第86話 黒の死神の日常
二学期が始まった――
放課後の黒の死神本部で俺たちは、現状の確認と今後の活動方針を決めていた。
会議が終了し、俺の部屋にアゼルとナミエと三人で戻ってきた。
(……そろそろ、ミカエライベントが発生している頃かな?)
エルドラド王位継承戦。
裏で糸を引いているのは、バビロン帝国。
長い時間を掛けて潜入している工作員が、サマル・イスカ公爵を操っているのだ。
(俺が気になっているのは、この作戦におけるリリスの役割――)
ゲームとは違う行動をしている彼女が、どう関わってくるのかが読めない。
(――いずれにせよ、監視しつつ、状況に応じて対処か……)
「リリスの救済アイテムは、まだ全部揃っていない……」
もしも、彼女が行動を起こしてしまったら――
「救済アイテム無しの、ガチンコ勝負か……」
俺の中の不安が溢れそうになる――
「ケイ君、大丈夫?」
「そんな顔は、ケイ君らしくないさ~!」
アゼルとナミエが俺を心配そうに気にしてくれる。
(……ん? ナミエのセリフは心配か?)
アゼルは失笑しながら、ナミエを見て頷く。
「たしかに……、今回のはナミエが正解よね?」
「うんうん! あーしはポジティブなところが長所だからね!」
笑い合った二人は俺に向き合う――
「ケイ君」「ケイ君!」
「っ!ああ」
「あたしは君に救われた時、”君の言葉”で救われたんだよ?」
「あーしが大好きな君は、どうにでもできる力を持っているんだよ?」
「お、おぅ……」
「「あたしたちは、君を信じているよ!」」
「……ありがとう、そうだよな。俺はお前たちを……、リリスもシルファも、必ず幸せにするんだ!!」
「フフフ、頼むよ、ケイ君!」
「お願いね!! ケイ君!!」
「ああ!! 絶対だ!!」
そうだ、迷うな――
俺は、俺ができることを、やって結果を出すんだ!
「今できることを、やってくるよ」
「「いってらっしゃい!」」
二人に背中を押され、今期の救済クエストへ俺は向かった。
◇ ◇ ◇
ギルドでリウムちゃんのお願いクエストを受ける。
(今回は――)
「あ~、お兄ちゃん久しぶり~。今日もよろしくね~」
今回は、まさかの最高難易度を引いてしまった。
――『おみくじで大吉を引いてみたい』
(完全なる運ゲーーー!!!!)
こればかりは、俺の万能な魔力でも……。
諦めた俺は、覚悟を決めてリウムちゃんと手を繋いで学園都市神社へ向かった。
「グウジンさ~ん、ミコちゃ~ん、居ますか~?」
神社に着いた俺たちは、無人の社務所へ呼びかける。
「は~~~いっ!って! おにーさん久しぶり~!」
「お久しぶり、ミコちゃん。これお土産ね」
俺は獣王国の土産と岩塩を渡す。
「うわっ!? 本当に取ってきた!?……本気だったんだ……」
ミコちゃんは慌てて自分のアホ毛を手で隠す。
警戒するような瞳で俺を見て――
「この毛はダメだよっ!」
「え!? お兄ちゃん、この子イジメてるの!?」
「いやいや!誤解だよ!イジメてないよ!?」
リウムちゃんに、お兄ちゃんてそんな人だったの!?みたいな表情をされて、俺は慌てて弁明をした。ちょっと疑わしそうな目で見られていることに耐えられなそうな時――
「どなたじゃい? おお、あの時の青年かのぅ?」
「グウジンさん!! お願いです!! 俺の誤解を解いて下さい!!」
それからグウジンさんが、ゆっくり丁寧にリウムちゃんへ説明してくれた。
「なんだ~、お兄ちゃん、早く言ってよ~」
リウムちゃんは笑顔に戻ったけど、何か釈然としなかったので、ミコちゃんのアホ毛はいつかもらおうと、心に決めた――
「ところで、今日の要件は岩塩と土産ですかな? お土産ありがとのぉ」
「いえいえ。そうでした、実は――」
俺はリウムちゃんが『大吉』を出したいと言って来たことを説明した。
グウジンさんへ近づき、小声で聞いてみる。
『意図的に出せませんか?大吉……』
『おぬし、それは神への冒涜じゃぞ?』
グウジンさんの視線が鋭くなる。
俺は離れて、「すいませんでした」と謝った。
「まったく……、じゃあ君は、おみくじがしたいのかのぉ?」
「リウムだよ~。うん、やりたい!」
「ミコ、持ってきておくれ」
「は~い!」
そうして、ミコちゃんが大きな木の筒を持ってきてくれる。
「これを振って――」ガシャ、ガシャ、「――こうっ!」
筒の下にある小さな穴から、細い木の棒が出てくる。
「ここに書いてある数字を覚えて~、あそこの戸棚にある、同じ番号の引き出しを開けるんだよ~」
「おお~! 分かった~」
(……さて、何回やるのかな――)
――そう思っていた時が、ありました。
「やった~~!! 大吉だ~~!!」
まさかの一撃っ!?
