第85話 勘違いと心の棘
《アイン視点》
ミカエラが王城に囚われている。
この内容は、セラフが学園長から聞いた情報だった。
(学園長情報なら、確度は高いよね……)
僕が見ると、みんな頷き答えてくれる。気持ちは同じようだ。
「よし、まずは学生会へ行こう。会長が何か聞いているかもしれない」
僕たちは急いで学生会室へ向かった。学生会室の中には、アイナ会長やメルル副会長などの先輩方が揃っていた。
「おっ? ちょうど良かった。君たちを呼びに行かせようとしていた所だったんだよ」
「ですです。セラフさん経由で聞いたですか?」
「はい。ミカエラのこと、ですよね」
アイナ会長は頷き「話が早くて助かる」と言った。
「エルドラド王国から、学園へ正式に依頼があった。一つは、ミカエラ・エルドラド君の休学申請。もう一つは、二学期遠征の延期依頼……」
「学園長の采配で、どちらも了承と返答済みですです。そのため、アイン君たちには二学年生への説明などをお願いしたいですです」
「了解です。……会長、ミカエラの件を詳しく知りませんか?」
アイナ会長はため息をつき。
「分かってるわよ。君たちの仲間のことだものね。だから先に事務連絡をしたのよ! メルル、よろしくねー!」
「えっ!? アイナ会長酷い! ハァ、了解ですです。では、分かっている情報を共有するですよ――」
メルル副会長はメガネをクイっと上げ、僕たちを見回した。
「エルドラド王国の、王位継承戦が勃発しました」
「王位継承戦……、それにミカエラも……」
メルル副会長は再びメガネを上げて、
「いえ、彼女は参加してませんです」
「え!? では、なんで帰って来れない…」
「……巻き込まれて、ですね」
「え!? 怪我でもしたんですか!?」
「無傷…、いえ、元気、ですね」
「……えーと」
「彼女は、愛されています。兄二人にですです…」
メルル副会長の説明によると――
王位継承を争っている王子二人は、どちらもミカエラを溺愛しており、彼女がその場に居るおかげで、全面戦争にまでならずに話し合いで決着させようとしているらしい。
(……ミカエラ。彼女はきっと兄たちの間に入って、誰も傷つかないように一人頑張っているんだね……)
僕はいつもパーティーを勇気づけたり、みんなの雰囲気を良くしようと仲裁してくれたりと、僕たちのために頑張ってくれるミカエラの姿を思い浮かべる。
「ミカエラは、平和的に解決するために自ら城に残ったってことですね?」
僕はアイナ会長へ確認をした。
会長は微笑み――
「いや。めっちゃ帰りたがってたぞ?ミカエラ」
(……あれ〜〜?)
僕は困惑するが、アイナ会長が教えてくれる。
「王様が引き止めたって言ってたよ! まあね? 全面戦争は不味いしね、必要な判断だよね!」
少し僕のミカエラに対するイメージと違ったけど、みんなを振り返ると納得な顔をしていた。
「ん?ああ、ミカエラはそんな感じよ?」
「通常時は、そうですね」
「ミカエラっぽいね!」
「そんな感じですねぇ〜」
「……同意?」
みんなの中では、そんな感じらしい……。
(あれ? 僕の中の頼りがいがあって、凛々しいミカエラは……、幻?)
緊急の事態ではないことが分かり、とりあえずは安心した僕たちだった。
◇ ◇ ◇
《リリス視点》
(……今日も、見つかりませんでした)
エイユウ学園には、“ある条件“を飲む代わりに、無理を通して入学させてもらいました。
(わたしには時間が無いのに……。毎日探しても見つからない……)
わたしにとって、唯一の希望――
「……死神様。……どこに居るのですか?」
そう呟いた瞬間――
トントン! トントン!
「っ!?」
自室の窓が叩かれ、わたしはとても驚きました。
窓を見ると、一羽のカラスが居て――
(っ!?……パメラ姉様の……)
わたしは黙って窓を開き、カラスを招き入れる。カラスはテーブルの上に止まり話し出す。
「リリス、相変わらず辛気臭い顔をしてるわね? もう少し皇族らしい覇気を持ちなさいな?」
「……申し訳ありません……」
「ハァ、返事まで辛気臭いじゃない? その手を前で組む癖も辞めなさいな、格好悪い……」
「はい……、それで、ご用件は?」
「は? あたしの話を遮るって正気? あんた死にたいの? ハァ、いいわ。父上からの伝言よ――」
(っ!!!? 父上からの指令!?)
わたしは、心臓を握られたかのように緊張する。
「――エルドラド王国王位継承戦が始まった。予定通りに進んだ場合は、作戦通りに動け。以上よ」
それからしばらく、パメラ姉様に罵倒されたが覚えていない。
わたしは、ただその場に立ち尽くしていた。
(……もう、時間が来てしまったの?)
「いいえ、まだ、分からない……」
わたしは目を閉じ、胸の前で手を組んで祈る。
(お願いします……。どうか、作戦通りに進みませんように……)
わたしは祈る、この平穏が崩れないようにと。
そして――
「死神様を、見つけ出さなければ――」
そう。それだけが、わたしの希望なのだから。
◇ ◇ ◇
《サマル視点》
私はサマル・イスカ公爵。現国王の弟だ。私は兄王の治政に不満は無い。さすが兄王だと思うくらいに盤石だと思っている。
私の顔は悪人面だが、私の性格を知っている家族や部下には特に怖がられることもなく、気安い関係を築けていると思う。
(だからか知らんが、悪人面をみんなでネタにしてくるのは、どうかと思う……)
最近、よく秘書や文官、メイドなどに言われるのが――
「サマル様は、顔が怖くなければ王様になれましたよ!」
そう、言われるのだ。
兄王は尊敬しているし、能力も信頼している。しかし、自分が王になるのを憧れたことがないのかと言われれば……、ある。
顔の差?――
そんな小さな棘が、私の心に刺さっていたのは確かだった。
可愛い娘のエマルが恋をした。相手は第二王子のマイケル君だ。無事恋は実り、二人は婚約をした。
(マイケル君は、ちょっと口が悪いが優しくて男らしい好青年だ。きっとエマルを幸せにしてくれるだろう――)
そんな時だった――
マイケル君から、王位継承の話があったのだ。
そして――
私に“顔が怖くなければ“と言った者たちが、今度はマイケル君が“口が悪くなければ“王になれたのにと囁き出した。
私の心の小さな傷。
可愛い娘の幸せ。
娘の婚約者の不遇。
気づけば私は、マイケル君を王にすべく、動き出していた。
「口が悪いなんて理由で! 可愛いマイケル君を王にさせないなんて!! 私は許さない!!」
私は本気でマイケル君を、次の王にすると決意したのだった――




