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推しヒロインは俺が救う  作者: 白永央はひな
《第7章》エルフの里・救済編

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第44話

《フレデリック視点》

 その日、私はこの首都カナルが蹂躙されて、北の辺境は人が住むことのできない土地になると思った。

 しかし、そうはならなかった……。

 城壁の上から見える、魔物の死体で埋め尽くされた景色を眺め、勝どきを上げる周りの者たちの声を聞きながら思い出す。

 全ては、

 あの“黒い武装集団“のおかげであろう――



◇ ◇ ◇

 早朝――


「大変です!! フレデリック様っ!!」


 家令のノリスが、ノックも無く飛び込んできた。


「ノリスっ!? どうした? そんなに慌てて、珍しいではないか」


 普段は冷静なノリスにしては、珍しかった。


「大変です。スタンピードです……。見たこともない規模の……」

「は?」


 私もこの辺境伯領を継いでから、何度かの魔物の大規模襲来を経験した。しかし、この雪原地帯では個が強く、魔物もあまり群れないのだ。上位種が居て群れても10体以下、それがこの地域での常識であった。

(まして、迷宮が近くにないのだ。スタンピードなど、ありえないだろう……)


「……見たこともない規模とは、どのくらいだ?」


 ノリスは、言い澱みながらも。


「見える、限りで……ございます」


「……は?」


 意味が分からず、またも思考停止してしまった。


「……意味が分からん」

「仰る通りでございます。……そのため、急ぎ城壁までご足労をお願いしたく……」


 自分で確認しろということか。


「わかった。すぐ準備して行くぞ!」

「はっ!」


 そして、城壁へ上がった私は同じ言葉を呟いてしまった。


「意味が分からん……」


 まだ距離はあるものの、見渡す限りの魔物・魔物・魔物……。しかも、絶対に協力などしないはずの”イエティ”と”スノーベア”だと?

 もう一度、同じ言葉を呟く前にノリスが声を掛けてきた。


「ジパン辺境伯領でも、似たようなことがあったとか?」


 先日、王都から情報が届いていた。しかし、まさか私の領でもなどとは、考えていなかったのだ。


「どうされますか?」


 そうだ、私も辺境を守る貴族。惚けている場合ではない。


「全兵力を城壁上へ展開、警備兵へ避難誘導を指示しろ。ギルドに応援を要請もだ。」

「はっ!」


 通常対応ならば、これで良いが……。


「待てっ! 避難は南門から、王都方面へ逃がすのだ……。戦えるものだけを、街に残せ……」

「それは!?……承知しました」


 ノリスは驚きながらも、私の指示の真意を汲んで走って行った。


「頼んだぞ……」


 見張りを残し、私も戦闘準備を開始する。あの数、指向性を持った動き、明らかに狙いはこの街だろう。

(女子供を逃がす時間だけでも、作らねばな……)


 私は覚悟を決めていた。

 

 だが、結果として黒い武装集団のおかげで皆助かったのだった。

 しかし、あの“銀髪“に“全身黒づくめ“。

 王都で有名な『漆黒の死神』がそのような装いだったような?……。



◇ ◇ ◇

《ノリス視点》

 フレデリック様は覚悟を決めたようでした。

 奥方様や御子息様をはじめとした女性や子供が、無事に逃げられるように部下たちへ指示を出してゆく。


「ふむ、これで良いだろう」


 部下たちに後のことを任せ、私は主人の元へ戻るために走りだした。


(フレデリック様、このノリスめも貴方と共に逝きますぞ……)


 小さい頃から見守ってきたフレデリック様。私は貴方の成長を見ていて、本当に立派になりましたと、先代へ胸を張って言える自信があるくらいに立派になられたと思っています。

(この北の辺境も、やっと安定して盛り上がってきたというのに――)

 先代が急逝されてしまってから必死に纏めてきて、やっとこれからというタイミングでこの試練……、神は我々をそんなにも御嫌いなのか……。


 そんなことを考えながら主人の元へ向かう途中、城壁でスタンピードの対応をしている兵士たちの動きが緩慢に見えた。

(こんな動きでは時間稼ぎも出来ないぞ!? どういうことだ!?)

