第77話 漢の覚悟、黒猫の勇気
昨日の夜にアゼルに言われた言葉が、俺の頭をずっと反芻している。
『男として好かれてるってことよ?』
『あたしの他にも君に愛されたい子がいるの……』
(まったく思いたたる節がないと言えば、嘘だよな……)
その視点で考えると……。
デートしてきた相手に、俺はちゃんと向き合えたのか疑問に思えてきてしまった。
(素直な気持ちでは臨んだし、真摯に向き合ったつもりではあったけど――)
「恋愛か……」
デートも残り二人になってしまったけど、俺はこの視点からもしっかりと向き合っていこうと気持ちを切り替える。
「今日の予定は……」
メモを確認すると――
――”ゴンザレス”×クニヨナ島
(お前かああああ!!!!)
◇ ◇ ◇
《ゴンザレス視点》
俺は今日、本気の漢を魅せようと思っている――
気合を入れてキレッキレのブーメランパンツ装備で来た。
(これが俺の、勝負水着ですよ……)
今日の旦那はいつよりも張り詰めているような、そんな雰囲気を纏っていた。
(旦那……、俺の本気を、すでに感じ取っていらっしゃるんですか……)
さすが旦那だとしか言えない気持ちになり嬉しくなったが……。
(今日の俺は、おちゃらけるわけにはいかねーっすから。旦那、真剣に行かせて頂きます)
いつもならするウィットな筋肉トークやポージングを封印して、黙って旦那と二人で並び歩いて目的地まで来た。
このクニヨナ島には見どころがたくさんあるが、俺は旦那とこれを見たかった。
――海底遺跡
人工物か自然の神秘かは分からねーが、それがすげーもんだって聞いたから。
「ここです、旦那」
「…………」
そこは断崖絶壁、この崖下の海の中に海底遺跡があるそうだ。
「この下に海底遺跡があります。ご一緒、よろしいですか?」
「……ああ」
俺たちは二人、魔力を纏って崖下に飛び込んだ。
(一般人は絶対に真似しないでくれ。俺や旦那みたいな超人しかできねーからな?)
深く潜っていくと、そこには壮大な景色が広がっていた――
(こいつはすげぇ……)
旦那を見ると同じ感想だったようで、頷いてくれていた。
景色を堪能した俺たちは海面へ上がり、泳いで近くの岩場へ上がった。
(水も滴るいい筋肉ってな!……っ!おっといけねえ。今日は真剣に……)
二人ともずぶ濡れだが、俺は意を決して旦那へ向き合う――
旦那も察してくれたのか、座ったまま濡れた髪を掻き上げて、視線だけを俺に向けてくれた。
「旦那……。俺はどうしても、旦那に聞いてもらいたことがあるんだ――」
旦那は息を飲んだ。
「昔の俺は、言うなればさっきの断崖絶壁の上から見た海だった。ただ暴れて、荒れ狂って、中の景色なんて想像できなくってさ……」
「…………」
「旦那に出会って、鍛えてもらって、表面じゃなくてさ、中身を見てもらって……、俺自身の可能性、中身の綺麗なところを引き出してもらってさ……」
「…………」
「俺は今、すげー幸せっす。マジっす。旦那、本当にありがとうございます」
俺は直角の綺麗なお辞儀をした。
「お、おう……」
俺は直立に戻り、今日の本命を旦那に言う――
「俺、俺っ!……旦那にお願いがっ! あります!!」
「っ!!…………」
明らかに警戒をする旦那。
(だけど、俺の本気は止められないっ!!)
「”メッソレム・アーテル”のカミラ・モアリヌさんへっ!! 告白をしてもよろしいでしょうか!!!?」
俺は目をギュッと瞑り再び直角にお辞儀をしながら、右手を前に突き出した。
「お願いしますっ!!!!」
「…………」
「…………」
少し顔を上げ、片目を開けて旦那を見ると――
旦那は気の抜けたような顔で固まっていて……。
「ていうか、カミラって誰?」
(えええええ!?)
「カミラさんですよっ!! メッソレム・アーテルの!! 旦那も行ってるでしょ? あのカフェに! そこの店長ですよ!」
「っ! おお~、あの店長さんか~」
旦那は今までの張り詰めた空気が無くなっていて、「ゴンザレスが真剣だから警戒しちまったよ~」と意味不明なことを言っていた。
「で!? 旦那! カミラさんへ告白しても良いのでしょうか?」
「ん? そもそも何で俺に聞くの?」
「だって黒エルフのみなさんは旦那の嫁候補なのでは?」
「バカか!? 百人もいるんだぞ? そんなわけあるかよ!」
「じゃあ良いので?」
「好きにしろよっ!」
「っ!! ありがとうございます!」
(よしっ! 許可は頂いたぞ~! 俺はやる、やるぞ~!!)
