第81話 ナミエの決意
《ナミエ視点》
「ナミエ、俺は裏海獣迷宮を知っていたけど、少しなめていたよ……」
「だから言ったさ~、その格好で良いのって?」
南国諸島は温暖な気候で有名で、だから観光地としても人気がある。海獣迷宮も同じ気候だから、みんな薄着や水着で迷宮探索をする。
だけど、この”裏”海獣迷宮は――
「マジで寒いっ!! 南極かっ!?」
「アハハ、南極ってなに?」
あーしは寒さを知ってたので、これでもかって厚着をしてきたんだけど……、ケイ君は「俺の魔力は万能だぜ?」って薄着で来た。
「ふぉ~、ふぉ~、大丈夫だ、俺なら出来る……」
「おお~」
いつのもダークモードが変化していった。黒のモコモコ帽子に耳当て、黒のマフラーを装備して、ロングコートはモコモココートに変化、ブーツもモコモコになった。
「フフ、暖かい……、マジで暖かい……」
「さすがケイ君。マジで万能さね?」
「褒めてもなんも出ないぞ?」
「本当にそう思っただけさ~」
あーしは自然にケイ君の腕に抱きつく。彼も拒否しないで受け入れてくれて――
(あれ?……超幸せな気分なんですけど!?)
でも、すごいモコモコ過ぎて、黒いイエティに抱きついている感じになってるのではないかな?なんて考えてみた……。
「おい? 俺がいることを忘れるなよ、お前たち……」
(あ、父さんも一緒に来てたんだった……)
「もちろん忘れてませんよ? ダーヨ君の実力を見に来たんですもんね?」
「どうしてそんなに説明臭く言う? まあ、良い。早く見せてくれ」
「了解です。この層の魔物で良いんですよね?」
「ああ、この第1層の魔物で十分なんだよ。間引きとドロップの調整的にな……」
話し込んでいると、前方から魔物が近づいてきた――
「来たぞっ!」
「あれが!?」
「ああ、この迷宮の魔物――」
鋭いクチバシ――
威嚇するような瞳――
寒冷地仕様の厚い装甲――
「飛べない鳥さ~……」
「――南国ペンギンだっ!!」
こちらを威嚇しながら、テクテクと歩いて近づいてくるけど……。
(……遅っ!? どんだけっ!!)
パチンッ! ゴオオオオオッ!!
「あっ!」
あーしはあまりの遅さにイラっとして、燃やしてしまった……。
やってしまったなと思い振り向くと、ケイ君と父さんに半眼で見られてしまった。
「ごめん、ごめんて。あんまり遅いのと、あの魔物の視線にイラついちゃって?」
「ハァ、精神耐性を上げるか集中してレジストな。ナミエは状態異常に掛かったみたいだぞ?」
「え?」
「南国ペンギンのスキルで”威嚇”ってのがあるんだよ。ヘイトが向いちゃうやつね。集団戦の時は致命的だから気をつけろよ?」
(マジか~……)
ケイ君の説明では、南国ペンギンの特徴は”威嚇”による状態異常からの集団攻撃が一般的で、外部装甲に自身があるため捨て身で近づいて来るらしい。
父さんは、前衛が後衛へ近づけないようにして、後衛の精霊魔法攻撃で殲滅するのが伝統的な倒し方なんだと説明してくれた。
「それを、このゴーレム一体で出来るって言うんだからな。確認が必要だろうよ?」
ケイ君はヤレヤレといったジェスチャーをする。
「ダーヨ君ですよ! 次が来たみたいですので、見てて下さいよ?」
そして、ダーヨ君に命令する。
「あの魔物を狩ってこい!」
『了解・了解。魔力と共にあらんことを――』
ダーヨ君の目が青く輝く――
その手に持った棒から、青く輝く剣が生成される――
(えええ!? すごっ! なにあれ!?)