 城壁を登り切り、主人の姿を確認する。

 しかし、そのフレデリック様も呆けていて――


「フレデリック様! ノリス、只今戻りました! どうしたのです!? 兵たちの士気が低いですぞ!? このままでは――」

「……ああ、ノリス。……ハハ、まあ、見てみよ、あれを――」


 フレデリック様が指した先を見ると――信じられない光景が広がっていました。


 雪原を埋め尽くす数多の魔物――

 その魔物どもを後方から追い立てる、黒い人?

 黒の集団が通った場所は、雪原が赤く染まっていき――

 ありえない速度で、魔物どもが減っていった。

(……まるで、虫を踏み潰すかのような――)


 黒の集団が城壁近くまで来た時には、あれだけ居た魔物どもは殲滅されていて……。

(銀髪……、それに皆、女性か?……)

 彼女たちは、何も言わずに去って行った。


 黒い銀髪の乙女たちに、この辺境は救われたのだった。



◇ ◇ ◇

《ルウ視点》

 時間は作戦行動開始前へ戻る――


 ”インカム”でエンジュさんの激励?を聞きつつ、自分の手をニギニギと動かす。


(魔力の通りが、すごい良いですね……)


 私たちは、”黒の死神”から支給された新装備を着用していました。何でも学園の制服から着想を得た物らしく、すごい魔力伝導率でありながら、さまざまな機能を持つ優れものらしいです。

 私は、朝のやり取りを思い出しました――



◇ ◇ ◇


「え? これ、めっちゃ恥ずかしいんですけど!? 本当に恥ずいんですけど!!」


 新装備を着たナミエが、激しく訴えていました。

 確かに防御力は驚きの性能でしたが……、真っ黒で魔力を通すと身体にピタッとフィットするので、ボディラインが丸分かりでした。


「わたすもこれは、ちょっと恥ずかしいっすね~」


 モニカもさすがに恥ずかしいようで、私もちょっと恥ずかしいです……。


「ハァ、あなたたちは説明を聞いてなかったの? 腰のサークルを触りながら、自分が着たい服のイメージをするのよ。こうやってね――」


 シュインッ――


 一瞬で黒のボディスーツが、ケイさんが以前話していた忍者?っぽい服になりました。


「それにこの認識阻害機能付きのマスクをつけて、マスクに触れながら魔力を流してイメージ」


 シュインッ――


 ただのマスクが、額当てと口を覆う布へ変化しました。逆に目元が出ているし、銀髪になった。とても不思議……。


「「「おお~~」」」 パチパチパチ……。


 エンジュさんは、額に手を当てて呆れていた。


「お前たち……。早くやりなさい。そもそも、この認識阻害機能なんかは、お前たちのためにダーク様が、リクエストしてくれたそうよ?」


「「「え?」」」


 ケイさんが私たちのためにと聞き、ちょっと嬉しくなってしまいました。


「ハァ……。この前の大会で、目立ったからでしょ? だから、普段と違う得物や魔法を使えと、言われてるでしょ?」


 そうでした。私たちは今後、黒の死神の裏活動用として今回の装備や、戦闘法を使うように言われていました。



◇ ◇ ◇

 そんなわけで、裏活動用の相棒である長棒を握ります。いつもの杖よりも長く重い棒ですが、魔力の流れは良好。

(……やれそうです!)

 思考が戻ったタイミングで、”インカム”から開戦の合図が来ました。


『蹂躙を開始しようか――』


 私たちは潜伏を止め、通り過ぎた魔物たちを追いかけます。今回の遠征前にケイさんに言われました、「ボーナスステージだから、存分にレベルを上げて来い」と。

 だから私たちは、誰が一番レベルを上げられるかを勝負することにしました。


「……負けません」


 密かに闘志を燃やしつつ、いつもは待ちの姿勢の自分が、たくさん狩る方法を考えます。

(私たちの持ち場は、イエティのエリアですね)

 長くて重い棒……。通常なら、遠心力を乗せた打撃ですかね? でも、イエティは打撃に強そうな感じがします。

 それに――それでは遅い、負けてしまいます。

 素早く、的確に、一撃で倒さないと勝てない!


「……閃きました」


 魔力で覆われた私の身体は、雪の中だろうが関係なく動けました。

 私は、銀のストレートロングヘアと黒いスカート&エプロンを翻しながら全力で走ります。私が選んだ装備の形は、故郷の衣装”ディアンドル”でした。


(私の得意なことは魔力操作!そして、魔力感知です!!)


