第60話 三者三様の苦悩
いろいろと気になることは多いが、時間は有限である。俺はエンジュたち黒影にリリスの調査・監視は継続してもらい、強制イベントまでの時間をレベル上げに費やしていた。
「よしっ! やっぱりレベルが上がると身体が軽いなっ」
俺は目標のレベル60に達した。やはり、深淵迷宮が80層まで開放されたのが大きかった。
その時、視界の端を高速で何かが通り過ぎた――
(ラッキーっ! 探す手間がはぶけたっ!)
この77層にだけいるレアモンスター、”はぐれても強気な一匹狼メタルモモモガ”――略して”HTIMモモンガ”。通常のはぐれメタルモモンガの十倍の速さで動くが、経験値も十倍というお得なモンスター。ただし、この77層は他の層の十倍の広さな上に森林ステージと見通しも悪いので、普通は見つけるのも困難なモンスターなのだ。
(だがっ! 俺には創作魔法がある――)
魔力によるレーダーマップ。
”アトラス”を起動――
俺の脳内にマップイメージが展開、半径五キロ内の地形や動植物の情報が脳内マップに表示される。
(いたっ!)
瞬時に移動して狩る――
「いただきっ!!」
こうして俺は、強制イベントまでの時間を、HTIMモモンガ狩りに集中した。
◇ ◇ ◇
最近お気に入りのカフェ、”メッソレム・アーテル”でコーヒーを飲んでいると三者三様がやってきた。
「あっ、ケイさんです」
「お久しぶっす、ケイ殿!」
「……久しぶり過ぎだよ、ケイ君」
「おう、お前らも元気だったか?って、ナミエは何で不機嫌?」
三人は自然に同じテーブルに座った。
「まあね、最近ケイ殿に会えなくて寂しかったんすよ。わたすも寂しかったすよ?」
「ちょっ!モニカ!? うぅ、そうだけどさぁ〜」
ナミエは頬を赤く染めながら、上目遣いで見てくる。
その時、グ〜という音が響いた。
「……ケイさん、お腹空いた」
「そうか……、好きなものを頼んで良いぞ」
「ありがとう……」
「もうっ!ルウ〜。ハァ、あーしも頼もっ!」
「ごちそうになるっす!」
三人は好きなものを注文した。ルウは、本当に好きなだけ頼んでいた。俺も何か食べようかなとメニューを見ていると、ナミエが疑問を投げ掛けてきた。
「そういえばさ? この店オープンしたばかりなのに、何で黒の死神クラン割が使えるの?」
「ん? だってこの店、クランで経営してるから」
「え?」
「お待たせしました、ケイ様」
女性店員さんが、三人の注文した飲み物を運んできてくれた。
彼女は微笑み、三人にも挨拶をする。
「あの時は大変お世話になりました。ナミエ様、モニカ様、ルウ様」
三人は意味が分からないような表情をしていた。店員さんは小声で――
「私は皆様に救って頂いた、ダークエルフです」
「「「えっ!?」」」
三人は思わず大きな声が出てしまい、口を押さえる。
ナミエが代表して、店員さんへ小声で話す。
「だって耳も、それに肌も白い……」
店員さんは顔が整って美人だが、耳は短く肌も色白で黒エルフには見えず、人族にしか見えなかった。俺に説明をしてといった視線が向いてくる……。
「ディーが良いものを作ってくれたんだよ。この前使った擬態人形を憶えてるか?」
「あ~、あの身代わりになったやつね~」
「そうそう。あれを解析して、認識変更機能付きの装備を作ったんだ。ナミエ達も使ってる装備だぞ?」
「え?」
「黒の死神モードだよ」
「「「ああ~~~」」」
ナミエ達は店員さんを見て、少し遠い目で呟く。
「可愛い制服だと思ったけど、元はあのタイツなんだね~」
「アハハ……」
店員さんは苦笑いしかできず、「ごゆっくりどうぞ」と仕事へ戻って行った。確かに元は全身タイツみたいな見た目だけど、すごい機能がてんこ盛りなのにな……。
「お前ら、迷宮攻略の進捗具合とレベル上げはどうなんだ? もうすぐ遠征だぞ?」
「あ~、もらった情報のおかげで順調?かな~」
「わたす達、有名になってしまったせいで~」
「いろんな人が付いてきて、正直邪魔……」
「あ~……」
まさかの有名になった弊害が、そんな形で出るなんて……。
「だから、まだ60層越えたとこさ~」
「あんまり効率スポットにも行けないっすからすから、レベルも50前後っす!」
「集中したいのに……」
(嫌な縛りプレイで、ストレスが溜まってそうだな~)
「そうか……。じゃあさ、遠征先のダンジョンでは、一緒に行動できるように調整するよ」
何だか可哀想になってしまい、俺から提案すると――
「本当っ!?」
「マジっすか!?」
「嘘だったら齧ります!!」
「っ!? お、おう……」
思いのほか食いつきがよくて驚いたが、喜んでくれたようで安心した。
「遠征が楽しみになってきたさ~っ! 強制参加とか、だるい~って思ってたけど!」
「いやいやお前たち、任務の通知が来てないの?」
「ん? 任務っすか?」
「聞いてない……」
「遠征先でも、黒の死神ミッションあるから、確認しておけよ~」
「了解~」「了解っす!」「はい……」
店員を呼び、俺に三人分の会計もつけて置くように伝え、先に席を立って寮に戻った。
自分のベッドに座り、呼ばれるのを待っている彼女を呼んだ。
「エンジュ、何かあったか?」
「はっ! ダーク様」
シュタッと俺の背後に現れる――かと思ったが隣に正座していた……。
まあ、ベッドの上だもんな、汚れたらと思ったんだよな?