大きさはあーしの腰くらいだけど、まるで生き物のように滑らかに動き跳躍する。その跳躍力は、あーしの三倍くらいの高さまで跳んでいた。
一跳びで南国ペンギンに届いたダーヨ君は、そのまま輝剣で敵を真っ二つにした。
「「「…………」」」
振り返ったダーヨ君は、表情が無いはずなのに、ドヤっている雰囲気がした。
(この子、本当にゴーレムなの?……)
◇ ◇ ◇
「……この性能なら、問題ねぇ……」
父さんは少し元気のない様子で帰っていった。
二人きりになったあーしとケイ君は、目的の場所へ向かって迷宮を攻略していった。
「ここだな……」
ケイ君が指さしたのは何もない壁。ここは最下層の皇帝南国ペンギンのボス部屋だ。さっきサクッと倒して大きな真珠をゲットしていた。
ケイ君は躊躇いもなく壁を蹴った――
ボコッ! ガラガラガラ…………。
「マジ!? 隠し部屋が出てきたさ~」
「なっ?」
ケイ君はドヤ顔だった。まぁ、さすがケイ君としか言えないと思った。
中に入ると台座があり。その上に存在感のある宝珠が置いてあった。
ケイ君はそれを手に取って。
「反転玉、ゲットだぜ……」
大事そうにそれを、アイテムボックスにしまっていた。
その様子を見て、あーしは――
(あ……、あれはきっと、他の女の子を救うための物だ……)
そう直感が告げていた。
あんなに愛おしそうな、優しい表情……。
(この人を好きでいるってことは、こういうことも飲み込めるようになる必要があるのか……)
あーしは迷宮に潜る前に、父さんと話したことを思い出す――
◇ ◇ ◇
あーしは父さんの部屋に呼ばれてた。今この部屋にはあーしと父さんの二人きりだった。
「…………」
「…………」
しばらく向き合って座っているが、父さんは黙ったままだった。
(用事があって呼んだんじゃないさぁ?)
さっきケイ君にボコボコされた痕はまだ残っているが、回復魔法でだいぶ治療はできているようだった。
(だったら、口が痛くて話せないとかじゃないよね?)
「……ナミエ――」
父さんは意を決したように口を開く、その表情は鬼気迫る様子だった。
「――っすまなかった!!!!」
父さんは床に頭を擦りつける。
「な!? 父さん!?」
「俺が不甲斐ないからっ!! みんなに迷惑を掛けた!! 全て俺の責任だ!!」
顔を上げて、あーしを真っ直ぐ見る。
「特にお前には……、ナミエには辛く当たってしまった。本当にすまない……」
「父さん……」
「さっき、あいつらにも謝罪した……」
(あいつら……、母さんたちかな……)
「不義理だった俺は、あいつらを自由にしようと思ったんだけどな……。いまさら捨てられても困るって言われたよ、全員からな……」
(おばあの言う通り、父さんバカなのかな?……)
「だから俺は、これからの行動で、あいつらへ贖罪するつもりだ……、そして、ナミエ、お前にも贖罪を――」
「あっ!それは結構さっ!」
あーしは拒否する。
「え?」
「正直あーしは最悪な思いをした。マジで最悪だった。だからここから逃げたんだ」
「……すまん」
「父さんの謝罪は受け取るよ。でも、贖罪なんてさせない! 一生後悔して!」
「っ!!……そう、だよな……」
父さんは死にそうな顔になって、下を向いてしまった。
(マジでざまあ……、本当にバカな父さん……)
「でも――」
父さんは視線だけ、あーしに向ける。
「――おかげで大切な人に出会えた。この出会いは、ここでの生活が無かったら、起こらない奇跡だったから……」
「…………」
「しょうがないから、許してあげるよ、父さん」
「……ナミエ。……ありがとう」
父さんはしばらく感動した後、あーしに聞いてきた。
「ナミエ、本当にあの男が好きなのか?」
「ケイ君だよ! うん、大好きさぁ……」
言葉にすると照れてしまう。
「そうか……」
何やら考え込む父さん。
「なあ、あのケイという男の相手は、ナミエ一人なのか?」
「っ!!……なんで、そう思うの?」
「ハハ、父さんは八人も妻が居たんだぞ?」
「……そうだった……」
「そうか、他にも、居るのか……」
「うん、あーしは本当に最近だね……」
「それで、大丈夫か? ナミエは?」
本当に心配そうに聞いてくる父さん。
「たぶん、平気……」
「おいおい、たぶんって……」
「うみゅぅ……」
「それでも、か?」
「……うん」
父さんは真剣な顔になって。
「そうか、なら――」
◇ ◇ ◇
(うん。そうだね父さん。あーしは、あーしの心のままに――)
「ケ~イ君? それって、例の救済アイテム?」
「うおぅ!? ああ、めっちゃ重要なアイテムだぜ?」
あーしはケイ君に抱きつきながら、聞いてみた。彼は悪びれることもなく教えてくれる。あーしを信用してくれているのが、その表情から分かった。
(うん。ケイ君にとっては、全部が全力なんだね――)
あーしも全力で行くよ。全力で君を愛するよ!!
「ケイ君、疲れた~! イエティみたいだから、ケイ君に抱っこされて帰りたい~」
「イエティ!? なんで!? ったく、しょうがねーなっ!」
そう言って、あーしをお姫様抱っこしてくれるケイ君。
「これで満足ですか? ナミエ姫?」
「フフフ、満足さっ! ケイ君!」
父さんのアドバイス、それは――
『全力で甘えろ。俺はそれで、あいつが一番になったんだからよ――』
(父さん、あーしは一番を、諦めないからね!!)




