第50話 ダークエルフの悲劇
《アゼル視点》
あたしはアゼル・レヴァイア。
ダークエルフ族長の娘で、ダークエルフの村であるクルフ村で育った。
ダークエルフも森エルフと同じで長命種だけど……、ダークエルフ種は絶滅の危機に陥っていた。
「みんな、よく集まってくれた」
同志たちが皆、静かに頷く。
ここは、クルフ村から少し離れた廃村の集会所だ。この場所を、あたしたち『黒エルフ絶滅阻止革命軍』の活動拠点にしていた。
あたしは、協力者に調べてもらった調査結果を机に広げた。
表紙には、『黒エルフや周辺エルフ種の好み』と書かれていた。
同志たちは、穴が開く勢いで調査結果を読む……。そして、絶望の表情をするのだった。
「神は……、我々を見捨てたのでしょうか?」
同志の一人が、そう呟いた。
あたしは、首を横に振った。
「神は、そんなに無慈悲ではないはずよ。きっとこれは試練なのよ……」
あたしも気持ちは重かったが、同志の気持ちが潰れないようにフォローする。
それでも、すすり泣いてしまう子もいた。
そう、あたしたちは絶滅の危機に瀕していた。長命種だから、今ではないだろう。
しかし、事実として直近の百年、黒エルフの女性は結婚が出来ていなかった――
お付き合いも出来ていないのだ。
村の適齢期を越えた連中は皆、危機感を抱いていなかった。
『その内、何とかなる』と――
(違うっ! 百年だぞっ!? 明らかにおかしいだろうがっ!!)
あたしたち『黒エルフ絶滅阻止革命軍』は、婚期になっても結婚できていない女性で集まった組織だ。あたしたちは定期的に集まって、解決策を何度も話し合っていたが答えは出ない。今回は外部の協力者に、客観的な視点を集めてもらうために調査を依頼したのだが……。
先程の調査結果の中身を、端的に言えば――
「…………みんな、”巨乳”が大好き」
全員が悲痛な表情になる。
なぜなら……、あたしたちはみんな、”貧乳”だった。
黒エルフ種の特徴みたいなものなのだ。みんな綺麗だし、可愛いし、スタイルはとても良いのだ。
”スレンダー”で”胸が小さい”――それが、あたしたちの種族特徴。
「貧乳に人権は無いのかっ!?」
同志の一人が、机を叩いて叫んだ。
あたしは……、
その問いに対する答えを、紡ぐことができなかった――
◇ ◇ ◇
みんなの心は、限界に近いと思えた。そして、あたしの心も……。そんな時に、学園都市で司書をしている叔母のナディアさんから、手伝いの依頼があった。
(気分転換に、行こうかしら――)
あたしは、重度の男性不振と同族への嫌悪感でいっぱいになっていた。
だからこそ、叔母のナディアは森の外で暮らしているだけあって変わった人だったが、今のあたしにとって信用の置ける人物でもあったのだ。
久しぶりに会ったが、叔母は変わらずマイペースな人だった。
「そうそう、アゼルちゃん。今日はもう一人、お手伝いに来るから仲良くね~」
「え? 嫌なんだけど……」
「良い子だから、平気よ~」
「いやいや、良い子とか関係ないし。他の人に会いたくないから来たのに~」
あたしは嫌だなと思いつつ、諦めて何とかやり過ごそうと思った。
ステンドグラスを眺めて待っていると――
「今回も受けてくれてありがとうございます。助かります」
(ナディアさん、他所ではそんな話し方するんだな~)
「ナディアさんのためなら、何度でもってやつですよ」
(ん?)
「ありがとうございます。今日は姪も手伝ってくれてるんですよ」
「……ん?、姪?」
深いため息を出したくなった……。
(…………男は嫌なのに)
嫌だけど挨拶されたし、そっちを向くと――
(すごい目が血走っていて、鼻息もすごく荒い!! めっちゃ怖い!!)
…………あれ?
(どこかで――いつだったか見たことがあるような……、顔?)
廃書庫整理の手伝いで来た男と、作業を行いながら考える。
あの血走った目――
すごい鼻息――
(…………)
頭の片隅で、”知っている”とあたし自身が言っていた。
たしか……、自分で覚えておこうって――
(っ!! あああああ~~~!!)
思い出した……、きっと、間違いない。
あたしは勇気を出して、声を掛けてみた――
「……ねぇ」
彼は、振り向きこっちを見た。
何故か、とても嬉しそうな顔をしている。
「あなた、昔あたしと会ってないかしら?」
「……あ、あぁ。小さい時に、南の森で……」
(やっぱりそうだった!)
