第62話 獣王と黒猫族の少女
《アイン視点》
とても広い牧草地を抜けて、大きな山脈の麓に見えてきた街、あれが首都アニムだ。
獣王国に街はアニムだけらしく、他にあるのは小さな村や移動式住居といった変わった国だ。
(おっきいなぁ〜〜)
首都アニムに近づくと、その大きさに驚いた。
それこそ、学園都市よりも広く大きな城塞都市だった。
(正門もデカいなぁ)
大きな正門を抜け、僕たちはアニムに入った。
「「「「「おお〜〜!」」」」」
アニムは奥へ緩やかな登り傾斜になっていて、正門から街を見渡すことができるのだった。
街の中にも緑が多く自然が豊富で、白を基調とした建物がたくさんあって統一感があり、何より麓にあるため見上げる山々もある素晴らしい景観だった。
「アイン、このパンフレットによるとね〜。一番奥のデッカい建物が迷宮入口みたい!」
「その右手にあるのが獣王城みたいね。迷宮入口の建物より小さいわね……」
「逆の左手側にある丸い大きな建物は、闘技場みたいですねぇ」
「学園生がお世話になる宿泊施設は、街の真ん中あたりみたいだよ」
「教会は闘技場の近くみたいです」
「…………」
「よし。学園生はまず、宿泊施設に移動しますっ!」
僕たち勇者パーティーは学生会メンバーだ。そのため、今回の遠征の引率役でもあった。やっぱり何か思い詰めた雰囲気のアーキが気にはなるが、僕は学生会の仕事も行わなくてはいけないので、ひとまずは仕事に集中するのだった。
同級生を引き連れて、宿泊施設へ移動して行く。二学年の総数である五百人近くが大通りを歩く姿に、アニムの人たちが驚かないか心配だったのだが……。
「おお?今年も来たね~」「もうそんな時期かい?」
「うちの店を御贔屓に~」「うちの店で食べると強くなるよ~」
毎年恒例なので、アニムの皆さんも慣れたものだったようだ。
遠征では純粋に知見を広める目的もあるが、『思いっきり暴れて、学園の名を轟かせてきてね!』とアイナ会長からも言われている通り、約一月の滞在期間で迷宮攻略や、ギルドで難易度の高いクエストに挑戦するなどが期待されているのだった。
問題なく宿泊施設に到着した僕たちは、最終的な注意事項の確認だけ済ませ、あとは帰還日までの行動を自由という形にした。解散の合図と共に、僕たち勇者パーティー以外はすぐに消えて行ってしまった。
(あ……、ケイたちも行っちゃった……)
「あたいも行きたいな~」
「もう少しよ、私たちは学生会なんだから挨拶周りをするんでしょ?」
「しょうがないですぅ」
「アハハ……」
施設のロビーでそんな話をしていると、入口の方が騒がしくなった。
そちらに視線を向けると――
「おうおう、よろしくな~」
「みんな、久しぶりだねっ」
虎獣人の親子――
卒業したばかりのキララ先輩と、先輩をそのままとても大柄にしたような男の人が歩いていた。
キララ先輩が僕たちを見つけたようで、男の人に話してこちらに歩いてきた。
「おう、お前さんが今年の代表かい?」
「は、はいっ!」
僕は見上げる形で返答した。近くで見ると、全身がはち切れそうな筋肉で覆われており、彼の放つ覇気は凄まじいものだった。
反射的に返事をしてしまう位の、圧倒的強者感であった――
「やめいてっ!」 パコンッ!
