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【第一部完結】推しヒロインは俺が救う  作者: 白永央はひな
《第8章》獣王国編

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第68話 黒い灰

《アイン視点》

 宰相のムースさんが何かを飲み込み、異形へ変化した。側近と思われる人たちも、違うところもあるけど異形へ変わり、会場に降り立った。


(これが、ケイが言っていたことか?)


 チラリとティグリス王を見る。


(あっちは宰相を合わせて十二人。こっちはアーキの治療もあるし、動けて数人。でも、ティグリス王がいるから大丈夫か?)


「勇者よ……」

「はいっ! 半分くらいは相手してみせます!!」


「違うのだ、勇者よ」

「はい?」


「すまぬが俺は、ムースの相手で限界だ……」

「え!?」


 僕は、弱気な発言をするティグリス王に驚き、凝視してしまう。


「そんな睨むな勇者よ。俺がさっき、アーキへ使った技の威力を見たろ? あれが、リスク無しで使えると思うか?」

(っ!……大技の反動――)

「そういうわけでな。今の俺はピンチなのさっ!」


 ピンチと言いつつも歯を剥きだして笑うティグリス王は、本当に頼もしいと思えた。


(僕も負けてられないっ!!)


「了解です! 任せてください!!」


 僕も笑って返す――


「いいねぇ、任せるぜぇ」


 僕はティグリス王と拳を合わせる。


「アインっ!」


 治療をしているエル以外は、全員がこちらに来た。


「アーキとエルの守りは?」

「アーキの意思よ……」


 アーキを見ると、震える拳をこちらに向けて、心配するなと瞳で語っていた。

(……わかったよ、アーキ!)


「みんな! 僕たちは宰相以外を相手取る!!」

「「「「了解っ!!」」」」


(まずは分断させる!!)


 僕は光の斬撃を放つ――斬撃はムースと側近の間を走った。


(よしっ!ティグリス王とムースだけにした!!)


「水の壁よ!!」


 ラフィが僕の斬撃の軌道に合わせて、水壁を作成してくれる。ムースの下に行こうと側近たちが水壁を攻撃するが、柔らかくも固い水壁を破ることはできなかった。


「ごれを、どげろーー!!」


 水壁の作成者、ラフィに側近たちのヘイトが集中する。


「ラフィを守るよ!みんな!!」

「まっかせて!あたいは突っこむ!!」

「支援しますぅ!!」

「私が防御する、行きたまえ!」

「よろしく!私は壁に集中する!」


 何人かは水壁を攻撃し続け、六人がラフィへ向かってきた――


 一人目とウリエが激突する――彼の元は猪獣人だったようで、禍々しい角をこちらに向けて突っこんでくる。しかし、ウリエにとっては的でしかなくて……。


「せいや!!」


 巨大な両手斧である進化の斧。その斧頭で思いっきり頭を殴りつけた。

 ゴォーーン!!


「ギュピィ」


 猪獣魔人は白目を剥いて、鼻や口から血を吐いて倒れた。

 その左右から飛び出してきたのは、鳥魔獣人が二名。普通は羽毛であろう両翼が、ギザギザの針のような鋭さを持った羽に変わっていた。低空飛行のままラフィへ向かおうとするが……。


「「ギャギャギャギャ!!」」

「行かせないぃ!!」


 セラフの風魔法によってギザギザの両翼をズタズタにされて、勢いのまま顔面から落下してピクピクとしか動かなくなった。 

 最後に向かってきたのは、元犬獣人の犬魔獣人が三名。黒目が血走り、涎を垂らして、何本あるか分からない本数へ増えた牙で、威嚇しながら走ってくる。


「ラフィには触れさせない――」


 僕は光を纏う。


「乱閃光!!」


 光になった僕は、まるで光が乱反射するかのような軌道で斬撃をあびせた。

 僕が止まったと同時に、多数の斬撃を受けた三人はその場に倒れた。


 同志を次々に倒された残りの五人は、水壁を諦めて僕たちの方へ向いた。 


(残りは全員が鼠魔獣人か……)


 確かに変化による強化は驚異的だったけど、元の戦闘力の低さがあるのだろう。今の強化程度なら、十分に対応可能な範囲だった。


(何よりも……、僕たちはここで、さらに強くなったんだ!!)


