第45話
《エンジュ視点》
ある程度、魔物が殲滅できた頃――
『さて、頃合いかしらね。行くわよ』
『『『了解』』』
私たち零番隊は、自分たちの得物を遠くからサーチしていた。
恐らく、あの子たちも動き出しているだろう。敵の位置は把握済みで、情報も渡したし、あとはタイミングね。
「仕上げね……」
私は気配を殺したまま、所定の場所まで移動した――
◇ ◇ ◇
《ニーナ視点》
あたしは、事前に移動していたポイントでタイミングを待っていた。
あたしの義眼は、ダーク様発案でディーさんが作った特別性で”魔導義眼”と言う。
魔力によって通常よりも遠距離を見渡せ、より詳しい状態も見通せる眼だ。緊急時には”ビーム”なるものも出るらしい、正直怖いので使用したことはない。
(何だろう?”ビーム”って……)
あたしは作戦開始からずっと動かずに伏せた状態で、スコープ越しにターゲットを覗いていた。合図があれば、何時でも殺せるように待っていた。
『さて、頃合いかしらね。行くわよ』
『『『了解』』』
「では、さようなら」
小さく呟きつつ、引き金を引く――
あたしの専用武器、”魔導狙撃銃”から集約された魔力弾が、無音だけど音よりも速く対象の頭を穿つ。
ボフッ……。
頭部が半分無くなった対象が雪に倒れた。
急に、自分たちが守っていた魔族が殺されて困惑するイエティの上位種たち。
「お前たちも、送ってあげるね」
あたしは五回連続して、引き金を引いた。
「おやすみ」
あたしは立ち上がり、カナル側の討ち漏らしがないか確認をするために、歩き出した――
◇ ◇ ◇
《ミサキ視点》
わたしは、ターゲットへ向かって歩いて行った。
途中にいたイエティとスノーベアの上位種たちには、永遠の眠りについてもらった。
よく見れば気づくが、魔物たちは目や耳や鼻から血を垂らしていた。
自分を守る上位種たちが倒れ、警戒する様子の魔族が話しかけてくる。
「貴様、何者だ? それに、上位種の魔物を……」
わたしは自分の喉を指さし、古傷をトントンと叩く。
『失礼。わたしは声が出せないのでね、こんな形で声を伝えさせてもらうよ』
魔族は困惑して、キョロキョロと周りを見ている。
「き、貴様っ! どこから声をっ!?」
(面倒だな……)
敵に付き合う義理もないかと、無視することにしてミニハープを鳴らす。
ポロロロン……
「っ!?」
魔族は反射的に距離を取る。
(……もう、手遅れだけどね)
距離を取った魔族は着地の時によろめき、崩れ、両手で身体を何とか支えている。
「なっ!? なん……、おうぇ」
盛大に嘔吐して、そのまま雪に伏してしまう。目が回って気持ち悪いのだろう……。
『音にはね。こんな使い方もあるんだよ? 名も知らぬ魔族君。そして、さようなら』
わたしは腰の短剣を手に持ち、伏している魔族の首の後ろに、短剣を突き立てた――
魔族の絶命を確認。
その後、周りの音を集めて状況を確認していく。
(どうやら、もうわたしの出番はなさそうですね)
……暇になりましたね。
わたしは、手頃な岩に腰掛けて誰に向けているか分からないけども、適当なレクイエムを奏でて終了の時を待った――
◇ ◇ ◇
《ジュリエッタ視点》
合図が出ましたので、わたくしは黒のメイド服を翻して悠然とターゲットの元へ向かいました。
ターゲットの魔族も、スノーベアの最上位種であるスノーキングベアを隣に置いて余裕の笑みで待っていました。
「あなたたちは、何なのかしら?」
わたくしはハッとしました。
「失礼、わたくしはジュリエッタ・サクソン。仲間たちはジュリと呼びますわ」
自己紹介をしつつ、カーテシーをする。
魔族は呆れたような表情になり。
「は? 頭がおかしいの? 名前なんか聞いてないわよ!」
何故か怒らせてしまいました。冥土の土産にと名乗って差し上げましたのに……。
(メイドだけに――)
「プッ!」いけない、いけない。自分で受けてしまいましたわ。
「何笑ってんのよっ!? もういい! 死になさい!!」
そう言って、敵の腕輪が鈍く輝きます。
ガアアアアッ!!
