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【第一部完結】推しヒロインは俺が救う  作者: 白永央はひな
《第8章》獣王国編

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第65話 撫でられるの好きなんだ

 獣王決定戦一日目


「間に合った〜〜」

「あ! ケイ君遅いさ〜、ギリギリだよ?」

「そうっすよ! アーキさん一試合目なんすから」

「モグモグ……、何か食べ物買ってきてくれた?」

「いや、もう食べてるじゃん。違うよ、コレ買ってきたんだ」


 俺はアインに付き合っていて採取に行けなかった、獣王国産の岩塩を見せる。露店土産で売っていて助かった。


「…食べられる?」

「食べられない!」

「……残念。モグモグ…」


 一緒に修行したアーキが獣王決定戦に出場するということで、俺たちも観戦に来ていた。

(明日は任務になるから、観戦させてあげられないしな……)


 明日の決勝で起こるイベントを知っている俺は、三者三様と共に暗躍予定だった。

 今回、少しだが指導をした身としては、アーキに頑張ってほしいと、強く願うところだ。


「みんなで仲間の応援をするかね!」


 俺はついでに買ってきていたリンゴ飴を三人に渡すと、とても喜ばれた――



◇ ◇ ◇

《アーキ視点》


「アーキ選手、入場して下さい」

「……了解」


 あたしは選手控室から、会場へ向かって歩き出す。


(恐竜迷宮の修行で、さらに強くなれた。今のあたしなら――)


 対戦表を確認したら、決勝まで進まないと獣王と闘えないと分かった。

 何かを知っているであろう獣王……、あたしは必ず勝ちあがる!


「では、ご健闘を」

「……はい!」


 暗い廊下から会場に出ると、眩しい光のために思わず目を覆ってしまった。

 そして――


 ウオオオッ!! 大歓声があたしを迎え入れる。


 獣人にとっての一大イベント。

 大きな闘技場の客席が、満員になっていた。


(初戦の相手は――)


 すでに舞台で待っている相手選手を見る。


(一回戦の相手は、竜人族の男性。たしか、前獣王の息子さんだとか……)


 昔は竜人族の一強時代が長かったそうだけど、現獣王の時代からは違ってきたみたい……。それでも古武人の一族といわれる、強者のはず……。


 あたしも舞台にあがり、彼と向き合った。


「……黒猫族?」

「はい……、生き残りです」

「そうか。まあ、強いかどうかしか、興味はないがな」

「確かに、そうですね」


 審判の猪獣人さんが、開始の合図をして良いかと待っていた。


「始めていいかね?」

「問題ない」

「はい」

「ではルールを。意図した殺しはダメだ、以上!」

(実に明快……)


「試合、開始!!」


 相手の武器は槍。開始と同時に自分の間合いへ移動、そこからの槍捌きは見事――


(あれ? こんなもの?)


 鍛錬と研鑽は見えた、でも圧倒的に身体能力が足りない……。


(アイナ会長と比べるから? でも、そうでなくても……)


「クッ!! ちょこまかとっ!――」


 そう言って距離を取った彼は、口を大きく開いた。


(あっ! あれがブレスの挙動では?)


 竜人族の奥義――ブレス。それは口から詠唱なく放つ魔力の奔流なのだけど……。


(まるで脅威じゃない……)


 あたしは瞬時に相手の懐に入った。驚いた彼が、慌ててブレスを放とうとするけど……。


(……遅いよ)


 あたしはタイミングを合わせて、顎に拳を叩きつける。収束した魔力が相手の口の中で爆発した。追加であたしの打撃を腹に叩き込むと、場外まで飛んでいった……。


「っ!? 勝者!! アーキ・ビーストっ!!」


「え?終わり?……」 ウオオオオオッ!!!!


 あたしは拳を突き出した格好のまま止まってしまい、大歓声を浴びながら固まってしまった。


(恥ずかしいっ!!)


