第94話 シルファ探検隊
《レシー視点》
自分はレシー・ブド。
”七魔将軍”であり、魔王様の娘であるシルファ・サタン様の直属部隊の通信兵をしているっす。直属部隊といっても、最近転属してきたシフォンを含めて三人の小部隊っす。
「レシー、準備は万端か? 不足があったら貴様のせいだからな?」
「……了解っす……」
このパワハラ上官はニルス様、シルファ様狂いの副官様だ。
「むっ!? 貴様――」
(えっ!? 心の声が漏れたっすかっ!?)
「私のことを褒めただろう? ん~、私には分かるぞ。シルファ様に絡めて、私を褒めただろう?」
「……よく、わかりましたね……」
「まあなっ! シルファ様に関わることなら、私の右に出るものは居ないからな!」
はっはっは!と笑って行ってしまった。
(シルファ様が絡むと、本気でヤベー人っすね……)
自分たちはシルファ様の発案で、強化訓練込みの遠征へ行くことになったっす。
(戦えなくはないっすけど、戦いとかしたくないっすね~)
遠征の準備を終えた自分は、シルファ様に報告と行程で確認したいことがあったので中庭へ出てきたっす。
「シルファ様、本当に魔術の才能がすごいですよね~」
「本当か? フフフ、私は天才だからね!!」
シルファ様が無い胸を張ってドヤっていたっす。あの不思議なアホ毛もピョコピョコ動いていたので、本当に嬉しいんだなと分かったっす。
シルファ様は確かに魔術の天才で、全属性を十全に使えるし、魔力量も魔族一とも言われていて、最近はその魔力の制御も上達しているようだったっす。
(それでも火魔法が好みで使っていたのに、ジパン辺境伯迷宮作戦終了後から急に闇魔法を習得し始めたのは謎っすけど――)
「もう暗黒魔法まで、使えるようになったんすか……」
確かに適性が高かったんだろう。
でも、普通はこんな速度で上級魔法へ進化できないっすよ……。
「師匠の教えが良いのだろなっ! いつもありがとうな、シフォン!」
「っ~~~!? ハァハァハァ、……抱きしめて良いですか?」
上目遣いでお礼を言うシルファ様に、悩殺されたシフォンは禁句を口走ってしまう。
「な!? 殺すぞ!?」
「ごめんなさいぃ~~」
(シルファ様は心の中でだけで愛でるのが正解。まだまだっすね、シフォン……)
その時、シルファ様のアホ毛がピンッと立つ。
シルファ様は自分の方を向いて――
「むっ!? レシー!貴様!! 私を可愛いとか思ったろ!? 無礼だぞ!死にたいのか!?」
「ご、ご、誤解っす!! 自分はそんなこと考えてません!!」
恐るべし……、シルファ様レーダー……。
「そ、そういえばっ! どうして急に闇魔法に手を出し始めたんすか?」
「ん?ああ、……あの時のイセ村でね、魔術の先生に言われたのよ」
「先生!? そんな人が居たんすか?」
「まあね。帰り際に、”君は闇魔法の才能もあるよ”ってね」
「ほえ~、それであたしに声を掛けてくれたんですね~」
「ニルスが、シフォンの暗黒魔法は見事だって言っていたからね」
「「…………」」
「ちょっ!本当よ? ニルスは確かにおかしな奴だけど、評価は適正にするんだから!」
自分とシフォンが信じられないという顔をしていると、シルファ様は慌ててニルス様をフォローされていたっす。
◇ ◇ ◇
準備が整い、出発した自分たちが向かう先は――
「着いたわ……」
魔族領にある迷宮の一つ、【炎龍迷宮】。魔族領の中にある迷宮で最高難度の迷宮。
「いやいや、やっぱり普通に無理っすよね?」
事前に目的地は知っていたが、迷宮の入口まで来て改めて本気で無理だなと思っていた。
「大丈夫よ! 私が居るんだから!」
自信満々の隊長を見て、その横で悶え苦しむ副官、そんな二人を見て半眼の新入り、そして自分……。
(この四人で最高難度迷宮かぁ……、死ぬかもなぁ……)
しかし――
予測は良い意味で外れた。自分たちは、ほぼ無傷でサクサクと進んでいる。
