第72話 めんそ~れ~
青い空――
白い砂浜――
エメラルドグリーンに輝く海――
「「「「めんそ〜れ、オキナー」」」」
俺たちは常夏のリゾート地、南国諸島に到着した。
「このオキナー本島が南国諸島では一番大きくって、リゾート観光地としては有名さね~」
地元民のナミエが、いろいろと教えてくれる。
「暖かい気候に綺麗な海! そんな場所にある海獣迷宮! この大陸で一番の観光地化してると言っても、間違いないと思うよ~」
たしかに、この景色は気分も開放的になるし、海獣迷宮も深度が低くて冒険気分も味わえるような場所になってるしな。
(そりゃ商人たちが、こぞって出店するわけだよな……)
今回の慰安旅行の行程などは、ナミエに任せていた。予算は気にしなくて良いぞと伝えたら「マジで!?」と目を輝かせていたのだが……。
「そして!! 大陸最高のリゾート地でっ! あーしたちが過ごすホテルは〜、これです!!」
手を広げ、満面の笑顔で振り返ったナミエが選んだホテル――
「マジかよ、俺はこれ、城だと思ってたよ……」
朱色の異国情緒あふれた大きな城と思っていた施設は、超が付く高級ホテルだった……。
「死ぬまでに一度は泊まってみたかったんさね~。超嬉しいさ~」
「……良い趣きです」
「こんなところに泊まっていいの?」
『美しい造りだね……』
「わたくしにピッタリですわ」
「やべーっすね……」「……良い匂い?」
「筋肉が躍り出すぜ!!」
「「「イエス!マッスル!」」」
「あたし至上、最高かもしれないわね……」
みんな喜んでくれてるようだ。奮発したかいがあったなと思い、俺も気分良くホテルに入ろうとすると、立ち尽くすやつが一人……。
「…………いくら、するんだよ…、これ?」
オルトは絶望の表情で固まっていた。
俺は肩に手を置き――
「ドンマイッ!」
振り返ったオルトに俺は、良い笑顔で親指を立てておいた。
「オ~ナ~~」
オルトの情けない声は聞こえないことにした。
(大丈夫、お前には彼女がいるからな――)
「オルト様、場の雰囲気を考えるって、知ってますか?」
オルトの横に立つ秘書さん。
スーツを着てメガネをクイッとしながら意見を言う彼女は、ザ・秘書っぽい!
(俺が勧めたスタイルだったりする。普段の彼女は別に目が悪くない)
「だってよ~、タリアさんも心配じゃねーか?お金……」
秘書さんの名はタリア・リフィン、例の事件で連れ帰った黒エルフさんの一人だ。
百人の秘書は抱えられないと、泣きついてきたオルトが選んだ結果、最終的に秘書に就任したのがタリアさんだ。
「オルト様、私のことはタリアと。敬称はいりません、秘書なので」
「うぐ……、タリア……」
「はい、オルト様。お金は心配であっても、現在進行形の状況を考えてください。慰安旅行は開始されたのですよ? その現場に来てからグダグダ言う上司を、どう思いますか?」
「……別にグダグダなんて」
「言ってるでしょうが。もっと考えて、口を動かしなさい豚が……、失礼」
「え? 今、豚って言った?」
「言ってません」
「ハァ、タリアさん本当に口が悪いよな、俺にだけ冷たいし……」
「また敬称が付いてますよ、本当にこの頭は脳みそが入ってるんですか?」
「えぇ~~~」
「まったく!グズは嫌いだと言ってるでしょう!」
「ちょ!?急に?そんなこと前に言ったっけ?」
「細かいことで、いちいちうるさいですよ――」
そう言ってタリアは、オルトを押してホテルへ入って行く。
(最終的に面倒くさくなったんだな~。オルトをよろしくな、タリア)
俺もみんなを追って、ホテルへ入って行った。
◇ ◇ ◇
超高級ホテルと銘打つだけあって建物の拘りに装飾の配置、色とりどりの花、フローラルな匂い、そして何よりそのまま外に広がるプライベートビーチの景色――
(接客も完璧……、最高だな……)
「ケイ君、みんな先に行って楽しんでるよ? あたしたちも行こっ!」
一緒にプライベートビーチに行こうと手を引っ張られる俺は、どうしてもアゼルを直視できなかった。
チラッと見た彼女の姿――
(――俺に気を使ってか、レースのカーディガンを羽織ってくれているんだけど……)
それでも透けて見えてしまうアゼルの水着姿。
ホルターネックのビキニ。
(彼女のスタイルが良いことは、十分知っていたんだけど……。どこを見ても、綺麗な肌が見えてしまってドキドキが止まらない!!!!)
「ケイ君、聞いてる?」
一向に動かない俺を振り返るアゼルの髪が揺れる。今日はポニーテールにしていて、うしろ姿はうなじが見えてしまって恥ずかしい……。
(本当に!見ることができる場所がない~~!!)
「……そんなにチラチラ見ないで、ちゃんと見て、感想言ってよね!」
そう言って口を尖らすアゼルもヤバかった……。
「あっ!……でも、胸はあんま見ないでね?」
上目遣いで、胸を隠して頬を赤く染めるアゼルを見て俺は――
(………さようならアゼル。本当にありがとう…)
鼻血を噴き出して、後頭部から倒れた――
「ケイく~~~ん!!」
◇ ◇ ◇
涼しい風を肌に受け、俺の意識は戻ってきた――
(潮の匂い……、風が気持ちいいなぁ……)
そして、
柔らかい何かが、俺の頭の下にあった……。
「あ! 起きた? ケイ君?」
どうやら俺は、アゼルに膝枕をしてもらっているようだ。
生足の膝枕だ……、やはり俺は今日死ぬのかな?
そのまま意識を手放そうとするが――
「ちょ!! ケイ君!! まだ旅は始まったばかりだから!!」
頭をべシベシと叩かれ、意識を引き戻される。
このままでは意識を飛ばされてしまうため、俺は起き上がって座った。
どうやら俺を運んできてくれたようで、砂浜に作った休憩スペースで休んでいたようだった。
みんなは、海が初めてのメンバーも多かったようで、楽しそうに海辺で遊んでいる姿が見えた。
「……ありがとうアゼル。そして……、ごめんな、迷惑かけて」
「別に良いよ。まあ、あたしのせいだしね……」
恥ずかしいなら言わなければいいのにと思いつつ、そんな反応の彼女がとても可愛いと思ってしまう俺は重症なんだろう……、最高だけど!
「それで、あたしはどう? 旦那候補様?」
「っ!!……、めちゃくちゃ、かわいいです……」
「フフッ、ありがとっ!」
はにかんだ笑顔になったアゼルは、「ケイ君起きたから、あたしも行くね」と走ってみんなの所へ行ってしまった。そんな彼女の顔が赤かったのは、見間違いではないだろう……。
氷がカランと、小さく音を立てた。
「これ、俺に用意してくれたのかな?」
見ると、俺のすぐ傍に冷たいコーヒーが置いてあった。
(……アゼル、ありがとう)
パラソルの下で美味しいコーヒーを飲みながら、楽しそうに水遊びをする黒の死神メンバーを見て、心からここに来て良かったと思った。
南国諸島での慰安旅行は、
最高の幕開けとなったのだった――




