第92話 帰省イベントは?
《ミカエラ視点》
数日後、王城会議室――
「勇者殿もパーティーの皆も、今日はすまないな、集まってもらって」
父さんは国王として私たちへ感謝を言い、話し合いを始めた。
「ここ数日で王国の暗部に集めさせた情報から、共有していく――」
暗部がイスカ公爵を捜索したところ、サマル叔父様の周りに、間者が紛れ込んでいた可能性が浮上した。今回の事件発生と同時期に、三名が屋敷から消えていたそうだ。
「文官、メイド、そして秘書だそうだ」
三人は新参者なわけではなく、時期は違うが数年は働いていた者たちだったそうだ。
(サマル叔父様はきっと、信頼できる相手だと思っていたのでしょうね……)
だから三人共に、比較的サマル叔父様の近くに居た者たちだったそうだ。
「行方は分かったのですか?」
ミシェル兄さんが確認する。
「不明だそうだ。……足取りも掴めん」
悔しそうに答える父さん。
「……確認したが、俺も見たことがある奴らだった。特に秘書は、義父さんといつも居たと思うぜ」
マイケル兄さんが補足した。
「公爵様に感情増幅剤を盛ることや、虚偽の報告も出来たんですね」
アインが指摘する。
「その通りだ。……奴らは、それとなく噂になって拡がるように動いていたそうだ」
思っていた以上に深く入り込まれていたことに驚いたが、これは――
「長いスパンを想定した計画的犯行……、どこかの国の工作員ですよね? これって?」
「恐らくそうだろうな、賢者殿」
ラフィの指摘も肯定する父さん。
そして――
「人族であったことを考えれば、バビロン帝国が怪しい……。しかし、魔族の可能性もゼロでは無い」
「あの異常な薬ですか?」
「そうだ。……人の感情を増幅させる薬。そして、異常な進化? いや、強化をさせる薬……」
あの薬の話になったので、私たちが知り得た情報を提示するため、アインへ目配せをすると、彼は頷き説明をしてくれた。
「これは僕たちが獣王国で知った情報と、先日の公爵様とのやり取りを経た考察になりますが――」
獣王国の調べではフードを被った謎の人物が、定期的にあの薬を使った宰相を尋ねていたこと。公爵兵に確認したら、同様の格好の者が何度か尋ねて来たのを見たという証言があったこと。
感情増幅剤に関しては――
「強い想いや、心の傷を増幅している印象です」
「薬だけでそんなことが可能なのか?」
「……もしかしたら定期的に会って、闇魔法の精神干渉系も使われていた?」
ラフィが呟く。
「闇魔法?……魔族か?」
「可能性ですが……」
「強化薬は使用すると一時的に驚異的か力を発揮しますが、最後は灰になって消えてしまいます。……普通の精神状態では使用出来ないと思います」
アインが異常強化薬についても説明をする。
「なるほどな……」
父さんや兄さんたち、そしてアインとラフィが中心になって情報の共有と考察が展開されていく。
私は真剣に話すアインの姿を横から見て――
(今日もアイン、カッコいいなぁ〜〜〜!!)
整った目鼻立ち、キラキラと輝く金髪、真っ直ぐな彼を表現したような碧眼、細身の中に鍛え抜かれた身体、私以上の高身長――
(……ヤバい、めっちゃイケメン!!)
……私は、いつからこんなにアインを意識するようになったんだっけ?
私は小さい頃から、愛されていた――
エルドラド王家は”愛の一族”と言われている。国を興した初代様が、“愛の勇者“と呼ばれた五百年前の勇者様だったことが理由だ。
愛に目覚めると一直線だった人物で、当時のパーティーメンバーの半分を娶ったとか……。因みに、学園長もパーティーメンバーだったけど、初代様のアプローチを断った側らしい。
(まあ、節操がないとも捉えられるよね……)
そんな王家で、兄二人の下に生まれた唯一の女児だった私は、本当に愛されて育った。
国民からも愛されていたし、それに応えていけるように頑張ってきたと思う。『聖騎士』のジョブもいただき体格にも恵まれた私は、最前線で姫騎士として周りを引っ張る役を任されたのは自然だった。
頼りになる前衛盾職の姫騎士――
みんなを守り、指揮を執る。
だけど、甘やかされて育った私の本音は――
「……もっと、甘やかされたいなぁ」
そんな時、『光の守護者』ジョブが発現したとのニュースが国中を駆け巡った。
当然の流れのように、私も『聖騎士』として勇者パーティーへ入るべく準備が進む。
(勇者が居ても、私がパーティーを引っ張るとかだったら嫌だなぁ……)
そう思っていたけれど、良い意味でアインは期待を外してくれた。
実際に会った勇者アインはエイユウ学園という環境もあるだろうけど、王女である私にも物怖じすることなく意見や提案もしてくれる、生粋のリーダーだった。
(良かった。アインが一生懸命引っ張ってくれそうだから、大変な時にだけ助けてあげれば良いよね?)
