第53話 アゼルの決断
《アゼル視点》
時間は深夜――
あたしは明日の朝、公開処刑されることが決まった。そのため、里の外れにある牢に、入れられていた。目を閉じてはいるが、眠れそうにはなかった。
(……足音?)
誰かが、こちらに近づいてくる――
あたしは、その人物を見て驚いた。
「何で、あんたが――」
◇ ◇ ◇
《アイン視点》
世界樹祭で起こった襲撃は、ケガ人は出たものの、死人を出すことなく鎮圧できた。
襲撃者の剣聖アゼルを含めた二十七名は、全員拘束されている。全員が黒エルフ族だった。
「みんな、大丈夫だったかい?」
舞台の下へ降り、戦っていたみんなに声を掛ける。
「問題なし」「大丈夫だよ!」
「はい」「うむ」「……うん」
みんな、ケガも無さそうだった。
(こういう突発的なことがあると、力は必要だなって思うよな……)
恐らく今回の戦いは、世界樹迷宮でのレベルアップが無ければ苦戦していただろう。
「みなさんもぉ、ご無事で~」
セラフも降りてきた。
「セラフも。……大丈夫?」
ラフィがセラフの表情が曇っていることに気づく。
その視線の先には――
「……あっ」
意識を失ったアゼルを、エルフの衛兵が運んでいく姿だった。
「彼女たちは、どうなるんだろうね?」
僕がそんなことを口にすると、セラフは悲痛な表情になって――
「それは……」
事件はすぐに、エルフ領の各村へ伝達された。各村の族長はすぐに森エルフの里へ招集を掛けられた。そして数日後、全ての族長が集まり臨時族長会が開催される。
「勇者様たちも、参加して下さい。直接狙われた、被害者ですからね……」
セーラ族長から提案されて、僕たちは参加することになった。
「臨時族長会を始める――」
セーラ族長から、各族長へ事件の説明が行われた。
そして――
「ミラ・レヴァイア族長、何か申し開きはあるか?」
黒エルフ族長へ、話を振った。
「……ありません。全ては私の娘、アゼルが仕出かしたことです」
ミラ族長は、抑揚のない声で話す。
「なぜ……、なぜ私の娘を狙った?」
セーラ族長は、怒気を込めて言う。
「少し前から……、村の若い娘たちが、何か集まって話してしたのは知っていたのですが……、理由までは……」
ミラ族長の目は、仄暗く見えた。
「理由も分からず、若い娘たちが襲撃事件を起こす? あなたは何をしていたんです?」
セーラ族長は、ミラ族長に責任を問いたいようだった。
「面目なく。しかし、悪いのは娘のアゼルです。剣聖というカリスマを持って、村の娘たちを誑かしたのです」
(頭を下げ、表情は見えないが、実の娘を売る気なのか? この人は!?)
ミラ族長は、頭を下げたまま更に続ける。
「娘のアゼルは極刑でも構いません。……その他の者には、慈悲を……」
「アゼルだけっ!? アゼルだけを犠牲にする気なのですかぁ!?」
黙って聞いていたセラフが、我慢ならないと叫ぶ。
ゆっくりと顔を上げたミラ族長は、心底分からないという顔をして――
「あなたは、狙われた側でしょ?」
そう言って、首を傾けた。
「っ!!」
セラフは泣きそうな顔で、唇を噛みしめる。僕はセラフの手を握った。セラフは僕の腕に顔を埋めて涙を隠し、手を強く握り返した。
「……極刑? エルフの法では火炙りだよ?」
セーラ族長は確認する。
「わかっております。今回の事件は、全エルフ族にとって大事な”世界樹の巫女”を狙った悪質なもの。本来は、一族郎党で断罪されるべき案件……。それを、娘一人で許してもらおうと言うのです……、極刑も当然かと……」
当たり前のことだと、ミラ族長は言った。
(何なんだ……、この人は?)
僕は、理解できなかった。一族全体の話なのは分かった。でも、自分の娘をそんな簡単に諦められるのか?
セラフが、ミラ族長を睨み。
「アゼルは、一族のために戦ったのではないのですか!?」
ミラ族長は失笑する。
「まさか? ただの私怨ではないのですかね? 私たち一族に、あなたを害する理由なんてありませんよ……」
僕もセラフも、呆然となってしまった。
セーラ族長は、ため息をついてから他の族長に問う。
「加害者側からの願いだ。他の族長はどうか?」
他の族長たちも反対意見はなく、アゼルの処刑を受け入れていた。
セーラ族長は渋い顔になるが、諦めて裁決を出す。
「では、この度の襲撃事件は、剣聖アゼルの極刑を持って、これ以上の罪を問わないものとする――」
「ありがとうございます……」
「っ!?」
セラフは、泣き崩れてしまった。
(くそっ! 何でっ!?)
