第83話 ジパン最高!
《アイン視点》
夏休みに入り、僕とラフィ、そしてアーキの三人で新都ジパンへ帰省していた。
ウリエやセラフが一緒に来たいと言っていたが、各々へ帰省依頼が来ていて難しく、今回は三人だけの旅となった。
出発前の一幕で――
「あー!! あたいも一緒に行きたかった!! 二人は、抜けがけとかしないでよ!?」
「ひどっ!? 私たちは普通に帰省するだけなんだから、何もないわよ!……ちょっと、二人の時間とかを作るだけよ……」
「そういう所ですよぉ〜!! ラフィさんは絶対に、隙あらばな人じゃないですかぁ〜!!」
「……大丈夫。あたしがアインのお世話をしておくから、任せて欲しい」
「それって、絶対に大丈夫じゃないじゃん!? また隙を見てチューする気でしょ!?」
「……隙を見せる方が悪い……」
「あ、あ、アウトですうぅ〜〜!!」
僕は見守ることしか出来なかった。
(……きっと、何を言っても、僕が責められる気がする)
そして、神が現れた――
「ほらほら、アインが困ってしまうじゃないか? そんな言い争いする君たちを見て、アインはどう思うかな?」
ミカエラの一言でハッとなる四人。
ゆっくりと僕の方を見て、彼女たちは笑顔になった。
「まあね! あたいはアインを信じているからね? アイン! あたいのことを忘れないでよ?」
上目遣いで僕の手を握るウリエ。
「も、もちろんだよ! ウリエを忘れるわけがないじゃないか!」
「フフフ、知ってた!」
そう言ってウリエは、笑顔で僕の手を離す。
「次はわたしですぅ~。アインさん、少しの間ですが離ればなれになってしまいます。アインさんは、寂しくないですか?」
僕の胸に飛び込み、寂しいと言うセラフ。
「寂しいよ。でもね、離れている時間もセラフのことを絶対に想っているからね?」
胸の中にいる彼女の耳は赤くなっていて、照れているのがすぐに分かった。
「アインさんは、ずるいですぅ~!!」
そう言って、僕を突き飛ばすセラフ。
(アハハ、ちょっとキザっぽかったな?)
僕は真剣な眼差しで、みんなの顔を見る――
「みんな、それぞれの場所で役目を果たしてきて欲しい。僕たちは、いろいろな意味でも強くなる必要があるからね?」
アゼルの処刑を止められなかった後悔が、僕の頭をよぎっていた。
みんなも真剣な表情になって、理解して頷いてくれた。
「じゃあみんな、二学期にまた会おう!――」
こうして僕たち三人は、新都ジパンへ旅立ったのだった。
◇ ◇ ◇
「これは……」
「思ってた以上に、復興が進んでるわね~」
「……すごい」
新都ジパンは、まだ未完成ながらもすごく賑わっていて、復興中だとは思えないくらいに活気に満ちていた。
「えっと、これによると……」
ジパン辺境伯様からラフィへ届いた手紙を確認する。
「あれね。あの一番大きな屋敷が、辺境伯邸みたいね?」
「おぉ……、前のより大きいね?」
「アーキは正直だなぁ。僕も思った!」
「ハァ、父さんは自分ではあんな浪費しないと思うけど……、まあ復興の旗印的な意味かもしれないわね?」
「おぉ……、なるほど」
「ぼ、僕もそっちだと、思ったよ!?」
「…………」
「………アイン、嘘ついてる気配」
「……ごめん、なさい……」
ラフィとアーキに呆れられつつ、僕たちは辺境伯邸に到着した。
「おおっ! ラフィ! また綺麗になったんじゃないか!? 父さん、もう直視が出来ないレベルになってるぞっ!!」
「じゃあ見ないで」
「ゴフッ!」
血を吐いて崩れ落ちるジパン様。
「アーキ、行きましょ?」
「うん。おじゃまします……」
二人で先に行ってしまった。
僕は側にしゃがみ込み、ジパン様に回復魔法を掛ける。
「大丈夫ですか? ジパン様……」
「あぁ、君はいつも優しいねアイン君……、さすが勇者だ……」
回復魔法に感動の表情をするジパン様。
だけど――
急にジパン様の表情が消えた。
「――そういえば、噂で聞いたんだけど、ラフィちゃんに彼氏ができたとか?」
ジパン様は仄暗くなった瞳で、僕をジーっと見つめる。
「君……、何か、知ってるかなぁ…………」
(ひいいいいい!! 本当に怖い!?)
瞬間――
バシンッ!!