「しかしな~、お前も筋肉以外に興味があったんだな?」
「ひどい!? でも、そうですね~。さっきの海の話に繋がるんですが――」
俺は自分自身を認められるようになって、そもそも大事なのは中身なんではないかと思うようになった。もちろん筋肉は別枠、一番大事だ。
「俺は巨乳好きだったじゃないですか?」
「いや、知らんし……」
「カミラさんは貧乳じゃないですか?」
「……まあダークエルフだからね」
「でも気づいたんです――胸の大きさは大事じゃないって!!」
(それにっ!)
「カミラさんめっちゃ美人だし!!」
「中身じゃねーんかいっ!!」
「筋肉褒めてくれるし?」
「いい子だな!?」
「なにより――」
俺はカミラさんの笑顔を思い出して――
「苦難を経験してもさ、あんな風に笑顔で、人を元気にできる人だってのが最高っす……」
「……そうか。頑張れよ、ゴンザレス」
「はい!! ありがとうございます!!」
俺は最高の時間を過ごさせてもらった。
◇ ◇ ◇
《エンジュ視点》
今日、私はケイ様と二人で出かける栄誉を賜りました。
「……どの水着が、いいのでしょうか?」
ベッドに広げた数多くの水着たち……。
ワンピース、ビキニ、可愛い系、セクシー系、スク水?
「……これは紐だけ?」
(さすがにこれは……)
基本的に私の体型は、ケイ様のドストレートだと思う。
(でも、それは他のメンバーも同じ条件です……)
「他の子たちと差をつけるには――」
私はハッと気づく。
「あれ? 私は何でこんなに必死に……。ケイ様と出かけられるなら、失礼のない格好であれば問題ないですもんね……」
(それなのに、”他の子たちより可愛く見られたい”なんて――)
私は直感で選んだ水着を着用して、ケイ様との待ち合わせ場所へ向かった。
◇ ◇ ◇
結局私は自分の髪と同色である、黒のビキニにラッシュガードを羽織りました。
海らしく髪型も変えてローツインにしてみました。
(なんか、結局恰好を意識してしまった気が……)
「エンジュ! 待たせたか?」
「っ! いいえ! 私も来たばかりです!」
いつもよりジーっと私を見るケイ様の視線に、恥ずかしくなってしまって咄嗟に身体を隠してしまった。
(っ!……私は失礼な態度を!?)
私は頬を染めつつ、身体を隠していた手を下ろす。
「っ! ごめんっ!エンジュ! 違うんだ! いや違うじゃねーか!?」
ケイ様は慌てて手を動かしていて――
(あれ? ケイ様も照れてる?)
「エンジュが、そのさ、あんまりにも可愛くて……、見惚れちまった……」
「っ!!~~~」
私も顔を真っ赤にしましたけど、ケイ様も真っ赤になって褒めてくれて……。
(……もっと、欲しいな……)
ちょっとだけ、お願いを言ってみたりして――
「ケイ様。もっと具体的に褒めてくれますか?」
私は精一杯の勇気で自身をケイ様に見ていただき、笑顔で首をコテンと倒した。
「っ!?……おぉう」
ケイ様は改めて私を真っ直ぐ見る――
(ううう……、恥ずかしい……、でも笑顔は崩さない……)
広げた手がプルプルと小さく震え、手に汗もかいてしまう。
「まず……、エンジュの水着、とても似合ってて可愛いよ……、ラッシュガードが少し透けていて……、なんかエロい……」
「っ!!~~~」
「そして、それを恥じらう時に耳がピコピコ動くのも可愛いし。ローツインもエンジュに似合っていて可愛い……」
「っ!!~~~」
「全部含めてさ……、君はとても可愛いよ」
照れつつも笑顔で褒めてくれるケイ様。
私は、もうちょっとだけ勇気も出してみる――
一歩、ケイ様に近づいて上目遣いで――
「……ちっぱいも、含めてですか?」
「っ!!~~~。……最高です……」
「「っ!!~~~」」
二人して悶えてしまった。
(これから出かけるのに!? 私の心臓は最後まで持たなそうです~~!!)




