第58話 リリスの変化と不変
リリスの調査は、エンジュたち黒影へ任せることにした。イレギュラーが発生し、俺が知るゲーム通りでは無くなったから救済アイテムは不要であるかと問われれば答えは決まっている。
(答えは否、断じて否。だからこそ必ず必要だ! 救済アイテムに追加して、何かしらの行動が必要になるんだろう、きっとな……)
そんなわけで、やってきましたギルド受付。
今日はお馴染みの、このクエストで癒されたいと思っていたのに――
「娘がいつも話をしてくれる冒険者さん。あなたなら信用できます。今回もよろしくお願いします」
「……任せてください」
俺が受けたのは、リウムちゃんのクエスト。
本来だったら、リウムちゃんと一緒にほっこりとクエストをするはずだった……。しかし、待っていたのは御両親だった。『初めてのお使いを、陰ながら見守ってほしい』という依頼だったのだ。
(くそっ! ハズレを引いた! 直接ふれ合って、すごいお兄ちゃんムーブができない!)
だが、仕事は仕事だ。陰で暗躍するのは得意中の得意、俺の本気の潜伏を見つけられる者はいないぜ――
「こっちをこう……、次はこっちかな?」
不審者が現れることもなく、リウムちゃんは順調に目的地へ進めていた。
(地図もしっかり見れている。偉いぞ、リウムちゃん……)
「お? 今日は一人かい?リウムちゃん」
「そうなの~。オジサン、いつもの粉とハチミツを下さいなっ!」
「そうかい偉いね~。五百ゼニだよ、お金はあるかい?」
「はいこれ~」
「おう!ちょうどだ。偉いからアメをサービスだ」
「ありがと~!」
(しっかりと買い物もできたようだ。あ、アメだけ持ってカゴを忘れてる? おぉ、良かった、気がついたな……)
その後の帰り道でも、特に問題なく自宅までたどり着いたリウムちゃん。
(よしよし。偉いぞリウムちゃん、満点をあげよう!……あれ? メダルはどうやってもらうんだ? これ?)
その時――
リウムちゃんはなぜか、玄関前で立ち止まり振り向いた。
そして、真っ直ぐこちらに歩いてくる――
(ま、まってくれ!? まさか……、俺の潜伏を看破したのか!?)
俺の目の前まで止まって、リウムちゃんは笑顔でメダルを手渡してくれる。
「今日もありがとうお兄ちゃん! 途中でまた拾ったの、これあげるね!」
「……あ、ありがとう」
俺は潜伏を看破されたことにショックを受けつつ、これがゲームの強制力かと戦慄していた……。
何にせよ、四枚目の謎の古びたメダルをゲットした。
◇ ◇ ◇
まだ時間があったので、ナディアさんのクエストも受注した――
「こんにちは、ナディアさん」
「…………あ、どうも」
めちゃくちゃ元気がなかった……。
いつもならクールビューティーなのに、今日のナディアさんは心ここにあらずみたいでボーとしていた。メガネも曇ったままだし、フラフラとした足取りで、本棚にぶつかっては本棚に謝っていた。
(ダメだろ、これは……。アゼルの心配通りかな?)
アゼルの叔母にあたる彼女は、何気にアゼルをずっと気にかけてきた人なのだ。ゲームではそんな感情の起伏なんて、クエストキャラだから分からなかったけど――
ここは現実。
可愛がっていた姪が、火炙りにされて処刑されたって知ったらこうなるよな……。
(アゼルの言う通り、ナディアさんなら信用できるって俺も思うし、良いよな)
「ナディアさん、奥の部屋の、どの辺を中心にとか具体的に教えてください」
「え? あぁ、分かりました……」
フラフラのナディアさんと、奥の部屋へ入った。
(ここなら平気だよな?)
「ナディアさん、今から言うことは真実です。でも、秘密にして欲しい。約束して頂けますか?」
「……はい?」
(なんの話ですか?みたいな顔だ、説明が難しいな……、直球が良いかな?)
