第88話 親友の助言
《アイン視点》
僕たちは専用ルームで話し合っていた。
「会長たちに話を聞いてから一週間。巻き込まれたにしては、長いよね?」
「ウリエさん……。ミカエラさんは、大丈夫でしょうか?」
「大丈夫か大丈夫じゃないかなら、ミカエラは平気な気がするわね?」
「うん。……ラフィに同意」
「でも、そろそろパーティーへ戻ってきて欲しいですぅ」
僕はみんなの意見を聞き、大きく頷いた。
「よしっ! 迎えに行こう!」
僕の言葉にみんな同意をしてくれる。
「だねっ! あたいたちの大事な仲間だしね!」
「はい。その言葉を待っていました」
「でも、どうやって?」
「……会長か、学園長を頼る?」
「曾祖母様にお願いするなら、任せて下さいぃ」
「そうだね、まずは会長を頼ろう。ダメだったらセラフ、頼むよ!」
「了解ですぅ」
善は急げで、僕たちは会長を訪ねて学生会室へ向かった――
「ん? 了解~。いいよ~、行っておいで~」
「え!? そんな軽いノリで良いんですか!?」
あっさり許可が出て驚く僕たちを他所目に、アイナ会長は机から手紙を取り出して渡してくれる。
「ほいっ! わたしと学園長の連名で、ミカエラの帰還要求を書いておいたから」
「……え?」
「いやね? 正直もっと早く来ると思ってたわけ! 君たちが行動するのは分かっていたから、学園長と先に用意しておいたんだよ!」
「会長……」
「ん?ん? わたしの気遣いに、感動しちゃった?」
アイナ会長は、ドヤ顔で僕を覗いてくる。
「あるならっ! もっと早く教えて下さいよおおお!!」
「えええええ!? まさかの逆ギレ!?」
「僕たちは! 今日までみんなで! 悩みに悩んでいたんですからあああ!!」
「アハハ~、バカな子たちだね~」
からかわれたようで、僕は腹が立ってしまった。
「酷いですよ!! 会長っ!! 大事な仲間のことなんですから!! ふざけないで下さいよ!!」
僕の言葉にアイナ会長の視線が鋭くなった――
「は? ふざけてるのは、お前だろ? 何で行動するまでに、こんな時間を置いた?」
急にひりつく空気を纏ったアイナ会長に、戸惑う僕ら……。
「状況次第では、時間は致命的になる……。お前たちの大丈夫は、大丈夫ではない時もあるんだぞ?」
「……それは……」
「あれから自分たちで、情報収集だけでも独自で動いたりしたのか?」
「……いいえ……」
ハァとため息をつかれてしまう。
「特にお前はリーダーなんだろアイン? お前の甘い判断で、仲間が、部下が、死ぬこともあるんだぞ? せめてお前だけは、緊張を解くべきじゃなかったんじゃないのか?」
「…………」
「……以上だ、精進しろ。大事な仲間なんだろ? 失ってからでは、遅いんだからな?」
「ありがとう……、ございます……」
最後は優しい表情になったアイナ会長から手紙を受け取り、僕たちは退室した。
手紙を持って専用ルームへ戻った。僕はみんなに振り返り――
「みんなっ! ごめんっ! 会長の言う通りだ。……僕の気が抜けていたっ!」
自分のバカさ加減に悔しくなり、頭を下げたまま拳を強く握り締める。
「あたいも同罪だよ、アイン……」
「ウリエ……」
ウリエは僕の腕を、いつもみたいに抱えてくれる。
「私だって……、賢者失格ね……」
「ラフィ……」
ラフィは反対の腕を抱えながら自身も反省する。
「一人で抱えないで下さい。わたしたちは仲間でしょぉ」
「セラフ……」
セラフが後ろから優しく抱きしめてくれる。
「うん。……一人だけじゃない。あたしたちのパーティーは、お互いを支え合うスタイル。……だから、みんなで反省……」
「……アーキ」
アーキが背伸びをして、僕を優しく撫でてくれる。
「わ、わ、私は混ざれませんけど! 気持ちは一緒ですよ?」
手をあわあわとしながらフォローしてくれるエル。
「エルも、ありがとう……」
(ここで反省だけしていては、また会長に怒られてしまうな!)
