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【第一部完結】推しヒロインは俺が救う  作者: 白永央はひな
《第10章》エルドラド王国王位継承編

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第91話 愛に生きる王族たち

《アイン視点》

 サマル・イスカ公爵様は灰になって消えた。


(遠目で見る限り、公爵様は穏やかな顔だった。後悔させない形で逝かせたんだね……)


 僕は素直に、ミカエラに任せて良かったと思った。


(きっと僕では、あんな穏やかな顔で最期を迎えさせることは、出来なかっただろうから……)


「アイン、全員拘束したよ!」

「治療も最低限済ませました」


 ウリエとエルが報告に来てくれた。僕はミカエラへ視線を向けて、みんなにも報告した。


「公爵様も、穏やかに逝ったよ……」

「そう。……ミカエラに任せて良かったわね」


 ラフィの言葉に、みんなも頷く。


(獣王国でもそうだったけど、最後には灰になって何も残らないなんて……。まるで――)


「まるで迷宮の魔物みたいね……」


 僕が思っていたことを、ラフィも考えていたようだった。


「……あんな最期が良いと思えない。……残された人にとって、良くないと思う」

「そうですねぇ。アーキさんの時も、思うことがあったでしょう?」

「うん。……恨みの言葉一つ言えずに、消えたからね……」

「何にせよ、許せないね! あの薬!」


 僕もそうだと思った。あの“薬“は悪であると、僕の勇者の直感も告げている気がした。


「サマル様あああ!!」

「何ということだ!?」

「灰に!? 灰になって消えてしまった!?」


 意識の戻ったイスカ公爵騎士団や魔法士団の人たちが、悲痛と驚きの声を上げた。


(ん? あの薬のことは知らなかった?)


 涙を流して悲しむ騎士の一人に声を掛けた。


「さっき公爵様が使用した薬のこと、聞いてなかったんですか?」

「聞いてない! 我々は特別な強化薬だとしか聞いてなかった! まさかっ!消えてしまうなんて!」

(公爵様は黙っていた……、普通に代償が分かっていれば使わないもんな……)


 その時――大規模模擬戦の会場側から、歓声が響いてきた。


『勝者っ!! ミシェル殿下っ!!!!』


 魔導拡声器の声が、ここまで響いてきた。


「「「「っ!!~~~」」」」


 公爵兵たちは主人を失い、更に目的も達成できなかったと、悲しみに打ちひしがれている様子だった。


(未遂とはいえ国家への反逆。この人たちも連行して報告したら、重い罰が……)


 その時、騎士の一人が呟いた。


「サマル様の元に行こう……」


 公爵兵たちはその言葉に驚きつつも、お互いの顔を見合ってから頷き合う。


「勇者殿、迷惑を掛けたな」


 先ほど話しかけた騎士が、公爵兵の代表かのように僕へ言った。その表情は静かな覚悟を現しているような様子で――その手に隠し持っていた短剣が握られていた事に、気づくのが遅れてしまった。


「ちょっ!?」


 僕は慌てて制止しようとしたが、公爵兵全員が同じように自身へ短剣を向けている状況を、止められるとは思えなかった。


 瞬間――その場に、ミカエラの声が響く。


「止まりなさい!! これはエルドラド王国の第一王女としての命令です!!!!」


 公爵兵の動きが止まり、全員がミカエラに注目する。


「聞きなさい! 私は第一王女として、首謀者であるサマル・イスカ公爵の死によって、この度の反乱の責を全て終えたものと、王へ進言する!!」


「「「「っ!?」」」」


「生き残ったお前たちや、その家族には責を問わない!!」


「っ!! しかし姫様!! 我々は主一人を逝かせた卑怯者にはなりたくありません!! どうか我々にも罰をっ!!!!」


 公爵兵たちは引くつもりはないといった表情で、ミカエラに反論する。


 ミカエラの表情は険しいものになり、そして一筋の涙が零れた――


「甘えるな貴様ら!! サマル叔父様は!! 貴様らを想って逝ったのだぞ!! どうしてあの薬のことを黙っていたと思う!? どうして自分の考えだけで動いているなんて言葉を放ったと思うのだ!?」