 最初の獲物を後ろから――“刺す“

 一撃で絶命しました。次も、その次も一撃です。


「……弱点を突けば一撃です」


 異変に気づいて振り向く個体も、瞬時に絶命させました。

 基本的にカナルへ突進するのが優先事項なのか、反応が遅いし弱点の頭や魔核の場所が無防備です。


「これは……、確かにボーナスステージですね」


 私は不謹慎にも、微笑んでしまいました。

 全身黒の衣装、なびく銀髪、尖った角、羊の仮面から覗く光る瞳。


「ああ、私も死神になれた気分です……」


 後々に振り返った時、私はちょっとハイになっていたと反省しました――



◇ ◇ ◇

《モニカ視点》


(わたすもいっぱい倒して、レベル上げるっす!!)


 ルウに置いて行かれないように、全力で追いかけました。

 わたすは遠征前にケイ殿から、黒の死神行動中は喋るなと言われました。「言葉遣いは、認識を阻害できないからな」と。認識阻害の装備を見て、あの時のアドバイスの意味が分かりました。

(たしかに。学園に来てから、わたすの訛りと同じ人を見たことねーっすね)


 わたすの装備は”修道服”。

(パッと思いついたのが、シスターだったからっすかね……。シスターは元気かな?)

 ウィンプルも被って口元も布で隠してるんで、自分で言うのもあれっすけど……、すごい神秘的な見た目なんだと思うっす。今は関係ないっすけどね。


(さてさて、行くっすよ~~!!)


 モーニングスターの鎖を片手で持ち、もう一方で鉄球を回転させていく。


(行け~~!!)


 ゴオオオッ!! 


 風を切り裂いて鉄球が飛ぶ――

 そのままイエティを貫いて行く。


(どっ!せ~~い!!)


 ブオオンッ!! 


 伸びきった鎖をそのまま横薙ぎにして、周囲の敵を巻き込んで行く。


(さ~ら~に~!!)


 ゴオオオッ!! 


 身体を回転させて振り回して、遠心力を乗せたまま鉄球を飛ばす。


(的が多すぎてっ! 外れな~~い!!)


 横に縦にと振り回す、自身も飛び上がり打ち下ろす、周りに敵が居なくなった頃には修道服も、ローツインの銀髪も返り血でヤバいことになっていて――


「なんか、火照って来ちゃった……」


 口角が上がっている自分に、ビックリしてしまった――



◇ ◇ ◇

《ナミエ視点》

 最初はこんなの着て、人前に出れないと本気で思ったけど……。イメージ通りに作れた衣装は「これ、めっちゃ良いじゃん!」になった。ケイ君に見てもらいたいくらい……。

(銀髪はアップでまとめた。うなじが見えたあーしって、セクシーじゃないかな?)

 サイドに大きな花飾り、故郷の”琉装”をイメージした衣装。黒ばっかりなのはイマイチだけど、可愛いと思う。アイマスクは何故か、目が光る仕様。

(これ、光らないとダメかな?)

 意味が分からないと思った。


「さあ、あーしも負けないさ~!」


 いつもの炎獣、シーサーはダメってことだったから、あーしはめっちゃ考えた。

 ――出した答えはコレ!!


「いくよっ! マンタ!!」


 あーしの上空に、巨大な炎獣マンタが出現する。

 イエティを追いかけつつ、前方で比較的固まっている集団へ、マンタを突撃させる。


 ゴオオオオ~~


 マンタが通り過ぎた後は、黒こげの死骸だけが残っていた。


「よ~~っし! もっと巨大化さ~!!」


 マンタを更に大きくして、空を泳がせる。


「爆撃っ!!」


 上空から巨大な炎弾が降りそそぎ、イエティたちを蹂躙していく。


「ボーナスやばっ!!」


 どんどん身体が軽くなるのが分かるくらい、レベルの上昇を感じ取れた。


「病みつきになっちゃいそう……」


 高揚感で、自然と呟いてしまった。



 粗方のイエティを三人で殲滅できた頃に、一番隊の皆さんが見えた。


「あっ! そろそろエンジュさんに言われた指令に行こ!」

「……了解」


 モニカは話すのを禁止されているため、親指を立てて返事をくれた。


 さあ、最後のお仕事さ~。


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