今は第10層のボスを倒したところだ。
「シルファ様っ! インビジブルはもう完璧ですねっ!」
「ん? そうかい? やっぱり私は天才かな?」
「シルファ様の全てが天災ですよ! 私なんかは、いつもやられていますから!」
「いや、ニルス意味分からんし」
「はうっ!!」
シルファ様にジト目をされて悶える上司は放っておいて……。
「さすがっすよシルファ様。ボス戦まで魔物との戦闘がゼロですし! ボスだって攻撃するまで気づかなかったですし!」
そんなボスは、そこで悶えている上司が一太刀で倒していた。
(この人もこんなんだけど、めっちゃ強いんだよなぁ……)
七魔将軍、強力な剣士、暗黒魔法使い、この三人が居れば自分は戦わなくても済むかもと、その時は本気で思った。
その後もセーフエリアで野営をしつつ、ほぼ戦闘せず順調に進んで行った。
五日後――最下層のボス部屋前。
「ついに、ここまで来たわね!」
「シルファ様が居るのですから当然です!」
「炎龍……、ドキドキします……」
「みなさんなら倒せるっすよ! 自分、頑張って応援します!」
自分は本当にここまで応援しかしていなかった。
(その他の雑事は、全部自分でしたけどね……)
このメンバーで、まともに野営の準備や料理が出来る者は居なかった。
(シルファ様はともかく、まさかシフォンも家事全般が壊滅的とは……)
「あたし、レシーさんをお嫁に欲しいですっ!」
などと真顔で言われても嬉しくなかった。確かに顔も可愛いしフワフワした雰囲気も良い、だがっ!! 自分は嫁さんの味噌汁を毎日飲みたい派。ここは自分的に、譲れない一線ってやつっすね……。
そんなわけで、自分は荷物運びも含め戦闘以外全般を頑張ったので、三人で討伐は頑張って欲しいっすね。
「さあっ! 行くわよ!――」
炎龍迷宮のラスボス――炎龍。
「ほう……、魔王の娘か? 魔王の娘だからといって、手加減はせぬぞ?」
(予想はしてたっすけど、言葉が話せる……、知性ある魔物なんすね炎龍……)
「えっ!? しゃべった!?」
「喋りましたな?」
「うわぁ~。人の言葉を話す魔物とか、気持ち悪いですね~」
(え!? 皆さん迷宮攻略前に調べたりしてなかったんすか!? シフォンは炎龍さんに対して、マジ失礼っすよ……)
「ハハッ、さあゆくぞ――」
炎龍のボス部屋は灼熱の大地だったっす。本当に室内なのかと疑うくらいの広さで、ゴツゴツとした岩がたくさんあって動き辛そうだし、マグマの川が流れ所々にボコボコとマグマが噴き出す池もあって暑くて仕方がなかった。
(耐熱装備をしていてこの暑さ、ヤバいっすね……)
グオオオオオオオッ!!!!
炎龍が叫ぶと、それに呼応するかのように激しくマグマが噴き出し、遠くに見える活火山が噴火する。
マグマの川が氾濫してこちらに流れてくるし、噴火した勢いで噴石が飛んでくる――
(あぶねええええええっす!!!!)
必死に避けつつ、皆さんの戦いを観戦する。
前衛のニルス様が炎龍に切り掛かる。今までの魔物なら一太刀で切り裂いていた斬撃が――キインッ!!
「チィッ! やはり硬いなっ!!」
「炎よっ!!」
超圧縮された小指大の炎球をシルファ様が放つ――ドガアアアアア!!!!
炎龍に当たって大爆発を起こしたっすけど……。
「うむ、儂を回復させたいのかのう? まだダメージが入っていないから無意味じゃぞ?」
炎龍に呆れられる。
「さすが炎龍ね。分かっていても試したいことってあるでしょ?」
「……そういう、ものか?」
「ええ、知的好奇心は大事よ?」
ドヤ顔で笑うシルファ様。
「さすがシルファ様です!」とすかさずに、さすシルをするニルス様。
「勉強になります……」と感心するシフォン。
(……大丈夫、なんすかね?)
自分は自身の安全に、不安を感じるのだった。
「フッ! ハッ!」 キインッ! カインッ!
