキンヘッドの男になったゴンザレスさんが、膝を突いて私へ懇願していた。
店内では営業妨害になってしまうと、奥のスタッフルームで話すことになった。
「「…………」」
二人で向き合ったまま俯き、気まずい沈黙の時間が流れる。
私は我慢できず、チラッと彼を見ると……。
輝いていた。彼の頭が照明の灯りを受けて、輝いていた――
「プッ!」
それを見た私は、思わず吹き出してしまった。
「っ!?」
私が吹いたのを不思議そうに見るゴンザレスさんを見て、もう我慢が出来なかった。
「アハ、アハハ、プフ、もう無理です〜〜」
笑いが止まらない私を見て、彼は困ったような、安心したような顔で、私が落ち着くのを待ってくれた。
しばらくして少し落ち着いた。でも、ゴンザレスさんを直視するとまた笑いそうなので、少し視線をずらしておく。
「申し訳ありません、急に笑ってしまいまして……ププッ、……ハァ、ハァ、すいません、どうぞ…」
「笑われたのは気にしてません……。むしろ、あなたが楽しそうな顔になってくれて、嬉しかった…」
「っ!!〜〜〜」
(……この人は、本当に――)
ゴンザレスさんは本当に優しい顔で、そういう事を言うのだ……、愛に飢えていた私が、嬉しくないわけが、ないじゃないか!!
私が黙っていると、ゴンザレスさんから話し出した。
「この前の……、告白の時の言葉なんですが――」
――『本当は巨乳が好き』
(嫌だ!! あの言葉を“ゴンザレスさんから“聞きたくない!!)
あれ、私、彼から聞きたくないってこと?
――もう、それって……
「――あなたに出会えて、胸の大きさなんて関係ないんだって、気づけたんです……」
え?…………
「俺はあなたが好きだ、大好きだ。この想いは本気で止められない――」
彼の目も本気だと告げていた。
「――でも、迷惑をかけるわけには行かない。だけど諦められなくて、最後にもう一度、あなたに想いを伝えたくて! 剃ってきました!!」
彼の頭が再び輝いた――
「プッ!、アハハ、ひどい!アハハ、ひどいですよ!!」
再びツボってしまった私は、笑いながら立ち上がり、彼の後ろに回ってスキンヘッドを叩く、ペシペシ叩く、叩きながら――
「私のために、剃ったんですか?」
「まあ、はい……」
「私が髪のない人が嫌いだったら、どうするんですか?」
「あなたは、そんな人じゃないですよ」
「……ずるいです」
「すいません……」
「私、愛に飢えてるから、重いですよ?」
「俺にとっては、ご褒美です」
「……ゴンザレスさん」
「はい……」
「私もあなたが、好き、です……」
彼はものすごい勢いで振り返る。
その顔は喜びに満ち溢れていて――
「じゃあ!!!?」
「はいっ。私と――」
私は彼が好きだと言ってくれた、最高の笑顔になって伝えた――
「――結婚しましょう!!」
「はいっ!!よろしくお願いします!!…………ん?」
こうして私とゴンザレスさんは、永遠の愛を誓ったのでした。