「……それで?」
「はい、リリス様が授業で死霊魔法を使いました」
「っ!!!! それは、本当か!?」
「はっ! はいぃぃ~~~……、近いですぅ、ダーク様ぁ」
俺は驚き、エンジュの肩を持って正面を向けて凝視した。
エンジュも驚いて頬を赤くして、俯いてしまう……。
「す、すまん……」
「あっ……」
あまりの衝撃に勢いでエンジュの両肩を持ってしまったが、これはコンプラ的にまずかったかもしれない……。俺は慌てて手を放し、前を向き直した。
「「…………」」
「あ~、本当に使ったのか?」
「は、はい……。目撃者も多数で、学校中の注目を集めています」
”死霊魔法”――この世界で、リリスだけが使えるユニーク魔法。
本来であればバビロン帝国が秘匿していて、絶対に表に出すはずのない秘密兵器――それがリリスだった。
(入学までは帝国の作戦変更で納得できる範囲……、しかし死霊魔法の解禁は意味が分からない……)
リリスは死霊魔法以外に水魔法適正もあるのだ、わざわざ秘匿魔法を使う意図が不明だった。
「本気で分からないな……」
「監視を続ける以外は無いかと……」
「そうだな……。死霊魔法を見た周りの反応はどうだ?」
リリスはこの魔法で秘密兵器足りえるが、逆を返せばそれは”危険な人物”ともとれるのだ。だから彼女は離塔に幽閉され、皇族内でも周知されていなかった存在なのだから――
「それが……、彼女の人となりを知る周囲の者は、あまり忌避感を覚えていないようです」
「っ! そうか、よかった……」
「もちろん、人物像を知らない者は怖れているようですね」
「それは当然だな」
本当に良かった。今のリリスの周りは、優しい人が多いようだ。
「……ダーク様、一つ質問よろしいですか?」
「ああ、なんだ?」
「ダーク様はアゼル様、リリス様、そしてもう一人の三人を娶る予定ですよね?」
「……希望としてはな」
(リリスには好きな人が……、グフッ……)
「娶る人数は、三人以上でも大丈夫でしょうか?」
「…………ん?」
急に何をと思い、エンジュをチラッと見ると、彼女は真剣な表情で俺を見つめていた――
(え?…そういうこと?…ハーレムは男の夢だけど、三人を救って幸せにって以外は考えてこなかったけど……)
「……可能性は、否定しない」
「そうですかっ!…ありがとうございますっ!」
俺の日和った回答にも嬉しそうに表情を和らげ、先ほどまで緊張で立っていた耳をヘニョんとして尻尾が激しく動いているエンジュを見て――
(可愛いな……)
そんな風に思うのは、仕方がないと思う。男は可愛い子から好意を向けられると、嬉しくなる生き物なのだ。
「御前、失礼しますっ!」
「引き続き頼む」
「はっ!」
ウキウキのままシュッと消えるエンジュを見送り、俺はいろいろな気持ちを抱えたまま今後のことを考える。
(何にせよ、まずは直近の課題だな……)
エイユウ学園の二年生は遠征が多い。
各国の迷宮を探索して知見を広めるのが目的だとされているが、政治的な意味合いもあるのだろう。
「獣王国ね……」
一学期の遠征先は獣王国。
リリスのことは気になるが、獣王国イベントも外せない理由がある。ひとまずはエンジュたち黒影に任せて、俺は旅立つことになる。
次の舞台、獣王国へ――




