第73話 死神、夏の魔力に敗北
二日目の朝――
俺はプライベートビーチではなく、公営のビーチに来ていた。
(たぶんこの辺に……、いた!)
「リウムちゃ~ん」
「お兄ちゃん?」
俺は目的の子――リウムちゃんを見つけて手を振る。
ゲームだと学園都市以外の場所で会うのは、ここが最初で最後だった。
ゲームで何度も、リウムちゃんクエストが一回分足りなくて涙を呑んだことを思い出す。
そう……、この夏休みにたまたま家族旅行に来ていたリウムちゃん。彼女を追いかけて、ここで彼女の依頼を達成しないと、必要な数のメダルが集まらない仕様なのだ。
(普通にそんなん分かるか!!)
この仕様が分かるまで、何度やり直したか分からないくらいリウムちゃんを探したよ。
「奇遇だね? リウムちゃんも旅行かい? 俺も仲間たちと来たんだよ」
「そうなんだ~。リウムも家族で来たの~」
ちょっと元気がない笑顔のリウムちゃん。このイベントだけはランダムじゃないので、俺はその理由を知っていた。朝早い時間から探してるであろうリウムちゃんを思うと放っておけなくて、俺は朝からここへやってきたのだ。
「元気がないね? どうかしたのかい?」
「うん……、あのね――」
家族旅行初日にお父さんに買ってもらった髪飾りを、昨日無くしてしまったとのことだった。今日の昼過ぎに帰る予定で、こっそり部屋から抜け出して探しに来たそうだ。
「お父さんにすごくお願いして、買ってもらったものなの……」
「そうか……、じゃあお兄ちゃんが見つけてあげるよ」
泣きそうなリウムちゃんの目線に合わせ頭を撫でる。
しかし、広い砂浜を見てリウムちゃんは……。
「でも……、こんなに広いよ?」
だから俺は、自信満々の笑顔で笑いかける。
「大丈夫さ。お兄ちゃんは、ものすごい魔法使いって、知ってるだろ?」
「あぁっ!」
前に俺が魅せた荒れ果てた庭を花咲く庭園にしたのを思い出したみたいで、リウムちゃんは期待の目で見てくれる。
「お願い!お兄ちゃん!助けて!」
「ああ、任された――」
(――アトラス起動)
リウムちゃんの頭を撫でながら髪飾りのイメージを抽出し、レーダーに掛ける。
(……見つけた!)
俺はゆっくり立ち上がり、ヒットした場所までリウムちゃんと手を繋いで歩く。
見えるところまで来た時に俺は指さし――
「ほら、あったよ」
「え!?……あっ!!」
リウムちゃんは走り出し、無事に髪飾りを見つけることができた。
安心した顔の後、とびきりの笑顔になって。ポケットからいつもの物を取り出す。
「ありがとうお兄ちゃん! この砂浜でも見つけたの! あげるね!」
「そうか。こちらこそありがとうね」
謎の古びたメダル、五枚目をゲットした。
◇ ◇ ◇
リウムちゃんを助けてホッコリしていたら、リウムちゃんの両親がやってきてしまい「お礼をさせてください」と言われ断ることもできず、ランチをご馳走になってしまった。
(まあ、リウムちゃんが笑顔で帰れたのが何よりだったな……)
そんなわけで、帰りが遅くなったのだが――
「あ!! ケイ君いたさ~!! みんないたよ~~!!」
ナミエが俺を見つけると、みんなに声を掛けていた。
(俺を探していたのか?)
