第61話 勇者、獣王国へ
《アイン視点》
僕たちはエルフの里での後悔を繰り返さないため、二年生になって開放された深淵迷宮50層以下の攻略を進めてのレベル上げや、生徒学生会の活動で得られる政治的な強さをつけることなど、さまざまな強さを手に入れようと日々頑張っていた。
(――セラフやみんなに、もうあんな思いをさせないように!)
迷宮攻略も順調で、すでに65層も越えた。
学生会の活動も忙しいけど、いろいろな国の偉い人との繋がりもできた。
何よりも、一番の収穫は――
「……甘いよ」
「くっ!!」
ギャリリッ!! キィンッ!!
僕が使える最速の連撃、”閃光・連”をいとも簡単に捌いた上に、槍で剣を巻き込み弾き飛ばされた。
「……その技は何度も見た」
その後も、目で追うのがやっとの槍捌きに何とか食らいつくが、少しのミスで完全に崩されてしまう。戦闘時の彼女は普段の元気な雰囲気と一変して、超クールだった。
(いつもとの差があり過ぎて、眼光だけで萎縮しちゃいそうだよ……)
学生会に入っての一番の報酬は、現学生会長アイナ先輩との定期的な実践訓練だった。在校生最強である会長との実践訓練は、レベルとは違った経験を僕に積ませてくれていた。
「あ、ありがとうございました……」
アイナ会長は、戦闘訓練が終わるとフッと雰囲気が軽くなる。
「ふぅ~、お疲れさま〜。魔武術も使えるし、魔力量も十分なんだけどね~、無駄が多い! 魔力の流れが雑っ! 精進しなさいな後輩君!」
このように、的確なアドバイスをくれるので助かっている。
(アイナ会長に足を向けて寝れないな……)
一歩ずつだが確実に強くなっていると感じられ、充実した一年になりそうなスタートを切った僕だったが、一つだけ悩みがあった。
学園では二年生から上位パーティーに専用ルームを与えるシステムがあって、僕たちのパーティーにも専用ルームが与えられていた。
僕の悩みは――
「アイン~~」 むぎゅっ!
パーティールームで魔力制御向上のために床に座って瞑想していると、右腕がやわらかいものに包まれる。
「ちょっと!ウリエ!」 むぎゅっ!
今度は左腕が包まれる……、集中だ、集中……。
「ラフィさんもずるいですぅ~」 ぼいんっ!!
頭の上にやわらかくて重いものが乗っかり、両手で頭が包まれた――
(――もう、勘弁して!!) ブホォ!
僕の鼻から大量の血が噴き出した――
「「「アイン~~!」」さん~~!」
「あらら~」
「あわわ、回復をっ!」
「アイン……えっち」
(僕が……悪いのか?……)
最近の悩みは、三人の悩殺アタックだった。
専用ルームのため人目を気にせず来るので困っていた……、嬉しいんだけどね!? 嬉しいんだけどね!?
◇ ◇ ◇
二年生の遠征計画はこうだ、今学期は獣王国、二学期は神聖国、三学期はバビロン帝国の予定だ。明日には獣王国、正式にはアニム獣王国へ遠征出発だ。
(十分に鍛錬もできたし、今度こそ何かあっても対処できるはず! いや、するぞ!)
明日の遠征に向けて気合十分でいると、同室のケイが帰ってきた。
「ケイっ! 同じ学園に入って同室なのに全然会わないよね!?」
「おおぅ、テンション高いなぁ」
久しぶりの親友に心が躍ってしまったようだ、反省反省。僕はいつもケイに心配をかけてしまうから、この前のエルフの里のことは伝えていなかった。
(人に話す、内容ではないしね……)
「まあね! 明日からの遠征を考えてテンションが上がったのさっ!」
「小学生か!?」
「しょうがくせい?」
「あ、いや。子供か?ってこと!」
「大人になったって初めて行く場所は楽しみさ!」
「あ~、それはそうだな」
二人で笑う。
(ケイも行ったことは無いはずだけど、ケイならいろいろ知ってそうだよな……)
僕は何気なく聞いてみた。
「遠征先のアニム獣王国にある迷宮の攻略メモも、あるのかい?」
「ん?あるよ、いる?」
(あるんか~い!!)
僕は心で驚きつつも、まあケイだしなと納得する。
「ありがとう」
「はいよっ」
(もう用意してあった~! もしかして言わなくても渡す気だった?)
「もともと、渡すつもりだったんだよメモ」
「何かアドバイスもあったり?」
「ああ、アニム獣王国の迷宮は恐竜迷宮。基本的に飛行タイプはいないけど、皮膚は固いしタフだから高威力の魔法か、魔武術を使った高威力攻撃が有効だな」
「なるほど、なるほど。本当にケイは何でも知ってるなぁ」
「何でもは知らないさ、最近は本気で分からないことにもぶち当たってるよ」
「ケイが? 珍しいね」
「俺を何だと思ってんだよっ!」
「僕も困ってることがあって――」
僕は久しぶりにケイと、心ゆくまで会話を楽しんだ夜だった。
◇ ◇ ◇
獣王国への馬車にて――
エイユウ学園からアニム獣王国までは馬車で二週間の旅路だった。僕たちは比較的大きな馬車をあてがってもらい、パーティー全員で一台に乗っていた。
「アーキ。アニム獣王国は、どんなところなんだい?」
唐突にミカエラが、アーキに獣王国のことを聞いた。自分の国や過去の話をしたがらないアーキに対して、何となく聞きずらい雰囲気だから聞けなかったけど……。
(さすが王女様だ! 頼りになるよ!)
ミカエラを見ると、頷いてウインクして返してくる。
(任せてくれってことか、そうだな、日を追うごとに無口に拍車が掛かってきてるもんな……)
「……たくさん、獣人がいる」
「ふむふむ」
「…首都アニムは街、…草原が広がっていて、…岩山も多い、……とても広い」
「ほおほお」
「種族もたくさん……、首都に居ない種族もいる……」
「それで?」
「獣王はキララ先輩の父親、『七大聖王』……”暴拳の猛獣”と呼ばれる男っ……」
「っ……、そうか、ありがとうアーキ。あとは着いてからのお楽しみにするよ」
最後の獣王の話で険しい表情になったアーキに、ミカエラは話を止めて質問を終えた。
(キララ先輩とのやり取りもそうだったけど、獣王の一族と何か因縁があるのだろうか?)
「……周辺の索敵に出てくる」
そう言ってアーキは馬車を出てしまった――
「すまない、あまり上手くはなかったね?」
「いいえ、ミカエラはよく聞いてくれましたよ」
「ああ、僕は気になっていたけど聞けなかったから」
「そうね、明らかにアーキの様子がおかしくなってきてたもの」
「元気が取り柄のあたいでも……、難しいね!」
「アーキさん、元気になって欲しいですぅ」
みんなでアーキの心配はするものの、どうしてあげるのが良いのか答えが出ないのが現状だった。
(僕たちはまだ……、アーキの心を開くだけの信頼を得られていないのかな?)
僕たちは胸のモヤモヤを抱えたまま、獣王国へ到着したのだった――




