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【第一部完結】推しヒロインは俺が救う  作者: 白永央はひな
《第9章》エルドラド南国諸島編

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第80話 ナミエの婚約者

「……ありがと、ケイ君」

「お、おう」


 ナミエが落ち着いたので、俺はそっと彼女から離れる。ナミエは耳まで赤くなっていて、俯いたままお礼を言ってきた。俺も今更ながら恥ずかしくなって、顔が少し熱くなってしまった。


「……ケイ君も顔が赤いよ?」

「っ!……ナミエなんか真っ赤だぞ?」

「うみゅぅ……」

(ヤバい、ナミエがすげー可愛く見えてしまう!)


「「…………」」


 俺はフワフワした気持ちを抑え、ナミエに聞いてみる。


「ナミエ、辛いかもしれないが、話してくれるか?」

「……うん。聞いて、ケイ君。あーしと、この島の話を――」


 真珠という希少かつ神聖な宝珠の独占によって栄えたシーサー家は、この島ではまるで王家のような扱いで、誰も逆らえない名家になってしまったそうだ。


「裏海獣迷宮の独占のために、聖域って言って近づける人間を絞って、更に迷宮自体に入れるのは“霊媒師“のジョブを持つ本家の人間と、その配偶者か婚約者ってルールにしたの……」

「じゃあナミエの父親は?」

「父さんは、配偶者側。元はシーサー家、分家の前衛職だよ」

「え? じゃあ何で当主に?」

「父さんには八人も妻がいるの。“元正妻“が本家の霊媒師で……、母さんの姉だった人」

「…………」


 ナミエは悲痛な表情になって俯く。


「もう亡くなってしまったさぁ。霊媒師ジョブの子を産めなかったことで、心を病んでしまって……」

「また、ジョブかよ……」

(本当にこの世界は、ジョブ、ジョブとうるさい世界なんだよ!!)


「……父さんもさ、あんなになったのは、叔母さんが死んでからだったさぁ」

「そっ!? だからって!?」

「ごめん、ケイ君。……あれでも昔はね……」


(――だからって!? ナミエにあんな態度はないだろ!!)


 俺の心のモヤモヤが分かったのか、ナミエは俺の手を握り上目遣いで言う。


「ごめん、そしてありがとう。あーしのために怒ってくれて嬉しい。不謹慎だけどね?」

「っ!……怒るのは当然だろ? 俺の可愛い弟子なんだからな!」

「ぶ~、弟子なんさ?」

「可愛い弟子だ!」


 なんだよ~って横を向いてしまうナミエ。


「それで?」

「ああ、うん。それで八人も妻がいて、霊媒師のジョブを持って産まれたのは、あーし一人なんだ――」


 叔母の死で壊れた当主のコウヨウは、やっと産まれた霊媒師ジョブのナミエを、道具のように扱うようになった。霊媒師というワードに、アレルギーのように反応するようになったそうだ。

 

「母さんもさ、妻の中で序列が最底辺だったんだけど、あーしが霊媒師って分かった時から序列が上がってね……。あーしというか、霊媒師のあーしという存在に、依存するようになったさね……」


 きっと、叔母が好きすぎたコウヨウ。

 辛かった不遇時代に戻りたくないメイサさん。

 確かに、それぞれ辛かったんだろう。

 でも――


(――だからってっ!! ナミエにあの態度をする理由にはならない!!)


「それに、あーしはケイ君に会うまで、本当に落ちこぼれだったさね?」


 その時――扉が勢いよく開かれる。


「ナミエ! 庭に出ろ!!」


 コウヨウが俺たちを見下ろして言った――



 庭には心配そうに見ているメイサさん。他にも女性がいるが、他の妻だろうか?

 そして、コウヨウと大柄な日焼けした中年男。


「よお、ナミエ。いい女になったみてーだな?」

「久しぶり、コウスケ叔父さん。そういう視線が、セクハラになるって知ってる?」

「ナミエ、当主命令だ。コウスケと婚約しろ」


「「…………」」


 唐突な命令に、俺たちは一瞬フリーズした――


「え? 今なんて?」

「コウスケと結婚だナミエ。こいつが分家で一番強い」

「ちょ!まって!! 叔父さんはもう四十路だよ!?」

「年齢なんて関係ないさ~! 俺は大歓迎だぜぇ?」


 ナミエは身震いして自身を抱く。


「本気で無理!!」

「わがまま言うなっ!! お前がちゃんと精霊召喚できんから! 早く次代が必要なんだろうが!?」

「っ!? もう召喚できるしっ!!」


 ナミエは瞬時に巨大なシーサーを召喚する――


「「「「なっ!?」」」」


「あーしは強くなった!! この、ケイ君のおかげで!!」


 そう言って俺の腕を抱えるナミエ。


(おおぅ!? ナミエさ~~ん!?)


