第95話 ゴンザレスの恋(前)
《ゴンザレス視点》
俺は南国諸島で、旦那に許可をもらった。
(――そう、カミラ・モアリヌさんに告白する許可を!!)
今日も俺は黒の死神が経営するカフェ、”メッソレム・アーテル”へ来ていた。
「いらっしゃいませ! あら、ゴンザレスさん今日も来てくれたんですか?」
笑顔で出迎えてくれる彼女が俺の想い人、カミラさんだ。カフェでは装備の変身機能で、色白になって長い耳も人族のものになっているが、本当の姿はダークエルフだ。
(まあ肌の色と耳が違うだけだから、その美貌は変わらねーけどな……)
恋人でもねーのに心配になった俺は、こうして毎日何食かをこのカフェで食べて、不逞な輩が居ないか監視しているのだ。
「今日も、いつものモーニングと”あれ”ですか?」
「おう! 新しい味が出たんだろ? ディーが作ったって言ってたぜ?」
「耳が早いですね? はい、マンゴー味とパイナップル味が増えました」
「じゃあ、パイナップル味で頼む」
「承りました、お待ちくださいね」
笑顔でオーダーを受けて戻っていくカミラさん……、うしろ姿も最高だぜ。
俺は彼女を意識してから、どうすれば振り向いてもらえるのか考えた。一人では難しいから”筋肉最強”のメンバーにも相談した。
そして、導き出した三つのステップ――
ステップ1――挨拶
俺は毎日メッソレム・アーテルへ通った。幸い彼女は店長を任されているので、ほぼ毎日出勤していたので、挨拶をする中にはなれたと思っている。
(初めはドモっちまって、まともに彼女の顔も見れなかったんだよな……)
最近では先程のような距離感で話せるようになった。ステップ1は問題ないと言っていいだろうぜ。
ステップ2――笑顔
彼女の印象に残るためには、笑顔を引き出せるくらいの関係を築く必要があった。女心に疎い俺や筋肉フレンズでは不明だったので、同じ幹部で女子のエンジュに聞いてみた。
「は? いつもみたいに、筋肉ポーズをすれば良いんじゃない?」
「知らんけど」とも言っていたが……。
決めポーズで笑顔になるというのが、正直意味が分からなかったけども、せっかく教えてもらったのでカフェでやってみると――
「アハハ、なんですかそれ? あっ! ごめんなさい!」
笑顔になった……、しかもその後に顔を赤くして恥ずかしがる様子を見て――もっと好きになっちまったぜ……。
結果として、ステップ2もクリアしたと思っている。
ステップ3――告白!!
(そして俺は、旦那に許可をもらってきた。……あとはこの想いをカミラさんへ告げるだけだ!!
「お待たせしました。モーニングセットの大盛りと、プロテインジュースのパイナップル味です」
そう、このカフェでは筋肉に良いというプロテインなるものをディーが開発したので売り出しているのだ。ちなみに筋肉仲間とは情報共有済みで、運動前にみんな飲みに来ていると言っていた。
「ありがとよっ!」
俺は会心のポージングをする。するとカミラさんは笑いを堪えながらプルプルとしていた。
「ちょっ、ゴンザレスさん、やめて、ください、よ! 私、つぼっちゃうん、ですから!」
カミラさんは堪えながら、パシパシと俺を叩いてくる。
(おおう……、幸せだなぁ……)
俺はポージングを止めて、表情を引き締める。大柄な俺が上から言ったら怖いだろうから、一度席に座ってからカミラさんに告げた――
「カミラさん、今日の仕事終わり、俺に時間を頂けませんか?」
俺の真剣な雰囲気を察したのか、彼女は驚きながら答えた。
「……え~と、はい。本部の方で良いですか?」
「それで良いです。ボスに応接室を使えるように頼んでおきますんで」
「……分かりました」
俺は柄にもなく静かに食べ、プロテインジュースを飲んで店を出た。
◇ ◇ ◇
夜、黒の死神応接室にて――
俺は今までで一番緊張していた。俺は基本的に何とかなるって感じで生きてきたが、今回ばかりはどうなるかが本気で分からない勝負だと感じていた。
「失礼、します……」
応接室に、少し緊張気味のカミラさんが入ってくる。今夜の彼女は黒エルフのままで来てくれた。
(揺れる金髪から見える長い耳、褐色肌のカミラさんっ!! エロ可愛い!!)
俺は顔を引き締めつつ彼女に席を勧め、座ってもらう。
彼女は不安そうに口を開いた。
「あの……、何か私は粗相をしてしまったのでしょうか?」
「ん?」
「私が今日、お店で何か粗相をしたので呼ばれたのですよね?」
「え!?」
どうやらカミラさんは、今朝俺の態度が急に静かになったので、何か自身が粗相をして怒らせたのだと勘違いしたそうだ。
(俺が柄にもなく緊張なんてしたから……、申し訳ねーな……)
「カミラさんの接客は百点満点でしたよ! 違うんです、俺自身のことでちょっとね……」
彼女は安心したような表情になった。
「そうでしたかぁ……、私、また不要だって言われるんじゃないかって、勝手に心配になってました」
カミラさんは少しぎこちない笑顔で、俺に笑いかけてくれる。
(っ!?……俺が勘違いさせたのに、逆に気を使わせちまった……)
「こっちこそ、すいませんでした! あなたを不安にさせるつもりはなかったんだ! 申し訳ない!」
「えっ!? いえいえ、私が勝手に思い込んだだけです。こちらこそ申し訳ありません」
しばらく謝り合う俺たち、やがてカミラさんがミディアムヘアを掻き上げて笑う。
「もうやめましょう。二人で謝り合ったってしょうがないですものね」
「ハハ、そうですね」
そして――彼女は聞いてくる。
「あれ? では、用事とは何だったのですか?」
「それは――」
俺は、カミラさんに想いが届くように、精一杯の想いを乗せて、言った。
「――あなたが好きです。俺と、お付き合いして頂けませんか?」
彼女は目を見開いて驚き、手を口に当てて瞳を潤ませているように見えた。
頬も赤く染まっているように見えたし、隠された口元は喜びの形に変わっていっているようにも見えた。
(この反応はっ!? 行けたのか!! 行けたのか!? 俺っ!!!!)
「ありがとうございます、ゴンザレスさん。……私で――」
俺はこの時点で有頂天になった。恋が実ったのだと。
だから俺は、彼女の返事を全て聞かずに話し出してしまった――
「ああ! あれです! 俺がカミラさんを好きになったのはね? もう一目惚れでしたよ!? 一目惚れかな? 違うかもしれませんが一目惚れみたいな感じでね!?」
彼女は驚きつつも笑って――
「フフフ、そうなんですか?」
「そうなんです!! でも、一番に惚れたポイントはですね? あなたの笑顔が世界一可愛くて、素敵で、もう心がボンっって感じで!」
「っ~~!! 恥ずかしいから、やめてくださいよ!」
笑顔の彼女はとっても可愛くて――
「実は俺、本当は”巨乳好き”だったんですけど――」
――瞬間、カミラさんの笑顔が凍り付く。
(……あれ?)
有頂天だった俺も、彼女の纏う空気を感じ取り、言葉を止めてしまった。
”最後まで言わずに止めてしまった”――
「あなたは、そういうことを言う人では無いと、思っていました!!」
彼女の表情はさっきとは真逆で――
「あなたなんか嫌いです!! 私の前にっ! いいえ、私たちダークエルフたちの前に二度と現れないでください!!」
射殺すような視線と、拒絶の言葉。
俺は走って出て行く彼女を、追うことができなかった――




