第70話 俺は大好きだよ――
獣王国のイベントも無事終了して、俺たちは学園都市に帰ってきた。
三者三様と一緒に黒の死神本部へ帰還の報告と、もうすぐ始まる夏休みに向けた会議もする予定だ。
「ただいまさ~」
「帰りましたっす!」
「……お腹空いた」
(ルウは腹ペコみたいだから、何か食べながら会議はやるか?)
そんなことを考えながら奥へ進んでいると、廊下の向こうから俺の愛しい人がやってきた――
「ケイ君! おかえり!」
アゼルが満面の笑顔で迎えてくれる。いつも凛としている彼女が俺を見た時だけ緩むその表情だけで、俺は鼻血が込み上げそうになってしまう。
「ただいまっ、アゼル。変わりはなかったかい?」
「特にはないわ。ねぇ、なんで鼻を押さえているの?」
ずいっと近づき、覗き込むような姿勢のアゼルに俺は――
「ゴフッ!」
「ケイ君っ!?」
鼻を押さえていたので口から吐血してしまった。
素早く避けるあたりが、さすが”剣聖”アゼルといったところだろう……。
「……何かゴメンね?近づき過ぎた?」
「いいや、良いんだ。しばらく会えなかった分、耐性が落ちたみたいで……」
二人で苦笑してしまった。
しかし、アゼルはちょっと俯きつつ、刺激的なお願いを俺にぶつけてきた――
「でもさ、あたしも寂しかったわけで……。ちょっと抱きついても良い?」
「っ!!!!――」
(ゴフッ!!……ハァ、ハァ……、アゼルが望んでいるんだっ!! 頑張れ!俺!!)
「――ああ」
アゼルは満面の笑顔になって抱きついてきた。
「ありがとうケイ君! 大好きだよ!」
思いっきりギューっとされ、満足そうに俺の匂いまで吸い込んでいる。
しばらくして、満足したようで離れて――
「ケイ君成分をいただきました! これであたしはしばらく頑張れるよっ!」
そう言ってウインクをしてから「またねっ!」と去って行った……。
(……何で、あんなに可愛いんだろう…………)
俺の思考はそこで止まり……。
会議に来ないとオルトが呼びにくるまで、その場で立ち尽くしていた。
◇ ◇ ◇
黒の死神本部の会議室にて――
「みんな揃ったから会議を始めるぜ」
オルトの司会で会議は開始される。
「今回から幹部会議にこの四名も参加だ、よろしくな」
紹介された席には、アゼルと三者三様が並んで座っていた。
(アゼルは新しく黒エルフ部隊の隊長になったから分かるけど――)
俺は三者三様を見る。
(――こいつらなんで幹部扱い?)
「アゼルさんは知っての通り、オーナーの嫁候補様だ。それに新設したダークエルフで構成された部隊、”黒妖”の隊長だ」
「よろしく頼む」
「そして、こっちも知ってると思うが三者三様だ。こいつらはオーナーの直属部隊だから、何かと行動を共にするだろうし、情報の共有のために参加させることにした」
「よろしくさ~」「よろしくっす」「……よろ」
(なるほど、そういう理由ね)
俺は知ってました感を出して頷く。
「じゃあ順番に報告するぞ。最初は俺から――」
オルトの報告は組織全体の財政状況だった。
黒の死神は最近はギルド活動の他に、先日行ったカフェや衣料品店などにも進出している。
俺の前世の何となくの知識と、ディーの開発する安価ですぐれた素材などによって、業界内でも注目される店になっていた。
「カフェも衣料品店も人気過ぎて、各国からの出店依頼が多くて困ってるくらいだな」
そう言って俺とディーを睨むオルト。
「面倒なことは全部俺に投げやがってよ!」
「……俺、忙しいからさ~」
「……私は創作係ですから~」
「ちっ! 次、ゴンザレス報告!」
「おうよ! クラン黒の死神は、学園都市の中心になった感じだぜ!」
ポージングがうるさいゴンザレスの話では――
地道な組織活動によってギルドの信用はピカイチ。仕事外での慈善活動や治安維持活動で、学園都市機構からも信用が厚いとのことだった。
「でも、悲しいクレームが一つだけあってよ……」
「ん? おい、俺はクレームの報告受けてねーぞ?」
「オルトの旦那、違うんだ。組織にじゃなくて、俺たち”最強筋肉”にだ……」
(お? 見た目はあれだが、良いやつの集まりなのに珍しい)
「俺たちの――」
「俺たちの?」
「――筋肉がうるさいって言われたんだ……」
「「「「…………」」」」
「よし、次の報告だ。ディー」
ゴンザレスはスルーされたことに「え?」と呟き、固まっていた……。
「開発部門です。今はあまり気乗りのする仕事はありませんね……」
(ディーはそうだろうな……。変身装備や魔力伝導武器、あのレベルのやる気はな~)
何かないかと考えていて思いついた。
次の予定で使えそうな物を用意してもらおうと。
「ディー、次のステージは”海”だ――」
「――え?」
俺の一言にディーは驚き考える……。
俺はジッとディーを見つめて一言。
「海での活動に必要な物を考えておいて欲しい――」
(今の戦闘服で装備は十分だろうから、楽しむための物とかね……)
「……なるほど。獰猛な海獣と戦うための兵器ですね、了解しました」
ディーはスッと立ち「時間がありませんから」と高笑いしながら出て行ってしまった。
(あれ~??)
「あ~、ディーは良いだろ。では次、エンジュ」
「はい――」
裏視点から見ても学園都市の治安は万全で、特に他国からの介入や魔族の動向も都市内では観測できないとのことだった。
「黒影も組織拡大しました。下部組織を暗殺、諜報、工作の三部隊に分け、使えるように現在修行をさせているところです……」
エンジュがチラチラと俺を見て、何か言い難そうにしている……。
「エンジュ、何だ? どうかしたか?」
「はい……、実は勝手に解釈してメンバーを集めたのですが……、一応確認をしておこうと思いまして……」
「ふむ、何だ?」
「はい……、最近は三者三様をいつも、側に置いていますので――」
(いつも置いてるって同級生だよ!? そういう風に見てたの!?)
「――Cカップまでなら良いのかと思い……。勝手にCカップのメンバーも、加入させてしまいました!!」
エンジュは怒られるかも!?みたいな雰囲気で耳を倒して俺を不安そうに見ているが、俺はそもそも胸の大きさについて指定はしていない……。
(だから、そんな目で俺を見ないで欲しいなアゼルさん……)
「エンジュ、大丈夫だ。俺はそこにそんな拘りはないから……」
「えええええ!?」
(えぇ~~~、そんなに驚く~~?)
バンッ!!
机を叩く大きな音で見ると、アゼルが勢いよく立ち上がっていた。
彼女は震えていて……、バッと俺を凝視する――
「ケイ君はっ!! ちっぱいが好きじゃないって言うのっ!?」
(えええええ!? アゼルのトラウマを刺激しちゃったのおおお!? でも――)
――俺は、この場で言わないといけないのか?
俺は俯いたまま静かに立ち上がった。
そして、アゼルを真剣な瞳で見つめ、告げた――
「――ちっぱいは、大好きだよ……」
「「「「…………」」」」
俺の告白に、喜んでいたのはアゼルとエンジュだけで……。
他のメンバーは半眼で俺を見ていた――
俺の諸事情により会議を一時中断、休憩の後に再開した。
「じゃあ再開するぜ。エンジュ、例の目標の報告をしてくれ」
「はい……」
エンジュが監視していた対象――リリスについての報告だった。