「この人があーしの師匠で!!――」


 俺を見つめてから頬を染め、やつらに向き合って。


「あーしのっ!!恋人です!!!!」


「「「「えええええ!?」」」」


 思わず俺も一緒に叫んでしまって、ナミエに睨まれた……。


 コウスケだけが納得しないといった顔で――


「御当主様、たしか俺を婚約者にって、今日俺を呼んだんですよね?」

「あ、ああ。まさかナミエが恋人を連れてくるなんてな……」

「だから何です? あんな余所者で良いんですか? 島の霊媒師様でしょ? ナミエは……」

「う……、むぅ……」


 コウヨウは悩むように黙ってしまった。


(今、だよな? ざまあ、して良いよね?)


 チラッとナミエを見ると――失笑しながら「どうぞお好きに」と呟いた。


(許可は――得たっ!!!!)


 俺は一歩前へ出る。


(――俺を見ろ!!!!)


 極々小の”魔殺気”を放つ――


 バッ!!!!

 

 全員の顔色が悪くなり、そして全員が俺を見た。


「余所者とか関係ないでしょう? 迷宮攻略に必要なのは強さだ。……違いますか?」


 コウヨウが短く返答する。


「……その通りだ」


「そして、もう一つ大事なこと――」


 チラリとナミエを見る。ナミエは、なに?って顔をする。


「――それは、ナミエを幸せにできるかどうかでしょ?」


「「「「…………」」」」


 沈黙の中で一人、コウヨウだけが笑いだす。


「クク、ハハ、ハァ。……確かに、それは大事だな」


 そう言ったコウヨウの目には、理性の輝きが残っているように見えた。

 チラッと見ると、ナミエは真っ赤になって俯いていた。


「では、どちらが強いか、闘えばわかりますね?」

「ああん!? てめ~、俺に勝てるつもりか!?」

「……え? 当たり前じゃん?」

「っ!! 殺す!!」

「待て!? ナミエと一緒に来たお前!! 良いのか!?」

「ケイです。ケイ・ツクヨミ。問題ないですよ。初めてもいいですか?」

「え!? すげーやる気!? ああもう知らん! 始めろ!!」


 かなり適当な感じだが、許可が出た瞬間に突っ込んでくるコウスケ。


「死ねやあああああ!!」


 俺もムカついてるから、やり過ぎないように――


「――お前が!!死ね!!!!」


 ドゴンッ!!


「「「「…………」」」」


 コウスケは、首から上が地面にめり込んでいた。


「はっ!? ケイ君! 死んじゃう!」

「あ……」


 コウスケの足を持って持ち上げる。うん、生きてはいるな。

 俺はそのままポイっと投げ捨てる。


(……ここからが、本番――)


 俺はビッとコウヨウを指差す。


「次はあなたです、コウヨウさん。あなたが、この島で一番強いのでしょう?」

「図に乗るなよ、若造が。俺は一人で聖域を守護しているんだぞ?」


 俺はため息をつく。


「ナミエから聞きましたよ。この島の歴史や、あなた方の悲劇を――」

「だからなんだ!?」

「――だから思ったんですよ。あなたが守るべきは聖域じゃなかった」

「は?」

「あなたが守るべきは、亡くなった奥さんであるべきでしたよね?」

「っ!!!!」


 コウヨウの纏う覇気が爆発する――


「貴様にいいい!! 何がわかるううう!!!!」


「俺にはお前の気持ちなんて分からねえええ!!」


 俺に殴りかかってくるコウヨウ、その攻撃は苛烈であったが……。

 さすがに島最強、だが――


(俺のっ! 敵じゃねえ!!)


 一方的にボコボコにしていくが、コウヨウの目は死なない、これだけは否定される訳にはいかないと言わんがばかりに――


「俺は! 俺は! 俺だってえええええ!!!!」

「その気概で理不尽を覆せば良かったんじゃねーのかっ!!」

「出来なかったんだよおおお!! 俺はっ! あいつだけを愛したかったんだあああ!!」


 その叫びに、見守っている妻たちは悲痛な表情になる。でもどこか、分かっていたような、そんな表情にも見えた。


「ちくしょおおおがあああああ!!」


 ボコッ!! 


 コウヨウの一撃に俺の拳がカウンターで入り、やつは吹っ飛んで倒れた。

 俺は倒れているコウヨウの側に行き、静かに告げる。


「そんな悔しい思いをしたならよ、子供たちに同じ業を継がせるなよ?」

「……島の……ためだ……」

「真珠が独占できれば、文句ねーだろ? 別に霊媒師やら、本家やらに拘らなくっていいんじゃねーの?」

「………ある程度の規制と、実力が必要なんだよ。迷宮が溢れないように調整も必要だ……」

「規制は任せる。攻略の実力と調整が永続的に可能だとしたら?」

「…そんな夢物語が……」


 俺はため息を吐いて、アイテムボックスから”ある物”を出す。


(ディーは知ってて、これを秘密兵器って渡したのか??)


「こいつは……」


 コウヨウは目を見開く。


「ゴーレムって知ってる?」


 俺は”人造ゴーレム”の『ダーヨ君』と引き換えに、ナミエを頂いて行くことを約束させた――


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