第69話 帰る場所、好きな人
《アイン視点》
「……懐かしいな」
丘の上から見下ろした景色――
かつて、黒猫族の隠れ里と言われた廃村を見てアーキが呟いた。
悲しみの表情ではあるものの、この景色を見た彼女が憎悪の表情や言葉を出さなかったことに、僕は安堵した。
「じゃあ行こうか」
「……うん、ありがとうアイン。ありがとう、みんな」
僕たちは廃村へ歩き出す。
アーキの家族と、黒猫族を弔うため、僕たちはやって来たのだった。
僕たちがここに来た経緯は、昨日の獣王決定戦の終わりまで遡る――
◇ ◇ ◇
ムース宰相の反逆は失敗に終わったが、その波紋は大きく拡がり、獣王国存亡の危機になり得る出来事だった。
しかし、ティグリス王がムース宰相が逝ったあの時、あの場所で放った言葉によって、別の意味で波紋を拡げることになった。
「みんな聞いてくれ!! 二度目だがっ!俺が獣王になって初めての演説だ!!」
ムース宰相たちの乱入により会場は混乱していたが、鎮圧によって場は落ちつきつつも困惑した雰囲気だった。
そんな中での獣王からの呼びかけ……、そこに居る誰もが、獣王の言葉を待っていた。
「俺は!! この国の強さ至上主義をやめる!!」
「「「「っ!!!!」」」」
獣人たちは皆、驚き固まる。僕もビックリした、だって強さ至上主義って獣人のアイデンティティなのでは!?と思った。
「別に、最強を目指さないわけじゃねー……」
みんな、じゃあ何故?と思っただろう。
「俺は、獣人みんなが笑える国を創りたいんだ!! それは、弱いやつも含め全員だ!!」
そして、ティグリス王は頭を下げる――
「だからっ! みんなの力を貸してくれ!!」
そう言い、ゆっくりと顔を上げる。
「文句のあるやつは、言ってくれっ! 俺が相手になるからよ!!」
結局腕力か〜い!?とみんな心で突っ込んだと思った――でも。
「大丈夫だ。殴りかかってこいって事じゃねー! 言葉でかかってきても良いってことだ!!」
ティグリス王は、牙を剥き出して笑った。
そんな感じでティグリス王がまとめ、その場を収めることができた。
そんな新しい獣王国の始めの仕事は過去への贖罪、黒猫族の悲劇への贖罪だった。
王が今までに集めた遺品を持って、隠れ里に埋葬しようというものだった。
ティグリス王は――
「アーキ、行くか?」
そう聞いてくれた。
アーキは迷わず――
「行く。……行かせて欲しい」
こうして僕たちは、黒猫族の隠れ里を訪れることになったんだ。
しかし――
一つ問題があった。僕たち勇者パーティーは、学生会として二学年生の引率業務があったのだ。
(……どうすれば!?)
そんな時に――
いつも助けてくれる彼が、颯爽と現れる。
「俺に任せて行ってこいよ、アイン!」
ケイがそう言ってくれた。
僕は、ケイなら任せられると安心したが――
「何言ってんだよお前!」「誰だよ!?」
「お前じゃ安心できねーよ!」「ヒモ野郎が!」
さっきの事件で不安が強くなった同級生たちが、僕たち勇者パーティーに引率して欲しいと抗議する。
(どうしよう……、ケイはすごい強いって説明すれば、納得してくれるか?)
そんなことを考えていると――
「あーしたちが引率するさ!! それならみんな安心さ〜!?」
ナミエさんがフォローしてくれた。
「三者三様さんたちなら」「安心です!」
「お願いしたい!!」「ナミエちゃん可愛い!!」
みんな、手のひらを返したように受け入れていた。
「「…………」」
僕とケイで、微妙な空気が流れた。
ケイは少し悲しそうな笑顔で――
「“俺たち“に任せて行ってこいよ、アイン!」
そう言って、送り出してくれた。
◇ ◇ ◇
僕たちは廃村の中を、ゆっくりと歩く。
焼け落ちてしまった物も多く、ほとんどの建物が、原型を留めておらず朽ちていた。何故か最近壊れた様子の廃屋もあったけど、ほとんどがそうだった。
(アーキはどんな気持ちで、見てるんだろう……)
彼女は崩れ落ちた物を時々触ったり、止まってジッと見つめたりしながら歩き進めていた。
僕たちの目的地は里の奥、少し開けた丘に立つ、大きな木の根元だ。どこに墓を作るかの話になった時に、アーキが一番良いと言った場所だった。
「ここにしよう……」
木の根元へ着き、アーキが場所を決める。振り返ると村が見える、良い場所だった。
遺品を入れる穴を掘りながら、アーキが言う。
「この場所は子供たちの遊び場で…、村の宴会とか祭りも…、楽しいことは、みんなここでやったんだ……」
だから―― みんなが楽しく逝けるようにと。
簡易的なお墓が完成した。みんな、花を手向けて手を合わせる。
最後にアーキが墓の前に立ち、僕たちは後ろで見守ろうとした。
「……アイン、となり、お願いできる?」
「分かった」
僕はアーキの隣に並んだ。
彼女は目を閉じ、手を合わせて語り出す。
僕も同じように手を合わせた。
「みんな…、あたし達の復讐は終わったよ。獣王が、みんなが終わらせてくれたよ……」
アーキは目を開き一歩前へ出て、優しく石碑を撫でる。
「みんなが生かしてくれたから、あたしは戻ってこれたよ……、ありがとう……」
しばらく撫でた後、アーキは僕の隣に戻る。
「父さん…、母さん…、エンジュ…、みんなっ……」
アーキの頬に、涙が溢れた――
それでも、彼女は一生懸命に笑う。
「あれ?…、おかしいな…、泣かないって、笑ってって、思っていたのにな……」
そんなアーキを見て僕は彼女の手を握る。ピクッとした後、彼女は強く手を握り返してくれ、「ありがと…アイン」と呟いた。少し表情も柔らかくなった。
「あたしは元気…だよ。あたしにも、帰る場所ができたんだよ……、だから、大丈夫だよ」
自分は平気だから心配しないでと、家族に報告する。
「それにね……」
アーキは横から僕を覗き込んで見つめる。
その頬の涙は止まり、微かに赤くなっていた。
それから、石碑へ向き直して言った――
「それに……、好きな人ができました――」
(え……、それって?)
その言葉で僕はアーキを見る――
僕の視線を彼女は、はにかんだ笑顔で迎えてくれて。
「大好きだよ……アイン」
アーキは僕の頬にチュッと口づけをして離れる。
「えへへ、これからもよろしくね!」
そう言ってみんなのところへ駆けていく彼女を、僕は頬を触れながらボーっと見守ることしかできなかった――
《第8章》獣王国編完となります。
ここまで『推しヒロインは俺が救う』を読んでいただき、本当にありがとうございます!
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