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推しヒロインは俺が救う  作者: 白永央はひな
《第1章》 少年~入学前編

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第6話

 神殿から少し離れた、石畳の路地裏。

 俺たちは人の気配が無いのを確認してから、足を止めた。


「……ここまで来れば大丈夫かな」


 手首を掴んだままだったことに気づいて、慌てて離す。


「っごご!……、ごめん!!」


 彼女は一歩距離を取って、じっと俺を見ていた。

(少し背が小さいかな? いや、こんなものかな? この可愛い過ぎる顔……、

間違いない……)

 ――シルファ・サタン。

 綺麗な赤髪ショートボブ。

 強い意志を宿した灼眼。

 魔王の娘にして最強クラスの魔法使い。

 俺が救いたい隠しヒロインの二人目だ。


「さっきは完全に虚をつかれたわ……、人族にしては随分と手際がいいわね?」

「そ、そ、そうかな?」

(生シルファの尊さがハンパなくてぇ!ど、ど、どもってしまうぅぅ!!)


 今の俺は完全にテンパっていた。

(落ち着け〜、落ち着け〜俺〜。……イレギュラーも二回目だろう、俺ならできる〜、鼻息を抑えるんだ〜)

 シルファは少し引きながら……。


「あなた……、私の正体分かってるんでしょう?」

「まぁ……、だいたいは」


 曖昧に笑って誤魔化す。

 シルファはため息をついた。

(誤魔化しは難しいか……)


「……やっぱり。はぁ、最悪……」

「えっ? 俺が!?」

(ガン見かな!? 手汗かな!? 鼻息かな!?)


「違うわよ! 私のせいで魔王軍が活動してるってバレたからよ」


 ぷいっと横を向いて頬を膨らませている。

 なぜかアホ毛が感情に合わせて動くし……。


(こんなに可愛い生き物って!! この世に存在するんだっけ!?)


 鼻血が出そうになり、顔に手を当て上を向く。


「そうよね、魔王軍の情報なんて大事、あなたみたいな子供が知りたくなかったでしょうね?」


「…………」 

(もう少して鼻血を抑えられる! 危なかった…)


「でも――」


 視線を戻すと。シルファは俺の方を睨めつけていた。


(なんでか怒ってる!? 鼻血出そうになったのバレた!?)


「知られた以上はっ!! あなたを帰すわけにはいかない!!」


 シルファが距離を取ろうとした瞬間――


「ちょっと待ってくれ!!」


 俺は空いている手を上に挙げて“降参“ポーズを取る。……片手はまだ鼻から離せない。


「私なんか、片手で十分ってことかしら? 舐められたものね?」

「違う違う! これは降参ってこと! 誰にも言わないから見逃してくれないかな?」

「それが……、通るとでも?」

「君は魔法使いだよね? 近接戦闘は、恐らく俺が強い。そして、こんな路地裏で高威力の魔法なんか使ったら……、わかるよね?」

「…………」

「俺を信じてくれないかな?」


 片手は離せないが、俺は精一杯の誠意を瞳に込めてシルファを見る。


「分かったわ……。でも、バレたら必ずあなたを殺しにくるわ!!」

「え!? 会いにきてくれるの!?」

「私はこないわよ!!」

「そんなぁ……」


 シルファは少しずつ距離を取り、そのまま闇に消えて行った。

 俺は彼女が消えた闇を見つめて思う。


(その時がきたら、君を必ず救いに行くよ――)



◇ ◇ ◇

 イレギュラーでもシルファに会えた事実に俺は、嬉しさのあまりスキップしながら神殿へ戻った――


「ケイ!!」


 聞き慣れた声に視線を向けると、アインが駆け寄ってきた。


「どこ行ってたんだよ! 急にいなくなるから!」

「ごめんごめん、ちょっとな」


 アインがジッと俺を見る。とても視線が鋭い。


「……なんか、あったろ?」

「まぁ……、あったと言えば、あった」


 誤魔化していると、別の足音が近づいてきた。


「まったく、目を離したらすぐにこれなんだから」


 聞き覚えのある声。

 振り向くと、そこにいたのは――


「姉さん!」


 綺麗な黒髪は胸のあたりまであり、背も伸びてスタイルも女性らしくなっていた。

 『剣聖』らしい凛とした雰囲気で、可愛いから綺麗へバージョンアップしていた。

 さすが姉さんマジすごい!でも、笑顔はいつも通りで安心した。


「洗礼式、見てたわよ」

「え~と、どこから?……、全部?」

「全部」

(クネクネしてたのもかあああ……)


