第74話 視える、聴こえる
三日目の朝――
俺は今日から三日間の予定がビッチリと詰まっていた。昨日のゲーム対決の結果、負けた俺はみんなからデートを要求されていた。
デートラッシュが始まる――
「今日は零番隊の三人か……」
俺は手に持った“デートの順番とデート先“と書いてあるメモを確認した。
(昨日、アゼルからの許可をもらったし。ちゃんと仲間と向き合うチャンスだと思おう)
あんなに必死に獲得した権利を、デートにしたということは即ち――
「――俺に一対一で言いたいことがある……」
(そういうことだと思う……。それが果たして何なのか?……)
「処遇の不満とか、辞めたいとかじゃなければ良いな……」
そんな不安を胸に抱きながら、俺は約束の場所へ向かった――
◇ ◇ ◇
《ニーナ視点》
今日、あたしはケイ様とデートをする――
「……え? 本当に良いのかな?」
あの時は、ケイ様がいなくなった!という混乱からの、何でもお願いをきいてもらえる!というテンションで必死で権利を獲得したけど……、一晩経って冷静になったら、ドキドキしてきた。
(ケイ様と二人きり!? あの地獄の特訓以来なんだけど……)
幹部以外だと、ケイ様に直接訓練をつけて頂いたのはあたしたち零番隊までだ。
(そのせいで、他の黒影メンバーからはめっちゃ羨ましがられたけど……)
「デートなんてバレたら、あたしたちは暗殺されるかもしれない……」
(ま、返り討ちにするけどね!)
あたしは深く考えないことにした――
「せっかく頂いた時間だもんね。全力で楽しもう!」
自然体で行くことを決め、あたしは待ち合わせの場所へ向かった。
◇ ◇ ◇
クミ島――綺麗な海と自然が溢れた島……。
あたしたちは朝焼けの中、始発の便に乗ってクミ島へ到着した。
目的の場所はそこそこ歩くみたいで……。
(動きやすいスポーティーなセパレートにして良かった~。色はあたしの髪色と一緒の、緑にしたんだけど……)
チラッとケイ様を見るけど、特にあたしへの言及はない様子。
(……恩人とはいえ、それはないんじゃないかな~?)
どうやら、珍しい草花や民家などの変わった雰囲気のものが多数ある風景に意識を持っていかれたみたい。
(まあ……、しょうがないかっ!)
あたしはツインテールにした髪を揺らしながら、ケイ様と一緒に物珍しい風景の道を歩いて行った。
「うわあああ~、めっちゃきれ~い!」
「たしかに、これは……」
あたしたちがたどり着いた浜辺は、絶景の一言だった――
「まるで海に白い道ができたみたい……」
「本当、すごい景色だな……」
エメラルドグリーンの海に挟まれるようにして伸びる白い砂浜――
二人で歩いていったら、違う世界に行けちゃうんじゃないかって思えちゃうような道。
(本当に、幻想的な風景だなぁ……)
あたしが景色に見とれていると、ケイ様が気を使ってくれて。
「よし。俺が何か飲み物でも買ってくるから、あそこで座って待っててくれ!」
「え?……あっ……」
(速いっ!……さすがです、ケイ様……)
あたしはケイ様を待ちながら、ただ景色を見るだけではもったいないと……。
(……魔導義眼の調子を確認しようかなっ!)
眼帯を外し、魔導義眼に魔力を通す――
うん!問題なし!
「おっ! 義眼の調子か? どうだ使い心地は?」
義眼の調整中にケイ様が帰ってきた。あたしはありがたく飲み物を頂く……。美味しい。
「調子は良好です。海中の深いところまで見えますよ~」
「ほう? なら勝負でもしてみるか? 望遠勝負だ――」
あたしが魔導義眼のスペックをドヤると、ケイ様から勝負を持ちかけられる。
(さすがにケイ様でも、あたしの魔導義眼の望遠機能には勝てないよね?)
「よ~し、じゃあな~……、この方向にあるオキナー本島の、浜辺にいる獣人の数を数えてみな?」
「え!?」
あたしは全力で望遠機能を働かせるが、オキナー本島の浜辺がギリギリで……。
(人種の判別なんて無理でしょ!?)
「フフフ……、ニーナもまだまだだな!」
逆にドヤられる。
そして、「ちょっとごめんな」と急に手を握られた――
(っ!!~~~~)
あたしは急な接近に恥ずかしくなって、顔を赤く染めて下を向いてしまった……。
「下を向くなって、今見えるようにするから――」
「え?」
握られた手から、ケイ様の魔力が伝わってくる。
あたしは言われた通り、先ほどの方向を向いてみると――
「あっ……」
視界が更に広がり、オキナー本島にいる人々が詳細に見えた……。
「なっ? すごいだろ? 魔導義眼はまだまだ限界じゃないんだぞ?」
そう言って笑いかけてくるケイ様の表情が――
なぜか、あの子たちの笑顔に重なって見えて――
「ん? どうかしたか?」
「あっ、いいえ、ちょっと昔の仲間を思い出しまして……」
「っ!……そうか……」
そう言って優しい顔になったケイ様は、あたしの頭を撫でながら言ってくれる。
「俺が、もう少し早く見つけてあげてたらな……」
(……神様じゃないんです。全部は救えませんよ……、それに――)
「ありがとうございます――あの時、あたしを見つけて……、救ってくれて……」
(――路地裏で瀕死だったあたしを……、助けてくれたんですから……)
あたしは感謝している。これは本心だ!
