第43話
《エンジュ視点》
ダーク様の啓示から数日が経った。私の心は未だに震えたままだ。示された未来は疑いようもなく、今回のお導き(指令)も、必ず良い未来に繋がっているに違いない。
一つだけ、チクリと心に針を刺されたような気持になることと言えば――
(――ダメよ私。私はただ、ダーク様の剣となるだけっ!!)
そんな心の揺らぎを抱えつつ、私たち”黒影”と”三者三様”はエルドラド王国、北の辺境伯領カナルを目指して移動していた。
今まで学園都市内で裏工作などを中心にやっていた”黒影”が、学園都市を離れるのは初めてだった。ダーク様は、次の春休みにおけるエルフの里紛争へ介入する予定であり、その実行部隊として私たち”黒影”と”三者三様”を起用するつもりだと話された。
失敗が許されない作戦のため、どんな状況でも勝てるだけの力が必要だとおっしゃった。
(このお導きをやり遂げた時、私たちはダーク様が求める強さに届くということですね?)
ダーク様の期待に必ず応えようと、私は決意を更に強くした――
数日の旅路を経て、私たちはカナル辺境伯領の首都カナルに着いた。
31人もの女子ばかりが集まっての移動は目立ち過ぎるため、私たち零番隊と三者三様、他は二部隊、二部隊、三部隊に分かれて行動していた。
深く被ったフードの下が、可愛い女子ばかりで門番にギョッとされたが、無事に首都へ入ることができた。
私たちは、大通りを歩いて宿泊場所を探す。
「思ってた以上に穏やかですね……。辺境とはいえ、魔族の本格進行なんて何百年もありませんしね」
私の呟きに、ニーナが反応する。
「この前のさ、ジパンで起きた悲劇は知ってるんだよね?」
「さあ? 遠くの話だと思ってるんじゃないかしら」
『おバカさんね。でも、ダーク様みたいな人でないと見通せないのかもね』
ミサキが振動で話してくる。
「そうね。旦那様は特別よ」
ジュリも同意する。
私の黒影・零番隊はニーナ、ミサキ、ジュリに私の四人でチームになっている。ダーク様の案で、黒影は四人一組で一チームと決まっていた。どこかの魔族みたいだが、私は気にしていない。
「あそこの一番大きな宿にしましょう。ミサキ、みんなに伝えて。深夜に合図があったら、私たちの部屋に集合よ」
『了解』
私たちは、カナルで最上級の宿『ポラリス』へチェックインして深夜を待った。私以外の零番隊は街中や周辺の偵察へ行き、部屋には三者三様と私だけが残った。
「エンジュさん。あーしたちは、どうして選ばれたんだろ?」
何を勘違いしているのかしら? この子は……。
「ダーク様が、必要だと判断したからよ」
「……それだけ?」
「そうよ。それが全てでしょ?」
困惑した顔をするナミエに、逆に聞いてみる。
「他に何が必要なの?」
「え!? ほら、え〜と、そう! あーしたちに期待していることとか?」
ダーク様からの期待……。私は思案する。
「……ダーク様の話を、あなたも一緒に聞いたわよね?」
「うん」
モニカとルウも頷いている。
「あの方は、未来の出来事を知っている。そのために必要な存在として――私たちを救い、教え導いた。あの方が掴み取る未来への歯車になることが、私たちへ向けられた期待ではないかしら?」
「「「…………」」」
三人は、黙り込んでしまった。
(ダーク様は間違えないのだから、指令を過不足なく遂行すれば良いのが、理解できたのかしら?)
しかし、ナミエがポツリと。
「そんなの嫌だなぁ……」
「え?」
「あーしは、ただの歯車なんて嫌だなって。そんなの何かさ、寂しいよね」
(嫌だって。寂しいって。私たちは任務で動いてるのよ?)
「あーしは、ケイ君のためなら頑張りたい。一緒に居たい。だから、彼の掴み取りたい未来のために頑張る! 何も考えない、ただ言うことを聞くなんて間柄には、なりたくない!」
とてつもなく不敬な発言だけど……、他の二人も頷いており、三人の眼差しは、強く輝いて見えた。
「そう……」
ナミエは慌てて、
「あっ! 自分から聞いておいて失礼だったよね!? ごめんなさい!」
私は手をヒラヒラとして。
「いいわ、気にしてないから。それより、しっかりと結果を出しなさい」
「「「はいっ!!」」」
一緒に居たい――だから頑張る。
歯車は嫌――だから頑張る。
まるで具体的な言葉ではないけど……。
(ダーク様の”うしろ”ではなく、”となり”に居たいということ?)
あの子たちは、
そういう気持ちで動いているのね……。
私は――
◇ ◇ ◇
深夜――
各部隊の隊長が、私たちの部屋に集まった。
「では、作戦の確認をする。ダーク様の導きでは、魔物のスタンピードと言う名の、魔族による進行が、このカナルへ集中して来る」
全員が頷く。
「理由はこの辺境伯領には迷宮が無いため、内側から迷宮崩壊で崩せないから」
納得の理由だ。
「そして、実行されるのは明後日の早朝。私たちは、カナルへ魔物どもが突撃を開始したタイミングで後方から挟撃するわ」
地図を指差し、
「カナルは、北方の最終防衛線と言われているほどの堅牢な防壁が左右に伸びていることから、魔物が突っ込んで来るのは北からのみ」
地図のカナルを中心に、半円をなぞる。
「扇形に部隊を配置して、殲滅しつつ中心へ集まっていく。東から西へ三者三様、一番隊と順に受け持ってちょうだい。そして――」
私は口角を上げ、
「率いている魔族の相手は、零番隊でする」
「「「「了解」」」」
細かい調整を話し合い、解散となった。
私は三者三様を呼び止めた。
「お前たちには、別の指令もある。それは――」
◇ ◇ ◇
作戦当日の早朝――
気配を殺して隠れている私たちの横を、数えきれないほどの魔物が通り過ぎて行く。
想定以上の数の魔物がいるようだ……。
私は口角が上がりそうになるのを抑え、気を引き締める。
今作戦用に新しく開発された、“インカム“へ魔力を流し起動する。
『お前たち、聴こえるか?』
『『『『問題なし』』』』
『喜べ、お前たち。獲物の数は想定以上だ。狩りたい放題だぞ? さあ、ダーク様のための贄になってくれる物共に、感謝をして――殲滅する!』
『『『『了解っ!!』』』』
『さあ、蹂躙を開始しようか――』




