第49話
《セラフ視点》
「あうあうあ〜〜」
わたしは、今日のことを思い出して恥ずかしくなり、枕に顔を埋めて足をバタバタさせていた。
「アインさん……、大きい胸が好きなんだ……」
泉の精に切り掛かった時の叫び声が、頭の中で何度も再生されてしまう。
(アインさんも、そんなことを考えてたんだ…)
そういえば、このパーティーはみんな胸が大きい気がする。アインさんが選んで、集めたわけじゃないけど……。
最後はみんなで、アインさんの顔をたくさん殴ってしまったけど――みんな、恥ずかしさが99%だった気がする。残り1%は、他の子への嫉妬かな?
わたしは、自分の大きな胸が好きじゃなかった。だって、足下が見えなくて危ないし。それに、みんな驚いた顔をした後に、ジロジロと見てくるのも嫌だった。
(パーティー内でも、この里でも、わたしが一番、大きいみたいだし……)
そんなことを考えながら、自分の胸を持ち上げてみる。
(重い……)
これのせいでわたしは、バランスをよく崩して転んでいる気がする……、だけど――
「アインさんが喜んでくれるなら……、悪くないかも?」
わたしは初めて、この大きな胸に感謝した――
◇ ◇ ◇
《アイン視点》
翌朝になっても顔の腫れが引かなかったが、エルが「昨日はごめんなさい」と回復魔法を掛けてくれた。他のみんなも、昨日のような表情はしておらず、どことなく気まずそうな表情をしていた。
(一晩明けて、みんな冷静になってくれたようだね……)
朝食のハニーバタートーストを食べながら、僕はみんなに昨晩考えた、泉の精への対策を話そうとするが、
「みんな、聞いて欲しい――」
「美味しい〜!、あま〜〜い!」「うんうん!」
「ハチミツとバターが本当に良い感じにマッチしてる!!」
「これは何枚でもいけるよ!!」「うんうん!」
「やっぱり美味しいですぅ〜」
みんなハニトーにメロメロで、聞いてくれそうになかった。確かにすごい美味しい。アーキがいつも以上に、うんうん言ってるのも納得の味だった。
みんなが満足して手が止まったタイミングで、話を切り出した。
「みんな、僕が考えた泉の精対策を聞いてくれるかい?」
今度はしっかりと、みんなの視線が僕に集まった。
「熟練度とレベルアップの効率的にも、きっと良いアイデアだと思うんだよ。それはね――」
◇ ◇ ◇
《ウリエ視点》
「ウリャーー!!」 ドシャッ!!
エルにピンポイント聖結界を張ってもらい、あたいが突っ込んで一撃で倒す。
「お疲れ様です。ウリエさん」
「慣れてきて、簡単に倒せるようになったね!」
二人で、ハイタッチする。
あたいは大声で――
「終わったよー! 交代ー!」
あたいたちは、次のチームと交代した――
◇ ◇ ◇
《ラフィ視点》
(確かに、ナイスなアイデアね……)
私は指先に圧縮に圧縮を重ねた水を、可能な限り高速回転させていた。
「コッチですっ!!」
アーキが泉の精の周囲を高速移動しながら、けん制をして、気を引いてくれていた。
(二人一組だったら、経験値の旨みがパーティーの比じゃないしねっ!!)
指先に溜めた水の弾丸を放つ――
『っ!?』
泉の精が気づいた時には、核を撃ち抜いていた。
「「お疲れ様!」」
二人で拳を突き合わせた――
◇ ◇ ◇
《セラフ視点》
「行きますぅ!!」
掛け声と共に、わたしを守ってくれていたミカエラさんが横に避けます。
暴力的な旋風が、泉の精を貫きました。
「お疲れ様、セラフ」
「お疲れ様ですぅ、ミカエラさん」
二人で笑い合う。
「確かに、これは効率良いね。パーティーが変われば、すぐにリポップする所もいいね」
「本当にそうですねぇ。熟練度も上がりが良いですぅ。それに――」
◇ ◇ ◇
《アイン視点》
「ハアッ!!」 ザシュ!
