第64話 黒猫族の悲劇
《キララ視点》
あいつとの事があって、あたしはモヤモヤした気持ちのままで、おとんの帰りを待っていた。
そんな時――
「おう、帰ったぜぇ」
「おとん! おせーよ!」
「おう? どうした?」
「どうしたじゃねーし! 約束したろ?」
おとんは苦笑して「食べながら話すか」と、食堂で待っているように言われた。
しばらく食堂で待ち、おとんも席に着き話し始める。
「キララは“黒猫族の悲劇“って知ってるか?」
「知らない。黒猫族が絶滅したのは知ってたから、あいつを見て驚いたよ」
「そうか、俺も驚いた。しかもあの子は、俺のライバルだったやつの娘だ、たぶんな……」
「ああ、前に話していた、前回の獣王決定戦で争う予定だったってやつか?」
「そうだ。そして今回、あの娘は獣王決定戦に出る決心をしてくれたよ」
「え? あんな啖呵を切って出るのかよ!?」
「まあ、そう言うな。仲間と一緒に謝りに来て、参加を表明していったよ。良い仲間に恵まれたんだろうなぁ、雰囲気が変わっていたよ」
獣王に対してあんな失礼な態度をとっておいて、謝罪だけで良いのかとも思ったけど……。おとんが納得したならと、あたしも納得することにする。
「それで、“黒猫族の悲劇“だったな」
「ああ」
「あれは、前回の獣王決定戦の直前だった――」
おとんは悲しそうな顔で話始めた。
「俺が報告を受けたのは事件の翌日だった。ライバルのニゲルが殺されたと、しかも黒猫族全員が惨殺されたって話だった。唯一、ニゲルの双子の娘だけが消息不明で、あとは一族全員の遺体を確認できちまったってことだった……」
さらに表情を歪めるおとん。
「俺はすぐに現地に行ったが、あれは酷かった。遺体には執拗に刺し斬られた跡があってよ。間違いなく仕留めるって心情が、滲み出ていたよ」
怒りを思い出したのか、おとんは拳を強く握りしめる。
「特にニゲルの遺体は酷かった……。消そうとしたみたいだが、返り討ちになった敵の痕跡もあったけどな……」
(そのニゲルって人は、おとんにとって大事な戦友だったのかもなぁ)
「俺は独自に事件のことを調べたんだが、結果分かったのは“魔族が絡んでいそう“と、“獣人族内に裏切り者がいる“だけだった」
(魔族…、裏切り者……)
「これが俺の知る、あらましだな」
「じゃあ、行方不明だったあいつが一人ってことは……」
「片割れは、死んだんだろうな……」
「…………」
(あいつは、今まで一人で復讐しようと牙を研いできたって事か、おとんを犯人と思って?)
「なあ、なんでおとんが犯人だと思われてんだ?」
「それは、黒猫族の村が隠れ里だからだ。隠れ里の場所を知ってるのは、獣王国の上層部だけだったんだよ」
「なるほど、それで裏切り者か……」
「そして獣王決定戦直前、今の獣王は俺。つまり、そういうロジックだろうなぁ」
「な!? そんな単純な決めつけかよ!?」
「そう言うなよキララ。まだ小さかった娘が、天涯孤独になって生きていくには、必要だったんだろうさ」
おとんは、何とも言えない表情で苦笑いする。
確かに戦友の娘に恨まれるのは嫌だろうけど、そのおかげで娘が生きてこれたと考えると、何ともいえないよなぁ。
「だかよ。これは好機だ」
おとんは好戦的な表情になった。
「俺のライバルを殺ったやつを、ずっと探していたんだ。怪しいやつの目星もつけている。俺は今回の獣王決定戦で、そいつを暴いてやるつもりだぜ」
「おとん……」
「これはよ、黒猫族だけの話じゃねぇ。きっと獣人全体の問題なんだよ」
おとんは覚悟を決めた顔になって――
「俺は今回の獣王決定戦で、獣王国の“うみ“を出し切ってやるぜぇ」
その言葉、その表情は、娘びいき無しで、獣王だった。
◇ ◇ ◇
《アイン視点》
獣王決定戦出場を決めたアーキに、僕たちがしてあげられること――
「そういうわけで! 頼むよケイ!!」
「いや、どういうわけ!?」
「何も説明してないじゃない……」
ラフィに呆れられてしまう。
「もしかして…。アーキが獣王決定戦に出るから、レベル上げを手伝えみたいな?」
「そうそう、流石だねケイ!」
「ちょっと待って!? 何で分かるの!?」
ラフィの突っ込みに僕らは見合って。
「まあ、ケイだし?」
「アインが言いそうなことだし?」
「おかしい!! 絶対おかしいよ!?」
ラフィは納得してくれないけど、僕たちには時間が無かった。かなり強引にお願いをして――
今回の遠征中限定で、勇者パーティー×三者三様×ケイの二学年生最強チームを結成した。
そして突撃した恐竜迷宮――
「違うそいつの皮膚は特に硬い、斬るよりも打つを意識! 体制を崩すんだ!」
「魔法は範囲よりも集中! 魔法が効くと言っても耐性あるんだから、弱点を狙う!」
「こいつら動きは単調なんだから、挙動で動きが読めるだろ!? カウンターが一番火力出るんだから狙って!」
「クッ! 的確で言い返せない」
「あはは、さすがアインの親友?」
「あわわわぁ〜」
「こうか?こう?」
「魔法の維持が……、大変です」
「……フッ!!」
ケイの厳しい指示に、なんだかんだで着いていけるんだから流石だねみんな。
そんな事を考えていると、素早い小さな魔物が通り過ぎる。小さいといっても、猪くらいの大きさはあるけど……。
「ああーー!! そいつ!! 今回のターゲットのモモンガサウルス!! 絶対に逃がすな!!」
(あれが、僕たちの最高効率ターゲットか!!)
