第59話 彼女の目的は……
リリスの謎は深まるばかりだが、だからこそ俺はクエストをこなしに神社に来ていた。
”学園都市神社”、ファンタジー世界になぜかある神社。さすが、ゲーム世界だと思う。
そんなことを考えながら、大きな鳥居をくぐる。
「こんにちは~、ギルドから来ました~」
社務所に声を掛けると、奥からバタバタと走ってくる音が聞こえる。
「やっと受けてくれたんですね~! ありがとうございます~!」
小さな巫女さんが、社務所の窓から顔を出して返事をしてくれた。黒髪ショートにアホ毛が特徴的な元気そうな巫女さんだ。
「おじ~~ちゃ~~ん! ギルドの人が来たよ~~!!」
大きな声で呼ばれ、ゆっくりと出てきたのは神主さんだった。
「おぉ、ありがとうございます。孫と二人じゃどうにもならなくてのぉ~」
依頼内容は社殿にある不要になった大荷物を、運んで欲しいというものだった。
「こっちですじゃ――」
俺は神主さんと一緒に大荷物の場所を確認した。二人で管理しているそうで、大変だなと思った。神主さんの名はグウジンさん、巫女さんはミコちゃんで十歳だそうだ。
(名前が、まんまやん……)
「終わったら呼んでくださいね~! 美味しいお茶を入れて待ってますよ!」
「ありがとうございます」
なかなかの量だけど、問題ないな――俺は速攻で片付けて、自分のお願いを言いに行った。
「ふむふむ、解呪御守りですか? 作れますぞ」
「おお! 本当ですか?」
俺は美味しいお茶を頂きながら、グウジンさんにお願いをしていた。
「しかし、作成には必要なアイテムがありまして……、何だったかのぉ?」
「おじーちゃん、あれだよ。たしか~、塩と水と髪の毛?」
「おぉ、そうじゃ。岩塩と聖水と乙女の黒髪じゃな」
「岩塩は獣王国、聖水は神聖国ですね」
「よく知ってますな~、そうなのですじゃ。乙女の黒髪はありますので、平気ですじゃ」
俺とグウジンさんはミコちゃんのアホ毛を見る。視線に気づいたミコちゃんは、アホ毛を隠した。
「この毛はダメだよっ!」
アホ毛以外なら良いらしい……。
「ではグウジンさん、必要な物が揃ったらお願いしますね」
「承りましょう。あなたの旅が良いものになるよう祈っておりますぞ」
「ありがとうございます」
「おにーさん、またねっ!」
「お茶ごちそうさま、美味しかったよ」
作成のお願いをして、俺は神社をあとにした――
◇ ◇ ◇
早朝――
エイユウ学園最大のメリットである”深淵迷宮”は、二学年生になったことで80層まで開放された。一学期後半にある、学年遠征までにレベル上げようと頑張る人がたくさんいた。
「ケイ君、一緒に行かないさ〜?」
ナミエたち三者三様から迷宮攻略を誘われるが、俺はソロの方が早いので断っていた。
それに、コイツらもだいぶ強くなったので、俺がいなくても問題なく80層へ到達可能だと、判断したのもあった。
「俺特製の地図も渡したろ? そこに効率よくレベル上げできるスポットも書いておいたからな!」
「そんな〜」
「まあ、お互い頑張ろう〜、またな!」
俺はそう伝え、潜伏してから50層へ飛んだ。
「おぉ〜、ちゃんと通れる。何なんだろうなぁ? この謎機能は……」
一年生の時は通れなかった51層への道に入る。 目標は、今日中に80層踏破だ。
「最速で、駆け抜ける――」
俺は自身の知識にある最高速記録に挑戦するつもりで、駆け抜けて行った。
深夜――
「思ったより時間掛かっちゃったなぁ……。サクッと倒して帰りますかね」
俺は80層ボス部屋前に到着して装備を確認、そのままボス部屋へ突入した。80層のボス部屋ともなれば、細部まで拘ったであろうRPGの雰囲気全開のボス部屋だった。
(あのゲームっぽい! ザ・ダンジョンっぽい!)
そして、部屋の中央に鎮座する大きな塊――アダマンタイトゴーレム。
「いくぜっ!」
俺は走り出し、先制の一撃を切り込んだ――
パキンッ 「っ!?」
ブオンッ! 「あぶなっ!」
アダマンタイトゴーレムの右腕による反撃を避けて、距離を取った。ディーにもらった剣を見ると、真ん中で折れてしまっていた。
通常の学園生は卒業までに、この80層を抜けられない者が多かったりする。理由はこのボス、アダマンタイトゴーレムだ。
(さすが最高硬度のアダマンタイト、これで魔法耐性も高いんだもんなぁ……)
そんなアダマンタイトゴーレムを、どうやって倒すのか――
「しゃーないな。縛りプレイもここまでか……」
俺は魔力を全身に纏い、折れた剣の先から魔力の刃を生成する。ここまでの道のりで俺は、”魔武術”を使わない縛りプレイをしていた。
「もうっ! 夜も遅くなったしな――」
呟きながら一閃、背後で崩れ落ちるような音が響く。
そこには、真っ二つになったアダマンタイトゴーレムが崩れていっていた。
このボスをどうやって倒すかの答え――
”魔武術”
そのため、学園でも80層を抜けるか抜けないかで、強さの差が天地ほどあるとも言われていた。
「踏破完了っ! あ~、やっぱり行けないのね、81層……」
謎システムがしっかりと機能しているようだった。諦めて俺は、転移ポータルで地上へ戻る。外は深夜だけに、すごく静かだった……。
その時――
俺の直感が正門に行けと言っている気がした。
(こんな時間だけど……、行ってみるか?)
そして俺が見たのは、深夜にコッソリと出かけるリリスのうしろ姿だった。
(リリス!? なんでこんな時間に!?)
俺は驚きつつも潜伏を発動し、リリスを追いかけた。彼女は危ない場所、細い裏通りを中心にキョロキョロと何かを探すように徘徊していた。
(何を?いや、誰かを探しているのか?)
”好きな人”――
(グゥ~~!! 胸が苦しいがっ!!)
俺は胸を押さえつつ、リリスを見失わないように追いかけた。しばらく探すと彼女は諦めたのか、学園に戻って行ったのだった。
そんなリリスを見送った俺は、背後の彼女に報告を求めた。
「いつも、なのか?」
背後にシュタッとエンジュが現れる。
「はい。入学式の翌日から毎日です。一日に行ける範囲は限られていますから」
「そうか……」
「今日と同じで、大通りや人の多い場所には行かず、裏通りへ行ってますね」
「お前たちに街を綺麗にしてもらっておいて良かったよ、本当に……」
「同意ですね、以前のこの街だったら初日で詰んでましたね」
やって良かった治安維持などと考えながら、先ほどのリリスの表情を思い出す――
学園でのやわらかい雰囲気とは違った……、必死に何かを掴もうとするような表情――
(さっきの表情の方が、俺の記憶に合致するリリスだな……)
そう考えると、きっと彼女は目的のために必死に演じているのだろう、自分らしくない自分を……。
「それは、なぜなんだい?……リリス……」
俺は暗闇に向かって呟いた――