「……ゆうじゃ!! ごろず!!」

「来いっ!!」


 強化されて素早いが――僕の方が何倍も速い!!


 光を纏い、剣に光を収束する――


(閃光――連っ!!)


 光の流星群が彼らを襲う……、光の輝きが消えた時には、五人は地に倒れていた。


(よし、ティグリス王はどうだろうか?――)


 そう思って振り返ろうとすると――


「「「「ガアアアア!!」」」」


 倒したはずの彼らが、急に覚醒して苦しみだす――血の涙を流し、口からは泡を吹き出していた。


(なっ!なにが!?)


「「「「アアァァ…………」」」」


 目を見開き、口を大きく開け、苦悶の表情のまま彼らは動かなくなった……。

 

 そして――彼らが異形であった角や羽や黒目の部分などが全て、黒い灰になって消えていった……。そのまま、元の身体の方も全て、灰になってしまった。


「え?…………」


 僕たちは困惑したまま、何も無くなった場所を、彼らがいた場所を、呆然と眺めていた。



◇ ◇ ◇

《ティグリス視点》

 

「ハア、ハア、ハア……、弱体化していても、この強さですか……」

「これでも七大聖王の一角だからなっ!」


 異形に変わったムースは強くなっていたが――それでも俺との戦闘で片腕は吹き飛び、羽もボロボロ、息も絶え絶えで立っているのがやっとな状態だった。


「降参する気はないか?」

「ガフッ……、あるわけが……ないだろうがっ!!」


 ムースは殴りかかってくるが、その動きは遅く……。


「ふんっ!!」


 俺の剛腕で吹き飛ばす。

 壁まで吹っ飛んだムースは、もう動くことができないのか、壁にもたれかかったまま俺を睨んでいた。

 俺はゆっくりとムースの側まで行き、目の前に座り問う。


「……何で、こんな事をした?」

「ハァ、ハァ……、お前にはわからない悩みだ」

「お前が暗躍しているのは知っていた……、黒猫族のも、お前なんだろう?」

「……ああ、必要な、犠牲だった……」

「なぜ……」


 俺は怒りを抑え込んで再び問う。


「ハァ、ハァ…、弱者の…、救済のための…、犠牲さ……」

「その犠牲は必要だったのか!?」


 俺は視線の端の、アーキを見る。


「お前が宰相として良くやっているのは認めていた。弱者のためにと頑張っていたのも知っていた。実際に救われたものが多いのも知っている……」

「…………」

「だがっ!黒猫族の犠牲は違うだろう!!」


 ムースの変身は解けかけており、身体の至るところから黒い灰が舞っていた。そんな状態で血を吐きつつ、嘲笑してから言った。


「……ガフッ、……だからお前は強者なんだよ」

「なんだと!?」

「ハァ、ハァ……、弱者が……、方法を……、選べるわけないだろぉ?」


(弱者が選べる選択肢……)


「ハァ、ハァ、せいぜい…、頑張るん、だな…、お前に…、弱者は、救えないだろうが、な……」

「……いいや、俺は皆が笑える国にするさ。俺のやり方でな――」


 ムースは目を見開き、血走らせて叫ぶ。


「ふざけるなぁ!! お前にはできないい!! できてたまるかあ!! ゴハッ!!」


「やってやるさ。……獣王として、誓おう」


 俺の言葉に、ムースは驚き目を閉じる――そして、口元が緩んだ。


「ああ……、そうかよ……、期待は、しない……」


 ムースは全てが灰になって消えるまで、血の涙を流しながら微笑んだままだった。


(……俺は、やり遂げるぞ。必ずだ――)


 獣王国の強者至高主義に翻弄されたムースやその仲間たち。彼らが行ったことは許せないが、弱者を救済しようとする想いは間違っていなかった。

 

 俺はこの問題と、正面から向き合う決心をするのだった――


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