第52話 剣聖アゼル・レヴァイア
《セラフ視点》
(アゼル……、どうして?)
わたしは、最近覚えた魔武術で風を纏った。
(世界樹様の加護が付いている今なら、十全に使えるはず!!)
風によって巫女装束や、わたしの髪が揺れ動く――
風に包まれることで防御力が上がり、風によって足元も少し浮いた。
(身体が軽い。これが本来の魔武術――)
「操られてないのなら、何か彼女にも理由があるはずだ! セラフ、二人でアゼルを止めよう!」
(アインさん……。ありがとうございます!)
「はい! 必ず!!」
だってアゼルは、わたしの”騎士様だった”のだから――
わたしたちエルフ族は、エルフ内でもさまざまな種族がいる。
その一つが、ダークエルフ。黒エルフとも略される。因みに、わたしは森エルフだ。
エルフは長命種。だからか幼年期も長い。50歳を越えると、急激に成長して今のような成人した姿、青年体になる。
アゼルとは種族が違っていても同年代ということもあって、幼年期を一緒に過ごすことが多かった。
(勇者様の話だって……、一緒に楽しく話したじゃない……)
わたしのジョブが『魔聖』、アゼルのジョブが『剣聖』。
種族は違っても仲が良かったから、大人たちは将来の『姫』と『騎士』だと、わたしたちをもてはやしたっけ……。
幼年期は本当に仲が良かったし、一緒によく遊んだ。ジョブを得てからも、姫や騎士なんて関係ないと言って仲良くしていたんだけど――
転機は、幼年期を越えた時だった……。
急激に大人の身体に成長した時から――周りが、わたしだけを囲いだした。
『巫女修行が必要だ――』
『魔聖として魔術を覚えるんだ――』
『森エルフは、エルフ族の代表だ――』
『族長の娘としての態度を――』
急激に変わる身体の変化だけでなく、わたしへの期待も急激に変化していった――
最初の内は、こっそりと遊びに来ては「修行が大変でさ」などと、近況や楽しかったことなんかを言いに来てくれていたアゼル。
わたしの身体の変化が進むにつれて、だんだんと来なくなってしまった。
いっぱい修行して、いっぱい魔術を学んで、いっぱい頑張っていれば……。いつか、また会えるなんて思っているうちに、お勤めとして学園都市へ入学してしまった。
そして、現在――
(やっと会えたと思ったら……、お前を殺すって! 何でなの!? アゼルっ!!)
わたしは風を纏って、アゼルまでの距離を一瞬で駆け抜けます――
「はあっ!!」
まさか、わたしが突っ込んでくるとは思わなかったようで、アゼルの反応が遅れました。
風を纏った扇で横一線――鋭い風の刃がアゼルを襲う。
「くっ!」
風を纏ったレイピアの袈裟切りで、相殺する。
わたしは縦横無尽に飛び回り、扇の風刃を繰り出しながら叫ぶ。
「わたしが知ってるアゼルは、理由もなくぅ! こんなことを、しない!」
アゼルがわたしを睨むが、わたしは怯まない――
「だって……、わたしの騎士様なんだからぁ!!」
アゼルは驚いた顔になり、その後、悲痛な表情になった――
◇ ◇ ◇
《アイン視点》
「わたしが隙を作ります――」
セラフは僕にそう囁き、風を纏ってアゼルへ突撃していった。
(いつもよりも、魔武術を使えている……)
世界樹の加護のおかげか、風や魔力の流れが力強かった。
「セラフ……、僕は君を信じるっ!」
自分も飛び出したい気持ちを抑え、剣を構え重心を下げる。次の一撃のため、集中する。
セラフの猛攻の中でも、こちらに意識を向けているのが分かった。
(警戒されている……、隙ができない……)
「だって……、わたしの騎士様なんだからぁ!!」
セラフの叫びの瞬間――隙ができた。
(っ!! 今だ――)
僕は、溜めていた力を開放する。
今までで最速の移動。
一瞬でアゼルの目の前へ――その勢いで剣を振り切る――
「っ!!」
僕は咄嗟に首を捻り躱したが、頬にアゼルのレイピアが掠った……。
「フフ、よく避けたね? さすが勇者かな?」
アゼルは微笑んで、そう言った。
(危なかった。あのまま突っ込んでたら、僕は顔を貫かれていた……)
僕の最速の一撃だったが、その直線上にレイピアが待っていたのだ。
(たしかに隙ができたはずなのに……。どうして反応できた?)
