第68話 黒い灰
《アイン視点》
宰相のムースさんが何かを飲み込み、異形へ変化した。側近と思われる人たちも、違うところもあるけど異形へ変わり、会場に降り立った。
(これが、ケイが言っていたことか?)
チラリとティグリス王を見る。
(あっちは宰相を合わせて十二人。こっちはアーキの治療もあるし、動けて数人。でも、ティグリス王がいるから大丈夫か?)
「勇者よ……」
「はいっ! 半分くらいは相手してみせます!!」
「違うのだ、勇者よ」
「はい?」
「すまぬが俺は、ムースの相手で限界だ……」
「え!?」
僕は、弱気な発言をするティグリス王に驚き、凝視してしまう。
「そんな睨むな勇者よ。俺がさっき、アーキへ使った技の威力を見たろ? あれが、リスク無しで使えると思うか?」
(っ!……大技の反動――)
「そういうわけでな。今の俺はピンチなのさっ!」
ピンチと言いつつも歯を剥きだして笑うティグリス王は、本当に頼もしいと思えた。
(僕も負けてられないっ!!)
「了解です! 任せてください!!」
僕も笑って返す――
「いいねぇ、任せるぜぇ」
僕はティグリス王と拳を合わせる。
「アインっ!」
治療をしているエル以外は、全員がこちらに来た。
「アーキとエルの守りは?」
「アーキの意思よ……」
アーキを見ると、震える拳をこちらに向けて、心配するなと瞳で語っていた。
(……わかったよ、アーキ!)
「みんな! 僕たちは宰相以外を相手取る!!」
「「「「了解っ!!」」」」
(まずは分断させる!!)
僕は光の斬撃を放つ――斬撃はムースと側近の間を走った。
(よしっ!ティグリス王とムースだけにした!!)
「水の壁よ!!」
ラフィが僕の斬撃の軌道に合わせて、水壁を作成してくれる。ムースの下に行こうと側近たちが水壁を攻撃するが、柔らかくも固い水壁を破ることはできなかった。
「ごれを、どげろーー!!」
水壁の作成者、ラフィに側近たちのヘイトが集中する。
「ラフィを守るよ!みんな!!」
「まっかせて!あたいは突っこむ!!」
「支援しますぅ!!」
「私が防御する、行きたまえ!」
「よろしく!私は壁に集中する!」
何人かは水壁を攻撃し続け、六人がラフィへ向かってきた――
一人目とウリエが激突する――彼の元は猪獣人だったようで、禍々しい角をこちらに向けて突っこんでくる。しかし、ウリエにとっては的でしかなくて……。
「せいや!!」
巨大な両手斧である進化の斧。その斧頭で思いっきり頭を殴りつけた。
ゴォーーン!!
「ギュピィ」
猪獣魔人は白目を剥いて、鼻や口から血を吐いて倒れた。
その左右から飛び出してきたのは、鳥魔獣人が二名。普通は羽毛であろう両翼が、ギザギザの針のような鋭さを持った羽に変わっていた。低空飛行のままラフィへ向かおうとするが……。
「「ギャギャギャギャ!!」」
「行かせないぃ!!」
セラフの風魔法によってギザギザの両翼をズタズタにされて、勢いのまま顔面から落下してピクピクとしか動かなくなった。
最後に向かってきたのは、元犬獣人の犬魔獣人が三名。黒目が血走り、涎を垂らして、何本あるか分からない本数へ増えた牙で、威嚇しながら走ってくる。
「ラフィには触れさせない――」
僕は光を纏う。
「乱閃光!!」
光になった僕は、まるで光が乱反射するかのような軌道で斬撃をあびせた。
僕が止まったと同時に、多数の斬撃を受けた三人はその場に倒れた。
同志を次々に倒された残りの五人は、水壁を諦めて僕たちの方へ向いた。
(残りは全員が鼠魔獣人か……)
確かに変化による強化は驚異的だったけど、元の戦闘力の低さがあるのだろう。今の強化程度なら、十分に対応可能な範囲だった。
(何よりも……、僕たちはここで、さらに強くなったんだ!!)