「みんな、ありがとう。僕は足りない所がたくさんあるけど、周りにみんなが居て、心強い先輩方も居る――」
僕はみんなを見渡して。
「学んでいくよ。いや、学んでいこう! 最高の環境にいるんだ! 僕たちは、もっと成長できる!」
みんな笑顔で頷いてくれた。
「とにかく今は――」
もらった手紙を握り締め――
「――ミカエラを迎えに行こう!」
◇ ◇ ◇
普通であれば、”勇者”の肩書きだけでアポイントもなく王城に入れるわけがないのだが……。
(さすが、エイユウ学園の学園長と学生会長の連名――)
門番に手紙を見せた瞬間に、貴賓扱いで応接室へ通されたのだった。
(こういうのも、僕が得なくてはいけない力なんだろうな……)
しばらく待っていると、ミカエラが応接室に入ってきた。
「みんな! 来てくれたのか! ありがとう!」
ミカエラはとても元気そうだった。
僕たちが、ホッと一安心しているとミカエラは疑問そうな表情になる。
「ん? みんな、どうしたんだい?」
僕たちは失笑しつつも、ミカエラの無事に喜びを感じていた。
「ところでアイン! 私に何か言いたいことはあるかい?」
僕の方へずいっと寄ってきて、翡翠の瞳をキラキラさせながら聞いてきた。
(えっ!? なんだろう……、これは間違ってはいけない質問な気がする……)
僕の勇者の直感が告げていた――
ジッと彼女を見る……。とても期待しているような瞳が印象的で、長いまつ毛、整った目鼻立ち、プルンとした唇、天使の環があるように見える綺麗な金髪――
(綺麗だな……、言動なんかは荒そうに見えても気品があって……、それに可愛いところもあって――そう、天使だ。お姫様だから……姫天使?)
ミカエラをよく見て感じたことを考えていると、目の前に来ていたミカエラはいつの間にか顔を真っ赤にして俯いていた……。
「っ!!!?」
僕はまさかと思って口を手で塞ぎつつ、みんなを見てみると――
四人の冷やかな視線と、顔を赤くして手で隠しつつ覗き見るエルと、目が合った。
「……僕、口に出してた?」
誰も答えないのでエルが……。
「すごい、ロマンチックでしたよ?」
(のおおおおお!!!!)
僕は熱くなる顔を手で覆って、天を仰いだ――
◇ ◇ ◇
文官さんが会議が再開しますとミカエラを呼びに来たので、彼女は部屋から出て行ってしまった。
そして僕は、四人の前で床に正座をして俯いていた。
「ねえ、アイン? あなたは帰省した女子を、落とさないといけない病気なの?」
冷たさと呆れを合わせたような声で、ラフィが聞いてくる。
「いいえ……。そんな病気はないんじゃ――」
「黙りなさい」
「……すいません、でした」
ウリエも近づいてきて、僕の顔を覗き込む。その瞳は普段と違って、まるで真っ黒な渦が巻いているような瞳だった。
「ねえねえアイン〜、さっきのは言う必要があったかなぁ? そんな場面だったかなぁ?」
「……不適切、でした」
「だよね~っ! あたいもそう思う~!」
正解だよと拍手をしてくれるが、言葉と感情が不一致すぎて怖かった。
静かに後ろに来たセラフが、僕の頭の上に大きくて柔らかいものを落としてくる。
(……ものすごい重量だっ!?)
「アインさ~ん、わたしは胸が苦しいんですよぉ~。ところ構わず女性を口説く婚約者が居るからなんですけどねぇ~~。この重さが分かりますかぁ? これが全部苦しみに変わるんですよぉ~?」
(っ!? これが苦しみの重さ!?)
