第75話 血まみれと嫉妬
《ジュリエッタ視点》
だんだんと日が傾く時間、わたくしは船着場で旦那様を待っていました。
「綺麗な金髪……」「お嬢様?…メイド?」
「白いフリルが可愛い」「顔も可愛いよ」
一人待っているわたくしを見て、通り過ぎる人々が何やら言っていました。
(お嬢様と思うのは、わたくしの縦ロールの髪型のせいでしょうか?)
「ジュリっ! 悪い、待たせた!」
「とんでもございません、旦那様――」
旦那様であるケイ様が到着されたので、わたくしは失礼の無いように大きい白いフリルを摘んでカーテシーをする。
「ハハ、黒いビキニなのに、大きい白のフリルとヘッドドレスで完全にメイドさんだな」
旦那様は苦笑いされる。
(あら? 不評でしょうか? 首のフリル付きチョーカーも可愛いと思うのですが?)
わたくしが首をコテンと傾けると、旦那様は慌てて――
「変だとか、そういうのじゃないぞ? …改めて、ワンポイントのチョーカーも含めて可愛いよ……、ジュリ」
「……ありがとうございます」
(褒められるとムズムズしますね。でも、素直に嬉しいですね)
「あ~、ジュリは水着とか平気なのか? 無理してないか?」
「??」
旦那様は頭を掻きながら、何やらわたくしを気づかうような、もの言いですが……。
(わたくしは別に水着が不得意ではないのですが……、見苦しい? でも可愛いと言われましたし……、はて?)
わたくしが考えていると、「気にならないなら良いさ」と旦那様が頭を撫でてくれます。
「じゃあ行こうっ」
「はい、旦那様」
◇ ◇ ◇
ガキイシ島――
ここは離島の中でも人気の島で、独特な文化を感じることのできる島との売り込みでした。
(たしかに、観光スポットがたくさんですわ……)
案内図を二人で見て、どこに行こうかと考えていた。
「もう日が沈むしな~、行けて一か所かな? ジュリは行きたいところあるか?」
「わたくしは旦那様となら、どこでも構いませんわ」
そう言いつつも、一か所気になるところがあった。
わたくしの視線を読んだのか旦那様は――
「よし、ここに行こう――」
わたくしが気になっていた場所を、選んでくれました。
「歴史を感じるなぁ……」
「本当ですわね……」
わたくし達は、旧王朝時代の貴族屋敷群へ来ました。
(かつては栄えていたのでしょうね……)
貴族屋敷は旧王朝の建物様式で、珍しく大きな邸宅がたくさんあって見どころがありました。
「滅びた貴族の成れの果て……、ですわね……」
「…………」
旦那様は、わたくしを心配そうに見ていました。
(単純に元貴族として、別王朝の文化を見たかっただけでしたが……、なぜか心配されてる?)
その時、水着の心配の意味も分かりました――
(ああ、だからわたくしを心配してくれたんですわね?)
「旦那様?」
わたくしは歩みを止め、旦那様を真っ直ぐ見た。
「なんだい?ジュリ」
旦那様も歩みを止めて、わたくしの方へ振り返りました。
「わたくしは……、あの極悪人にされそうになったことを、怖がったりはしていませんわ」
「っ!!……そうか」
(旦那様は、わたくしを救ってくれた状況――服を破かれ肌も露わになり、わたくしが酷い目に遭わされる寸前で助けてくれた状況。それで、わたくしが肌を出すのが苦手だと思ったんですわね?)
「だって、わたくしは旦那様に救われましたもの。だから、わたくしは旦那様が近くにいれば怖いものなんてありませんよ?」
「っ!!……わかったよ。ジュリが安心していられるなら、俺が君を守るさ」
「「…………」」
「旦那様?」
「……ん?」
「わたくし……、そこまで依存するつもりありませんわ?」
「……そうか」
旦那様は何とも言えない顔になっていました。
「でも、とても嬉しいですわ」
本心で嬉しかったわたくしは、心からの笑顔と感謝を伝えた。
◇ ◇ ◇
すっかり日の落ちた帰り道――
「遅くなっちゃったな」
「まだ船の時間は大丈夫だと思うのですが……」
前からガラの悪い集団がやって来ました――
(ゴンザレスっぽいのが、たくさん……)
「オイオイ!薄暗い中よぉ!水着で歩いているなんてよぉ!俺ら誘ってるんじゃねーか?」
「マジっすよねぇ!おっ!?兄貴ぃ!めっちゃ可愛いっすよ!」
「ゲラゲラ!胸は小せぇけどなぁ!!」
「そういうことだから!!男のお前は先に帰んなぁ!!」
ゴンザレス以下のウジ虫でしたわね……。
わたくしは旦那様の前に立って笑顔で振り返る。
「ここはわたくしが――」
「ハァ、任せる」
「承知いたしました」
わたくしはウジ虫どもへ向き直り――
「わたくしの可愛い”両拳ちゃん”の糧になりなさいっ」
手首の白フリルの付いた黒アームカバーへ魔力を流すと、わたくしの相棒である両拳ちゃんへ変形した。
「何言ってんだよぉ!このアマがぁ!!」
ウジ虫Aがわたくしの肩に触れようとする――
グショッ!!
