第82話 幸せと、その裏で――
無事に”反転玉”を確保した俺たちは迷宮を出て、コウヨウへ”ダーヨ君”を渡してマスター登録を移譲した。
「定期的に魔石を交換すれば動くんだな?」
「ああ、何か不具合があったらここまで連絡をしてくれ」
黒の死神本部の住所を書いたメモを渡す。
「……ナミエを、よろしくな……」
「俺は守る相手を間違わないよっ!」
「っ!? クソガキがっ!! とっとと行きやがれ!!」
「ハハッ、行こうナミエ!」
俺はナミエの手を取って走り出す。
「ちょっ!? ケイ君! も~~、元気でねっ! 父さん! 母さん!」
走りながらチラッと振り向くと、コウヨウやメイサさんや他の奥さんたちは、俺たちに手を振って送り出してくれていた。
ナミエは「しょうがないなぁ、ケイ君は~」と言いつつ一緒に走ってくれて、そんな所も可愛いと思ってしまう俺は、彼女にやられてしまったのだろう……。
…………あれ?
(俺……、好きになった子の父親をボコボコにして、タメ口な上に、煽ってしまって――)
俺が急停止したので驚くナミエ。
「うあ!? ちょっ!ケイ君、どうしたさ~?」
俺は真剣な顔でナミエへ問う――
「俺、ナミエの両親にあんなことしちゃったんだけど……、嫌われてないかな?」
「え!?」
ナミエは驚いたあとに、なぜかニマニマした表情になる。
「いやいや、冗談で言ってないよ? その、な? 恋人の親だし……さ……」
「本当にケイ君って! まあ、なんくるないさ~?」
「え!? 嫌われてない?」
「あ、それは無理。絶対嫌われてるね」
「のおおおおお!! ナミエ、戻ろう! シーサー家に今すぐ戻ろう!」
ナミエは呆れた顔になる。
「もうっ! 大丈夫だから! 早くみんなの所に帰るよ!」
「ううう……」
今度は逆に、俺がナミエに手を引かれて歩くのだった……。
俺は一度だけ振り返り、深くお辞儀をした。
(コウヨウさんっ! メイサさんっ! いろいろ、すいませんでしたっ!!)
◇ ◇ ◇
トモミさんの家に着いた。
玄関の戸を勢いよく開けたナミエが――
「おばあ~! ただいま~!」
「おお! 無事に帰ったか? 大丈夫だったかい?」
声を聞いたトモミさんが、玄関先まで出てきてナミエを抱擁する。
抱擁を堪能してから、ナミエは元気に笑って。
「ケイ君が、格好よく解決してくれたさ~!」
俺たちは大部屋へ移動して、みんなにも報告したいと言って、全員が集まってから顛末を説明していく。因みに、取り敢えずナミエとのことは、まだ伏せて話していた。
「そうか……、あのバカはやっと……。ありがとうなぁ、ケイ君」
「……俺は、やりたいように、しただけですから」
真っ直ぐな感謝を正面から受けられず、俺はちょっと視線をそらしつつ答えた。
隣に座っているナミエが、俺を肘で突いてくる。 上目遣いで、ケイ君が言ってと訴えているようだった。
「最後に――」
隣のナミエと頷き合い、みんなへ向き合う。
「――俺は、ナミエと正式に恋人になった」
「「「「っ!!!?」」」」
全員の視線が俺に集中する――
「あ~、その、なんだ、なりゆき――」
気恥ずかしくなり、頬を掻きつつ冗談めかして言おうとすると。
「ケイ君っ!!」
アゼルがもの凄い形相で俺を睨みつける。
瞬間、彼女に言われた言葉がリフレインする。
『――真剣に相手を見てあげて。お願いよ?』
ナミエの方を見ると、彼女は不安そうな表情で、俺を見つめていた……。
(バカか!? 俺は!!)
俺は表情を真剣なものへ直して、みんなへ向き合う。
「俺は、ナミエを本気で好きになった。この気持ちに嘘は無い! だから、ナミエも俺の嫁にする! みんな、よろしく頼む!」
「「「「はいっ!!」」」」
俺は改めてナミエへ視線を向け、彼女の頭に手を置いた。
「ケイ君……」
「ごめんなナミエ、不安にさせた。俺は本気で、お前を愛すって誓うよ」
ナミエは頬を赤く染め、目を潤ませる。
「ケイ君っ!!」
抱きついてきたナミエは、しばらく俺にくっついたままで――
俺が一人で、みんなからの質問に答えていた。
(ナミエさ~ん? 少しで良いから助けて~~!)