「アイタッ!」
「何するんだ? キララァ」
「威圧すんなや、おとん!」
急に威圧感が収まり、柔らかい雰囲気になる。
「ごめんなアイン、うちのおとんが今代の”光の守護者”を見たいって言うから、連れてきたんだけどさ~」
「いえ、さすがキララ先輩のお父様ですね。……あれ?お父さんということは……」
「おうっ! 俺が獣王、アニム獣王国国王のティグリス・タイガーだ。よろしくなっ!」
そう言って笑顔でウインクをして、歯をキラーンとさせる。
「し、失礼しました! 僕たちはエイユウ学園生徒学生会所属、代表のアイン・アマテと申します。学園を代表しまして、今年度も受け入れて頂き厚く感謝いたします」
「「「「「感謝いたします」」」」」
「おうっ! 俺はアインを見たくて来ただけだっ! 気にすんなっ!」
「今年の担当はあたしさ。お前たち、ラッキーだったな! 好きにやって良いぜぇ」
キララ先輩は、いい笑顔で親指を立てた。ティグリス王は僕たちを見回して頷く。
「いいねぇ、勇者パーティーと言うだけあって粒ぞろいじゃね~か」
「言ったろぉ、勇者パーティーは期待できるってよぉ」
「何でも自分で確かめる主義なんだよっ!」
「だから王様はそれじゃダメだろって母さんに言われんだよぉ!」
「ばっ! 今それ言うなやっ!」
初めはティグリス王の威圧で怖かったけど、二人のやり取りを見ていたらすごい人情味のありそうな人だなと思った。相手は獣王陛下なので不敬かも知れないけど、普通の娘と嫁に弱い父親って感じがしてほっこりとしてしまった。
「そうそう、お前たちはラッキーだったなぁ。今年は十年に一度の――」
「うるさいっ!!!!」
アーキの叫びで、その場は沈黙に支配された――
あえて僕たちの陰に隠れて静かにしていたアーキが、僕の前に出た。そして、ティグリス王を睨めつけて叫ぶ。
「なんであんたがっ! そんなヘラヘラと笑ってるんだっ!!」
「お前は……」
「あんたの差し金だったんだろっ!! あたし達っ!! 一族をっ!!」
「黒猫族か……生きて……」
「そうだっ!! 生き残りだ!! あたしも殺すのか!? あたしは死なない!!」
一方的に怒鳴ったアーキは、そのまま走って出て行ってしまった。
あまりの出来事に、僕たちは呆然と立ち尽くしてしまっていた――
そんな空気の中、不機嫌になったキララ先輩が言葉を放つ。
「は? 何だあれ?……学園にいる時もあたしを睨んできたけどさぁ……、あれは何?」
僕たちに対する明確な敵意が、そこにはあった。言葉を間違えれば、ここで僕たち全員と殺し合う位の眼光と覇気を纏っていた。
「…………」
「よせ、キララ」
「なぜだ!?」
制止したティグリス王に噛みつきそうなキララ先輩だったが、父親の悲痛な表情を見て気持ちを静めたようで、空気が和らいだ。
「……事情を知らない奴の前では話せない」
「そうかよ……、あとで教えろよ?」
「ああ」
「仲間が申し訳ありません」
「いや、いい。一つだけ頼まれてくれるか?」
「僕たちで、出来ることなら」
「あの子に伝えてくれ。もしも、思うことがあるなら――」
僕はティグリス王からの伝言を、受け取ったのだった。
◇ ◇ ◇
《ティグリス視点》
今代の”光の守護者”を見に行った俺は、驚きの出会いをした。
黒猫族の少女――
十年前にあった”黒猫族の悲劇”……。まさか生き残りがいたなんてな……。
「おとん! あとで本当に教えてくれよ!?」
「ああ、約束だ」
(キララも大きくなった、説明しても良い年だろうよ……)
俺はキララと別れ、獣王城の会議室へ向かった。
「遅いですよ陛下!」
「すまねえなムース。みんな、待たせたな!始めようか――」
鼠人族の宰相ムースに小言を言われつつ、俺は席に着いた。
「十年ぶりの獣王決定戦だ。みんなで楽しもうぜぇ」
獣人最強決定戦――獣王決定戦が月末に迫っていた。
会議は何度も行ってきたから、今日は最終確認みたいなもんだ。大体細かいことはムースが整えてくれているから、問題ないだろう。
(結局参加者は七人だけかよ。獣人たるもの、もっと野心をもって向かって来ないのかねぇ)
「陛下、この人数であれば、陛下がシード枠ということで良いですね?」
「げっ、マジかよ」
でも、もしかしたら――
「いや、選手を八人で組んでくれ。できれば最後の一人は決勝で俺と当たるように――」
「ダメに決まってるでしょうが! 選手が組み合わせ決めるなんて却下です!」
「す、すまん……」
「ハァ、でも八人目に心当たりが?」
「ああ、きっと手を挙げるだろうさ――」
(――あいつの娘だもんな……)
あの目――、あの覇気――、懐かしい気がした。
あいつはきっと、ニゲル・ビースト――俺のライバルだった男の、娘だ……。
俺は会議の内容を聞きながら、過去に想いを馳せていた――