僕は光を纏い、泉の精を切り裂いた。
(レベル上げ、熟練度上げ、いろいろとメリットを説明したけども、一番のメリットは――)
「……泉の精との、やり取りを聞かせたり、聞いたりしなくて良いのが、一番のメリットだな」
僕はしみじみと思いながら、予備の剣を拾った。
こうして僕たちは、世界樹迷宮が閉まる日まで、泉の精を狩りまくったのだった――
◇ ◇ ◇
今日の夜に世界樹迷宮が閉じるとのことで、里のエルフたちは総出で神事の準備をしていた。世界樹の周りに木魔法で舞台を造り、飾り付けをしていく。
(ここでセラフは、神事を執り行うのか……)
詳しくは聞いていないが、セラフは今代の『世界樹の巫女』らしく、世界樹迷宮が閉まるタイミングに合わせて、毎年神事を行っているそうだ。
神事のために身を清めているそうで、今日は早朝から世界樹迷宮1層の、”世界樹の泉”へ行っているそうだ。僕が今朝、起きた時にはもういなかった……。
そのため、迷宮探索は昨日までで終了。今日は、『世界樹の巫女』だけが迷宮に入れる決まりと、セーラ族長が教えてくれた。
だんだんと、辺りも暗くなってきた頃――
時間までと思い、族長宅の前で素振りをしていると、セーラ族長が声を掛けてくる。
「勇者様、神事が始まるまでの間も屋台でいろいろ食べれますから、お仲間と見に行っていらしたらどうです?」
「屋台ですか?」
「ええ。この神事も一種のお祭りになってましてね、神事が始まるまでは皆で騒いで、世界樹を喜ばせるんですよ」
「そうなんですか?」
(みんな美味しいものが好きだし、行ってみようかな……)
「ありがとうございます。みんなを誘って、行きますね!」
セーラさんは、笑って頷き。
「そうして下さい。みなさんには先に伝えたので、今出掛ける準備をしてますよ」
「じゃあ汗だけ流して、みんなを待ちますね!」
「はい。私は用意などありますので、先に行ってますね」
セーラ族長はそう言って、先に世界樹の方へ歩いて行った。
僕はすぐに用意をして、外でみんなを待っていた――
「あっ! アイン、待たせちゃった?」
ウリエの声に、振り向くと――
エルフの民族衣装を着た、みんなが立っていた。
若草色や薄青色、薄紫色の淡い色にさまざまな花や葉の模様がある浴衣。髪型もいつもと違って纏めていたりして、うなじが出ていて色気があった。
「どう? アイン?」
ラフィが寄ってきて、聞いてくる。
近づかれると、胸元の隙間が気になってしまい、横に目を逸らしてしまった。
「みんな綺麗で、目のやり場に困る……かな?」
僕は照れて、そんな返ことをしてしまった。
ラフィはちょっと頬を赤くして、僕の腕を抱きしめる。
「ふ~ん……、そうなんだ……」
「あっ! あたいも~!」
反対の腕を、ウリエにホールドされる。
「えへへ」
下から笑顔で覗き込んでくる、ウリエの破壊力もヤバかった……。
「……じゃあ、行こうか」
僕はなんとか理性を保ちつつ、二人にくっつかれたまま歩いて向かった。
「あの~。私たちも、いますからね~」
「まあ、良いじゃないかっ!」
「……あったかそう」
エル、ミカエラ、アーキも一緒に向かったのだった。
◇ ◇ ◇
どうなることかと思ったけど、祭り会場に到着したら開放されて、みんなは思い思いの食べもの屋台へ突撃していった。両腕が少し寒くなったけど…。
(助かったような、寂しいような……)
難しい気持ちになったものの、世界樹周辺の賑やかな様子を見て、気持ちを切り替えた。
世界樹迷宮の門の前に、朝から造っていた大きな舞台があり、舞台を中心に左右へ屋台が連なって並んでいた。いろいろな軽食から甘いものまで食べ物が多く、その他にも輪投げや葉っぱの型抜きなどといった遊戯もあった。
(森エルフ意外のエルフも、来ているんだ……)
昨日までは居なかった、別の里のエルフも参加しているようで、さまざまな種族のエルフがいるようだった。
僕はそんなものかなと、特に気にすることなく祭りを楽しんだ――
◇ ◇ ◇
シャンッ
喧騒の中、澄んだ鈴の音が響いた――
その瞬間、先程までの喧騒が嘘のように静まりかえった。
そして皆が、舞台の上に注目する。
そこには……、月明かりに照らされたセラフが、幻想的な衣装で凛と立っていた――
シャンッ
鈴の音と共に舞が始まる――
淡い翠色の巫女装束は、舞と共に揺れるかがり火を受けて淡い光を魅せていた。
優雅な舞で扇が揺れると、扇から淡い光が溢れだす。
鳴らす鈴の音は、まるで心を浄化するかのような不思議な音色をしていた。
舞うセラフの表情はいつもの可愛らしい感じとは違って――綺麗だった。
僕は完全に見惚れてしまっていた。いや、きっと僕だけじゃないだろう……。
舞が佳境に入る頃、世界樹が淡く光りだす――
幹や枝、葉に至るまで世界樹から出た光がセラフへと降りそそいだ。まるで世界樹が意思をもって、セラフの奉納への感謝をしているかのような……。
舞を終え、世界樹の光に包まれたセラフは、
まるでお伽噺の精霊女王様みたいな美しさだった――
息を整えていたセラフと目が合った時――
セラフが微笑んだ――
瞬間、僕は――顔がすごく熱くなって、胸の鼓動が激しく打っているのを自覚した。
(あれは反則だよ!)
そんなことを考えながら、恥ずかしさで後ろを向くと……。
(……何しているんだ? あの人たち――)
ドガアアアッン!!!!
舞台や複数の屋台から、
突然爆発が起こったのだった――