「ナミエどうした? 何かあったのか?」
「何かあったのか?じゃないさ~!! ケイ君がいなくなったから探してたんよ!!」
「んんん? 俺?」
「誰にも何も言わないで消えたっしょっ!?」
(……あ~~。言ってはないな……)
みんなが集まってくる……。本当に総出で探していたようだった。
全員がジト目で俺を見る中で、アゼルなんかは目に涙を浮かべていて――
オルトが代表して話し出す。
「オーナー、勘弁してくださいよ。オーナーが最強なのは知ってる。でもさ、みんなで旅行に来て、朝から半日以上消えるのは心配しますよ……」
「う……、すまん……」
「そうじゃねーでしょう?」
「……これからはちゃんと相談するよ。ごめんな」
「そうして下さい。俺たちはケイ・ツクヨミの未来予知を信じると決めた仲間だ。……俺たちにだったら、やることを事前に話せるでしょう?」
「うぐっ……。本当に申し訳ない……。みんなもゴメンな」
みんなは渋々といった様子で納得してくれた。でも――
「……あたしを置いて行かないでよ……、ケイ君」
アゼルは俺に強く抱き着き、俺の胸に涙を浸み込ませていた。
(こんなにみんなを心配させてしまうんだな……、俺はこんなにも……)
微妙な雰囲気になってしまった……。
そんな時――
「ゴホンッ! オルト様、今ではありませんか? あなたのバカげた提案をするのは?」
タリアの一言で、みんながオルトを見る。
「え!? 今!?……そうかもしれねーな……」
オルトは俺に、ニヒルな笑顔で提案する――
「オーナー。俺らに悪いと思うんだったら、ゲーム対決に付き合ってくれよ」
「……ゲーム対決?」
「ああ、俺らが対決に勝ったら――オーナーは、負けたやつの言うことを聞くってルールだ!!」
「「「「っ!!!!」」」」
その一言に、全員の纏う空気が変わり――
――狩人の目に、変化していった気がした。
◇ ◇ ◇
そんなわけで、やって来たのは今回の対決の舞台である浜辺カフェ――
「普通の戦闘じゃあオーナーには勝てねー。だから今回の対決はこれだ!!」
オルトが指さしたのはカフェの看板メニュー、”ウルトラビックかき氷”だった。
「このウルトラビックかき氷の早食い対決だぜ!!」
「早食い対決……、いいだろう。受けて立とう」
正直早食いが得意なわけではない、むしろゆっくり食べたい派だが……。
しかし、かき氷の早食いなら勝機はある!
なぜなら――
(――俺には創作魔法があるのだから)
魔力は万能だ――
俺は口から喉に掛けての刺激を、緻密な魔力操作で完全にシャットアウトする。
これで、急いでかき氷を食べてもキーンと頭が痛くなることもないはず!!
(……フフフ、勝ったな。申し訳ないとは思っている……。だが!勝負なら負けるわけにはいかないな!!)
「では、参加しない私タリアが審判をします。……よーい、始め!!」
俺は緻密な魔力操作を展開しつつ、着実にスプーンを進める。
(痛くない……、痛くならないぞ!!……みんなの様子は――)
半分以上食べたところで、周りを窺ってみると。
「え?」
「「「「終わりました!!」」」」
真っ青な顔をして、目を血走らせながら、完食の挙手をするメンバーたちに驚愕するのだった。
(なん……だと……)
オルトとアゼルだけが苦しみ悶えながら食べ進めていて俺には勝てなかったが、その他のメンバーには負けてしまった……。
そして、俺に勝ったメンバーたちが要求してきた権利は――
「「「「デートしてください!!」」」」
俺は明日から三日間は順番にデートをするという、デートラッシュをすることになった。
(え? ゴンザレスもデートって言った??)
◇ ◇ ◇
《アゼル視点》
あたしは一人、ホテルのバーで飲んでいた。
(あああああ……、やっちゃったなぁ……)
今日の午前中いっぱい、朝からケイ君が突然いなくなってしまい慌ててみんなで探した。
結局は何かの目的で動いて、遅くなっただけの話だったんだけど――
「――もう、トラウマは乗り越えたと思ってたんだけどな……」
魔族の精神干渉があったとはいえ、長い期間抱えた劣等感……。
自分の存在は要らないものであるという思い込み……。
また、捨てられるのではないかという不安……。
「だからって、泣いちゃうなんてね……」
ケイ君は優しいから受け入れてくれる。
でも――
(あたしは、彼を支える側に回りたいのに!!)