僕は彼女が泣き止むまで、抱きしめて続けていた――
◇ ◇ ◇
《アゼル視点》
牢の外はすっかり暗くなった深夜、月明かりだけがあたしを照らしていた――
族長会の結果、あたしは極刑になったと衛兵が教えてくれた。
明日、執行されるそうだ……。
(そっか、みんな助かったんだな……、良かった)
同志や村のみんなが助かったことには、安堵した。
でも――
(母様は、あたしに会いもせずに帰ったのか……)
許されないことをしたのは、分かっている。
「でも、娘の心配くらいはして欲しかったな……」
寂しさで、胸がいっぱいになった。
(まるで子供だな、あたし……)
母様たちは、黒エルフ族のみんなが開放されるとすぐに、全員で村へ帰っていったそうだ。あたしの執行を、見届けずに……。
「いつから……、あたしは一人になったんだろな……」
そんな呟きをしていると、人の気配が近づいてきた。
(この気配は――)
「こんばんは、アゼルさん。襲撃、失敗したんですね?」
嫌な笑顔をしたティラがいた。
「なんの用? あんたの顔を、見たくないと思ってたところなんだけど?」
「フフフ、あなたは洗脳に掛かっていない。気づいているんでしょ?」
やっぱり……、そういうことか――
「……魔族」
「ご明察」
「あたしも途中までは、洗脳されていた?……いや、誘導されただけか?」
「途中までは負の感情を刺激・増幅させていたんですよ~。洗脳には至りませんでしたが、その通り! 誘導はしてましたね~」
「くっ!」
あたしは、悔しそうな顔をしてしまう。
「ハハッ! 良い顔です。……そんなあなたにラストチャンスです。……私たちの仲間に――」
「断る」
ティラの笑顔が引きつる。
(フフ、良い顔だ)
「理由を伺っても?」
「お前が嫌いだから」
ティラは手を顔に当て、天を仰ぐ。
「明日、処刑されるんですよ?」
「それ以上に嫌ってことよ」
ティラはため息をついた。
「そうですか、残念です。……さようなら、剣聖アゼル――」
そう言い残し、闇に消えていった――
◇ ◇ ◇
そして冒頭へ戻る――
「何で、あんたが――」
(今日のあたしは、人気者かい?)
「――勇者様」
そこに現れたのは、勇者アインだった。
「アゼルさん、こっそり逃げないか?」
(こいつは、何を言っているんだ?)
「ハア、なんで?」
アインは必死な形相で、声を殺して叫ぶ。
「なんでって! 君が明日、処刑されていまうからだろっ!!」
(なんでこいつが、こんな必死なんだ?)
「知ってるよ」
「知ってるならっ!」
「もう、いいんだよ。みんな助かった。セラフも無事だっただろ? いいじゃないか」
アインの顔が歪む。
「君は助かってないっ! それにセラフは泣いてるんだ!」
(あたしはついでかな? セラフの涙を止めてあげたいとか? いや、みんな助けたいって感じかな?)
「そう……、ありがとう」
あたしが笑顔で感謝を言うと、アインは安心した顔になった。
「よかった、じゃあ――」
「あたしは、ここに残るよ」
「……え?」
てっきり、一緒に逃げる意味での感謝と思ったみたいでアインは固まる。
(ごめんね……)
「あたしは残る――もしも、あたしが逃げたらどうなるか分かる?」
「それは……」
「今度は、一族の誰かが処刑される。いいえ、逃げた罪を重ねて何人も処刑されるかもしれない。あなたは、それも全てどうにかできるの?」
アインは悲痛な表情になる。
(ごめんね、意地悪なことを言って……)
「それが現実よ勇者様。あなたにも救えないものがあるのよ。……それよりもさ、あたしの代わりにセラフを、あたしの”姫”を支えてあげてね……」
アインは俯き、拳を握りしめていた……、拳から血が滴り落ちるくらいに――
静かに去った勇者様に、あたしは感謝して目を閉じた。
(ありがとう勇者様……、セラフをお願いね……)
「…………」
静寂の中、あたしは再び目を閉じた――
「諦めてもらう訳には、いかないな――」
闇夜から急に声がして、あたしは慌てて目を開く。
鎖で繋がれており身動きは取れないが、咄嗟に距離を取ろうとしてしまう。
(全然気配を感じなかった!!)
そこには、
漆黒を纏った者が、あたしを見下ろしていた――