「あたしがっ!!」
アーキが魔力を纏い追いかける――
「ハアッ!!」
そして、一撃でモモンガサウルスを倒した。
こっちを振り返り、笑顔で手を振るアーキが可愛いと思ってしまう僕は、ダメかもしれない……。
三者三様も流石の実力だった。三人なのに、僕たちのパーティーと同じくらい倒していた。やっぱりケイは積極的には戦闘に参加しないけど、その知識は惜しみなく披露してくれていた。
「アイン、どうだ?」
「大丈夫、まだまだいけるよ!」
「流石勇者だね〜」
「アハハ、でもやっぱり常時発動はきついね」
「でも、最高効率の熟練度上昇だぜ?」
今後の強化でキモになるであろう“魔武術“。その熟練度上昇のために、常時発動してるけど……。
「みんなは……、限界だね……」
勇者パーティーも三者三様も、セーフゾーンの床に倒れ込んでいた。そっとみんなに布を掛けておく。
「俺たちも休むか」
「そうだね」
獣王決定戦まで泊まり込みで修行するつもりで来たので、僕たちは用意してあったテントなどを手際よく設置していった。
「なあアイン。なんかアーキとの距離が近くなった? アーキの雰囲気も、柔らかくなった気がするし」
「え? そうかな? アハハ……」
「ハァ、流石のアインだよ。早すぎ〜」
「何が!?」
そんな雑談をしつつ、みんなが起きるまで休憩をするのだった。
それからはケイの指導の下、僕たちは確実にレベルアップが出来たと思う。とても充実した時間になった。
だけど、なぜか三者三様に僕は恨まれたようで。
「せっかくのケイ君との時間を……」
「勇者殿に神の裁きを……」
「いつか齧る……」
僕は、何かしたのだろうか?
◇ ◇ ◇
《???視点》
獣王国某所――
「例の方々が来られました……」
「通せ」
フードを深く被った三人が部屋に入ってくる。手紙でのやり取りはしていたが、会うのは“十年“ぶりか……。
「お久しぶりです、お元気で?」
「そう見えるかね?」
「そうでも、なさそうですね?」
「そんな事はどうでも良い。リスクを承知でお前たちを招いたのは、手紙の内容についてだ」
私は件の手紙を机に置く。
「これは本当か?」
手紙には、“弱い者でも強くなれる薬ができた“と書いてあった。
「ええ。我々の研究がやっと形になりましてね。多少の代償あるのですが、強くなる点については間違いなく」
「代償?」
「はい、多少身体の形が変わります。元には戻りませんし」
「なんだそれは? 使えんではないか!」
「しかし、効果は間違いないです」
「一矢報いる場合と言うのか?」
「私からは何とも……」
コイツは以前から信用はできないが、その実行力は確か……。十年前も、やり遂げた実績がある。コイツがそうと言うのだから、効果だけはあるのだろうな。
「今回は何が狙いだ?」
「狙いですか?」
「十年前は、お互いの思惑が一致したから協力した。私が黒猫族の情報を、お前が実行部隊を出した」
「そうですね。あなたは自分の理想とする国舵のため、私は試験部隊の実戦訓練と実験体の確保」
本当に嫌な顔で笑うやつだ。私はこんなやつに頼らなければならない自分自身に、腹が立ってくる。
「今回は、この薬の売り込みですよ。弱者がこの薬を使って強者を倒す姿を見たい。それだけですよ」
「……それで? 何が望みなんだ?」
「定期的な実験た――」
「それは出来ない。前回が特別だっただけだ。そんな簡単に、同族を売れるわけがあるか!」
「……そうですか、残念です」
「交渉は決裂だな」
「私共がこの新薬を売り込み中なのは事実ですので、この1ダースは宣伝用としてお譲りしますね」
新薬を置いて、三人は帰って行った。
「……何としても、やり遂げる必要があるのだ」
私は一人、静かに呟いた――