ケイ君は、何かを一人で必死に抱えている。側にいて、それは分かった。彼が知る未来の一端を共有してはくれてはいるけど、きっとそれが全てではないはず……。
「……だから支える側になりたいのになぁ」
呟きつつお酒を一口。甘くて美味しい……。
(もっと、あたしに甘えて欲しいな……)
時々見せてくれる甘えたような彼の仕草が、本当に可愛くて大好きなのだ。
(そういえば、初めて会った時からあたしのことを知っている風だったし……。好意もあった気がする?)
その不思議も、ケイ君の秘密に繋がる何かなのかな?
あたしの方は初めのインパクトと優しさ、そして再開からの情熱的な告白――
「フフ、あたしは本当にケイ君に救われているのね。……あの森で会った日から、ずっと……」
ケイ君との出会いに感謝をしていると、後ろから声を掛けられた。
「綺麗なお嬢さん、お一人ですか?」
「フフフ、“ケ“から始まって“ミ“で終わる名前の人以外は、相手にしないわ」
「じゃあ、俺は大丈夫だね」
そう言って隣に愛しい人が座る――ケイ君が。
「俺にも同じのをください」
ケイ君があたしと同じカクテルを頼んで一口。
「甘っ、でも美味しいなこれ。飲み過ぎ注意だなこれは」
そう言って笑う彼も愛しい。でもケイ君を理解してきたあたしは、何か話をしたいから来たのだと察してしまう……。
だからあたしは、首をケイ君の方に傾けて聞いてみる。
「ねぇケイ君、何か話があって来たんじゃないの?」
「っ!? いやいや〜、単純にアゼルに会いたくて……」
あたしは彼を、ジーっと見つめ続ける。
「……ごめん、話は、ある。でも、アゼルに会いたい気持ちは本当だよ」
「っ!!!!」
彼の一言に、あたしは思わず赤面してしまい反対を向いてしまった。
(もうっ!! ケイ君はあたしに俺を悶え殺す気かって言うけど!! たまにケイ君の方が、あたしに攻撃してくるよね!!)
「……そう?……ありがと……」
「それでさ、話なんだけど……」
(……さっそく話すんだ)
あたしはまた、ケイ君の方を向いた。
彼は少し気まずそうな表情で話す。
「……明日からの、デートラッシュの件、なんですが……」
(なるほどね……)
とても歯切れが悪かったけど、要は約束したことは反故にできないから、明日からのデートラッシュに行ってきても良いかと聞いてきたのだ。
(あたしが“嫁候補“だから、許可をもらいに来たと……)
「ケイ君はあたしが――」
(嫌だと言ったら行かないの?なんて言えない……。言えば彼は絶対に行かない。約束を反故にしても……)
「アゼル?」
(それではケイ君が孤立しちゃう……。それはダメ、あたしは彼を支えたいんだもの。でも、嫉妬心は抑えられない……)
ケイ君を見ると、不安そうにあたしの回答を待っていた。
(あれ……、そんな不安そう顔で、それじゃまるで、捨てられたくないって思ってる表情……)
「アゼルが嫌なら――」「ちょっと待って!」
(そっか。結局あたし、自信が無かっただけなんだね……)
あたしは、ケイ君を真っ直ぐ見る――
「ケイ君は、あたしが好き?」
彼は間髪入れずに真剣な顔で――
「大好きだよ。俺は君が大好きだ」
うん。大丈夫だ。ちゃんと彼を信じよう。
「ならよし! ちゃんと全員をエスコートしてきなさい!」
「っ!? 分かった! 頑張るよ!」
「黒の死神の子以外まで、増やさないでね?」
「え!? 意味が分からないよ!?」
それから二人で、たわいもない話をしながらお酒を飲んだ。
あたしは彼に、いつまでも好きでいてもらえるように努力をしよう。
そう思うことのできた、夜だった――