そんな後悔は、あなたにして欲しくない!
「本当にありがとうございます! あたしは今、幸せですよ!」
だからあたしは――最高の笑顔でケイ様に感謝を伝えた。
「そうか……。あっ!……遅くなったけど、水着似合ってる、髪型もツインテールで可愛いよニーナ」
「いまさらっ!?」
思わずオルトさんみたいに突っ込んでしまった。
でも、その突っ込みが良かったのか、その後は二人で時間まで楽しく話すことができた。
◇ ◇ ◇
《ミサキ視点》
「魔力で何でもできるのは分かるけどさ。魔導酸素ボンベに魔導ウエットスーツって!? 魔導って付ければ何でもやん!!」
ニグア島に来たわたし達は、この島のおすすめと言われたダイビングをするために、道具を借りているところでした。
『何か問題のある道具なのですか?』
「そういうわけじゃないよ。ないんだけどさっ!」
ケイ様は「適当なうんえい?の野郎め!」と文句を言っていました。
(こうして二人で出かけるなんて幸運は、ないと思っていましたが……)
さまざまなケイ様の一面が見れて、わたしはもうすでに満足していました。
そういえば島への船に乗る時も――
◇ ◇ ◇
わたしは水着の色に合わせたツバの広い白い帽子を被って、船着場で待っていました。
ケイ様がやってきて、一言目が――
「ミサキ。白い上品な感じのワンピース水着も、その帽子も、そしてサイドにお団子にしてる紫髪も……、みんな可愛くて似合っているよ!」
『…………ありがとうございます』
『「…………』」
ケイ様は焦ったように――
「あれ?ごめん!俺に言われてもあれだよね?ごめんね?」
『いえ、違うのです。嬉しいですよ。大丈夫です』
「本当!?良かったよ〜。俺はセクハラで非難されるのかと思ったよ〜」
『いきなりで驚いただけです。フフ、お褒めいただきありがとうございます』
ケイ様に褒められたことに、恥ずかしくも嬉しい気持ちがじんわりと胸に広がってきました。
ケイ様は安心した顔になって――
「ニーナに褒めるのが遅いって言われてさ――」
わたしは、一瞬で自分の気持ちが凍っていくのが分かりました……。
『ケイ様?……』
こんな低く重い振動を出したのは初めてでした。
ケイ様はビクッとして、わたしの顔を見ました。
「ヒッ!?」
今度はケイ様の表情が、凍りつきます……。
『そういうところです、ケイ様……』
わたしは船が島に着くまで、失礼ながら説教をしました。デート中に他の女の話はするな、褒めるならタイミングを考えろ、などなど……。
ケイ様は「すいませんでした」と正座で最後まで聞いてくれて――
「でもさ。ミサキの水着とかが似合ってて可愛いって思ったのは、本当だからな?」
そんな言葉を上目遣いで言われた時……、ケイ様がアゼル様で鼻血を出す気持ちが分かってしまいました……。
(反則ですよ!! ケイ様!!)
◇ ◇ ◇
ダイビング装備を装着して、わたし達は人気のポイントまで来ていました。
「よーし、潜るぞ〜。準備良いか?」
『はい、大丈夫です!』
海の中へ潜っていくと、地上からでは分からない別世界が広がっていました。
日の光が降り注ぎ輝く透明な景色、鮮やかなサンゴ礁の近くには色とりどりの熱帯魚たちが泳いでいる。
(綺麗……、お魚たちも可愛い……)
しばらく目を楽しませながら泳いでいくと……。
(……すごい…………)
目の前では、小さな魚たちが集まり大きな渦を作っていた。何万から数十万ともいえる数の魚たちが密集して泳ぐ姿は圧巻だった。
わたしは少し興奮気味に振り返って、ケイ様へ話し掛ける――
『ずごいで――っ!?』
(“声“が出ない!?なんで!?なんでっ!?)
わたしは今まで自然に出せていた“声“、振動を伝えられないことにパニックになる――
「ハッ!ハッ!ハッ!ハッ!ハッ!……」
(声が出ない!?わたしの声が!?また失ってしまったの!?)
過去の情景がフラッシュバックする――
「ブレスも使えない出来損ないはよぉ、声なんていらねぇ〜よなぁ!!」
そう言って、わたしの喉に迫ってくる鋭い爪――
『――――っ!!!!』
その時――
わたしは後ろから、優しく抱きしめられた――
(っ!!…………)
『落ち着け、ミサキ。大丈夫だ。お前は“声“を失ってないよ』
『…………』
『海の中だから、いつもみたいに振動が伝えられないだけだ』
(……でも、ケイ様の声が――)
ケイ様はクルっとわたしの目の前に回り込んで、安心させるようになのか笑顔をみせてくれる……。
『俺のは念話だよ。ミサキもできるだろ?』
(っ! そうでした……、わたし焦って……)
『いつも言ってるだろ。魔力は?』
『万能?』
『当たりだっ。もう平気か?』
『……はい。ご心配おかけしました……』
ケイ様は少し躊躇いつつ正面から、わたしをそっと抱きしめてくれました。
『あっ……』
『大丈夫だミサキ……、俺たちはお前を捨てたりしないから……』
『……はい。……ありがとうございます……』
煌めく海の中、しばらくケイ様に抱きしめてもらっていました……。
『「…………』」
帰り道ではお互い少し恥ずかしく、言葉を交わすこともありませんでしたが……。
(温かいです……ケイ様……)
ホテルに着くまでずっと、手を握ってもらいました――




