第65話 撫でられるの好きなんだ
獣王決定戦一日目
「間に合った〜〜」
「あ! ケイ君遅いさ〜、ギリギリだよ?」
「そうっすよ! アーキさん一試合目なんすから」
「モグモグ……、何か食べ物買ってきてくれた?」
「いや、もう食べてるじゃん。違うよ、コレ買ってきたんだ」
俺はアインに付き合っていて採取に行けなかった、獣王国産の岩塩を見せる。露店土産で売っていて助かった。
「…食べられる?」
「食べられない!」
「……残念。モグモグ…」
一緒に修行したアーキが獣王決定戦に出場するということで、俺たちも観戦に来ていた。
(明日は任務になるから、観戦させてあげられないしな……)
明日の決勝で起こるイベントを知っている俺は、三者三様と共に暗躍予定だった。
今回、少しだが指導をした身としては、アーキに頑張ってほしいと、強く願うところだ。
「みんなで仲間の応援をするかね!」
俺はついでに買ってきていたリンゴ飴を三人に渡すと、とても喜ばれた――
◇ ◇ ◇
《アーキ視点》
「アーキ選手、入場して下さい」
「……了解」
あたしは選手控室から、会場へ向かって歩き出す。
(恐竜迷宮の修行で、さらに強くなれた。今のあたしなら――)
対戦表を確認したら、決勝まで進まないと獣王と闘えないと分かった。
何かを知っているであろう獣王……、あたしは必ず勝ちあがる!
「では、ご健闘を」
「……はい!」
暗い廊下から会場に出ると、眩しい光のために思わず目を覆ってしまった。
そして――
ウオオオッ!! 大歓声があたしを迎え入れる。
獣人にとっての一大イベント。
大きな闘技場の客席が、満員になっていた。
(初戦の相手は――)
すでに舞台で待っている相手選手を見る。
(一回戦の相手は、竜人族の男性。たしか、前獣王の息子さんだとか……)
昔は竜人族の一強時代が長かったそうだけど、現獣王の時代からは違ってきたみたい……。それでも古武人の一族といわれる、強者のはず……。
あたしも舞台にあがり、彼と向き合った。
「……黒猫族?」
「はい……、生き残りです」
「そうか。まあ、強いかどうかしか、興味はないがな」
「確かに、そうですね」
審判の猪獣人さんが、開始の合図をして良いかと待っていた。
「始めていいかね?」
「問題ない」
「はい」
「ではルールを。意図した殺しはダメだ、以上!」
(実に明快……)
「試合、開始!!」
相手の武器は槍。開始と同時に自分の間合いへ移動、そこからの槍捌きは見事――
(あれ? こんなもの?)
鍛錬と研鑽は見えた、でも圧倒的に身体能力が足りない……。
(アイナ会長と比べるから? でも、そうでなくても……)
「クッ!! ちょこまかとっ!――」
そう言って距離を取った彼は、口を大きく開いた。
(あっ! あれがブレスの挙動では?)
竜人族の奥義――ブレス。それは口から詠唱なく放つ魔力の奔流なのだけど……。
(まるで脅威じゃない……)
あたしは瞬時に相手の懐に入った。驚いた彼が、慌ててブレスを放とうとするけど……。
(……遅いよ)
あたしはタイミングを合わせて、顎に拳を叩きつける。収束した魔力が相手の口の中で爆発した。追加であたしの打撃を腹に叩き込むと、場外まで飛んでいった……。
「っ!? 勝者!! アーキ・ビーストっ!!」
「え?終わり?……」 ウオオオオオッ!!!!
あたしは拳を突き出した格好のまま止まってしまい、大歓声を浴びながら固まってしまった。
(恥ずかしいっ!!)
そっと手を下ろして、素早く舞台から去ったのだった――
◇ ◇ ◇
準決勝もサクッと勝ったあたしは、アインたちと一緒にもう片方の準決勝を観戦していた。
ティグリス・タイガー獣王と、キララ・タイガー先輩の親子対決だった――
「強い……」
あたしの正直な感想だった。アインたちも同じ気持ちだったみたいで、あたしの呟きに頷いてる。
「ハアアアアッ!! 剛拳乱舞!! 剛爪乱舞!! 剛蹴乱舞!!」
「ワハハ!! 甘い! 甘い!!」
魔武術の域に達しているキララ先輩の技の連打を、ティグリス王は片手で防いでいた。
「そらそらっ! いくぞっ!! 蒙獣乱舞っ!!」
「クソオオオ!!」
キララ先輩の連打より強く、速く、魔力の収束も桁違いな暴力が、先輩を襲う。初めの何撃かは防いだけども、直撃を受けてしまい吹き飛ばされてしまった。
そして、キララ先輩は立ち上がることができなかった……。
「勝者っ! ティグリス獣王!!」
圧倒的な強さで決勝へ進んだティグリス獣王に、あたしは明日挑む――
「やっぱり強いなぁ、獣王」
「ケイ、観戦してたのかい?」
ケイさんと、三者三様さんが来ました。
「アーキちゃん、決勝進出おめでとうさ~!」
「アーキさん、余裕だったっすね!」
「アーキちゃん、飴あげる……」
「ありがとです。でも決勝は厳しい闘いになりそうです……」
まだ、舞台で他の獣人と話しているティグリス王を見る。
「まあ獣王は、『七大聖王』だからな~」
そう、ティグリス王は大陸最強の七人、『七大聖王』の一人なのだ。
(だからって、逃げることはできない! 真実を知るためにも――)
◇ ◇ ◇
決勝進出祝勝会と言われ、ケイさんや三者三様さんも一緒に祝ってくれました。会も終わり、自分の部屋に戻ったものの、気持ちが落ち着かなかったあたしは――
「……やっぱり、マズイかな?」
アインの部屋の前に居ました。
(明日決勝だし、あたしの気持ちの整理が必要だし、いいよね?)
