第54話 俺が君を――
《ケイ視点》
迷いの森を抜け、高台からエルフの里を見下ろす。
「ついに……、この時が……、きた――」
俺は、喉が張り付くほどの緊張をしていた。
転生してから、この日のために出来ることはやってきた。
救済用のアイテムも万全。自分自身も、鍛えられるだけ鍛えた。頼もしい仲間を集めて、組織も作った。
(――大丈夫だ。見落としはないはずだ)
ゲームで必死に紐解き見つけ出した攻略法は、順調に進められている。
しかし、この世界はゲームであってゲームではない……、現実だ。
「……やり直しは……、できない」
その言葉を紡いだ瞬間――
不安が俺の心を侵食する――
(やり直しはできないんだ! 本当にこれで平気なのか!? 現実の人間相手に通じるのか!? 前世の攻略の知識が!?)
「ダーク様!」「ダーク君!」
「ダーク殿!」「ダークさん!」
仲間の声に、ハッとする。
我に返ると、不安そうに俺にしがみつくエンジュや三者三様がいた。
「……ダーク様、恐ろしいオーラが……、滲み出ていました……」
見ると四人とも手が震えており、やっとの思いで俺を掴んでいた。
俺は、天を仰いだ。
「……すまないな」
エンジュは首を振った。
「……それだけ、この作戦が……、ダーク様にとって、大事な作戦なんですね」
「ああ」
冷静になって振り返ると、零番隊は座り込んでおり、その他の仲間たちは意識を失っていた。
俺はその惨状を見て。
(……本当に、すまん)
心の中でみんなに謝罪した。
全員の体制が整うまで、休憩となった。
少し離れたところで休んでいると、ナミエが話しかけてくる。
「ダーク君、さっきはどうしたのさ~?」
(ダーク君て……)
「恥ずかしながら、緊張……。いいや、不安になってな。……今回は失敗できないからな」
ナミエが驚き、次にニマニマした顔になった。
「なんで、笑う?」
「ごめん、ごめん、違うさ~。ちょっと嬉しかっただけ! ダーク君、いつもは自分のことを話してくれないからね?」
(そうだっけか?……そうだったかもな)
「う~ん、意外かも?」
ナミエは、不思議そうな顔をする。
「何が?」
「ダーク君はめっちゃ強いんだからさ、どうにでも出来るんじゃない?」
俺は首を傾げる。
「いやさ。最悪、全員殺せば助けられるじゃん? エンジュさんとかみたいに?」
「何だそりゃっ! そんなことしねーよ!?」
思わず笑ってしまう。
ナミエもエヘヘと笑って頭を掻いているが、そうだな……。
(最終手段としては、有りかな――)
俺はナミエのおかげで、少し不安が和らいだ気がした――
◇ ◇ ◇
闇夜の時になり、各員が配置についた――
俺は牢の側で気配を消して、タイミングを待っていた。
アゼルの下には、始めに魔族、次いでアインが説得に来ていた。
予定通り、説得は失敗する。
(ここまでは、ゲーム通り……)
「それが現実よ勇者様。あなたにも救えないものがあるのよ。……それよりもさ、あたしの代わりにセラフを、あたしの姫を支えてあげてね……」
アインが去り、諦めたような表情で目を閉じるアゼル。
(ここからが、俺のターンっ!!)
「諦めてもらう訳には、いかないな――」
そう言って俺は、姿を現した。
突然現れた俺に、明らかに警戒の色を見せるアゼル。
俺はアゼルへ手を差し伸べ――
「俺は、君を救いにきた――」
アゼルは俺を睨みつける。
「そもそも、あんたは誰なの?」
「失礼、俺の名はダーク。学園都市にある、クラン”黒の死神”のオーナーだ」
アゼルは、驚きつつも呟く。
「漆黒の死神……、それにあの”黒の死神”?」
「ああ、知っているのか?」
「有名だからね……」
「それは、ありがとう」
アゼルは、警戒を解く様子がなかった。
「そんな有名人が、どうして?」
俺は目を閉じ、そして瞳を赤く輝かせながら開く。
「君を、どうしても救いたいからさ!」
「そう……。でも、断るよ」
「どうしても?」
「どうしても」
「「…………」」
(……ゲーム通りだ。よし、一個目のアイテムを使う――)
俺はアイテムボックスから、”女神像”を取り出した。
「っ!?」
急に物が出てきて、驚くアゼル。
(そこじゃないぞ! アゼル!)