「「「「…………」」」」


「サマル叔父様は、愛の深い人だった。……その愛と傷を利用されたのだと思う……。あの醜悪な薬をサマル叔父様へ渡した悪党の、思惑通りになんてならないでくれ……、お願いだよ……」


 カランッ……


 一人、また一人と短剣を落とし、その場に崩れ落ちていく。


「私は、サマル叔父様に貴様らを託されたと思っている。ここは私のために、涙と恥辱を飲んで耐えてくれないか?」


 そして、全員がミカエラへ向かってひれ伏していた。

 代表の騎士が顔を上げ、ミカエラへ謝罪する。


「重ね重ね、短慮な行動を取ってしまい申し訳ありませんでした。……我々のサマル様への理解が及ばないばかりに、あの御方を二度も悲しませることになってしまう所でした……」

 

 ミカエラは微笑み、公爵兵たちへ指示を出す。


「お前たちの罪と罰は、私が預かる!! 私が良いと言うまで、勝手に死ぬことは許さん!! これは、第一王女としての命令だ!!」


「「「「ははっ!!」」」」


 公爵兵たちは涙を流しつつ、ミカエラへ最敬礼を持って答えていた。


 ミカエラと公爵兵たちの姿に僕は――

 まるで今まで会ってきた王の姿を、見ているような気がしていた。



◇ ◇ ◇

《ミカエラ視点》

 サマル叔父様の兵たちは、一度領地へ帰した。勝手な判断ではあったけど、きっと父さんも兄さんたちも許してくれると思うから。

 アインたちも応接室で待っていてもらい、私は一人で報告をしに父さんの執務室へ出向いた。中にはちょうど兄さんたちも居て、今後のことを話している様子だった。


「失礼します。……父さん、兄さん、離れていて申し訳ありませんでした」

「おお! ミカエラ! 探したのだぞ?」

「ミカエラっ! 兄さんは勝ったぞっ! これでっ!」

「ちっ! すまんミカエラ……、お前を守れなかった……」


 父さんは心配してくれ、ミシェル兄さんはパニスさんへ想いを告げられると歓喜しており、マイケル兄さんは私を守れなかったと悔しがっていた。


(守れなかったって何のこと?……)


「ご心配をおかけしました。私から報告が――」


 私はサマル叔父様の最期と、公爵兵への采配を報告した。

 国王である父さんは頷く。


「分かった、ミカエラの采配を支持する。……サマルは信念を貫いたのだな」

「はい、立派な最期でした」


「そんな……、サマル義父さんが、何で……。俺は信用されてなかったのか!?」

「それは違います、マイケル兄さん。サマル叔父様は、兄さんを最後まで王にしたかったと話していました……」


 マイケル兄さんは悲痛な表情のまま叫ぶ。


「ミカエラッ!! 俺とサマル義父さんは、お前を救いたかったんだ!!――」


 ミシェル兄さんを睨みつけて――


「――この変態兄貴の、魔の手から!!」


 マイケル兄さんは、ミシェル兄さんを指さして告げた。


「「「えええええ!?」」」


「俺は知っている! ミシェル兄がミカエラを妃に迎えようとしていることを!! いくらミカエラが天使だからって!! 兄としてそれはダメだろうが!! この変態が!!」


 そう言ってミシェル兄さんに殴りかかろうとするので、私はとりあえず止めておいた。


「落ち着いて下さい、マイケル兄さん」

「ぐぅっ!? 離すんだミカエラ!! お前のために兄さんは!!」


 マイケル兄さんを拘束したまま、話を聞いてみると……。


「兄さん……、聞いた私がドン引きですよ……」

「マイケル、それはないだろうよ……」

「ミカエラみたいな天使相手だと! 兄貴みたいな奴も出てしまうんだ!!」


 ミシェル兄さんは拘束しているマイケル兄さんの前に立ち、頭を下げる。


「ミシェル!? 本当なのか!?」


 驚く父さんと、やっぱりかと更に眼光を鋭くするマイケル兄さん。


「すいませんでした……。正式に王太子になった時に、父さんや母さん、マイケルに報告しようと思っていたんです……」

「なにをっ!?」

「この変態野郎がっ!!」

(早く誤解を解いて欲しいんだけど……)


