第89話 愛の一族
《アイン視点》
大会議室で詳細を詰めるとの事で、僕たちは応接室へ戻って待機をしていた。
「みんな、お待たせ――」
会議を終えたミカエラが応接室へやって来た。
みんなでお茶を飲んで落ち着きつつ、ミカエラは決まった内容を教えてくれた。
「百人同士の大規模模擬戦ね……」
ラフィが呟く。
「お互いに自分が抱える最高戦力を出すという、力の誇示ですね」
エルが一側面を示す。
「それに百人なら、指揮能力も分かるのかな?」
ウリエも自分の見解を話す。
「魔導士の数とかはぁ、決まってるんですかぁ?」
「ああ、お互いに二名までだな。しかも、直接的な攻撃魔法は禁止だな」
「……あくまで、指揮と保有戦力に焦点を当てた?」
「そうなるな。……あくまでも模擬戦闘だからね」
二人の質問に答えるミカエラ。
「ミカエラは?」
「私は中立だ。……それに、みんなにも手伝ってもらいたい事が――」
ミカエラの話だと、第二王子のマイケル殿下が急に王太子へ立候補したのは、彼の義父であるサマル・イスカ公爵邸へ一度帰ってからだという。
(絶対に怪しいよね……、そういえば顔も怖かった気が……)
「私も怪しいと思ったから、ずっと監視していたのだが――」
チラッと僕を見るミカエラ。しかし、すぐに顔を逸らしてしまう。
「アインの提案があった時に、あの男は上手く口を隠していたけど、笑っていたんだよね」
((((怪しい…………))))
「うん、みんな意見は一緒みたいだね?」
ミカエラも頷く。
「あの男はきっと、大規模模擬戦の時に行動を起こすと思うんだ。だからみんな、力を貸してくれないか?」
僕はみんなを見回し確認する。全員が頷き同意してくれた。
「もちろんだよ。ミカエラは僕たちの大事な仲間なんだからね!」
「っ! ありがとう、よろしく頼むよ!」
僕たちは大規模模擬戦時にサマル・イスカ公爵が行動を起こす前提で、自分たちがするべきことを話し合って準備をした――
◇ ◇ ◇
《マイケル視点》
百人同士がぶつかる大規模模擬戦が始まった――
場所は王都ドラド近くの、魔の森周辺にある模擬戦闘区域だ。ここは模擬戦闘用に特殊結界が貼られていて、死ぬ攻撃も一度だけ肩代わりしてくれるアイテムが使用できる空間になっている。
「存分にやれってことだよなっ!!」
俺はミシェル兄のような、腹黒い作戦を立てるのは苦手だ。だけど、俺は自分の仲間たちの実力には自信がある。
「俺の仲間たちならっ! 小細工なんていらねーのさっ!!」
仲間たちには、自由に相手を倒してきてくれとだけ言った。
(確かに、上に立つ者として、的確な指示や判断が必要なんだろうさ――)
「でもよぉ、仲間を…、人を信じる心ってのも、大事だよなぁ!!」
俺は負けられないんだよ……、悪いなミシェル兄……、今はあんたを王にできない。
(可愛いミカエラのためにも――)
サマル義父さんは俺を王にって、一生懸命に推してくれる。義父さんの期待に応えるというのも、王太子を目指す理由の一つではある。
だけど、一番の理由は――
「――俺がミシェルの変態野郎から、ミカエラを守るんだ!!」
イスカ公爵邸で、ある情報がもたらされた。その情報は、サマル義父さんも可能性が高いと言っていた。
(今思えば……、その片鱗は俺も見ていたじゃないか――)
最近、ミカエラが王城に来るたびに、二人でヒソヒソと話している姿を見ていた。俺が近づくと話を止めるし、ミカエラは慌てた様子で頬を赤く染めていた……。
「まさか本気で……、ミカエラと添い遂げようと考えていたなんてなっ!!」
あの変態野郎は、”実の妹”であるミカエラと”夫婦”になるつもりなのだ。
(いくら可愛いからって! それはダメだろうがっ!!)
俺はその情報を聞いて、納得しちまったのさ…。
あのミカエラへの執着、可愛がり方、そして極度の女嫌い。
(普通にモテるだろうに、絶対に婚約の話を受けることはなかった……。まさか、そういう事だったとはな……)
「ミカエラ。兄さんが、お前を守るからなっ!!」
◇ ◇ ◇
《ミシェル視点》
大規模模擬戦が始まった――
「マイケルの性格は分かっている。やつは配下の者たちを、自由に動かさせるだろう」
各部隊長は頷く。
私はマイケルが配下を自由にさせると読んでいたので、やつの配下の中でも特に仲の良いメンバーをリストアップして、その組み合わせの可能性を抽出、一番可能性の高いと思われる組み合わせに対処がしやすい部隊構成で望んでいた。
「私の考えた最適な構成部隊が君たちだ。相手の性格や癖の情報から、各々が対するであろう集団の行動予測と戦闘パターンを纏めておいた。確認して適切に対処してくれ――」
「「「「はっ!!」」」」
私の部隊は行動を開始した。
(あとは、戦果を待つのみだな……)
「私は、必ず王に……」
(王にならなければ、私は彼女と――)
「――私はっ! 王太子になって! パニスと添い遂げる!!」
私はよく”腹黒い”などと言われる。
(ものごとをよく考えて、最善の答えを導くのが良くないと言うのか?)