「そう、やっぱり!」
(久しぶりに、男の子と話すから緊張するわね……)
「あの時はお礼を言えなくてごめんなさい」
あたしは、感謝の気持ちを込めて頭を下げた。
「本当にあの時は怖くてさ、もうダメかと思ってたのよ」
(本当に迷ってたからね。あの時は、正直怖すぎて泣けなかったくらいに怖かった……)
「でも――」
あの時の感謝の気持ちが溢れて、あたしは自然に近づいて彼の手を握った。
「あなたのおかげで助かったの。ありがとうね!」
言ったところで恥ずかしくなってしまい、あたしは名前も聞かずにその場を後にしてしまった。
最後に別れの挨拶をする勇気がなくて……。
ナディアさんに、彼の名前だけ聞いて村に帰った――
「ケイ・ツクヨミ君か……」
◇ ◇ ◇
ケイ君との邂逅から数か月――
あたしの中には、”男の子の中には違う部類もいるのでは?”という疑問も生じていたが、とても口に出せる様な環境では無かった……。
今日も『黒エルフ絶滅阻止革命軍』集会には、”協力者”も参加していた。
最近は、いつも参加している……。
「みなさん、今日もよろしくお願いしますね」
彼女の名はティラ・ミース。さまざまな土地の歴史を、調べたりしている学者さんだそうだ。歴史の調査の際に、住民へ聞き込みをすることも多いので、情報を集めて売るといった副業もしているそうだ。因みに彼女は、あの部分が大きい方の人種だ……。
(頼んでおいて言うのも悪いが、あまり良い副業ではないよね……)
「今回は逆に、可愛らしい胸の女性を、どう思うかを聞き取ってきたのですが――」
ティラは毎回、さまざまな角度から情報を聞いて来ては、我々に結果を話してくれるのだが。
(毎回、貧乳は不要と言われる結果だった。たしかに、あたしたちはそれこそが原因だと……、そう考えて活動してきた……、でも――)
「ティラ、胸以外のダークエルフ女子への印象とか何かないのか?」
ティラは真顔になって――
「ダークエルフ女子は、貧乳以外の話の種になりませんよ?」
そう言い切ってから、急に笑顔になって。
「だから貧乳の受容を拡げようと、頑張ってるんじゃないですかぁ~」
同志たちは歓喜して、「ありがとう、ありがとう」とティラを受け入れていた。
そんな彼女の言うことを、完全に信じて受け入れる同志たちに危うさを感じていたが、あたしには反論と代案を出すだけの知識も情報も無かった――
集会を重ねる毎に、同志たちの心は絶望に染まっていった――
あたしが何とか持ちこたえたのは、ケイ君との出会いがあったからかも知れない。
そんな時に、ティラから決定的な情報がもたらされた。
嘘か誠か――
『世界樹の巫女のせいで、黒エルフは貧乳になっている――』
普通に考えれば無理のある話だった……、
だけど、同志たちの心は限界だった。
「やっと元凶を見つけましたっ!!」
「あの女を殺せば私たちは救われる!!」
「あの女が、やたらと巨乳だったわけが分かったわっ!!」
同志たちの目はギラギラと血走っており、正常では無かった――
あたしがティラを睨みつけると、彼女は笑っており。
「みなさんの問題を解決できそうで、私も嬉しいですよ~」
その笑顔には、邪悪がさ滲み出ていた――
彼女は、タイミング良く”世界樹の巫女セラフ”が里帰りしていること。
世界樹祭で、他のエルフも森エルフの里へ怪しまれず入れること。
ちょうど友人からもらった、”爆裂符”という魔力を流すと遠隔で爆発を起こせるアイテムを持っていると。
同志たちはもう……、
実行する以外の選択肢が無くなっていった――
「みんなっ! 一回冷静に――」
全員の視線が、あたしに集まる――
全員の瞳から、怪しい光が溢れていた。
「「「「…………」」」」
みんな無言で視線を作戦案へ戻し、話し合いを再開してしまった。
(もう……、止められないのね……)
あたしは『黒エルフ絶滅阻止革命軍』のリーダーとして、覚悟を決めるのだった。
(ただし、貴様は許さない――)
あたしはティラ・ミースを睨みつけた――
◇ ◇ ◇
世界樹祭、当日夜――
みんなが神事に注目している隙に、あたしたちは”爆裂符”を舞台や屋台へ貼り付けていく。
爆発の余波が来ない場所まで後退して、小声で最終確認をする。
「最終確認、目標は世界樹の巫女一人。他の者に危害を加えないようにね。あたしたちは、殺戮者ではないからね?」
あたしは最低限の被害でと考えて、同志たちの良心へ訴えかける。
「そうね……」「うん。悪いのは一人……」「了解……」
作戦に参加したメンバーは非戦闘職以外で、戦闘職が二十七名だ。
(最悪……、あたしが全員を止める!!)
あたしは同志たちも、他のエルフも死なないように尽力する覚悟を決めた。
「いくよっ!」
”爆裂符”を発動する。 ドガアアアッン!!!!
もう、後戻りはできない――