セラフの重さに震えていると、アーキが目の前にやってきて、僕と目線を合わせる。
微笑みながら、僕の頭を撫で始める……、しかし――
「ねえアイン。ミカエラならあたしは、あたしたちに不満は無いと思う……。でもね――」
優しく撫でてくれて手が、急に僕の髪を荒く掴む。
「――時と、状況を考えて欲しいわけ? それくらいの待てが、できないのかな?」
「……でき、ます。……すいませんでした」
僕は彼女たちに、誠心誠意、謝らせて頂いた――
◇ ◇ ◇
和解した?僕たちはメイドさんにコンタクトを取ってもらい、何とか会議に参加する許可をもらった。またしても、手紙を使用させて頂いた形だ。
案内されて入った会議室で見た光景は、二人の王子の言い争いと時折ミカエラに意見を求めてほっこりを繰り返すという、意味の分からないものだった。
「ねえラフィ、これって不毛な時間って言うんじゃないの?」
僕はラフィの耳元で囁く。
ラフィが耳を押さえて頬を染め僕を睨む。
「耳元はやめてよ! その通りだけど、意味はあるわよ!」
ラフィも小声で返してくる。
「……どんな?」
「全面的な内戦への移行を防げているわ……、でも……」
ずっと続けられるものでもないわねと説明してくれる。
(ミカエラを拘束され続けるのも困るしな……)
そう思い彼女を見ると、目が合った。
ミカエラは慌てて目を逸らして俯いてしまった。彼女の頬は赤く染まっていて……。
(ちょっ!? ダメだよその反応は! また、可愛いと思ってしまう――)
「はっ!?」
僕を見る冷たい視線が刺さっているのが、肌感覚で分かった。僕は恐ろしくて、視線を正面から動かすことが出来なかった。
(っ~~~! 何かないか!? この窮地を脱する一手が!?)
その時――
僕の脳内で、ケイが囁いた……気がした。
『衝撃は、もっと強い衝撃で、打ち消せるんだぜ――だぜ――だぜ――』
僕は目を見開いた――
(さすがだよケイ!! 要はもっと大きな話題に変えてしまえば良いんだね!!)
僕は静かにスッと手を挙げる。
そんな僕にミカエラが気づき、ハイル国王へ耳打ちをした。
「両者待て……、光の守護者たる勇者殿から、何か意見があるようだ」
王子たちの言い争いを止めたハイル国王は、僕へ意見を述べて良いと許可をくれた。
特に示し合わせて無かったので、みんなは驚いていたが、僕にはこの手段しかなかったと言っておこう――
「発言、失礼致します。ご紹介頂きました通り、僕は勇者、アイン・アマテと申します!」
僕は真っ直ぐミカエラを見て言った――
「模擬戦で決めましょう!」
「なに?」
ハイル国王の反応にも、僕は怯まない。今はただ、前を向くんだ!
「数週間の議論を経ても決まらないのであれば、“武“によって決めてはと思いました!」
「続けろ」
「はい! 僕のような勇者が現れる、これは伝承によれば魔王の存在を示唆します!」
「確かに……、で?」
「今後起こるであろう魔王軍との戦争……、戦乱の世になると仮定すれば――」
「なるほど……、だから”武”か……」
ハイル国王は目を閉じ思案する――そして、決断した。
「確かに、いい加減にせんと国の運営に支障が出ると思っていた所だ! 勇者の案を採用する!!」
「父様っ!」「おやじっ!」「父さんっ!」
「なんだ? お前たちは不満か?」
「「「良いと思うっ!!」」」
王子たちとミカエラは笑顔で答えた。
(なんであんなに仲良しっぽいのに、争っているんだ??)
その様子に、僕は大いに疑問を感じた。
そして――
(ケイ、僕は君のおかげで危機を乗り切ったよ……)
みんなの意識が逸れたことに、僕は安堵した――