「父さん、本当にやめてよ!! 手紙でも書いたでしょ!! 私はアインと結婚するって!!」
戻ってきたラフィが、ジパン様の頭をスリッパで叩き、僕との結婚宣言をした――
「「えええええ!?」」
「なんでアインまで驚くのよ!? もうっ!知らない!!」
そう言ってラフィは、走って行ってしまった。
アーキはジト目で……。
「今のはアインが悪い。……早く追いかけるべき」
「っ!……ごめん、行くっ!!」
「行かせるかぁ!!!!」
ジパン様が、立ち塞がろうとするが――
「ここは、あたしに任せてっ! 早く!!」
アーキがジパン様を止めてくれる。
「ごめんっ! ありがとうっ! アーキ!!」
僕はラフィを追いかけるべく、走り出した――
「何をしているの? あなた達……」
ステラ姉さんが、泣いているラフィの頭を優しく撫でながら、一緒に戻ってきたのだった。
◇ ◇ ◇
新ジパン辺境伯邸の会議室にて――
「まったく、何をしてるんですか?」
腕を組んで立つステラ姉さんの前で、床に座った僕とジパン様は俯きながら話を聞いていた。
「アイン?」
「はいっ!」
「状況は知らないけどラフィを泣かせるなんて……。私はあなたを、そんな風に育てたつもりはないのだけれど?」
「違うんです、ステラ姉さん――」
「あ゛?」
「……ごめんなさい」
ステラ姉さんに睨まれた僕は、何も言えなくなってしまった。
「そうだぞ!アイン君!! 泣かせる奴なんかに、ラフィちゃんはやれないぞ!」
「黙ってください」
「……はい」
ステラ姉さんの言葉に乗ろうとしたジパン様だが、そのステラ姉さんに止められた。
「ジパン様もです。……私、言いましたよね? 直ぐに対処願いたい書類がたくさんあるので、ラフィたちの出迎えは私がしますって。……言いましたよね?」
「だって――」
「ん゛?」
「……すいませんでした」
ステラ姉さんの圧が、ジパン様を黙らせる。
「そんなんだからラフィに嫌われるんですよ? もっと普段通りにしていれば、好かれるでしょうに……、ね、ラフィ?」
「仕事しない父さんは格好悪いわね」
「ゴフッ!」
再び血を吐き崩れ落ちるジパン様。
しかし、バッと起き上がり――
「ちくしょおおおおお!!」
叫びながら部屋を出て行ってしまった。
「「「「……………」」」」
「ハァ……。ラフィ、後で執務室へ飲み物の差し入れを持って行ってちょうだい」
「え!? 姉さま、嫌ですよ……」
「お願いよ。あんな感じで出て行ったけど、きっと執務室へ戻って仕事をしているわ」
「……でも……」
「街の復興具合を見たでしょ? 本当にあの方は、頑張っているのよ。だから、ね?」
「はぃ……、でも、調子に乗って抱きついてきたら?」
「水牢で拘束して痛めつけて良いわ。でも、意識を飛ばしてはダメよ。本当に忙しいからね」
「それなら……、分かりました!」
二人で微笑んでいるが、内容が物騒だったので微笑ましく思えなかった……。
「あの二人、恐ろしい……」
アーキが身震いしていた。僕も全くもって同意見だった。口には出さないけど。
「あら? アインはそういうこと考えるんだ?」
(言ってないのにいいいいい!!!!)
僕はその後、ステラ姉さんに折檻された……。
◇ ◇ ◇
屋敷の屋上に、僕たちは来ていた。
「ここなら街全体が見えるからね?」
(さすがステラ姉さん、思考がぶっ飛んでいるね! だからって普通は、説明のために屋上へ来ないよね?)
「あら? 折檻が足りなかったのね? アイン?」
「ごめんなさーーい!!」
「……しょうがない子ね……」
僕は速攻で謝罪した。心を込めてだ。不純な気持ちは、きっとすぐに伝わってしまうからね。
「まったく。現状を説明するわ――」
ステラ姉さんの説明だと、生き残った領民の全てが新都に集まり復興を進めていること、衣食住は問題なくて余るくらいの勢いらしい。
「それでも建物を次々に増やしてるのは、外からの流入が多いからね。本当、王国はちゃんと対応してくれたわ。人、物、支援は十分と言えるわね」
アーキが手を挙げ質問する。
「……最近、北の辺境にもスタンピードがあったらしい。……ジパンだって。なんで、そんな辺境に人が来る?」
ステラ姉さんは笑顔で「良い質問ね」と。そして、この屋敷の一部かと思っていたドーム状の建物を指差した。
「あれが迷宮がある施設。以前の倍の硬度で作り、更に三重に壁で覆っているの。そしてここは?」
「……辺境伯邸」
「そうか、ここには常に騎士団が常駐してる」
「そう、それにね?」
ステラ姉さんは自身を指差した。
「私が、ここに居るわ」
「「「っ!!」」」
(そうだった!! ステラ姉さんは、“七大聖王“になったんだった!!)
堅牢な施設に騎士団、そして七大聖王――
「納得しました」
「……あたしも、ここが良いと思った」
「さすがのネームバリューよね……」
「フフフ、ありがと。私もまだまだだけどね? でも、復興のために使えるものは全部使うわ!」
さすがステラ姉さんと感動していたが、明らかに姉さんの目が、獲物を狙うそれだった――
「あなたたち、だいぶ有名になってきたようね?」
僕はもう分かってしまった、この先の言葉を――
「この街のために、働きたいわよね?」
こうして僕らの帰省は、客寄せと労働で終わったのだった……。
◇ ◇ ◇
二学期が始まった。
始めは帰省から戻ってきたメンバーに、何かあったんだろと詰め寄られたけど……。
「フフフ、ジパンは最高な場所さっ! 今度は、みんなで行こう!」
「そうよ! 最高な場所! 安全、安心で、とても住みやすいのよ!?」
「ジパン最高! ジパン最高! ジパン最高!」
死んだ魚のような目で話す僕たちを見て、みんなは「お疲れ様でした」とだけ言って、辛そうな表情をしていた。
だんだんと普段の学園生活に戻り、僕たちの意識も通常に戻ってきた気がしていた。
(最初は学生会のみんなも、僕たちにドン引きしてたもんな……)
それにしても――
もう二学期が始まって一週間経つのに、ミカエラだけは学園に戻っていなかった。
「た、た、大変ですぅ!!」
珍しく慌てているセラフが、講堂に飛び込んできた。
「み、み、み!!」
「「「「み?」」」」
「ミカエラさんがっ!! お城で拘束されましたぁ!!――」
「「「「えええええ!?」」」」