「……ゆうじゃ!! ごろず!!」
「来いっ!!」
強化されて素早いが――僕の方が何倍も速い!!
光を纏い、剣に光を収束する――
(閃光――連っ!!)
光の流星群が彼らを襲う……、光の輝きが消えた時には、五人は地に倒れていた。
(よし、ティグリス王はどうだろうか?――)
そう思って振り返ろうとすると――
「「「「ガアアアア!!」」」」
倒したはずの彼らが、急に覚醒して苦しみだす――血の涙を流し、口からは泡を吹き出していた。
(なっ!なにが!?)
「「「「アアァァ…………」」」」
目を見開き、口を大きく開け、苦悶の表情のまま彼らは動かなくなった……。
そして――彼らが異形であった角や羽や黒目の部分などが全て、黒い灰になって消えていった……。そのまま、元の身体の方も全て、灰になってしまった。
「え?…………」
僕たちは困惑したまま、何も無くなった場所を、彼らがいた場所を、呆然と眺めていた。
◇ ◇ ◇
《ティグリス視点》
「ハア、ハア、ハア……、弱体化していても、この強さですか……」
「これでも七大聖王の一角だからなっ!」
異形に変わったムースは強くなっていたが――それでも俺との戦闘で片腕は吹き飛び、羽もボロボロ、息も絶え絶えで立っているのがやっとな状態だった。
「降参する気はないか?」
「ガフッ……、あるわけが……ないだろうがっ!!」
ムースは殴りかかってくるが、その動きは遅く……。
「ふんっ!!」
俺の剛腕で吹き飛ばす。
壁まで吹っ飛んだムースは、もう動くことができないのか、壁にもたれかかったまま俺を睨んでいた。
俺はゆっくりとムースの側まで行き、目の前に座り問う。
「……何で、こんな事をした?」
「ハァ、ハァ……、お前にはわからない悩みだ」
「お前が暗躍しているのは知っていた……、黒猫族のも、お前なんだろう?」
「……ああ、必要な、犠牲だった……」
「なぜ……」
俺は怒りを抑え込んで再び問う。
「ハァ、ハァ…、弱者の…、救済のための…、犠牲さ……」
「その犠牲は必要だったのか!?」
俺は視線の端の、アーキを見る。
「お前が宰相として良くやっているのは認めていた。弱者のためにと頑張っていたのも知っていた。実際に救われたものが多いのも知っている……」
「…………」
「だがっ!黒猫族の犠牲は違うだろう!!」
ムースの変身は解けかけており、身体の至るところから黒い灰が舞っていた。そんな状態で血を吐きつつ、嘲笑してから言った。
「……ガフッ、……だからお前は強者なんだよ」
「なんだと!?」
「ハァ、ハァ……、弱者が……、方法を……、選べるわけないだろぉ?」
(弱者が選べる選択肢……)
「ハァ、ハァ、せいぜい…、頑張るん、だな…、お前に…、弱者は、救えないだろうが、な……」
「……いいや、俺は皆が笑える国にするさ。俺のやり方でな――」
ムースは目を見開き、血走らせて叫ぶ。
「ふざけるなぁ!! お前にはできないい!! できてたまるかあ!! ゴハッ!!」
「やってやるさ。……獣王として、誓おう」
俺の言葉に、ムースは驚き目を閉じる――そして、口元が緩んだ。
「ああ……、そうかよ……、期待は、しない……」
ムースは全てが灰になって消えるまで、血の涙を流しながら微笑んだままだった。
(……俺は、やり遂げるぞ。必ずだ――)
獣王国の強者至高主義に翻弄されたムースやその仲間たち。彼らが行ったことは許せないが、弱者を救済しようとする想いは間違っていなかった。
俺はこの問題と、正面から向き合う決心をするのだった――