 俺は本気で泣きたくなった……。



 三人で落ち着けそうなカフェに移動した。

 姉さんが奢ってくれるとのことで、ありがたく注文させてもらう。


「アインは私と同じ学園にくるのでしょ?」

「うん。推薦が決まった」


 そうだよな。『光の守護者』だし、主人公だし。

 そして二人の視線が俺に向く。


「俺は推薦されないよ、不明なジョブだしね」

「……そっか」


 アインが何かを言いたそうに、少しだけ眉を下げた。

(本当、良いやつだな。自分自身の使命感と、俺も一緒って約束で悩んでるんだろうな~)


 悩むアインを他所目に、チラッと姉さんを見ると― “どうせ何とかするんでしょ“って顔で俺を見ていた。

(姉さんの信頼に応えない弟はいないよな!!)


「でもさっ――」


 俺は笑って続きを話す。


「エイユウ学園は、一般入試で入るよ」

「え?」

「エイユウ学園に合格して、二人と一緒に学べるように頑張るよ!」


 一瞬の沈黙。

 

「……ケイなら大丈夫だ」


 アインの表情が和らいだ。


「そうね、ケイならできるって思うわ。だってケイだもの」


 二人の信頼が嬉しくて、ちょっとニヤけてしまった。


 姉さんは、拳を俺の胸に当てて告げた――


「ケイ、今度こそよ。エイユウ学園で、待っているわ。必ずきなさい!」

「僕も待ってるよ! ケイ!」

「ああ、今度こそ必ず!」


(どちらにせよ、エイユウ学園へ入学することは絶対だ。入学できなければ推しヒロインを救済するイベントに参加できないからな!! それに――)


 俺は二人の視線を正面から受ける――


(今日、二人とも約束もしたからな!!)


 別に世界に必要とされる存在でないのは分かっている。それでも俺は行く。

 ――エイユウ学園へ。



◇ ◇ ◇

《シルファ視点》

 『光の守護者』が誕生したあの日から数週間たった。 

 魔王城はいまだに慌ただしい―― 

 それはそうだ、『光の守護者』は歴代の魔王を倒してきた存在。

 私たち魔王軍にとっては死活問題だ。 

 でも勇者はまだ少年、旅立ちの日まで時間があるだろう。 

 幸いなのは最速で誕生を知れたこと――対策を立てる時間を最大限持つことができた。


 私は自室で魔導書を読みながら魔王である父へ、あの子たちの報告をしたことを思い出す――


「……というのが私の勇者への評価です」

「ふむ、そうか……」


 私が見て感じた評価をそのまま伝えると、父は情報を吟味している様子だった。


「その他にも、脅威となりそうな少年がいました。勇者と同じ日に洗礼を受けた子なのですが、魔力制御や身体能力が異常で……」

「希少なジョブなのか?」

「いえ!?聞いたことないジョブでした……」

「名は何と言うのだ?」

「それも、わからないです……」

「そうか……」


 そんな何も分からない状態の報告しかできなかった――



(ハァ、混乱していたけど……、あの子の情報は私が見て感じた印象だけなんてね……)


「あの時は勇者を観察してたから、神官が呼んだ時の名前も聞いてなかったのよね……」


 一人で言い訳を言ってみる……。 

(あの時の私はダメだったわね……、でも……)


 あれから魔王軍は各地に偵察部隊等を派遣しているけど、魔王軍が暗躍しているという情報が噂の一つも入ってこない……。


(言わないって約束を、守ってくれてるんだ……)


 自然と口元が少し緩んでしまう。


(信じられる人族もいるのね……)


 でも、私は魔王の娘にして、魔王軍幹部の一人、

 次に会った時は敵同士よね……。

(会いたくはないけど……、会うことになる気がするわ……)

 

 窓の外、人族の国がある方向、綺麗な夜空を見ながら……、

 私はそんなことを想った――


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