そんな上から目線でアインを見ていたのが、出会って初めの頃の私。
ドワーフ王国のサラマンド・ドラゴン戦で、味方の策略に嵌って全員麻痺状態になってしまって全滅のピンチだった時――
(まずい!まずい!まずい!!……これは……え?……私、死ぬの?)
あの状況で私は、パーティーで初めに心が折れたのかもしれない。今考えると、あの時が生まれて初めての生死を分けたピンチだった気がする……。
結果としてウリエが奥の手で何とかしてくれたのだが、私を含めみんなでホッと安心する中、アインだけが自分の力不足に本気で落ち込んでいた。
(あの状況では、仕方がないだろうに……)
彼を見てそう思ったけど――
胸が少し、チクリとなったことを覚えている。
ジパン辺境伯領の迷宮氾濫の時も――
アインのピンチに颯爽と現れたにも関わらず、私は何も出来ないままカイザー・インパクト・ビートルの衝撃波に倒された。
本気の全力の全力でだ。何の言い訳も出来ないくらいに全力の防御でもだ。
そんな化物を、最後はアインの一撃で倒した。
(……私はみんなを守る盾に、なれていないじゃないか)
その後の学園闘技大会でアインから示された、強くなる方法――
彼は私に希望をくれた。私はみんなの盾になれるのだと……。
「ミカエラ? 聞いているのか?」
「もちろんです父さん。続けて下さい」
危ない、危ない、真剣な話しの場だったな。
そう思いつつも、チラリとアインを見てしまう。
――最初からアインは格好良かった……、見た目的に。
リーダーという意味でも理想的で、私は指揮をする必要が無くなり、気持ちが楽になったことを覚えている。
諦めない、前を向き続ける彼が眩しくて、いつからか目で追うことが増えていった。
何かあっても、彼なら何とかしてくれる。そんな希望を私たちに与えてくれる存在。
そして何より――
(アインと結ばれた子たちの、幸せそうな顔――)
”愛の一族”として、私の血が、猛烈に彼が欲しいと叫びだしたのだ。
(フフフ、ついに来た私の帰省イベントだものね! ああ、ついに私もあの中に――)
私が回想している間に父さんたちの話し合いは佳境になってきており、魔族を含めて外部勢力との接触には気を張って行こうといった話で帰結する様子だった。
「では、ミカエラも学園復帰でよろしいのでしょうか?」
アインが父さんに確認する。
「そうだな……。数日後の王太子発表の儀には出席してもらうから、それが終われば学園への復学も可能であろう」
「「えっ!? ミカエラちゃんが城からまた居なくなるっ?」」
父さんの答えに兄たちが反応する。
しかし、そこじゃない――
「良かった。ミカエラ、またよろしくね!」
アインが笑顔で、本当に良かったという顔で私に微笑みかけてくれる。
「あ、うん。……また、よろしく……」
脳内で小さい私たちが騒ぎ出す――
「やば~~~い!! 私の帰省イベントが何事もなく終わっちゃう!!」
「何も無かったわけじゃないけど! 何も無かったわけじゃないけど!」
「あれ? あれれ? 私への告白イベントとかは?……」
「ただの、仲間エンド? まさかの仲間エンド!?」
「私……、アインへのあぷろーちをしたのに……、あんなにしたのに……」
「可愛さが足りない? 可愛さが足りない!?」
小さい私たちはお互いを見て、それぞれの反応をし始める――
「どうしよう!? どうしよう!?」と走り回る私。
「そんな……、ただの仲間なの……」と呆然とする私。
「ひどいよ、ひどいよアイン。私だけこんな……」とその場に泣き崩れてしまう私。
「…………ねえ? あれ使えそうじゃない?」
最後の小さい私は、静かに兄さんが父さんと話す姿を指さした――
「父様、その……、王太子の儀で、パニスを婚約者にって発表したいんですけど……」
「お前っ!……ハァ、これも血か……、好きにしろ!」
「ありがとうございます!!」
兄さんはとても嬉しそうにしていた。
瞬間――私は閃いた。
(これだあああっ!!)
私はアインを熱い視線で見る。
(アイン、待っていて。……必ずあなたを、振り向かせてみせる!!)