◇ ◇ ◇
《アゼル視点》
(先に、ナミエさんが来たのね……)
あたしの中では、時間の問題だと思っていた子が来たなというのが、感想だった。
「これからも、増えていくわよね……」
今後のことを考えながら、あたしは呼び出した子を待っていた。
「失礼しま~す……」
そっと戸を開けて、入ってくるナミエさん。
「来てくれてありがとう。どうぞ座って。と言ってもトモミさんの家だから、あたしが客人なんだけどね?」
「アハハ、あーしも最近は来てなかったら、客人みたいなもんさね~」
「「…………」」
ナミエさんは、明らかに顔が強張っていて、緊張しているのが分かった。
(それはそうよね。将来の嫁宣言のあとすぐに、嫁から呼び出されればね……)
「ナミエさん」
「はい! アゼルさん!」
「ふぅ、アゼルでいいわ。あたしもナミエって呼ぶから」
「了解っす。……アゼル……」
「フフッ。モニカとルウが混ざったみたいになってるわよ?」
「うみゅ、……エヘヘ」
ナミエは少し緊張が解けたのか、表情が柔らかくなったみたいだった。
「ナミエ、改めて今回のことだけど――」
あたしが言い切る前に、ナミエが勢いよく――
「ごめんなさいっ! あなた達、運命の三人だけをケイ君は受け入れるつもりだったってことは知っています! でもっ! あーしはどうしても彼が……、ケイ君が好きになってしまったんです……」
最後は尻すぼめに小さい声になってしまったけど、「我慢できないくらい、好きになっちゃって……」と言っていた。
あたしは、ため息を吐いて。
「話は最後まで聞いて? あたしはナミエを、ケイ君のパートナーとして、受け入れるって言いたかったのよ?」
「……え? マジ?」
「マジよ。……だから嫁候補同士で親睦を深めるのと、これからのことを話したかったのよ」
「マジかぁ~、なんだよ~、先に言って欲しかったさ~」
「言おうとしたけどね?」
「うみゅ。すいません……」
「フフフ」 「アハハ」
二人でまったくねと言いつつ、笑い合った。
「アゼルはケイ君の、どこが好きなの?」
「っ!? 急に来るわね? ナミエはどうなの?」
「えっ!? 答えずに返すってあり?」
「ありよ! 言い出した方から言うものよ?」
――今後の対応の前に、ケイ君談義に花を咲かせてしまい、全然先に進まなかった。
(でも、ナミエとなら上手くやれそうね――)
彼女と話した時間は、そう思えるような時間になったのだった――
◇ ◇ ◇
《ケイ視点》
『触らぬ神に祟りなし』という言葉がある。
恋人宣言の後、アゼルがナミエを呼び出していた。部屋から出てきた二人は仲が良さそうだったので、俺はその時に何を話していたなどとは、絶対に聞かないと思っている。
(気になる……、しかし、絶対に触れるなと俺の勘が言っている……)
こうして、南国諸島でのイベントを全て終えた俺たちは、学園都市への帰路についていた。
(ナミエが『おばあ~』ってギャン泣きして、寂しくなってしまったのか……)
あれからずっと、俺にくっ付いている。
(ご褒美だけどね? 可愛いしね? でも恥ずかしいわけ!!)
そのせいか、アゼルが口を尖らせつつ――
「ケイ君、あたしも!」
そう言って反対の腕にくっ付いていた……。
「アイン、ごめんよ……」
(お前は、こういう事で、困っていたんだな……)
俺は幸せを噛みしめつつも、羞恥に耐える帰路を余儀なくされた――
◇ ◇ ◇
《エンジュ視点》
ケイ様……、ダーク様に新しい恋人が出来ました。
一時期は私の部下だった子……、ナミエ・シーサ。
(アゼル様と一緒で、私たちの新しい護衛対象です――)
ズキンッ
なんでしょう?
もともと、護衛対象が増えるのが分かっていたのです。
アゼル様。そして、今後増える予定のリリス様、シルファ様。
(ただ、予定外に増えただけ。ダーク様が決めたことです――)
ズキンッ
あれ? ダーク様が決めたことに、私は従えばいいだけでしょ。
(私はあの方の影で生きるって、決めていたんだから――)
ズキンッ
ん? なんで私は揺らぐの?
なんで――
あの夜に一緒に観た星空と、
あの人の手の温もりを、
想い出してしまうのだろう――
《第9章》エルドラド南国諸島編完となります。
ここまで『推しヒロインは俺が救う』を読んでいただき、本当にありがとうございます!
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