キングスノーベアが、わたくしに突っ込んで来ました。
「まだ、話してる途中ですわ。お座りっ!!」
キングスノーベアの大きな爪による攻撃をひらりと避けると、噛みつこうとしてきましたので、大きな頭を上から打ち下ろしました。
ドゴオオオオンッ!! グシャリ……。
「あら? 潰れてしまいましたわ?」
わたくしの愛用武器、撲殺ナックルの”右拳ちゃん”がやり過ぎたようですわ。
でも、血が滴りつつ鈍く光る右拳ちゃんが訴えてきました。
「あらら、もっと撲殺したいですって? しょうがない子ね」
「ヒィッ」
わたくしの笑顔を見た魔族が、引きつった顔をしてましたわ。
次の瞬間――
「あなたもこの子の、糧になってあげて?」
そう囁きつつ、彼女の顔面に右拳ちゃんを叩きつけました。
「あ!!」
魔族の顔は潰れ、絶命してしまいました。
その時――”左拳ちゃん”が、泣いている声が聞こえてきました。
「ゴメンね、死体だけど許してね?」
そう言いつつ、わたくしは左拳ちゃんが満足するまで、魔族の遺体を殴り潰していきました――
◇ ◇ ◇
《バウム視点》
俺は、何を見せられているんだ……。
今回の作戦は、前回成功した『エルドラド王国辺境伯領威力偵察兼魔物軍隊運用試験』の、第二回作戦で、前回よりも魔物の数も増やし、多方面の分散でなく一点集中という簡単な作戦だったはずだ。そのはずだったのに……。
結果は惨敗。魔物はほぼ狩り尽くされ、同士も殺された。
「何なんだ……。あの異常な集団は?」
もう作戦は失敗だ。せめて情報を本国に――
「あなたたちは私たちを見て、他に感想を言えないの?」
「っ!!」
急に背後から声を掛けられ、距離を取ろうとするが――
(動けない!?)
完全に身体が動かない、何だこれは? よく見ると、身体中に光る何かが絡みついていた。
「あら? 気づいた? そう、私の糸で拘束しているの。動けないでしょ?」
「…………」
どうやら、すぐに殺すつもりは無いようだな。
それなら……。
「目的は何だ? 魔族への恨みか?」
「いいえ。必要だからやってるだけよ」
その言葉に、俺はピンときた。
「……どこぞの宗教組織の者か? 我々魔族と敵対して、ただで済むかな?」
「フンッ、問題ないわね」
やはり、宗教関係の盲信者か。ならば……。
「お前の宗教の教えとして、これは正しいのか?」
「正しいわね」
「本当に神の言葉なのか? お前のところの教祖が、お前を騙しているだけじゃないのか?」
「…………」
いいぞ、揺れろ、その隙に俺は――シュパンッ!
俺は拘束していた糸を切り裂き、脱出して距離を取った。
「油断したな! 俺は全身を刃物のように鋭くできる特異魔法を使えるのさ!」
女は、俯いたまま動かない。
そして、顔を上げた女を見て驚愕する。その眼には、恐ろしいほどの狂気が宿っていた。
「だから何?」
(やばいっ!!)
本能が警鐘を鳴らすため、距離を取ろうとするが……。
また、動けなかった。
「いっ! いつの間にっ!?」
「は? 最初からよ。あんたが自慢気に切ったのはダミーの方よ、雑魚が勝った気になってんじゃないわよ」
「くっ! ギャアアアア!」
俺が魔法を発動しようとした方の腕が、宙を舞った。
「動いたら、落とす」
先に言いやがれえええ!!
「あんたは言ってはならないことを言った。どこぞのエセ教皇と、私の使徒様、ダーク様を同列に語った。万死に値するわ。いいえ、苦しんで死になさい」
キレるポイントが分かんねーよっ!!
出血で朦朧としてきたが……、俺たちの勝ちだ。お前たちの情報は、五人目のエクレアが本国に伝えてくれる。
「ええ。始末したのね。お疲れ様……」
耳の何かで、誰かと話している? どういうことだ?
「あんたたちが、四人一組で行動しているのは知っている。そして――」
まさか……。
「今回あんたたちが五人態勢で来たことも、私の使徒様はお見通しだったのよ?」
女の目が、歓喜の表情をしていると教えてくれた。
「エクレアだっけ? 始末したわ、さっきね」
俺は絶望する――
「そう、その表情にしてから殺したかったの。さようなら、無駄死にさん」
「ちくしょおおおお!!」
俺の意識は、絶望のまま消えていった――
◇ ◇ ◇
《エンジュ視点》
三者三様の子たちも、特別任務をちゃんとできたのね。
(殺しは初めてだったわよね、あとでフォローしてあげなくちゃね……)
思案しつつ、皆に連絡をとる。
『状況終了。みんなお疲れ様。各自撤退、B地点で落ち合うわよ』
通信を切り、魔族の死体を見る。
少し感情的になってしまった。
『騙しているだけ』
そうじゃないのは分かっている。
「ダーク様が天使様で使徒様なのは変わらないし、間違えはない」
それに、もしもそうではなかったとしても……、私を救ってくれたのはダーク様だ。
「私は――ダーク様と、どうなりたいの?」
私の呟きに答えてくれる人は、
どこにもいなかった――




