第55話 火炙りの刑、そして――
《アイン視点》
夜が明けて、刑が執行される時間になった。
みんなは処刑を見たくないと、族長の家で待つことになった。
僕は見届ける義務があると思い、処刑場へ来ていた。
「セラフも待ってて良いんだよ?」
僕は、一緒に着いてきたセラフに声を掛けた。
(セラフが一番、見たくないだろうに……)
「……大丈夫です。……居させて、ください」
昨晩泣きはらしたであろう目元のセラフは、精一杯の笑顔で虚勢を張っていた。
(セラフっ……)
その表情を見て、僕も胸を締め付けられる。
でも、だからこそ、僕も虚勢を張ろう。
「わかった。一緒に見届けよう……」
せめてもと思い、僕はセラフの手をギュッと握った。
そして――
黒頭巾を被った執行人たちに連れられて、アゼルが歩いてくる。
その表情は感情が抜け落ちていて、もう何も考えていないような表情だった。
「アゼル様!!」「気狂いが!!」
「剣聖様!!」「罪人め!!」
刑磔へ向かって歩くアゼルに対し、さまざまな声が浴びせられる――
なぜと困惑する声、異常者扱いの声、信じられず悲観する声、事件を非難する声……。
「アゼルっ!!」
セラフも叫ぶ、最期に彼女へ、何か伝えたい言葉があるかのように。
しかしアゼルは、どの声にも反応しない。
セラフの声にも……。
ただただ静かに、俯いたまま、ゆっくりと歩いて刑磔へ向かって行ってしまった。
「っ!?……そんなぁ、アゼルぅ……」
(もう君は、セラフの声にも耳を傾けてくれないんだね……)
僕は静かに、セラフを抱きしめた。
執行人によってアゼルは、刑磔に繋がれる。やはり、その表情は変わらなかった。
そして、静かに刑は執行される――
執行人によって火がつけられ、その火は瞬く間に強い炎へ変わっていった。
燃え盛る炎は、磔にされた彼女の身体を、容赦なく焼いていく――
感情の抜け落ちた表情はまるで、全てを覚悟して死を受け入れているように見えた。
どのくらいの時間が経っただろうか?
あるいは、一瞬だったのかもしれない……。
悲鳴一つ上げることなく、激しい炎と煙の中に消えていったアゼル。
泣きじゃくるセラフを胸に抱きしめ、空いた片手の拳を強く、強く握りしめて、歯を食いしばる。
(僕たちは”力”を手に入れた……、でもっ!! 守れないじゃないか!! 救えないじゃないか!! 勇者はただ強いだけではダメなんだ。僕は理不尽を覆せる力が欲しい!!)
僕は悔しさと決意を忘れないようにと、アゼルの姿を目に焼き付けた――
◇ ◇ ◇
《ティラ視点》
私たちは、処刑場が遠くから見える丘の上で、刑の執行が確実に行われるかを見守っていた。予定通りに火炙りにされて、死亡したのを確認できた。
「これで、エルフ領での作戦も終了ね」
ミルが軽い感じで言った。
「……剣聖は残念でした」
ガトーは剣聖を仲間に入れたかったようだ。戦力的に考えれば私も賛成だけど、あの頑なな性格は扱いづらそうというのが、正直な感想だった。
「潔い人でしたね~」
抵抗することもなく磔にされる剣聖を見て、サンはそう思ったのだろう。確かに、彼女が部下や同僚ではなく上司だったらと思うと……、いいかもしれないと思った。
「まあ、”もしも”とか考えてもしょうがないか……」
そんなことを呟きつつ、私はもう一度処刑場を見た。
燃え盛る炎で、もう剣聖の姿は見えない。
「よし、撤退するっ!」
「「「了かっ…………」」」
振り返った私が見たものは――
ミルの顔が、口から下しか無かった。
ガトーが目と耳と鼻から大量の血液を垂らし、白目を剥いて震えていた。
サンの胸の真ん中から、拳が生えていた。
「…………え?」
三人が倒れた。
私は慌てて仲間の下に行こうとするが――
(っ!? 身体が動かない!?)
「お疲れ様、魔族のみなさん」
「っ!?」
急に後ろから声を掛けられ驚く。
(周りには誰も居なかったはずっ!!)
