第5話
俺とアインは十五歳になった。
神殿はいつもより騒がしかった。理由は簡単で今日が洗礼式だからだ。
石造りの天井に、ざわめきが反響している。
この領に住む十五歳を迎えた者が皆集まり、どんな“ジョブ”を授かるのかと期待と不安でいっぱいになっている日だ。
俺たちは列の後方で、アインの後ろに俺は立っていた。
(辺境伯領の中でも、更に辺境の村だから最後なのか!?)
一瞬そんな理不尽な気持ちも浮かんだが、そういえばゲームでもアインが締めだったと思い出す。
(あれ? アインの後ろの俺って何?……)
実は正直、落ち着かないのだ。だから、どうでもいいことを考えてしまうのだろう……。
アインの方をちらりと見ると、いつも通りの真面目な顔をしていた。
「アイン、緊張してないのか?」
「……少し。でも、ケイがいるからさ」
そう言って、笑った。
(この天然イケメンさんめ!! 女子だったら惚れてまうやろ!?)
◇ ◇ ◇
同世代の子たちの一喜一憂する姿と共に、着実に列は進んでいった。
そして、ついに――
「アイン・アマテ」
アインが呼ばれる。
アインは背筋をピンと伸ばして綺麗な姿勢で歩き、洗礼の台座への階段を登り、その中央に立つ。
神官が祈りの言葉を唱え、大水晶が淡く光った。
そして、今までとは違う変化が現れる――
眩い光が、神殿を満たした。
「……っ!」
神殿内が清らかな空気に包まれる――
光は、剣の形を描くようにアインの背後に集まり、そして――
「――光の……守護者……」
目を見開いた神官の震える声が――神殿に響いた。
一瞬の静寂。
次の瞬間――神殿が、揺れた。
――『光の守護者』
過去、このジョブを授かった者たちは、必ずその時代の魔王を討ち滅ぼしてきた。
つまり、この世界にとっての――『勇者』
(……知ってはいたけど……すげぇな、アイン)
隣に立っていたはずの幼馴染は、いつの間にか“歴史の中心”に立っていた。
アイン本人は、少し驚いた顔をしてから、困ったように笑った。
◇ ◇ ◇
アインがジョブ、『光の守護者』を神授された衝撃は収まることが無かった。
(神殿の出入り口から何人も走り去っている。各国の偉い人に報告しに行ったんだろう。まぁ、一大事だよなぁ……)
周りをグルッと見てみる……。
これから世界は大きく動き出すって空気だ……。みんな期待や希望の瞳をアインに向けている。
(わかる、わかるよ……、でもさ――)
この後に洗礼を受ける俺、めちゃくちゃ気まずくない?
しばらくの後、神官が助手の人に言われて思いだしたかのように俺の方を向いた。
「次……、ケイ・ツクヨミ」
(あの神官絶対忘れてたろ?俺のこと……)
視線が、痛い――
さっきまで『勇者』を見ていた目が、今度は俺に向く。
(比較しないでぇ、やめて……)
台座に立つと、神官が同じように祈りを捧げる。
大水晶が光り――
(……あれ?)
――光らなかった。
(どんなジョブも光ってたのに!?)
しかし、大水晶に文字が浮かぶ――
《アップデート中、しばらくお待ちください》
「「…………」」
神官と目が合う。
「え……えぇ、ゴホンッ、あー、うん」
神官の目が、見たことないくらい泳いでいる。
「アップ?……デート、ちゅう、しばらくお待ちくださぃ」
「「「「……???」」」」
――静寂が神殿を支配した。
ヒソヒソと周りの人々が話し始める。
「何だ、それは」「聞いたことがないぞ」
「アップなに?」「故障ですの?」
誰かが、くすっと笑った。
失笑が、じわじわと会場中に拡がる。
(……あー……)
チラッとステータス確認してみると――
ジョブ:創作者
(……ゲームには無かったジョブか)
創作魔法取得による俺のユニークジョブ……、アップデート。
つまり――世界側が、まだ追いついていないということ。理解はできるし、別にショックもない。
ただ――
(恥ずかしい……っ!!)
顔が熱い。視線を上げられない。
羞恥で身体をクネクネさせてしまう。
そんな時だった。
「――ぷっ!」
誰かが、はっきりと吹き出した。え?と思って顔を上げる。
視線の交わった先にいたのは――
◇ ◇ ◇
《???視点》
私は魔王の密命でこんな辺境に来ていた。
魔王が、「とても強い光の気配を感じる」とか適当なこと言って、人使いが荒いよ!と思っていたんだけど――
(本当に『光の守護者』が現れるなんて……)
フードを深く被り自身の顔が見えないようにしつつ、『光の守護者』をよく観察する。
(たしかにすごい強力な魔力ね。魔力制御も洗練されているし、身体の動きも良い。悔しいけど強い……。今後、成長したらと思うと脅威ね……)
「次……、ケイ・ツクヨミ」
(え?まだいたのね……。勇者の後じゃ誰も見てないわよね、可哀想に……)
そんなことを思い、呼ばれた可哀想な子を見ると、目が離せなかった――
(あれは……、何?)
普通は誰だって、何にだって、多少は魔力がある。
でも――その子からは魔力が全く感じられなかった。
(どういうこと?)
そして”ジョブ”が発表される――
「アップ?……デート、ちゅう、しばらくお待ちくださぃ」
(…………何それ?)
意味が解らず困惑していると、周りもそんな雰囲気だった。
しばらくの静寂の後。
一人が失笑もしくは嘲笑したのを皮切りに、神殿中に拡がっていく悪意――
私は俯いたまま、歯を食いしばる。
(人族のこういうとこが、やっぱり嫌いよ!!)
こんな悪意に晒されて、あの子は大丈夫なのかと心配になって見てみると――
(えっ!?)
顔を両手で隠し恥じらいながら、身体をくねくねと動かしていた。
思いもよらない反応を見て私は――
「――ぷっ」
敵地での作戦行動中だというのに、おもいっきり吹き出してしまった。
そして、その子と視線が交わった――
(やばっ!!)
慌てて視線を逸らし俯く。
目立ってなかったか心配で、もう一度だけ視線を上げる……。
(あれ?)
壇上にいたはずの、あの子が消えていた。
不思議に思っていると――
「何で君がここに?」
――背後から声がした。
全身が震えた(いつの間に!?)
手首も捕まれている(逃げられない!)
恐ろしくて振り向くことも、声を出すこともできない。
(どうやって!?いつの間に!?勇者どころじゃない、この子の方が化け物だ!!)
身体が緊張で硬直している。
(今なら解る……魔力が無いんじゃない、完全制御してるんだ――)
「大丈夫、君に危害を加えるつもりはないよ」
(そんなわけないだろう!!口ぶりから私の正体も解ってそうだし!!こんなに手首も強く握って!!――ん?)
あまり強く握られてなかった……。
むしろ優しい感じ?
ちょっと手汗がすごいけど……。
「とにかく目立つのはお互いまずいから行こう。安心して、俺が君を安全な所まで連れて行くから」
振り向いて顔を確認する、やはりさっきの子だった。
でも――目が血走っていて、鼻息も荒くて、正直言ってとても怖いけど……。
私には選択肢がなかった。
(全然安心できないわ……)
こうして私たちは、人知れず神殿から出て行った――