 そっと手を下ろして、素早く舞台から去ったのだった――



◇ ◇ ◇

 準決勝もサクッと勝ったあたしは、アインたちと一緒にもう片方の準決勝を観戦していた。

 ティグリス・タイガー獣王と、キララ・タイガー先輩の親子対決だった――


「強い……」


 あたしの正直な感想だった。アインたちも同じ気持ちだったみたいで、あたしの呟きに頷いてる。


「ハアアアアッ!! 剛拳乱舞!! 剛爪乱舞!! 剛蹴乱舞!!」

「ワハハ!! 甘い! 甘い!!」


 魔武術の域に達しているキララ先輩の技の連打を、ティグリス王は片手で防いでいた。


「そらそらっ! いくぞっ!! 蒙獣乱舞っ!!」

「クソオオオ!!」


 キララ先輩の連打より強く、速く、魔力の収束も桁違いな暴力が、先輩を襲う。初めの何撃かは防いだけども、直撃を受けてしまい吹き飛ばされてしまった。

 そして、キララ先輩は立ち上がることができなかった……。


「勝者っ! ティグリス獣王!!」


 圧倒的な強さで決勝へ進んだティグリス獣王に、あたしは明日挑む――


「やっぱり強いなぁ、獣王」

「ケイ、観戦してたのかい?」


 ケイさんと、三者三様さんが来ました。


「アーキちゃん、決勝進出おめでとうさ~!」

「アーキさん、余裕だったっすね!」

「アーキちゃん、飴あげる……」

「ありがとです。でも決勝は厳しい闘いになりそうです……」


 まだ、舞台で他の獣人と話しているティグリス王を見る。


「まあ獣王は、『七大聖王』だからな~」


 そう、ティグリス王は大陸最強の七人、『七大聖王』の一人なのだ。


(だからって、逃げることはできない! 真実を知るためにも――)


 

◇ ◇ ◇

 決勝進出祝勝会と言われ、ケイさんや三者三様さんも一緒に祝ってくれました。会も終わり、自分の部屋に戻ったものの、気持ちが落ち着かなかったあたしは――


「……やっぱり、マズイかな?」


 アインの部屋の前に居ました。


(明日決勝だし、あたしの気持ちの整理が必要だし、いいよね?)


 言い訳を頭の中に並べて、アインのドアを叩く。


「アイン? ちょっといいかな?」

「ん? アーキかい?どうぞ――」

「ん……、失礼します」


 部屋に入ると休むところだったのか、薄着でラフな格好をしたアインがベッドに座っていた。


「あ~、アーキが嫌じゃなかったら、隣どうぞ?」


 あたしに自身の隣に座るよう勧めてくれる。確かに前みたいに向き合って正座する方が緊張する気がしたので、ありがたく座らせてもらう。


「それで、どうしたんだい?」


 そう言ってあたしを覗き込むアインが近くて、少し緊張してしまった。それが伝わってしまったみたいで……、「あっ!ごめん!」と距離を取られてしまう。


「……違う。ちょっと驚いただけ……、離れて、ほしくない……」

「あぁ、そう?」


 あたしの顔も熱いけど、アインの顔も赤くなっているように見えた。アインは静かに、あたしのすぐ横に座り直してくれた。


「何か、あったのかい?」

「本当はアインに甘えてばかりじゃ、いけないと思うんだけど……」

「うん」

「明日の決勝のことでね……、不安とかいろいろで、落ち着かないの……」

「そうだよね。僕もさ、ケイに言われたことがあってさ」

「ケイさんが?」

「明日の決勝は、僕たちも戦闘できるように準備して臨めって」

「え?」

「きっと、何かあるんだろうね……」

「何か……」

「試合はアーキが一人で闘うけどさ。この問題には、僕たちも全力で一緒に戦うから!」

「アイン……、ありがとう」


(なんでだろう……、アインの言葉には、勇気をもらえる……)


 気持ちが落ち着いたあたしは、アインの肩にもたれ掛かってしまう。


(アインの側に居ると、とても落ち着く……)


「アッ!? アーキ?」

(慌てるアインが可愛い……、セラフたちが構う気持ちが、分かっちゃったかも……)


「アイン」

「な、なに?」


 あたしは肩にもたれたまま、上目遣いでアインにお願いする。


「頭を撫でてくれる? あたし……好きだったんだ、父さんに大きな手で撫でてもらうのが……」

「っ!!……分かった」


 アインは驚きつつも、了解してくれた。


 そして、大きな手であたしの頭と耳を優しく撫でてくれる。


 あたしは目を閉じて、その手を受け入れた。


 いつの間にか、涙が零れていたけど……、アインはあたしの気が済むまでずっと、優しく撫で続けてくれた――



◇ ◇ ◇

《ショー視点》

 獣王国から少し離れた山間の廃村――かつて黒猫族の隠れ里だった場所にて。


「ショー様、やつは動きますかね?」

「パリ……、そのために毎回手紙にあの香りを付けたんだろ?」

「サヴァぁ~、ショー様は心配性なんだよぉ~」

「まあまあ、キャラもそう言ってやるな。ショー様の心配も分かるよ、最近我らのような秘密作戦部隊が次々に殺られているからね……」


 我々は獣王国方面の魔族研究部隊です。獣人は属性魔法が使えないが、身体強化はほぼ必ず使えると不思議が多い種族。

 そんな不思議な種族に目をつけた私は、研究をしたくて本国を何とか説得して、十年前の事件を起こしたんですが……、結果は惨敗。予想以上に抵抗が激しく、実験体の確保なんかできませんでした。


「まあ、いいです。今回は長い時間をかけて、対象の深層心理に働きかけてきたんですからね」


 手紙には欲望を強くする匂いを付け、手紙の内容も徐々に手段を問わない方向へ誘導していきました。きっと彼は、あの薬を使うでしょう……。


「明日は、私たちも混乱に乗じて実験体を確保しますよ?」

「「「了解です!」」」


 明日の決勝戦が楽しみですね――


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