第56話 いないはずの少女
第二部開幕です!
よろしくお願いします!
俺たちは、黒の死神の本部へ無事帰還した。
帰還した俺たちを見て、本部のみんなも驚くことが多かったみたいだった。まず、アゼルは思った以上に有名だった。”エルフの剣聖”として剣士界隈では、結構な有名人だったようだ。
凛とした雰囲気を放ちながらも、少し照れているアゼルを見て悶え死にそうになったのは秘密だ。
アゼルといえば、ディーを見て「うそ、ディーさん死んだって聞いてたのに……」と驚いていたりしていた。やはりディーは、エルフの里でもう亡くなった人扱いだったようだ。
オルトとの約束も果たした。多忙な彼に、”秘書を用意する”という約束――
俺の計画通りに連れ帰った若い黒エルフの娘たち……、総勢百名。
俺は彼女たちをオルトに紹介しながら告げた。
「この子たち全員が、オルトの秘書だから」
「え?……」
百名もの秘書を前に、嬉しかったのか声にならないくらい驚き固まるオルト……。
「じゃあ、よろしくな!」
そう言って俺は歩き出す。
「ちょっ!? マジですか!? マジですかオーナー!!!!」
叫ぶくらい嬉しかったのかな?……
それぞれが簡単な顔合わせを済ませ、結果報告も済ませた俺は、自分のオーナールームへ入った。ソファーに深く座り、体重を預けて沈み込んだ。そして、目を閉じて息をゆっくりと吐き出す。
(今回、俺はアゼルを救うことができた……)
しかし、よく分かったことがある。ここはゲームの世界だが、全てがゲームのままでは無いということ。
(救済アイテムを使用したのに、アゼルが拒否した時は、本当にどうしようかと思ったぜ……)
最後は、感情でゴリ押した感じだったけど――
「本当に……、本当に救うことができて良かったよ……」
(ギリギリだった……。今後も、ゲームと同じ条件ではない状況が発生する可能性は、あるよな……)
俺は天井をボーっと見つめながら思考する――
これからのストーリーイベントやその対策を。どのようなイレギュラーにでも、対応・攻略できるようにと、考えを巡らせるのだった。
◇ ◇ ◇
そして新年度――
二年生になった俺たちの取りまく環境は、入学時に比べると完全に変わっていた。
”三者三様”と俺は、入学試験のワースト4。あの頃の俺たちは誰に期待されるわけでもなく、まるで空気みたいな存在だったのだが――
『三者三様だ――』
『ナミエ様、今日も麗しい――』
『モニカ様、神々しいです――』
『ルウ様に、これを食べて頂けるかしら――』
闘技大会で活躍した彼女たちは、一躍有名人になった。
最下位からの下剋上ストーリーも相まって、彼女たちの人気は先輩から新入生まで、幅広く受け入れられていた。
しかし――
『あの一緒にいる奴はなんだ?』
『師匠気どりらしいぞ?』
『前学生会長の弟らしいぞ』
『ただの”紐”か――』
俺の評価は最低のままだった……。まあ、目立ちたくないし、いいけどね。
「むぅ、あいつら勝手なこと言って。ケイ君がいたから、あーしたちは強くなったのにっ!」
そう言って、俺の陰口が聞こえた方をナミエが睨むと――
「「「「「キャ~~! ナミエ様、カッコイイ!!」」」」」
逆に喜ぶ始末だった。俺はナミエの肩に手を置き、大丈夫だよと伝える。
すると、俺にだけ怨嗟の視線が刺さってくるのは気のせいにしておこう……。
「おはよっ! 弟君と仲間たちっ!」
「おはようございますですです」
(これ以上、ヘイトを集めたくないのに……)
「おはようございます学生会長、副会長――」
「「「おはようございます」」」
俺たちに話しかけてきたのは、新学生会長になったアイナ先輩と、新副会長のメルル先輩だった。
「この前の件っ! 考えてくれたかい!?」
ウインクしながら片手でピース、片手で俺を指さしてくるアイナ先輩に、少しイラっとした俺は即答する。
「お断りさせて頂きます」
「なぜ!?」
「忙しいので」
「それだけ!? 学生会入りなんて、すごい名誉なんだよ!?」
「興味ないので」
「マジで!? 何のためにこの学校入ったの!?」
「取り付く島もないですですね~」
メルル先輩は、薄々無理だと思っていたみたいだった。アイナ先輩は納得いかない表情だったが、気を取り直して三者三様に指を向ける。
「君たちだけでも、どうだい?」
「「「ごめんなさい」」」
「おおぉ…………」
「ですよね~」
ショックで崩れ落ちるアイナ先輩を、メルル先輩がなだめながら俺たちに「行っていいよ」と手振りをしてくれた。俺も「すいません」と手を合わせて行かせてもらった。
俺は姉さんが卒業した学生会には興味もないし、時間のリソースを割くメリットも感じなかったので断ったんだけど……。
予想通りに、アインたち”勇者パーティー”は全員学生会入りしたようだった。
(この前のエルフの里イベントで、アインはきっと自身の発言力の足りなさに気づいたはず……)
そう、アイン側から見たらアゼルは処刑されたことになっている。
ゲームでもエルフの里イベントの悔しさをバネに、”さまざまな力”に目が向くようになるのだ。
(そのための、学生会入りだろうな……)
さっきアイナ先輩が言っていた通り、エイユウ学園学生会のネームバリューはこの世界においては凄まじいの一言なのだ。
現状では、”勇者”の肩書きよりも強いと思われる。
「アインも次のステップへ進んだんだ。俺も負けてはいられないな」
俺自身の決意も新たに、新年度を迎えたのだった――
◇ ◇ ◇
基本的にギャルゲー世界なのだから、妹キャラがいそうな気もするのだが、このゲームの年下キャラは”リリス・バビロン”ただ一人だった。
(姉キャラは三人もいるのに……)
どうやら制作陣は、年上・巨乳派が多数を占めていたと思われる。俺個人としては、妹・ちっぱい派が少人数であったとしても、踏ん張って生み出してくれたことに感謝したいと思っていた。
話が逸れたが、リリスは”隠しヒロイン”なだけあって、学園都市に現れるのは救済イベントの戦争時が初めてだ。
そのため――
後輩である新一年生に関わるイベントは、ゲームには存在しなかった。
それなのに――
「新入生代表、リリス・バビロンさん――」
「はいっ」
静かに立った彼女は、新一年生の間を通って壇上へ向かった。
歩くたびに揺れる薄水色の髪は、スポットライトを反射して輝いて見えた――
「わたしは――」
壇上で挨拶をする彼女の澄んだ綺麗な声、それを紡ぐ少し薄いけど小さくて可愛い唇、白く透明感のある肌、バビロン王家の特徴である黄金に輝く瞳、守りたくなるような儚い雰囲気――
彼女は間違いなく、リリス・バビロンだった。
「……………………」
(リ…………、リリスだーーーーー!!!!)
新年度早々にして、理解できない展開に俺は、かつてない程に混乱するのだった――




