第84話 エルドラド王家
《ミカエラ視点》
「もともと第一王子の私が王太子だって、マイケルも言ってくれていたではないか! なんで急に!?」
「ミシェル兄に任せておけなくなった。……ただ、それだけだ!」
「だからそれでは意味が分からんと、何度も聞いているのだが!?」
「理由なんていいんだよ! とにかく俺も王太子に立候補する!」
「それでは話にならないではないか! ちゃんと言語化出来ない者が、王になんてなれるわけないであろう?」
「出来るけど、しないだけって分かって言っているよなミシェル兄。そういう陰険な性格じゃ、王は務まらないよな?」
「「ミカエラはどう思う!?」」
「私はどっちの兄さんも大好きですよ?」
私は何度目かわからないやり取りにうんざりしていたが、無難に微笑んで返答をする。
「「やっぱりミカエラは天使だな!!」」
そう言って一瞬だけ満面の笑顔になる二人だが……。
「は? マイケル。ミカエラは私の天使だぞ?」
「あ? ミシェル兄。ミカエラは俺の天使だろうが?」
すぐに険悪な雰囲気に戻り、言い争いを始めてしまう。
私はこの状況に、もう一週間以上付き合わされていた――
◇ ◇ ◇
ことの発端は、夏休みで私が帰省してしばらくした頃――
「私は王の職を辞したいと思っている。よって、次期国王である王太子を決め、国民へ発表しようと思っている」
兄妹全員が集まったディナー中に、父さん――ハイル・エルドラド国王が言った。
急な発表で全員が固まってしまったが、兄妹で目配せをして代表である第一王子のミシェル兄さんが父さんに聞いてくれる。
「急な話です……。理由を、教えてもらえますか?」
「ああ、実はな――」
今日のディナーにも居なかった母さん、フラン王妃が体調を崩すことが増えてきており、早く公務から外してあげたいとのことだった。
「母さん、そんなに……」
今日は体調が優れないと休んでいるが、昨日一緒に出かけた時も変わらなかったので、私は気になっていなかったのだ。
「無理しなければ、平気なんだがな……」
父さんは俯いてしまう……。
(……母さんは、何かの病気なのだろうか?)
「父様……」「おやじ……」「父さん……」
第二王子のマイケル兄さんも、心配そうな顔をしていた。
「それにな――」
父さんは真剣な表情で私たちを見る。
「父さんも自由になって、フランちゃんとお出かけしたくてな!」
「「「…………」」」
「父さん……、母さんは、何かの病気とか?」
「病気? なんの話だ? フランちゃんは昔から身体が弱いのは変わらんよ?」
だから子供たちは、みんな丈夫で嬉しいと笑う父さん。
「「「………ハァ」」」
母さんは特に問題なくて、ただただ父さんは母さんとの自由な時間を作りたかっただけの様だった。
「…ハァ、勘弁して下さいよ父様……」
「なんだよっ! 心配しちまったよ!?」
「しょうがないですね……」
私たち家族は王族だけど仲も良く、本当に良好な関係を築けていると思っていた。
それなのに――
◇ ◇ ◇
言い争うミシェル兄さんとマイケル兄さん。
この大会議室にはそれぞれの王子を推す貴族も同席しており、二人の様子を見守っていた。ちなみに私は中立のため、父さんの隣に座っている。
学園が開始される頃、私は王位継承権があるものの王位を継ぐ意思が無かったので、学園へ戻ろうとしたのだが――
「お願いミカエラちゃん! 君が必要なんだよ!」
そう言って父さんが私の手を離してくれず、あれよあれよと今日まできてしまった。
(そもそも、マイケル兄さんが自分も王太子にって言い出したのって、婚約者の家へ一度行ってからだったな……)
私はマイケル兄さん側のテーブルで、兄さんのすぐ横に座る男をみる。
サマル・イスカ公爵――父さんの弟、王弟であり、自身も王位継承権を持つ男。
(マイケル兄さんの婚約者の父親……、叔父が何か言っただろうな……)
婚約者のエマルは従姉妹で良い子だし、叔母さんも悪人じゃなかったと思う。
(サマル叔父様は、悪人面なんだよなぁ……)
私の視線に気づいたサマル叔父様は、笑いながら話しかけてくる。
「どうした? ミカエラも付き合わされて大変だな。でも、ちゃんとしていて王族として偉いぞ」
(笑うと余計に胡散臭いな……、でも言うことは優しい?)
「ありがとうございます、サマル叔父様。私は大変ではありませんから」
私も笑顔で返答しておく。
「なに、可愛い姪を気遣うのも、叔父の役目さ」
ハハハと笑う悪人面は、思いの外に良い人そうに見えるけど……。
(……でも、タイミング的に、あなたが一番怪しいんですよ……)
警戒は解かないようにしようと思った。
その後も、埒のあかない応酬が続いて行くのだった。
◇ ◇ ◇
いつ終わるのか分からない会議。
私は正直どちらの兄さんが王でも、家族みんなが仲良くできればポテンシャル的に平気だと思っていた。それぐらいに二人とも優秀な兄さんなのだ。
意見を言うわけでもなく、ただ時折二人に振られて曖昧な返答をするだけ、そんな意味の無い時間に何かないのかと考えていて、私は気づいてしまった……。
そう――
これはチャンスであると!
私は会議室のテーブルに両肘を置いて顔を隠す、きっとニヤけた顔になっているから。
(……アインは帰省している女子を、落とす癖がある――)
だから私は諦めていたのだ、エイユウ学園はこのエルドラド王都の中にある。その概念で考えると、私に対してだけは帰省イベントってないじゃん!?と思っていた。
(私もあの子たちみたいにっ! 絵本の王子様みたいな救われ方をしてみたい!!)
私は愛されている。それは自覚している。家族にも、国民にもだ。
(でも、そうじゃない!! それはそれ。これはこれ。別腹なのだよ!!)
”ありえない”と思っていた私用のイベントッ!! 熱いっ!! これは熱いぞっ!!
私はバッと両手を広げ立ち上がり、天を仰ぐ――
(アインっ!! 私ここに居るよっ!! さあっ!! 私を救いに来てっ!!)
まさかの自身の状況に喜びを抑えきれず、最高の笑顔で興奮を開放してしまった。
急な私の奇行に驚いた全員の視線が刺さる……。
大会議室が沈黙に支配された――
「……ごめんなさい、ちょっと気分が……」
そう言って私は座り俯いた……。
「……マイケル……休憩にしよう……」
「……いや、ミシェル兄。今日は、お開きにしよう……」
兄さんたちは、私が精神的に辛くなってしまったのだと勘違いしてくれて、今日の会議は終了となった。私の体調を考慮して、次回は数日後となったのだった。
「まあ、なんにせよ――」
私は自室の窓から、学園の方を見た。
「アイン、早く私を落としに来てね?」