「アゼルは生きています。理由があって、俺が保護しています――」
瞬間――彼女の雰囲気が一変する。
俺を射殺すような表情になり服を掴み、どこから取り出したのか、短剣を俺の首元に当ててきた。
「お前は、何を言っている?」
(さすが、アゼルの叔母様だ……)
俺はスッと拘束を離脱して、落ち着いた声で話しかけた。
「まあまあ聞いてください――」
「っ!? 貴様っ!!」
拘束から抜けたことに驚きつつも、そのまま短剣で切り掛かってくる――
俺は回避しつつ、彼女に語りかける。
「あ~、ちょっと、ん~、そうだっ! アゼルからの伝言です――」
「ふざけるなあああ!!!!」
余計に激高されているんだが、これで大丈夫なの?アゼルさん……。
「アゼルがっ! 『あんまり怒ると、目じりのホウレイ線が刻まれちゃうよ』って!」
「っ!!!!」
アゼルの言葉を伝えた瞬間――
短剣を振りかぶった体勢のまま、固まるナディアさん。その目には、冷静な光が戻っていた。
「……アゼルから、いつ聞いたんですか? 同胞から、手紙をもらったんです。急に冷静になって考えたら、あの子一人を処刑台に立たせて、一族みんなが助かるなんておかしいって気づいたって……」
(ああ、洗脳が解けた時か……)
「だから、みんなで急いでエルフの里に戻った時には遅かったって……。たしかに確認したんだって……、黒焦げになってしまった、あの子の遺体を……、くっ!」
そう言って崩れ、涙を流すナディアさん。
(ごめんなさい、俺の配慮が足りなかった……)
「……ごめん、ナディアさん。さっきの話は本当です。でも、秘密にしたい理由もあるんです。俺のことを信じてくれるなら……。今夜、黒の死神のクランハウスに来てください」
「……黒の死神の、クランハウス?」
「はい」
「そこに、アゼルが?」
「「…………」」
「分かりました……。ありがとうございます」
(……少し、顔色がよくなったかな?)
俺は、目的のボロボロの古書を手に取り、
「あと、この本は頂いて行きますね?」
「どうぞ。……片付けもしていってくださいね?」
「「…………」」
ナディアさんと二人で静かに片付けをした。
そして――
その夜、アゼルとナディアさんは涙の再会を果たしたのだった。
◇ ◇ ◇
二人が再会を果たしていた頃――
俺はオーナールームでソファに座り、待っていた。
「ダーク様」
シュタッとソファの背後に現れるエンジュ。
本当に忍者ムーブが大好きな子だ。
「エンジュ……、報告を頼む」
「はい。対象であるリリス・バビロン様の情報収集を、黒影総動員で行いました」
「総動員だと? 都市の守りは?」
「ゴンザレスたちを使いました、こちらの方が緊急案件でしたので……」
(俺、そんなに急げとは言ってないよ?)
「そうか、それで?」
「はい。ダーク様からの情報、”好きな人に会いに”の確度は高そうです」
(グフッ!……)
「……そうか」
「同級生や近しい人にはそう話しているようで、周りの人間からは周知の事実のようですね。しかし、具体的な対象者については不明瞭なようです」
「どういうことだ?」
「本人が話している内容そのままになりますが――『顔も名前も知らない人なのですが、わたしに希望をくれた人なんです。この都市にいるって聞いて、無理言って入学したんですよ』と言っていました」
(エンジュの声真似が上手でビックリしたが……。希望をくれた人? この都市にいる? ゲーム知識には無いぞ……。アイン!?は無いな、リリスはあの深い森の塔に居たはずだしな……)
俺が思考していると、エンジュが待ってくれていたようで……。
「大丈夫ですか? ダーク様」
「ああ、続けてくれ……」
「はい。リリス様は御存じの通り成績優秀――」
(まあ、主席だから総代だしな)
「友人も多く、社交的で――」
(ん? 友人多く、社交的?)
「魔法の適性も高く――」
(それは納得だな)
「マナーも完璧な、非の打ちどころのない皇族のようです」
(所々に違和感があるな……)
「強いて言えば――」
「言えば?」
「どんくさいです……」
(そこは変わらないんだ~)
「あ!?」
「なんだ?」
「大切な情報が――」
「何!?」
(何か重要な情報か?)
「サイズはAカップでした」
「…………うん。ありがとう」
(胸まで成長してたら別人だよなぁ……)
最後の情報にドヤ顔なエンジュに、俺は何とも言えない気持ちになった……。
しかし――
先程の情報の中にある”違和感”、俺の知るゲームの中の彼女は友人ゼロ、内向的で引っ込み思案で、マナーを学ぶ環境も無かったため貴族教育は皆無……だったはずなのだが。
(好きな人といい、変わった性格といい、何がどうなっているんだ?)
「エンジュ、引き続き頼む!」
「はっ!」
エンジュが背後からシュッと消える。
リリスの謎を考えながら、エンジュを見てカッコいいと思った俺は、いつか忍者ムーブしてみようかなと考えた夜だった――