そんな風に言われて、私は何も感じない訳ではないのだ……。
(私だって、いい加減にしたい時だってあるさ……、いつも完璧なんかではないのだ……)
本当に少しだが、ちょっとだけ悩んでいた私は、城を抜け出して城下町の様子を見て回っていた。
そんな時だった、彼女に出会ったのは――
公園のベンチで佇んでいると……。
「おにーさーん、元気ないねー? ほらっ、これ食べなよ! 元気出るからさ!」
「ん?」
声を掛けられたので振り向くと、私の頬にはパンが押し付けられていて――
「食べなー? 美味しいよー?」
私は本当に覇気のない顔をしていたんだろう。
そんな私を見て心配してくれたのか、彼女は元気な笑顔でパンを頬に当ててきた。
「……腹は減ってないのだが……」
「僕はね? お腹の問題を言ってないんだよ? 君はきっと、心のお腹が空いてるんだよ! だからね? このパンはきっと満たしてくれるよ?」
良いから食べろと私の口に突っ込んでくる強引な彼女――パニスは近くのパン屋の娘だと言った。
正直、パンは特に美味しくはなかったが、パニスの明るさや元気さで不思議と私の何かが満たされた気がした。
その時は、お節介な娘だなと普通に礼を言って別れたのだが――
「あれー? おにーさん、また来たのー?」
「別に良いじゃないかっ! なんか後引く味なんだよ! パニスのパン!」
軽口を言うが、パニスは必ず私に、あの不思議なパンをくれた。
自分でも理解できない何かに突き動かされて、何度もあのベンチへ通ってしまった。
(ここに来ると、絶対にパニスが来るしな……)
パニスは灰色のミディアムヘアを元気に揺らしていて、青色の瞳もキラキラと輝いて見えた。一人称が僕だったので、このような可愛らしい男子が居るのかと驚いたが、間違いなく女性だった。
(本人に確認したら、ものすごく怒ったな……)
自分の不思議な心の動きを解くべく、私はミカエラにこっそりと相談してみた。
「ミシェル兄さん、それはね――」
――恋
私はミカエラの言葉が真実であるか確かめるために、いつものベンチでパニスを待っていた。
(……いつもなら、そろそろ来るのだが……)
いつまで経っても来ないパニスが心配になり、私は初めて彼女の家であるパン屋を訪ねた。店は普通に営業しているが、店内に彼女の姿は見当たらなかった。
「すまない、パニスは居るだろうか?」
店主と思われる男性に声を掛ける。
「あ? あんた誰だよ? うちの娘に何か用かよ?」
「実はいつも、そこのベンチでパニスさんと語らっている者なのだが……」
店主は驚き、先程の威嚇するような雰囲気が和らぎ、笑顔で答えてくれた。
「おお! あんたが”ベンチの君”かよ! いつも娘が嬉しそうに話してるのは、あんたか!!」
「ベンチの君?」
「アハハ、気にすんな! 悪いな! 娘は風邪引いたみたいでな? 今は奥で休んでるぜ」
(っ!?――)
「パニスは無事なんですか!?」
私は柄にもなく大声を出してしまった。
「おおぅ、そうか、心配してくれんだな。大丈夫だよ、ちょっと熱があるだけだ」
「熱っ!?」
(発熱で死ぬこともあるのではないか!?)
「私は回復魔法を使えますっ! 私にパニスを診せてくれませんか!――」
半ば強引にパニスを診て回復魔法をかけたが、彼女の顔の赤みは一向に引かなくて焦った。翌日には彼女は元気になったと聞き、とても安心した。
この時、私は自身の”恋”を自覚した――そして、それを立場が許さないことも。
「だが、ミカエラは私を応援してくれた……」
そして考え、行き着いた答え――
「――私は正式に王太子となり、パニスを妃として迎え入れるんだ」
私の答えにミカエラは、「いいんじゃない? 私たちのルーツは愛の一族だもんね!」と言ってくれた。
そう、エルドラド王家の源流は歴史上で『愛の勇者』と呼ばれた勇者だと伝わっている。
「私は、この愛を貫く!!」