右拳ちゃんが、裏拳でウジ虫Aの腕を潰す。
「ギャアアアア!!」――バキュッ!!
「うるさいですよ」
ウジ虫Aがうるさいので、左拳ちゃんで顔面を潰す。
「「「…………」」」
残りのウジ虫共が黙る――ドサッ……。
ウジ虫Aが地面に倒れた音を切っ掛けに――
「「「うわああああ~~!!」」」
散り散りに逃げだすウジ虫共……。
「逃がすわけがないでしょう?」
ウジ虫共を撲殺するわたくしは、両拳ちゃんの高揚感がフィードバックしてきてるみたいで――
(あぁ、生きているって素晴らしいぃ!!)
口角が自然に持ち上がり、笑いながら叩き潰していましたわ……。
「…………はっ!?」
気持ちが治まった頃、ハッとして後ろを振り向きました。
そこには呆れた顔をした、旦那様が立っていて……。
(まずいですわ!! 高揚感に駆られてやり過ぎましたわ!? 旦那様に嫌われるのだけは!?)
わたくしは全力で言い訳を考えていましたが――
スッと手が、わたくしに差し出されました。
「行こうジュリ。船に間に合わなくなるぞ?」
「……はい」
旦那様は何も言わず、わたくしの血みどろ手を受け入れてくれました――
◇ ◇ ◇
《アゼル視点》
あたしは今日もホテルのバーで彼を待っていた。
今日からのデートラッシュにあたり、一つだけ約束をしたのだ。
「アゼル、ただいま」
「おかえり、ケイ君」
その約束とは――
夜は必ず、あたしとの時間を作ること。
「待たせたかい?」
「ううん。まだ一杯目よ」
二人で同じカクテルで乾杯をする。
「で、どうだったの? 零番隊の子たちと、ちゃんと向き合えたの?」
「心配してたよりみんな好意的でさ、辞めたいって言われるかと警戒して行ったけど大丈夫だったよ」
「……は?」
「いやさ、一対一だからきっと、俺へどうしても言いたい不満とかが、あるのかと思ったんだよね〜」
「…………」
(ケイ君って、自分自身への評価が、おかしい時があるのよね……)
あたしはため息を吐き、突っ込んでもしょうがないかと続きを促す。
「それで?」
「そうだね。みんな少しずつ元気に……、過去を乗り越え出して、強くなってきてる。……完全ではないけどね」
ケイ君は零番隊の子たちを救った経緯と、今日の様子を教えてくれた。
(やっぱりいろいろと、重い過去を抱えている子が多いのね……)
あたしも救われた身として、とても共感してしまった。
でも――
「手繋ぎ……、抱擁……、水着デート……」
「ん?」
分かってはいたけど、楽しそうに話すデートの様子に、あたしの嫉妬心は刺激されてしまった。
「ねぇ、ケイ君。手を出してくれる?」
「え? はいどうぞ?」
あたしの方へ身体を向け、両手を差し出すケイ君。
「ありがとっ」
「っ!?」
あたしはケイ君の両手に自分の手を笑顔で絡めた。恋人繋ぎをしてみたのだ。
「ア、ア、アゼルさん!?」
「話を聞いていたら、あたしも繋ぎたくなっちゃった」
顔を赤くして照れるケイ君がとても可愛くて、あたしは身体も彼に寄せてみた。
そして、慌てるケイ君から本心を聞こうと思い、質問をしてみる。
「ねぇケイ君、零番隊の子たちは可愛かった?」
「…………普通?」
ケイ君は顔を背けて答えた。目も明らかに泳いでいる。
(……絶対に嘘ね)
更に身体を寄せ、上目遣いで問う。
「絶対に怒らないから、本当のこと言って?」
「っ!!〜〜〜〜、みんな、可愛かったです……」
「ふむ、正直でよろしい」
(まあね。元々可愛いって知ってたしね。その子たちが気合い入れてくるんだもん、可愛いわよね)
正直に言われたら言われたで複雑な気分になったあたしは、ケイ君成分がとても欲しくなってしまった。
「正直に言えたご褒美に、抱きしめさせてあげるね?」
そう言ってケイ君の胸に飛び込んだ。彼は震えながらあたしを抱きしめてくれる。
(ご褒美とか言って、あたしのご褒美になってるけどね?)
しばらくそのままでいたが、ケイ君の震えが止まり慣れたのかな?と思った頃、彼に回していた腕に何かドロッとしたものが付いた。
(何?……液体?)
確認すると、それは血液だった――
あたしは慌ててケイ君の顔を見ると、一生懸命に顔を逸らした鼻から大量の鼻血が溢れていて、彼は意識を失っていた。
「ケイく〜〜ん!!!!」
すぐに医務室へ運び、何とか一命を取り留めることができた――




