第90話 サマル・イスカ公爵
《ミカエラ視点》
私たちが立つ背面から、戦闘が始まった音が聞こえてくる。
(大規模模擬戦が始まったようだね……)
そして、私たちの正面には――
「やはりミカエラは、私が怪しいと思っていたんだね?」
「ええ、サマル叔父様……」
サマル叔父様が、約200名の完全武装の騎士団や魔法士団を引き連れて、私たちの前に現れていた。
「念のため、なぜこのような集団を連れて模擬戦場へ向かっているのかを、教えて下さい!」
「……勇者よ。君は私のことを、意味の無い問答で貴重なタイミングを逃す阿呆だと、そう思っているのかい?」
サマル叔父様の顔が更に険しくなる。
「サマル叔父様、アインは素直なだけなんだ。そこまで考えてはいないさ!」
「なるほどね……」
「えぇぇ…………」
アインは悲しそうな表情で私を見ていた。
(ごめんね、アイン……)
私は心で手を合わせた。
「サマル叔父様……、今引き返せば、不問としますよ?」
「ありがとうミカエラ。……だが、私の覚悟は決まっているのだよ」
「そう、ですか……」
「そうそう、私の行動は娘もマイケル君も知らない。ここは大事な所だから、必ず覚えておいて欲しい……」
「公爵様! もう止められないのですか!?」
「本当に空気を読まない勇者だな。――貴様のせいで話す気がうせたわ!! さあ、始めようか!!」
サマル叔父様は攻撃開始の合図を出した――
「くっ!?」
「今日は空回り気味だな、アイン!」
「ゴメンっ!!」
左右へ展開していた魔法士団から、私たちに魔法が放たれる。同時に騎士団の最前列も走りだした。
「魔法は、私に任せて――」
私たちへ向かってくる数多の魔弾――ラフィが前へ出て、手を前に伸ばした。
「砕けなさい!」
ラフィが指を弾くと、全ての魔弾が消失した――
「「「「なにぃ!!!?」」」」
魔法師団が驚愕する。
(さすが、賢者!!)
ラフィは極小の水の針で、全ての魔弾の核を貫いて消したのだ。
(気づいている魔法使いが居ない時点で、魔法師団はラフィの敵じゃなさそうだな)
「魔法師団は、わたしが潰してきますぅ~~~」
セラフが風を纏って飛び出して行った――
彼女を中心に竜巻が発生しており、魔法師団の左翼をそのまま突っ込んで吹き飛ばす。
「「「「ぎゃあああ!!」」」」
「もういっちょですぅ~~~!!」
セラフは次に、右翼へ突っ込み吹き飛ばしていった。庇おうと走る騎士たちもいたが、セラフの竜巻に追いつける者は居なかった。
(うん、すごいのだけど、とてもシュールだね…)
「今度は、あたいの番っ!!」
ドンッ!と、もの凄い勢いで飛び出すウリエ。
混乱する騎士団の目の前まで行き、高くジャンプする。
「いくよっ!!」
振り上げた大斧に土を纏わせる――その纏わせた土の量はまるで……。
「嘘だろ……」
一人の騎士が、その光景を見て呟いた。
騎士たちの上空に現れたのは、土や岩では無く、大地だった――
「ド~~~ン!!」
ゴゴゴゴゴ……と、唸り上げながら落ちてくる大地に、騎士たちは成す術もなく飲み込まれていった。
(あの質量攻撃は、受けたくないなぁ……)
セラフ、ウリエの攻撃を耐えた精鋭が残り数十名、彼らが残っているのを見てサマル叔父様の目は、まだ希望を捨ててなかった。
(あの者たちが、本命なのかな?)
「……残りを、狩ってくる」
アーキが黒い闘気を纏い、その瞳を赤く輝かせる――
「奥義……、黒魔獣気っ!」
瞬間――
アーキは、黒い閃光になった。
「……ただいま」
急ブレーキで砂埃を立てつつ止まった彼女の一声と同時に、残っていた精鋭が全て倒れたのだった。
(……流石。目で追えないな……)
「……なっ……」
驚愕するサマル叔父様。
私は今一度、問う。
「……降伏しますか?」
私の言葉にサマル叔父様は――笑った。
「ハハ、できんさ、できんのよ。私は決めたと言ったはずだろ?」
そう言いながら、胸ポケットから”薬”を取り出した。
「それはっ!?」
私は何か引っかかったが思い当たらなかったものを、アインは一瞬で理解して制止に飛び出す――
「残念!」
アインが辿り着く前に、サマル叔父様は薬を飲み込んでしまった。
「くそっ!!」
アインは私の所まで一度後退してきた。
「ミカエラ、あの時の薬だよっ! 獣王国で宰相様が使ったやつ!!」
「っ!? あの異形に変わるやつか!?」
サマル叔父様は急激に変化していった。あの時の異形変化とは、また違った様子の変化。
異形ではないが、白目は黒くなり、額に宝石のようなものがあり、髪の色は白くなっていた。
(肌の色も、やや浅黒くなったか?)