炎龍の薙ぎ払いや噛みつき、尻尾での攻撃を避けつつ、斬撃を繰り返すニルス様。
(……すごいっす。炎龍の攻撃を完全に見切ってるっす。……でも――)
――炎龍の硬い鱗を切り裂くことが出来ずにいた。それでもニルス様は淡々と繰り返す、超至近距離での集中力は流石としか言えないものだった。
シルファ様は攻撃魔法を水魔法に切り替えたっすけど――強力過ぎる炎の前には、あまり意味を成していない様子だった。
シフォンは暗黒の槍や盾を生成して、攻撃や防御をサポートしている感じだったっす。
痺れを切らしたのか、炎龍が眼を輝かせる――
グオオオオオオオッ!!!!
咆哮を放ち、その衝撃でニルス様も吹き飛ばされた。
そして――
口を開き、その口内に激しい炎が収束してゆく――
「ブレスっ!?」
「シルファ様っ!!」
「あたしがっ!!」
炎龍の視線の方向、シルファ様へブレスが放たれると判断したニルス様とシフォンは、シルファ様の下へ集まるように動く――
その時、炎龍の口角が上がった気がしたっす。
三人が集まった瞬間、炎龍の口からではなく――
(ま……じっす、か……)
――三人が集まった場所、その地面から上空へ向かって、灼熱のブレスが立ち昇った。
三人の姿は、その灼熱の炎の中に消えて……。
「ブレスなんぞ、魔法と一緒よ……。どこからでも出せるんじゃよ?」
炎龍はしてやったりといった顔で言い放つ。
「そうよね。魔力の流れでバレバレだもんね?」
「っ!? なにっ!?」
シルファ様が、炎龍の顔の横で、彼の言葉に返答していた。驚いた炎龍は咄嗟にに噛みつこうとするが――
「あっ! チャンスっ!」
逆に口内へ、シルファ様の暗黒槍が撃ち込まれてしまう。
「ガアアアアア!!」
初めて苦痛な表情になる炎龍、シルファ様を睨めつけて炎弾を連射する。
「おっ!とっ!はっ!あぶっ!」
数多の炎弾を捌ききれず避けていたシルファ様に、追撃するかのように炎龍の爪撃が迫る――
「シルファ様っ!! 危ないっ!!」
自分の叫びも届かず、シルファ様は炎龍の爪に引き裂かれた――かと思ったら……。
シルファ様の姿が、霞のように消え失せた。
「っ!? 幻影かっ!?」
「正解っ~」
炎龍の後方にシフォンが現れる。そして――
ザシュッ!!!!
「グアアアアア!!!!」
炎龍の右腕が切り落とされた。痛みと共に困惑を隠せない様子の炎龍。
「まったく……。最後まで貴様は出てこんで良いのによ……」
「申し訳ないです~」
シフォンがパチンと指を鳴らすと、炎龍の身体のさまざま箇所に切り傷が出現した。
「なぁっ!?」
(そうっすか! 初めからシフォンは暗黒魔法をこっちに全振りしてたんすね!)
幻影魔法で炎龍の傷を隠していただけで、今までのニルス様の攻撃は確実に効いていたって事っすね。
「仕上げだ、覚悟してもらおうか、炎龍――」
「まだまだじゃあああ!!」
気合で反撃しようとする炎龍だったが――
「っ!!!? うご、けぬ!?」
炎龍の足元がひび割れ、まるですごい重さによって地面へ貼り付けられているかのような状態に見えた。
「私も忘れないでよね?」
そこには――
炎龍の上空で、灼眼を輝かせながら赤い髪をはためかせているシルファ様が居た。
(あれが……、暗黒魔法の一つ、重力魔法っすか……)
グオ――ザンッ!!!!
起死回生で咆哮しようとした炎龍の首を、ニルス様が落とした。
『みごとなり…………』
炎龍が消え、その場所には一つの玉が落ちていた。
シルファ様が球を拾う。
「これが、”爆炎玉”ね……」
爆炎玉をそっと胸元に抱えるシルファ様、すると爆炎玉は輝きを増してスッとシルファ様の中に消えていった。その時、「本当に言ってた通りね」と呟かれた気がしたが、変化はすぐに起きた――
「シルファ様!?」「ほわ~!?」「うわっ!?」
シルファ様が灼熱と暴風に包まれていた――その姿は神々しくもあって、案の定ニルス様は涙を流して拝んでいた。
しばらくすると収まり、シルファ様が笑顔で自分らを見渡して。
「爆炎魔法を覚えたぞ! やっぱり私は天才だな!」
たった四人での最高難度迷宮踏破――
この話題は、一時的に魔族領での大ニュースになったのでしたっす!
(あれ? 自分戦ってないから、三人じゃねーすか!?)




