第66話 悲劇が生んだ悲劇
《ムース視点》
私はアニム獣王国の宰相をしている、ムース・ラットだ。
この国には大きな歪みがある。
それは――
強さ至上主義
今回の獣王決定戦でも分かる通りに、”最強”が王となって国を運営する……。バカなのか!と言いたい。脳筋に国の運営ができるものか!! だから私のような知恵の働く種族の者が、サポートしている形なのだが。
「まだ……、起きているのか……」
私は怒りで、報告書を握り潰した。
(十年頑張っても……、無くならないのかっ!!)
報告書は”行方不明者”に関する報告だった。去年の件数に比べても、少ない人数ではなかった。
獣人やエルフはその見た目から、裏社会での奴隷価値が高かった。そのため、獣人を攫おうとする闇組織は多く、私はその撲滅のために宰相になってからずっと活動をしてきたのだ。
「私は……、私はこれの根絶のためにっ!!――」
(――非道なことも、やってきたのだぞ!!)
現獣王は私に采配を任せてくれているので、自分の思う通りに対策を実行してきた。巡回兵の配置、種族間の情報伝達方法の確立、首都アニムに獣人族がなるべく集まるようにも調整した。
「現獣王以前よりは明らかに減少した、させた!……しかしっ!」
(――根絶できないっ!!)
「……どうすれば、いいと言うのだ」
天を仰ぎ、両手で顔を覆う。
その時――指の間から、”あいつら”が置いていったケースが目に入った。
私はケースを手に取り蓋を開ける――
「これを使えば……」
手に取ったのは、“弱い者でも強くなれる薬”。
魔族どもが置いていった薬。
私はあいつらが魔族だと知っている。人類の敵であることも知っている。それでも私には、必要な力だった。
(私自身に、力が無いのだから……)
「……あの最悪な時代に戻さないために――」
◇ ◇ ◇
現獣王になるまで、獣王国は長い期間”竜人族”が獣王に着いていた。
竜人族は古武道肌で頭が固い者が多く、特に獣王になる強者ほど頑なだった。当時の宰相だった私の父は「これでは国の意味を成さない」と、いつも嘆いていたのだった。
私たちのような戦闘力として強くない鼠人族や兎人族、羊人族や猿人族、そして鳥人族などは竜人族からしたら煩わしい一族だったようで、形として一緒にいるだけの印象だった。
それぞれの種族で得意不得意があり、むしろ国の運営という意味であれば、私たちの方が重宝されるべき存在であったと言えた。
長い竜人族の獣王時代によって、徐々に国として衰退してきていた時に、不幸な事件が起きた。
私の父が処刑された。前獣王、ジルド・レドラゴによって。
罪状は不敬罪。
父はただ宰相として国の危機を感じて、さまざまな対策案を訴えていただけなのに……。
私たち家族の悲痛を考えもせず、ジルドは私を次の宰相にした。
理由は無かった。「鼠人族が宰相ならいいのだろ?」と、当時一番明晰だった私を起用しただけだった。自分が処刑した息子だということも知らずに……。
家族は猛反対したが、私は宰相になることを選んだ。これ以上に国を悪くするわけには行かないと思ったから……。母や妹が住むこの国を……。
当時は獣人の人攫いが首都内であっても多発しており、ジルドに何度も進言していた。しかし、やつの答えはいつも――
「弱いのが悪いんだろ?」
それだけだった……。
そしてまた、私にとっての悲劇が起こる――
その日、急報を受けた私は胸が苦しいのを気にせず走った。
(嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ…………)
頭の中はその言葉で埋め尽くされ、でもきっと報告は真実だと分かってしまう自分がいて。とにかく現場へ向かって走った――
現場に着いて見たのは――妹を庇って抱きしめる母と、その母に抱かれたまま動かなくなった妹だった。二人の身体には何か所も刺し傷があり、周りには血の池ができていた。
「我々が着いた時には……、申し訳ありませんっ!」
「……おそらく、人攫いの仕業ではないかと……」
(ああ……、見れば分かる。……クズが妹を攫おうとした時に、母が必死に庇ったから、逆上したクズがっ!!!!)
「…………二人を、丁寧に、運んであげて、くれ」
言葉に出せたのは、それが精一杯だった。
私は振り返り、歩き出す――
(もういい、もう許さない……)
それから私は王に感づかれないように、暗躍を開始する。
自分の采配で変えられるシステムや配置を変更、闇組織と関係を持ち、そして魔族ともコンタクトを取った。
(ちょうど今年は、獣王決定戦がある。あのクソ王には降りてもらう!)
天は私に味方していたのか、挑戦者に二人も強者がいた。
――虎人族のティグリス・タイガー
――黒猫族のニゲル・ビースト
「どちらが私にとって、扱いやすいか……」
私は熟考の結果、ティグリス・タイガーを推すことにした。
(ニゲル・ビーストは暗部の戦士。黒猫族は、やはり私の計画にとっての障害になるだろう)
そう考えた私は、黒猫族殲滅を実行した。
必ず実行できるように、魔族という強者への依頼を選んだ。一部の者しか知らない黒猫族の隠れ里の場所の提示、更に万全を期すために実力者のリストを渡し、彼らの文化として子供の誕生日に宴会をすること、直近に族長の双子が誕生祝の予定であることも、全て伝えた。
――こうして、”黒猫族の悲劇”は起こる。
「私は、私は、引き返せないのだっ!!」
弱き者が攫われるなら、強くなればいい――
私の思考はそこに帰結した。
魔族の薬を手に持ったまま、自身の側近を呼ぶ。
その数は、自分を含めて十二名。ちょうど薬と同じ数だった……。
◇ ◇ ◇
《ケイ視点》
決勝戦当日――
「そろそろかな? お前ら、準備は?」
旧黒猫族の隠れ里。その里を見渡せる岩山の上で、俺は三者三様に確認する。
「おけだよ~」
「大丈夫っす!」
「……いつでも」
「よし、行くぞ――」
そう告げ、俺は漆黒を纏った。彼女たちも各々のデザインの装備へ変化させる。
「俺が突入後に強制的に散らせる。各自対処してくれ」
「了解さっ」「了解っす」「……了」
俺は魔族が潜伏している廃屋へ、上空から思いっきり突っこむ――天井を貫いて。
ドガアアアア!!!!