言い訳を頭の中に並べて、アインのドアを叩く。
「アイン? ちょっといいかな?」
「ん? アーキかい?どうぞ――」
「ん……、失礼します」
部屋に入ると休むところだったのか、薄着でラフな格好をしたアインがベッドに座っていた。
「あ~、アーキが嫌じゃなかったら、隣どうぞ?」
あたしに自身の隣に座るよう勧めてくれる。確かに前みたいに向き合って正座する方が緊張する気がしたので、ありがたく座らせてもらう。
「それで、どうしたんだい?」
そう言ってあたしを覗き込むアインが近くて、少し緊張してしまった。それが伝わってしまったみたいで……、「あっ!ごめん!」と距離を取られてしまう。
「……違う。ちょっと驚いただけ……、離れて、ほしくない……」
「あぁ、そう?」
あたしの顔も熱いけど、アインの顔も赤くなっているように見えた。アインは静かに、あたしのすぐ横に座り直してくれた。
「何か、あったのかい?」
「本当はアインに甘えてばかりじゃ、いけないと思うんだけど……」
「うん」
「明日の決勝のことでね……、不安とかいろいろで、落ち着かないの……」
「そうだよね。僕もさ、ケイに言われたことがあってさ」
「ケイさんが?」
「明日の決勝は、僕たちも戦闘できるように準備して臨めって」
「え?」
「きっと、何かあるんだろうね……」
「何か……」
「試合はアーキが一人で闘うけどさ。この問題には、僕たちも全力で一緒に戦うから!」
「アイン……、ありがとう」
(なんでだろう……、アインの言葉には、勇気をもらえる……)
気持ちが落ち着いたあたしは、アインの肩にもたれ掛かってしまう。
(アインの側に居ると、とても落ち着く……)
「アッ!? アーキ?」
(慌てるアインが可愛い……、セラフたちが構う気持ちが、分かっちゃったかも……)
「アイン」
「な、なに?」
あたしは肩にもたれたまま、上目遣いでアインにお願いする。
「頭を撫でてくれる? あたし……好きだったんだ、父さんに大きな手で撫でてもらうのが……」
「っ!!……分かった」
アインは驚きつつも、了解してくれた。
そして、大きな手であたしの頭と耳を優しく撫でてくれる。
あたしは目を閉じて、その手を受け入れた。
いつの間にか、涙が零れていたけど……、アインはあたしの気が済むまでずっと、優しく撫で続けてくれた――
◇ ◇ ◇
《ショー視点》
獣王国から少し離れた山間の廃村――かつて黒猫族の隠れ里だった場所にて。
「ショー様、やつは動きますかね?」
「パリ……、そのために毎回手紙にあの香りを付けたんだろ?」
「サヴァぁ~、ショー様は心配性なんだよぉ~」
「まあまあ、キャラもそう言ってやるな。ショー様の心配も分かるよ、最近我らのような秘密作戦部隊が次々に殺られているからね……」
我々は獣王国方面の魔族研究部隊です。獣人は属性魔法が使えないが、身体強化はほぼ必ず使えると不思議が多い種族。
そんな不思議な種族に目をつけた私は、研究をしたくて本国を何とか説得して、十年前の事件を起こしたんですが……、結果は惨敗。予想以上に抵抗が激しく、実験体の確保なんかできませんでした。
「まあ、いいです。今回は長い時間をかけて、対象の深層心理に働きかけてきたんですからね」
手紙には欲望を強くする匂いを付け、手紙の内容も徐々に手段を問わない方向へ誘導していきました。きっと彼は、あの薬を使うでしょう……。
「明日は、私たちも混乱に乗じて実験体を確保しますよ?」
「「「了解です!」」」
明日の決勝戦が楽しみですね――