「不思議そうね? あたしはこれでも剣聖だよ? そんな直線的な攻撃を対処できないとでも?」
「……たしかに、だね」
僕は悔しいけど、納得してしまった。これが『剣聖』、剣士の最高峰――
「アインさんっ! 平気ですか?」
僕の隣へ、セラフが戻ってきた。
「大丈夫さ。本当に強いね、アゼルさん」
「ええ、でも止めますぅっ!」
セラフの風が、更に強くなる。
「よしっ!」
僕も光を、最大限に纏う。
「今度は僕が前へ出る! セラフは援護を!」
「わかりましたぁ!」
アゼルも更に強く風を纏った。
「さあっ! 来いっ!」
直線的では、カウンターを合わせられるのが分かった。だから、僕は直線で突撃しつつも途中で軌道を変化させ、回り込むような形で攻め込む。僕に意識が向いた様子を見て、セラフも切断力と連射力を上げた風刃で攻撃をしてくれた。
アゼルは僕に視線を向けつつ、セラフの風刃を自身が纏った風で上手に往なしていた。僕が、遠心力を付けて放つ一撃も往なす。その勢いのまま、角度を変えて高速の連撃を打ち込むが、全て往なされてしまった。
(くそっ! なんて技量なんだっ!?)
自身が光になったように高速で動く僕の攻撃を自在に往なし、僕が少しでも体勢崩すとレイピアで反撃してくる――援護してくれるセラフの攻撃も当たらない――
(ならばっ!)
僕は一度距離を取って、腰を落として力を溜める。
「閃光っ!!連っ!!」
光を纏った刺突が、流星の如くアゼルを襲う――
「ハハッ!!」
アゼルは、風を纏ったレイピアで刺突を連続で放つ――
ガガガガガガガ…………ッ!!!!
「ハァ、ハァ。信じられない……」
お互い刺突の姿勢で止まっていて――お互い無傷。
(相殺されたのか!?)
「今のは良かったよ。勇者さん」
そう言ってアゼルは、腰を低くする。
(まずいっ!?)
僕は技の硬直で、あと数瞬は動けない……。
アゼルが飛び出し、僕の心臓を貫こうとするが――
「させませんっ!!」
アゼルの横から、突風が吹き荒れる。
「ちぃっ!」
体勢が崩れたアゼルは、そのまま距離を取った。
「助かったよ! ありがとうセラフ」
「いいえ、アインさん」
僕たちを見て、苦々しい表情をしたアゼル。
「やっぱり、二対一は辛いね……、狙う方を変えるか?」
そう呟いたかと思った瞬間――
(っ! 危ないっ!) ギインッ!
セラフを狙った横薙ぎを、僕が防ぐ。
「まだまだっ!!」
ギインッ! キインッ! ギャイン!
アゼルは僕ではなく、セラフを徹底して狙ってくる。
セラフはアゼルの高速剣技についていけず、反応できていないため僕が防ぐしかない!!
(くそっ!! 反撃できないっ!!)
セラフは反応できず、ただ守られている状況に涙ぐんでしまうが――
その時、強い瞳になった。
「アインさんっ!! ごめんなさいっ!!」
瞬間――
セラフを爆心地として暴風が吹き荒れた――
ドガアアアア!!!!
「なっ!?」
虚を突かれたアゼルは、吹き飛ばされた。
「アインさんっ!!」
(ああ。分かっていたよ――君のやりそうな、力技な作戦だね)
何となく察した僕は、謝られた瞬間に全力で伏せて、地面に張り付いていた。
そして立ち上がった僕は、吹き飛ばされて無防備なアゼルを見上げている。
背中に衝撃――セラフの風魔法で、僕はアゼルに向かって飛ばされた――
「アゼルーーー!!!!」
◇ ◇ ◇
《アゼル視点》
(まさか、あの状況で自爆技なんてね……)
セラフの発生させた爆風に吹き上げられたあたしは、空を舞っていた。
「アゼルーーー!!!!」
勇者が、あたし目掛けて突っ込んでくる。
(この体勢じゃ風を使っても避けきれないか――)
チラッと、下から見上げているセラフを見る。
(……セラフ――)
あたしは、幼年期の頃からセラフと仲が良かった。
エルフ領のみんなから将来の『姫』と『騎士』だと。悪い気はしなかったし、実際あたしはセラフを守る剣になろうと思っていた。
成長期に入ると、お互いみるみる成長していった。最初は気にならなかったが、だんだんと胸の大きさに差が出てくると、小さな嫉妬心が芽生えたのは本当だった。
ちょうどその頃、貧乳を理由に結婚や交際を断られることが、黒エルフ族の中で増えてきた頃だった。始めはあたしも大きな問題だと思っていなかったが、それが数年続き、よく調べたら百年近く続いている事象だと知り、組織を作ったのだ。
危機感を抱いてしまってからは、セラフの胸を見てイラ立ってしまう自分が嫌で、彼女に会いに行く回数が減ってしまった……。
(今はセラフの大きな胸を見ても、そこまでの嫌悪感を感じない――)
あの時の、耐えがたい憎悪は……、
なんだったのだろうか?
(あたしも少なからず、精神汚染されていたということか……)
勇者が、すぐそこまで迫っていた。
(これで同志も、セラフも、みんな助けられたよね――)
あたしは目を閉じた。
勇者の一撃を受け止め、意識が暗転した――