「ホッホッホッ、もっとるのぉ~」
「すご~~い……」
満面の笑顔でリウムちゃんが俺の所に来て、こっそりとメダルを渡してくれる。
『なんか引き出しに一緒に入ってたよ、お兄ちゃんにあげるね?』
『おめでとうリウムちゃん。そして、ありがとうね』
謎の古びたメダル、六枚目を手に入れた――
(……あと、一枚で全て揃うな……)
◇ ◇ ◇
そして次の日――
俺は”アゼル”と一緒にギルドを訪れていた。
「本当……、この認識阻害とか、変身機能とか、すごいわよね?」
「魔力は万能だよね!」
「そう言えば、何でもありって思ってない?……」
「アハハ……」
エルフの里を出る時は「君を連れて外を一緒に歩けるようにするから」と格好つけた俺だったが、思いの外すぐに実現してしまったのだった。
(まあ、そのおかげでカミラさんたち黒エルフ組が働けているんだしな……)
ちなみにカフェ【メッソレム・アーテル】は、とても繁盛していた。
「フフフ、ナディアさんに会うのが楽しみっ」
「忙しいのか、最近アジトに来ないもんな?」
「あぁ~、司書って公人扱いみたいだから、一つの組織と仲良くするのは問題みたい」
「なるほど、それはそうだよね……」
アゼルと街を歩いていると、男共はアゼルを振り返るやつが多かった。
(変身しても魅力を消しきれないなんてなっ……、アゼル! 恐ろしい子!!)
「??……どうかしたの?」
「アゼルは超絶可愛いって思ってさ!」
「っ!? もう、バカ言ってないで行くわよ!」
ズンズン歩いて行ってしまう彼女のうしろ姿しか見えなかったけど、髪の隙間から見える耳はとても赤くなっていた。
「ナディアさ~ん、今日も依頼受けて来ました~」
図書館に二人で入ると、ちょうど利用者は誰も居ないようで、ナディアさんが一人で本の整理をしていた。
「ケイさん、いつもありがとうございま――」
俺の声に反応して振り返った彼女は、俺とアゼルを見て固まる。
そして――
以前、俺を切りつけてきた時の彼女が現れた。
「――そいつは誰?」
「誰って……」
「お前には!! アゼルという大事な恋人が、居るだろうがあああ!!!!」
有無を言わさず懐から短剣を出して、切り掛かってくる――
キインッ!!
俺の前に出て、ナディアさんの短剣を弾くアゼル。
「ナディアさん、あたしだよ!」
そう言って変身を解いたアゼル。ナディアさんは短剣を弾かれた姿勢のまま、驚いて固まっていた。
一拍おいて、彼女は俺を睨みつけ――
「私っ! 聞いてません!!」
(はい、言ってませんでした……)
二人には談笑していて頂き、俺は粛々と古書整理を行った。
(……ボロボロの古書、ゲットだぜ……)
◇ ◇ ◇
《黒影隊員・ダーク教会員視点》
本日、第267回、ダーク様を称える会が開催される。
(今回の目玉は何と言っても――)
「――写真販売会」
わたし達のような平隊員では参加出来なかった、先日行なわれた南国諸島での慰安旅行。
その時にダーク様を盗撮――ではなくて、撮影した写真を販売するという噂が流れているのだ。
(わたしは必ず手に入れる! わたしだけの一枚をっ!!)
称える会は通常だと、幹部の皆さんからの『最近のダーク様エピソード』報告から始まり、次に『自分が想う、ダーク様ラブポイント』発表会を行い、最後に『ダーク様へ感謝の祈り』をして終えるのだ。
しかし今回は違った。それもそのはずだ。だって、幹部の皆さんのダーク様ラブ濃度が、普段と違いすぎた――
「いったい……、旅行先で、何が――」
わたしの呟きに、周りにいた同志たちが頷く。
そして、報告を聞いたわたし達は、天を仰ぎ涙を流した――
水着。
デート。
新しい恋人――
(めっちゃ羨ましい……。そして、ナミエ様も……聖妃様になったのですね……)
わたしは前々から思っていたのだ。あれ?この方、他の方とは違うぞ?と……。
末端の隊員であるわたしにも気さくに話してくれたし、気安い感じが、なんかとっても良かった。
あれ、でも――
聖典(エンジュ様作)に書かれた、約束の聖妃では……ない?
それって――
みんなが同じ思いだったのか、喜色の空気が拡がる。
(もしかして、わたしにもチャンスが――)
「みんな……、聞いて……」
教祖であるエンジュ様が語りだす。
「約束の聖妃様以外の方が、聖妃様になりました。……しかし、ナミエ様は聖妃様になるための試練を乗り越えたからこそ、……聖妃様になれたのです」
試練――それは?
「ダーク様の隣を歩む覚悟――」
「「「「っ!!!!」」」」
「……聖妃様になれる可能性は、示されました」
エンジュ様は両手を大きく広げ、遠くを見つめました。
「信徒らよ、……私は止めません。……我こそはという者は、試練に挑みなさい――」
「「「「…………」」」」
わたしを含め、名乗りを上げられる者は居ませんでした。
ダーク様の隣とは、その重圧とは、聖妃様たちは、どれだけの業を背負っているのでしょうか?
「「「「…………」」」」
そんな空気を払拭させるように、ニーナ様の声が響く――
「は~い、じゃあ写真販売会を始めるよ~」
「「「「わーいっ!!!!」」」」
わたし達はニーナ様の合図に飛びつき、ただただ推せれば良いかと思ってしまった。
「あ~~!! その写真は、わたしのですよおおお!!」