「なんだ!?」「敵襲!?」
「なんなの!?」「気を引き締めな!」
砂煙の上に俺が完全に気配を消しているため、俺の存在に気づけていない様子だ。俺は潜伏したまま魔族たちの中心へ移動する。
(さあ、始めるぞ……)
俺は最弱の魔殺気を放つ――
魔族の反応は素早かった。全員が四方へ全力で距離を取り、そのまま外へ――
四人の内の一人、首魁と思われる男だけは俺が手を掴んで外へ出させなかった。
◇ ◇ ◇
《パリ視点》
(なんだっ!? なんなんだ!!)
急に天井が崩れたと思ったら、視界が悪い中で突然感じた死――
(とにかく、やばい!!)
恐怖で必死に窓を割って外に出ると、誰かが立って待っていた。
(羊のお面?……)
そいつは、全身が黒かった。意味不明な面に、長いサラサラな銀髪、それに鋭い角……、オーガ? しかし、女物の服を着てるしな……。
(とにかく!邪魔だっ!!)
「……死ね!」
「甘い……」
俺の放った雷撃魔法を、手に持った棒で絡め取られる。
(何だと!?)
「返す……」
やつは幽鬼のように揺らめいて消え――
「ぐはぁ!!」
いつの間にか目の前に現れたやつの棒が、俺の腹を打った。絡め取られた雷撃も流れ込んできて身体が痺れる。
(くそっ! 早く逃げないとっ!!)
痺れる身体を何とか動かそうと、必死にもがくが動かず……。
「……こいつ、冷静じゃない。簡単すぎる……」
振り上げたやつの棒が、俺の顔に向かって降り下ろされた――
◇ ◇ ◇
《サヴァ視点》
何をおいてもここから離れる――本能から儂は、壁をぶち破って外に出た。
「なんだ!? あの殺気は!?」
他の者たちも別の方向から外に出たようだ、とにかく離れて緊急時の集合地点へ――
しかし、走り出そうとしたその先に、一人のシスター?が立っていた。
(口元は隠されてて分からんが、長いまつ毛に大きな白色の瞳……、美人だな……)
「だが、遊んでる余裕はない……」
儂は背中の大剣を抜き、そのまま走り出す――
(すまんなシスター! 潔く散ってくれ!!)
ズガンッ!!
大きな音と共に、シスターの足元が割れる。それは、シスターの袖口から地面に落ちたとは思えないくらい大きな……。
(……鉄球!?)
「っ!! 関係ない!! ゴメンッ!!」
儂は走ったまま大剣を振り上げ、シスターへ降り下ろす――
その時、シスターの手がブレた気がした――
(あれ?……何で儂は空を見てるんだ??)
儂の意識は、そこで闇に落ちた……。
◇ ◇ ◇
《キャラ視点》
「ギャーーーーーーーー!!!!」
(死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ…………)
あたいは殺されるイメージでいっぱいになった。だから必死に、その場から離れる。
目の前に壁――
「邪魔ああああ!!」 ギャシュッ!!
あたいの得意魔法、闇食いで壁を食い破る。外が見えると、その先には一人の女が立っていた。
「あたいの逃げる道に立つなああああ!!」
「あ~、それは気持ち分かるわ~。あーしも前になったもんなぁ~」
何か言って女が腕を下した。
(知らない!! 死ね!!)
あたいは闇食いを発動しようとしたけど、できなかった……。熱くて、身体が熱くて、全身が燃えていたから――
「ギャーーーーーーーー!!!!」
あたいは最期まで、叫んでいた……。
◇ ◇ ◇
《ケイ視点》
俺は首魁のショーだけを廃屋から出さなかった。ちょっと聞きたいことがあったからだ。俺はショーの腕を掴んだまま問う――
「ショー、”魔王の雫”バージョン02は、できたのか?」
ショーは驚愕の表情になって「なぜそれを!?」と言った。反応してしまったことに表情を歪めたやつは、奥義である毒魔法を使用しようとする――
「それが分かればいい――」
ショーの首が落ちる。
(自爆毒魔法は厄介だからな。使わせるかよ……)
「そうか……。バージョン02が、今回投入されるのか……」
ゲームでは”魔王の雫”はバージョン03まである。その開発速度はランダムなんだが……。
(最速だな……)
俺はショーの遺体を処理、魔族の痕跡も抹消してから廃屋を出る。
「大丈夫か?」
「……余裕」
「はいっす!」
「問題ないさ~」
三人も処理は終えていた。俺は獣王国方面を見る、今からでも行こうと思えば間に合うが……。
「今のアインなら平気だろ」
俺はハードモードになったであろうメインストーリー側を、今回はアインに任せると決めた――