「刑の執行前にあなたが死んで、洗脳が解けたらまずいから、待ってたんですよ? ダーク様の命令でね。でも、もう執行されたし、いいですよね?」
「なんなんだっ!!」
(貴様らは……)
最後の言葉は口にできず、私の意識は途絶えた――
◇ ◇ ◇
《ミラ・レヴァイア視点》
夜が明けたら、先日の襲撃に関わった百名近い若者が全て姿を消していた。
「アゼルを生贄にしてまで救ってやったのに!! あいつらはどこへ行ったんだい!?」
私は、周りの連中に早く探してこいと命令する。
「まったくっ!!」
全てが上手くいっていない気が増幅して、イライラが収まらない。
「ふざけんじゃないよっ!!」
一人で空を仰ぎ、怒鳴り声を上げた瞬間――
頭の中で、何かが弾けた……。
「……あ?……え? 私は……、なんてことをっ!?」
全て……、覚えていた……。
その時、村中に残っていた黒エルフたちは……、地面に顔を擦りつけて泣き、今までの行いに後悔をしていた。
◇ ◇ ◇
《アゼル視点》
ケイ君に救われたあたしは、処刑場が見える高台で自分が火炙りにされる様子を見ていた。
「あんまり気分がいいもんじゃ、ないんじゃないか?」
ケイ君が、心配して話しかけてくれる。
「うん、でも……」
あたしは、その様子を見届けたいと思ったんだ……。
「そっか、俺も付き合うよ」
そう言って、あたしの手を優しく握ってくれる。
あたしたちは処刑が終わるまで、静かに見守っていた――
「あの人形、すごいね?」
あたしは、ケイ君が用意してくれた”擬態人形”に驚いていた。本当にあたしそっくりに変身した時は、思わず攻撃してしまうところだった。
「ゲンナイって発明家の最新作で、世には出てない物だからね?」
しかも、言う通りに動いたりもしてくれるのだ。欠点と言えば、話せないのと表情が変わらないとこかな?
「全然バレなかったね?」
「刑の執行前だからこそってのも、きっとあるけどね」
上手くいって良かったと、本当に安心した顔になったケイ君を見てあたしは――
(ヤバい……、本当に好きかも……)
あたしは、悶えそうになる自分を必死に抑えていた。
「同志のみんなも、助けてくれたんでしょ?」
「ああ、昨晩のうちに仲間が全員連れ去っているよ」
あたしも安心する。
「……ありがとう、ケイ君」
ちょっと上目遣いで言うと……。
「まっ、まあね、アゼルのためだからね」
顔を真っ赤にして、横を向いてしまう。
(~~~~~っ!!!!)
あたしも釣られて、顔が熱くなってしまう。
「でもさ――」
横を向いたまま、ケイ君は話し出す。
「アゼルは、公式にはここで死んだことになる。だから、普段通りの生活を……、させてあげることができない――」
ケイ君は、申し訳なさそうな顔でこっちを向いた。
「――それでも、いいかい?」
(ああ、この人はまったく……)
「そんな顔しないで。あたしは、君と居られれば、それでいいから」
あたしはケイ君の頬に手を当てて、安心してほしい気持ちを伝える。
ケイ君はあたしの手に、手を重ねた。
「ありがとう。でも、いつか一緒に外を歩けるようにするから……」
ケイ君は、そんな優しい約束をしてくれた。
あたしはケイ君と人生を歩むと決め、エルフの里を後にした――
◇ ◇ ◇
《ケイ》
俺は去り際に、処刑場を一瞥する――
「現実は、俺の知識だけで何とかなる場合ばかりじゃない――」
《アイン》
僕は処刑場を後にする時に、もう一度振り返る――
「僕は、二度とこんな理不尽で人か悲しむ姿を見たくない――」
《ケイ》
「不確実、想定外……、きっと今後もあるだろう――」
「それでも俺は――」
《アイン》
「だから僕には全てを救える力が必要だ、それはきっと困難な道――」
「それでも僕は――」
《ケイ&アイン》
「救ってみせる!!――」
第一部完となります。
ここまで『推しヒロインは俺が救う』を読んでいただき、本当にありがとうございます!
少しでも面白い、推しキャラができたという方は、評価やブクマ、感想などをもらえたら作者めっちゃ嬉しいです(^▽^)/
宜しければ、これからも『推ヒ救』を応援いただけたら嬉しいです!