俺はアゼルに見えるように、”女神像”を置いた。
「この像を、見て欲しい……」
「…………」
この”女神像”は、ドワーフ王国の『コットウ屋』で手に入れたものだ。
「君は、胸の大きさで悩んでいるだろう?」
「…………」
「この女神像は、”美の女神サクヤ”の像だ。よく見て欲しい、”美の女神様”は――」
女神像の胸の辺りを指さして――
「――”ちっぱい”なんだよ! そう、”ちっぱい”は”美の女神様”によって、肯定されているんだよ!!」
「っ!!!!」
俺はバッと手のひらをアゼルへ向け、
「だから君は悩まなくて良いんだ! 君のちっぱいは美しいのだから――」
「…………」
(……あれ?)
「だから?」
「「…………」」
(…………あんれ~?)
俺は心の中で、首を傾げる。
(こっ!ここはっ!追い撃ちだ!!)
俺は慌てて、二個目のアイテムを取り出す――
「これを君に、使って欲しい――」
そう言って俺は、”暴風玉”をアゼルへ差し出した。
警戒しつつもアゼルは、”暴風玉”を受け取る。その価値が直感的に分かるのか、力の奔流を感じるのか、キラキラした目で”暴風玉”を見ていた。
「……綺麗」
”暴風玉”はアゼルが持つことで、その輝きを強くし、玉内の渦もより強く渦巻いていた。
「その暴風玉が、君を選ばれた人だと証明してくれるんだ」
アゼルは、俺を疑いの目で見てくる。
「暴風玉を、胸の中心で抱えてみてくれ……」
渋々といった様子で、従ってくれた。
「えっ!?」
抱えた瞬間にスッと、アゼルの中に溶けて入った――
そして、アゼルを中心に暴風が吹き荒れる。
暴風が牢屋を吹き飛ばしそうになってしまいそうになったので、俺は急いで魔力の壁で囲った。
(思った以上の暴風だなっ!?)
「すごい……」
自身の暴風に戸惑いつつも、力の高ぶりを感じているようだ。
「これで君は、あの有名な”暴風の魔女”と同じ、”暴風魔法使い”になった――」
アゼルは驚き、俺を見る。
「君は、選ばれた人ってことさ」
そう言って俺は、再び手のひらをアゼルへ差し出す。
しかし、何も言わずジーっと俺を見るアゼル。
(ん~?)
「だから?」
「「…………」」
(え? え!? ゲームだとこれで、ちっぱいへのコンプレックスを克服して、必要とされない自分への肯定感の低さを打ち破って……、俺の手を取って!!――)
アゼルの表情は、最初と変わらず警戒の色を見せていた。
(くれるはず……なのに!!!?)
手を差し出したまま固まる俺。
ゲームの状況と乖離してしまったために、どうすれば正解なのか分からず大混乱中だった。
(どうする? どうする? え!? どうすれば!?)
「あなたは、何がしたいの?」
「君をここから救いたい……」
「あたしは行けない。みんなを犠牲にできないから――」
アゼルは俺に対して、初めて優しい顔になった。
「理由は知らないけどさ……。なんか、いっぱい、あたしを肯定してくれて、ありがとうね?……最期に、ちょっと嬉しかったよ……」
(違うんだ!! 違う!! ただ君を喜ばせるだけとかじゃっ!!)
そんな優しい顔で諦めないでくれ――
俺は君たちを、君を救いたいから頑張ってきたんだ――
君を救えなかったらっ!! 俺が転生した意味がない――
(俺は君を諦めないっ!!!!)
もうどうすれば良いか分からなくなった俺は――
――漆黒の仮面を、脱ぎ捨てた。
「え!?――」
アゼルは、本当に驚いた顔になって固まる。
「死なないでくれ!! 俺はっ!! 君に生きて欲しいんだっ!!」
「なんで……、君が……」
「俺に救わせてくれ!! 俺には君が必要なんだよっ!!」
「そんなに泣かないで……ケイ君……」
「君が好きだ!! 俺はずっと!! 君を愛しているんだ!!」
「っ!!!!」
俺の顔は、涙でぐちゃぐちゃで――
アゼルは顔を真っ赤にして、手で口を隠しながら、一筋の涙が頬を流れる――
「……もっと早く、君に会いたかったよ――」
「何度だって言う。俺に、君を救わせてくれないか!? 俺はそのための用意をしてきたんだ!! 一族のみんなも守れる方法だってあるんだ!! みんな救えるんだ!!」
アゼルは、目を見開いた。
「……それは、本当?」
俺は今度こそと、手を差し伸べる――
「ああ。全部を救う手段があるんだ――」
アゼルは涙を流しながら、俺の手を取った――
「……お願い。助けて……、ケイ君」
「ああ、任せてくれ」
俺は、アゼルを抱きしめ、
この子を絶対に守り離さないと、強く心に誓った――