「ふぅ、これは凄いね……。これが、命を代償にした力か……」
「っ!?……その副作用は、そのままなのか…」
サマル叔父様は、自身から湧き上がる力の奔流に驚きながらも、冷静な様子だった。あの時の宰相たちはもっと、興奮していて落ち着いた雰囲気ではなかった。
「もう私には時間が無いからね。行かせてもらうよ?」
「行かせませんよ? あくまで狙いは大規模模擬戦ですか?」
「ミカエラ……、当たり前だろう、可愛い義理の息子、マイケル君のためだからね――」
サマル叔父様は、私たちを避けて行こうと走り出す。アインが追いかけようとするが、私は彼の手を取って願った。
「私にやらせて欲しい。あの人は、私の叔父だからね。最期は私が止めてあげたい」
アインは一瞬だけ考える様子を見せたが、すぐに笑って頷く。
「分かった。…ミカエラに任せる!」
「ありがとう、アイン――」
私は瞬間、炎を纏った。
私が纏う炎は私自身を焼くことは無く、ただ私の金髪だけが同じ炎のように揺らめいていた。
「――私が、あなたを止めますよ、サマル叔父様」
炎を纏った私は、その火力を推進力に変えて移動できる。勇者パーティー内でも、最高速度は上から三番目だった。
ゴオゥッ!! ズザザザーー!!
「っ!? 何っ!?」
一瞬でサマル叔父様の前に移動する。
「行かせませんよ!!」
「っ!! 私には時間が無いと言っている!!」
噴き出す力を纏わせて、サマル叔父様は私へ斬りかかってくる。
しかし――
ガキンッ! ジュウゥゥゥ!!
「ぎゃあああ!!」
炎を纏う私の盾に触れた瞬間、その熱が剣を一瞬で焦がし、持っていたサマル叔父様の手も焼いた。
「ミカエラ貴様ぁ! 何なのだ!その炎はっ!?」
私を睨みつけるサマル叔父様。
「私の心に呼応して、私の炎は熱く燃え上がるのですよ!」
「答えになっとらんわっ!!」
ガキンッ! ガキンッ!
ジュッ! ジュッ!
歯を食いしばりながら攻撃をしてくるが、今の私が抑えられない攻撃ではなかった。
「私からもっ! 行きますよ!!」
灼熱の盾で攻撃を捌きながら、盾で殴り、盾で突き上げ、盾で押し出した――
「ぐああああ!!!!」
サマル叔父様は吹き飛んで倒れた。私の攻撃で全身が焼けただれており、衝撃で立ち上がることも出来ない様子だった。
「…………」
時間切れなのか、サマル叔父様は手足の先から灰に変わり出していた。
私はサマル叔父様の側へ行き、話しかける。
「……姪として。貴方を止めさせて頂きました」
「………さすが、私の姪だな」
その表情は、やり切ったような顔をしていて――
「やっぱり……、強面とか、口が悪い者には、王になる資格は、無いという事なのかなぁ……」
「……見た目や、口調は関係ありませんよ」
サマル叔父様は薄く笑って……。
「気遣いは無用だ。……世の中の人々に受け入れられないのは、……知っているのだから」
「叔父様、世の中にはワイルド系なるものが、あるそうですよ?」
「「…………」」
「叔父の最期に、お前は何を言っておるのだ?」
「世の中には、ワイルド系が好きだという女子も居ると言っているのです。結構多いらしいですよ、ワイルド男子好き。……私は好みでは、ありませんが……」
サマル叔父様は呆れた顔になる。
「そこは、私も好みですの流れではないのか?」
「私は正直を信念にしてますから!」
「ハハハ、お前らしいか……。結局――」
「貴方は好かれていましたよ」
「……何?」
「忘れているのですか? 貴方を慕う者たちを、家族を、領民を……。貴方は愛されていたんですよ」
「っ!?…………」
サマル叔父様の目が見開かれ、そして目尻が下がった。
「……そうか。……そうだったな」
サマル叔父様は、必死に死者を出すまいと頑張るアインとエルの姿と、自分を慕って来てくれた騎士や魔法使いたちを見る。
「……マイケルも、皆に愛されているのか?」
「ええ、とても。……貴方も愛してくれたのでしょう? 義息として……」
サマル叔父の身体はすでに灰となって消えていた。最後に残った顔は、安心した表情をしていて、涙を一筋だけ流して――
「……よかった」
そう呟いて、消えていった――