 ミシェル兄さんは顔を上げる。

 その表情は決死の覚悟を漂わせていた――


(兄さん、それ余計に誤解を招きそうな顔……)


「実はっ!!――」


 父さんとマイケル兄さんは息を飲む。


「――街のパン屋の娘と結婚したいのです!!」


「「………は?」」


「街のパン屋の娘で、パニスって言うのですが」

「「そこじゃなーーーい!!」」

「はい?」


「パン屋の?」

「はい」


「ミカエラは?」

「妹ですよ? 私の愛しい人は、パン屋のパニスです」


 マイケル兄さんは、感情の抜け落ちた表情になって……。


「じゃあなんで、ミカエラとコソコソと?」

「……ミカエラに、パニスのことで……、賛成してくれるから、相談させてもらってたんだ……」


 ミシェル兄さんは恥じらいつつ告白した。

 父さんは深いため息を吐いた。


「紛らわしいんじゃ!!」

「このクソミシェル!!」

「ええ!? ダメですか!? パニスと!?」


「「そこは良いって言ってるだろ!!」」

(言ってませんよ、二人とも……)


 自身の誤解で暴走していたと分かったマイケル兄さんは落ち込み、家族に事前に根回しや相談しないために大事になったとミシェル兄さんも落ち込み、ちょっと抜けてる息子たちに王位を渡して平気か悩む父さんと、なかなかカオスの現場になったけど――


(やっぱり私は、この家族が大好きねっ!)


 そう思えた、すれ違いだった。

 

 こうして正式に、ミシェル兄さんが王太子となった。



◇ ◇ ◇

 その夜、自室にて――

 サマル叔父様のことは、本当に悲しい出来事だった。でも私たちは悲しむ前に、報いを受けさせないといけない。


(叔父様の愛と傷を弄んだ、黒幕にね!!)


 いろいろな事も重なったので、後日アインたちも呼んでみんなで話し合う予定となった。

 とりあえず今日はみんな学園へ帰っていった。


 私はベッドに座り、静かに目を閉じた――


(今日もアインは王子様してたなあああ!!)


 脳内の小さな私たちが、小躍りを始めた。躍りながら小さな私たちが、アインについて話し出す。


「ねぇねぇ見た!? 会議の時の彼!! 静かにスッと手を上げて!! あれだけ続いていた会議を、一発で終わらせたわ!!」

「さすがアイン! さすがアイン!」

「内容だけじゃないわ! 言葉を紡ぐ時の彼の顔!! あの覚悟を決めた表情!! もうっ……、最高っ!!」

「アインかっこいい! アインかっこいい!」

「もうね、あれはね、私を落としに来てるとしか、思えないよね!?」

「私にゾッコン!? 以心伝心!?」


「キャーー!!」と叫びながら、小さな私たちが走り回る。

 それからピタッと止まり、顔を見合わせて――


「「「「とにかく! 今回もアインは――」」」」


(格好良かったぁ〜〜〜)


 私は自分の口元に触れてみると、口角が上がってしまっていた。


(おっと、まずいな……、ちゃんと表情はコントロールしないとな……)


 私は窓から見える学園都市の方に意識を向ける。


 悲しい事もあった――

 でも、愛に生きたサマル叔父様だったら、私のこの恋も応援するだろう。


「このチャンス、必ず掴み取る!」


 アインのことを考えながら、恋する私は眠りについた――


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