第78話 星空と恋心
ゴンザレスで油断してからのエンジュ――
俺は完全に不意を突かれた。
彼女を見た瞬間、思わず見惚れてしまって……。
(恋愛として真剣に向き合ったら――)
やっぱりエンジュは、俺の好みドストレートだよなって。
(そう、自覚してしまった。それに恐らく……)
隣を歩く彼女をチラッと見て――
(――俺に好意を持ってくれてる……気がする……)
いいなと思う子が、自分を好いてくれている。
(うん……。やべーーー!!!!)
俺は落ち着かない気持ちのまま、エンジュとテルハ島を散策して行った。
◇ ◇ ◇
この島は南国諸島の最南端に位置する島らしい。
「だから、星空がとても綺麗らしいんです!」
エンジュはその星空が見たくて、この島を選んだとのことだった。
俺たちは、夜空観測に適した場所近くの店でディナーをいただきながら時間を待っていた。
(う~む。一度意識してしまうと、なんか仕草の一つ一つも可愛く見えてしまう……)
エンジュも同じなのか、時折視線が合うと、その度に頬を染めて下を向くのだ。
(その仕草もっ~~~、可愛いっ!!)
「あ~、どうだ? 美味しかったか?」
「あっ!はいっ! 魚もお肉も美味しかったです!」
「「…………」」
(俺たち、付き合いたてのカップルみたいじゃねえか!?)
「ケイ様!」
「っ!どうした!?」
「……トイレ行ってきます……」
「……すまん、どうぞ……」
(ダメだ!! 過剰反応しちゃう~~~)
そんなドギマギした時間が過ぎて――
◇ ◇ ◇
「うわぁ………」
「これは…すごいな…」
小さな丘から望む天空は――満天の星空だった。
「ケイ様、綺麗ですね」
「ああ、綺麗だ。今までで一番だな」
微笑んでくるエンジュは幸せそうで、その表情を見て俺も幸せな気分になる。
(こんな風に笑えるようになって、本当に良かったよ)
彼女との出会いを考えたら、更に感慨深い思いになった。
だからだろう、星空を観ながら俺は、自然にエンジュの手を握っていた。
(なんだか……、繋いだ手からも、幸せの気持ちが伝わってくるな……)
ただ静かに星空を堪能した俺たちは、ふわふわした気分のまま、長いようで短い旅を終えたのだった――
◇ ◇ ◇
《アゼル視点》
あたしは今日も、カクテルを飲みながらケイ君を待っていた。
(今日は、エンジュよね……)
黒の死神の中でも、特にケイ君への好意が強いと思われる子――
「――きっと、何かあるわね」
「何かって?」
「うわぅっ!?」
急に囁かれて驚いたあたしは、変な声を出してしまった。
(あたしに気づかれずに背後を取れるのは、彼だけよね……)
「……やめてよケイ君」
「ごめんね?」
あたしは恨めしそうな視線で彼を見るが、なんかそれも喜ばれそうで気に入らなかった。
自然に隣の席に座って同じカクテルを頼んでいる。
「それで? 何かってなんの話だい?」
「ハァ、それよりもっ。デートラッシュお疲れ様!」
「おうっ? ああ、お疲れ様……」
運ばれてきたカクテルのグラスを合わせて乾杯する。
「相変わらず美味い……」
「そうね。今日で飲み納めだけどね?」
「残念だね」
明日からは迷宮攻略へ移行するので、慰安旅行は本日までだった。
「デートラッシュの総評は?」
「う~ん。楽しかったよ。本当にみんな良いやつらだ」
「……好きな子できた?」
「…………」
瞬間、視線を逸らしたケイ君。
「別に良いのよ。分かっていて背中を押したのは、あたしだしね」
「俺自身の価値観がなぁ……」
あたしの方を、申し訳なさそうに見てくるケイ君。
「どちらにせよ……、未来の話で、あと二人は確定だったでしょ?」
「っ!……うん」
リリスとシルファ。
まあ、その子たちの気持ち次第だけど、ケイ君は必ず彼女たちを救って、黒の死神に連れてくると言っている。
「だからね? それ以上に増えたって同じなわけ。分かる?」
「分かります……」
「安心して。それでもあたしは君を愛すから。救った責任だからね? あたしの愛は重いよ?」
あたしは半分冗談のように、ケイ君を指さして言った。
彼は真剣な表情になって――
「それはご褒美ですよ?」
(っ!!~~~。本当にこのっ!!ケイ君めっ!!)
「で?」
「はい?」
「誰を好きになったの?……違うわね。……誰が気になっちゃの?」
「……秘匿事項」
「ダメね。女同士で必要になる情報だもの。もしも、恋人になった場合にね?」
「……ハァ」
「観念して吐きなさい?」
「相手の好意に気づけたのは二人……、エンジュとナミエかな?」
「うん」
「二人とも可愛いとも思うし、特にエンジュは……」
「分かったわ」
「え? もういいの?」
「ええ十分。もっと増えるかもしれないから、ケイ君はちゃんと相手を見てあげてね?」
「え!?もっと!?」
驚愕するケイ君は面白かったけど、笑いごとじゃない気がするのよね……。
「まあ、明日からの攻略も頑張りましょう?」
「もちろん! そっちがメインだからな!」
「みんなも大切にしてよ!」
「え!?どっち!?」
二人で談笑しながら慰安旅行最後の夜は過ぎていった――
◇ ◇ ◇
《ケイ視点》
翌朝――
俺たちはカダク島行きの船に揺られていた。
「あれがあーしの育った島、カダク島さ~」
ナミエが遠くに見える島を指さして教えてくれる。
「カダク島は南国諸島では”神の島”って呼ばれてて、島の独自のルールなんてのがあるから、先に教えておくさね~」
(神の島っ!! カッコイイ響き!!)
「特にケイ君はちゃんと聞いておくさねー」
「なぜ!?」
「神の島って言葉に反応してテンション上がってそうだからさね……」
「うぐ……」
(なぜ分かった……)
「……いつも見てるから、分かるさぁ……」
ナミエが最後に何かを呟いたが、波の音で良く聞こえなかった。
「それでっ! 島のルールさ! 島には希少な植物や動物がいるけど、お持ち帰り厳禁!」
みんな納得して頷く。
(特殊な環境の島なんかだと、ある話だな)
「島民とはしっかり挨拶すること! ちゃんと挨拶しないと警戒して襲って来るかも?」
(怖!? マジか? カダク島民怖!?)
ナミエもその気があるのかと恐る恐る見ると――
ニヤニヤした顔のナミエと目が合う。
「冗談さ~。でも、一定数の悪いやつが来ることがあるから、警戒されるのは確かなんよ~。だから、挨拶が大事さね~」
(希少な動植物を狙ったやつが、来るってことか……)
「そして最後っ! これが一番守って欲しいことさね――」
ナミエは全員を見てから。
「――立ち入り禁止の場所には入らないこと! いや、近づかないで欲しいさぁ!」
神の島――次の舞台はどんな島なのだろうか?




