第51話 ダークエルフ襲撃事件
《ティラ視点》
「やはり、アゼルは落ちなかったよ……」
世界樹を遠くから望める丘の上で、私は仲間に話しかける。
「まあ、剣聖だからね。上級職のやつは、基本的に精神耐性が高めだもんね?」
ミル・フィールは、仕方がないよねと言う。
「長期に活動したのに……、残念です」
ガトー・ショラコは、落胆していた。
「この騒動を生き残れば、まだ可能性あるかもしれないよ?」
サン・トノレは、まだ諦めていないようだ。
(サンの言う通り、まだ可能性はあるか? できれば……、欲しい)
私たちは、魔王軍第四工作小隊。この作戦の目標は、アゼル・レヴァイアだ。
可能なら魔王軍へ勧誘、難しければ殺害するという作戦。
「精神干渉による洗脳は失敗。途中まで、良い関係になったと思ったんだけど……」
「学園都市へ一度行ったじゃん? あの後からちょっと変わった気がするよね?」
「たしかに。怨念が薄くなったし、干渉ができなくなったね」
振り返りも大事だが――
「さて、どうするか……。みんなの意見は?」
「あたしは、殺すべきだと思う。もう、懐柔は失敗っしょ」
「私は……、懐柔です」
「生き残ったら、最後の選択肢をあげたい」
ふむ、意見は決まったな。
「最後の選択肢で行こう」
「「「了解!」」」
クルフ村の族長たちを精神干渉で洗脳して、アゼルたちを孤立させる所から始めた長期作戦だ。これだけ時間を掛けた分の、リターンが欲しいと思ったのだ。
「私たちのためにも、生き残って下さいね。アゼルさん?」
◇ ◇ ◇
《アイン視点》
急に起きた爆発――
(セラフっ!! みんなっ!!)
まずは高い舞台の上に居た、セラフの無事を確認しようと走り出した――
(みんなはきっと、纏まっているはず! 一人のセラフには前衛が必要だ!)
僕は、腰のポーチから装備を取り出した――そう、エルフの里に来る前にマジックポーチを買っておいたのだ。みんなも買ったので大丈夫なはず。
(とても値段が高くて尻込みしたけど、ケイに勧められて買っておいて良かったよ!)
でも――セラフは、今は持ってない!
舞台に跳び上がって、着地した時に見た光景は――巫女装束のセラフへ襲い掛かる、複数の黒頭巾を被った集団。
「させるかぁーー!!!!」
僕は瞬時に光を纏い――
次の瞬間にはセラフの横で剣を振り切り、襲い掛かってきた集団を吹き飛ばした。
「アインさんっ!」
セラフは嬉しそうな表情で、僕の側に寄ってくれる。
「大丈夫かい? 装備を今っ!」
「大丈夫ですぅ! 今はまだ世界樹様の加護が、巫女装束に付与されてるので平気ですぅ!」
(そんな仕様があったんだ!?)
ちょっと感心しつつ、舞台に上がってきた黒頭巾五名と対峙する。
「アインさん! 黒頭巾さんたちは、どうやら操られてるだけっぽいですぅ!」
「それも加護の力?」
「はいぃ! 世界樹が教えてくれてますぅ~」
(すごいな!? 世界樹の力!!)
「みんな~~!! 敵は操られてるだけだ~~!! 無力化するだけにしてくれ~~!!」
僕は大声で、舞台の下に居るであろう仲間に伝える。
「うわっっぷ!」 キインッ!
慌てて敵の剣を弾く。
大声を出してる間に、敵に詰められていた……。
「させませんっ!」
セラフが扇を振ると、突風が吹き荒れて黒頭巾たちを遠くへ飛ばしてしまった――
そう思ったのだが……、上手く風を操って戻ってきた。
「むむぅ。加減が難しいのにぃ~」
セラフは、頬を膨らましていた。
チラッと見た僕は、(可愛い……)と惚けてしまった。
「アインさんっ!」 ギュリリリ!
またもや敵が切り掛かって来ており、セラフが風で防いでくれていた。
(ごめんっ! セラフっ!)
僕は、身体強化を強めて前に出る――
敵の短剣を避けつつ、通り過ぎる時に敵の意識を刈り取って行った。
バタリ。
「ゴメン、ちょっと集中を切らしてしまった」
素直に謝らせて頂いた。
「本当にお願いしますぅ! アインさんは必要な人なんですから……」
ちょっと頬を赤らめながら言わないで欲しい……、また集中が切れてしまうから。
「ふう、さすが勇者だな。さすがに強い……」
その声に、二人で振り返る――
(気配に気づけなかった――)
「アゼル……」
「久しいな、セラフ……」
二人は見つめ合う。
「なんで、あなたが?」
「……種族存続のためにかな?」
「あなたは……、操られていない……、よね?」
「ああ。……あたしが首謀者だよ」
セラフは、悲痛な表情になって――
「なんでぇ!?」
アゼルと呼ばれた黒エルフは微笑んだ。
「……お前を、殺さないといけないのさ」
「っ!!…………」
「さあ、構えな……」
そう言ってアゼルは、自身の剣を抜く。細身の剣、レイピアというやつだ。
(……隙が無い!?)
「気をつけて、下さい。……彼女は、剣聖。エルフ領で最強の剣士ですぅ……」
(……なるほど、納得だ。彼女は、強い!!)
「来ないなら、行くぞ?」
瞬間、彼女の姿がブレる――
瞬きの間に、レイピアの剣先がセラフの胸を貫いた――
キインッ!
(くぅっ!! 間に合ったっ!!)
「さすがっ!」
彼女は笑い、一度距離を取る。
僕は光を纏い、やっと止められた速さだった。
「魔武術も使えるのかい? さすが勇者。じゃあ、あたしも使うよ、魔武術――」
紫の瞳が煌めき、アゼルは風を纏った――
月明かりが反射する綺麗な銀髪が、自身が纏う風によって揺らめいている。
僕も、全力でやるしかないと思った。
「セラフ、手加減はできなそうだ」
「……分かっていますぅ。アゼルは、手加減して勝てる相手ではありません」
僕は光を纏い、そして――
「わたしもぉ、闘いますぅ!」
セラフも風を纏った――
「操られてないのなら、何か彼女にも理由があるはずだ! セラフ、二人でアゼルを止めよう!」
「はい! 必ず!!」




